くノ一色地獄 堕ちた武士
Added 2024-11-17 11:40:24 +0000 UTC行灯の昏い明かりが揺らめき、一つの影を浮かび上がらせていた。 影は蠢いており、時々大きく振るえる。それは二人の人間が密着している影だった。 襖に映じられた小山のような影が、上下に揺れた。 「ああっ、お蘭、お蘭っ」 男の呻くような声が響く。 行灯の明かりがまた揺れた。 男の名は、矢倉丈之進といった。 武士である。 いや、武士だったといった方がよい。 仕官していた主のもとを無断で去ったのだ。今では仕える者のない流浪の身である。 丈之進は真面目で、仕官していた城内でも評判も高かった。武芸の技にも優れ、城主御前試合でも彼に敵うものは、城内にはいない。 それが何故、恵まれた身分を捨てたのか。 丈之進は城下で人を斬った。 それも己の妻を、である。 その時の感触は、今での丈之進の身体に残っている。 その際に感じた悍ましい感覚も。 その日、丈之進が自身の邸に帰ると、妻の姿がなかった。 夕暮れである。外出するような時間帯でもない。書き置きのようなものもない。 普段大声を上げることのない丈之進は、この時も妻の名を呼ばわったりはせず、邸の中を一人捜し回った。 そして、奥の間近くの、普段開けることのない物入れ部屋から、何から呻くような不審な音が洩れていることに気づいた。 賊であろうか。城下では近年めっきり聞かなくなったが、他国では未だに武家屋敷であっても、賊の押し込みがしばしばあるという。 一度、家に上がる前に解いた刀を構え、耳をそばだてる。 呻き声は確かにこの部屋から聞こえているようだ。 丈之進は一気に引き戸を開いた。 そして目を疑った。 物入れ部屋は思いの外広い。そして、大して物品が収納されているわけではなかった。 なので人が幾人か入れる空間がある。 部屋の中の様子を目にして、丈之進は驚愕で身動きが取れなかった。 そこでは、むっちりとした白い柔肌を露わにした丈之進の妻が、見知らぬ全裸の男と繋がり、立ちながら情を交わしていたのである。 妻の肌には紅味が差し、熟れた果実のようだった。 その表情は艶めかしく、恍惚の域に達していることは明らかだ。 丈之進は思わず息を飲んだ。 妻の姿が美しいとさえ思った。 しかし、淫蕩な姿の妻の、その濡れた視線が丈之進を見ると、彼は我を忘れた。 気がつくと、丈之進は妻と男を斬り捨てていた。 日は既になく、あたりは紫の闇が覆っている。 廊下に流れてきた流血もまた、黒く見えた。 しばし呆然とした後、急に我に返った丈之進は、僅かな銭と身の回りのものを持って、そのまま出奔したのだった。 「ああっ、お蘭っ、そなたは、なんと心地よい……」 「ふふ、丈之進さまも、ああン、逞しいですわ」 そこは宿の奥座敷。男女の交わりが、部屋に淫靡な空気を満たしている。 丈之進は出奔後、当て所もなく彷徨った。とにかく城下からは離れなければならない。丈之進が登城しない日々が続いたら、誰かがその邸に様子を窺いにくるだろう。そうすれば妻と男の骸が発見されるのも時間の問題だ。男が丈之進でないと知れたら、消えた丈之進が妻と間男を斬ったと結論づけるのは容易い。 夜中もそして昼間も、人目を忍ぶように街道を避け、城下から遠くへ遠くへと離れた。鍛錬を欠かしていたわけではないが、二三日で脚が棒のようになった。ある村を抜けると、木々の間に古びたお堂が見える。人の気配はない。その時は既に夜が迫り、今夜はこの堂内で夜露を凌ごうと思い至った。 お堂は形さえ保っていたが、誰かが詣でたり、管理したりしている様子はなく、所々朽ち始めている。 丈之進は堂内へと入った。 しかしそこには先客がいたのだ。 「あら、お侍さま」 それは女だった。 紫の着物に、笠に杖、そして草鞋に脚絆と、明らかに旅装束である。 丈之進は怯んだ。そして、思わず刀に手を掛けた。 「旅の女にございます。故あって郷里に帰るところ。お侍さまはここらの警邏にございますか。ご迷惑ならば、わたくしはここを立ち退きます」 女は深々と頭を下げてそう言った。 丈之進は柄から手を離した。 「いや。失礼した。わしも旅の者。ここで夜をすごそうとしたのだ。先客がおるとはしらなんだ。では、これで」 「もし、お待ちください」 立ち去ろうとする丈之進を、女は引き留めた。 「夜も近うございます。わたくしとでよろしければ、ここで夜をお明かしになられればよいかと」 こんなお堂で夜を明かそうとする男だ。どうせ訳ありなのだろうと女も予想した上での情けか。女はそう勧めてきた。 物盗りか。寝ている隙にわしの路銀を盗ろうというつもりか。 そうした警戒心も頭をよぎったが、丈之進は女の細腕に負けはしないと思い直した。 女はじっと丈之進を見つめている。 星のように潤んだ瞳だった。 「そなた、名は」 「蘭、にございます」 「わしは、丈之進じゃ。姓は訊くな」 そうして丈之進は堂内へと入った。 堂内は仄かに女の匂いがした。それは芳しいもので、ふと丈之進は妻のことを思い出した。 二人とも、明かりを点けようとは言い出さなかった。 夜が覆い、堂内も暗い闇に閉ざされた。 微かな息づかいだけが、二人の存在を示している。 「今宵は、身体が火照りまする」 ふと、お蘭が言う。 「何?」 「丈之進さま、女子は好きではございませぬか」 「からかっておるのか」 「わたくし、かつては白拍子のようなこともしおりました。人々にお祈りをしていると、その人の思いが微かに伝わってまいります。わたくしごときでも、それを感じることができまする。丈之進さまは、何か女子がらみでお悩みと感じました」 「おぬし……」 お蘭の声は鈴のように明瞭で、しかも真剣だった。 月明かりが、格子戸から差し、お蘭の顔を照らし出す。 それは白く、美しい。 唇だけが、紅を差したように紅かった。 「女子のことは、女子でしか解けませぬ」 その唇が僅かにつり上がった。 お蘭は立ち上がると、するりと、まるで手妻のように紫の着物を脱ぎ捨てる。 月明かりに、白い絹肌が浮かび上がった。 張りのあり形が良く、大きく膨らんだ乳房。 括れた腰に、腹。 そして、うっすらと恥毛の生えた陰部。 長い脚は、すらりと伸び、旅慣れているとは思えないほど、美しい。 女の美しさの粋が、そこには体現されていた。 丈之進は思わず息を呑む。 「わ、わしは……」 何ごとかを言いかけた丈之進に側に、お蘭はふわりと舞い降りるように寄り添い、その唇で、丈之進の口を塞いだ。 「むぐぐ」 「ンン、ちゅ、ちゅちゅ、れろっ」 濃厚な接吻に、丈之進の脳芯は蕩けそうになる。 「ああン、何もおっしゃらないで。女子と殿方が分かり合う術は一つにございます」 お蘭は手際よく丈之進の着物を脱がす。 硬い胸板にそのほっそりとした指を添えられただけで、昂ぶってしまう。 「ふふ、逞しいお刀ですわ」 しばらくすると、丈之進は全裸になった。 股間の陰茎は既に盛大に屹立している。 「お蘭どの、わしは……」 「ええ、分かっております。おんぼろのお堂でも、お蘭がここを桃源郷に変えてみせましょう」 お蘭は艶やかに嗤うと、丈之進に身体を重ね、押し倒した。 床は硬かったが、それとは反対に、上に乗ったお蘭の肉体は柔らかで、まるで絹のような肌理で撫でられているようだ。 弾力のある肉毬が丈之進の胸板に押しつけられ、硬くしこった先端が男の肌を擽る。 「お蘭、なんて心地よい……」 感嘆と共に、丈之進はそう洩らした。 「嬉しいですわ、丈之進さま。さあ、もっともっと、お蘭を感じてくださいまし。ここは殿方の夢の果て、桃源郷にございます」 お蘭は丈之進の額に、頬に、そして唇に接吻を繰り返す。 出奔の旅で緊張した丈之進の肉体は、既にほぐれきっていた。 しかし、それとは正反対に、丈之進の股間のものはますます怒張し、硬度を高める。 芳しい女の香りが、丈之進の鼻孔いっぱいに広がった。 それだけで、身体中が、そして頭の中まで、桃色に満たされる。 ああ、これこそが桃源郷。 「お、お蘭っ」 丈之進は堪らず、お蘭の肢体を抱きしめた。 「ふふふ、丈之進さま、ご心配いりませぬ。お蘭はどこへも行きませんわ。今宵は二人、夢よりも深い夢の果てまで共に参ろうではありませんか」 お蘭を両腕で抱きしめた瞬間、怒張した陰茎が、女の内股へと擦りつけられた。 その肌の刺激に、亀頭からはどろりとした白濁が、はしたなく溢れかえった。 「あら、赤子(やや)の素が、もう……」 脚に熱いものを感じたのか、お蘭はそう言った。 「ああ、す、すまぬ……」 丈之進は僅かに口ごもる。 「ふふ、仕方のないことでございます。丈之進さまは、久しく女子を抱いたことがなかったのでしょう。定期的に精は出さなければ身体に毒ですわ」 お蘭は腿で丈之進の陰茎を挟み込むと、上下に扱き上げる。 「あ、あううっ、うぐううっ」 女を正面から抱きながら、女の腿で扱かれると、丈之進の全身に甘美な痺れが走る。それはどんどんと強烈になっていく。 「素股、感じてくださいまし」 腿の感触だけでも、猛りきった丈之進の陰茎には刺激が強すぎた。 気がつくと丈之進自身も、お蘭に抱きつきながら、下半身を小刻みに動かしていた。 「ああ、なんと、なんと心地よい」 「さあ、丈之進さま、お蘭の身体でいつでも精を吐き出してくださいませ」 内股で陰茎を挟む力に強弱をつけ、横からも刺激を加える。 同時に、腿を上下に動かし、陰茎全体を扱き上げる。 巧みな腿の技と滑らかな肌理の絹肌に、みちみちと血管が浮き出るほどに怒張した男の陰茎は、限界寸前だ。 「ああっ、ああっ、駄目じゃっ。お蘭どのっ、わしは、わしはあああっっ」 「さあ、殿方の膨らみきった欲望を、お放ちになって」 お蘭は腿を巧みに動かしながら、ふうっ、と丈之進の顔に息を吹き付けた。 女の濃艶で甘美な吐息を浴びて、丈之進は一瞬意識が蕩けそうになる。 そして――。 「あうううっ、あふううっ、あひいいいっっ」 無様な悲鳴と共に、丈之進は陰茎の先端から精を噴き出させていた。 強烈な快美感が全身を襲い、意識は桃源郷の桃井とへと呑み込まれていくのだった。 それから夢のような数回の交わりの後、丈之進は傾いたようなお堂の中で泥のように眠った。城下を出奔して初めての深い眠りだった。 格子戸の隙間から日が差して目覚めると、側には旅装束に身を包んだお蘭の姿があった。お蘭は口移しで水を丈之進に飲ませると、その身を清め、衣服を着せた。 「お蘭も、お供つかまつります」 丈之進がお蘭の申し出を許可したのは、言うまでも無い。 こうして二人連れは、街道を通り、城下を離れて、ある宿場町へと至った。 一軒の宿には離れに空きがあり、二人は逗留することに決め、今に至るのである。 「お蘭の郷里はどこなのじゃ」 激しく交わった後、お蘭を抱きながら丈之進は訊いた。 道中、互いの素性については努めて話さなかった。話してはならぬものだった。 「ここより東、遠き所にございます」 「なら、まだ共にいられよう」 丈之進はお蘭の乳房を甘く噛んだ。 あん、と艶やかな喘ぎが短く女の口から洩れる。 「丈之進さまは、片岡五平という男をご存じでございますか」 唐突にお蘭が言った。 「ああ、この宿場の顔役、宿から税を取る徴税役を担っている男じゃな」 「はい。実は、わたくしの仇なのでございます」 「仇……」 「片岡は、かつて盗賊の頭目でした。わたくしの家に押し入り、父を殺し、母を犯しました。わたくしは隠れていて無事でしたが、山へと逃げ延びました。それ以来、片岡を狙っておりました。それを遂に目と鼻の先まで捉えたのでございます」 「なんと、まことか」 丈之進は目を見開いた。 「丈之進さまに嘘をつく謂われはございませぬ」 お蘭はその美顔を丈之進の耳元に近づける。 お蘭の芳香が丈之進を蕩けさせる。 「丈之進さまは流浪の身とはいえお武家さま。どうにか片岡と面通りし、そのやっとうの腕を振るってはくださりませぬか、わたくしのために……」 「わ、わしに……。むう」 「片岡を……」 お蘭は身を引くと、丈之進の陰茎を握った。数回扱くと、陰茎は直ぐにお蘭の手の中で怒張する。 「その手で是非に……」 そして顔を屈めると、陰茎を口に含んだ。 「あ、お蘭、ああっ」 ちゅるちゅると音を立てて、お蘭は陰茎を口で舐る。 亀頭に舌を絡め、裏筋に舌先を這わせ、舌先を鈴口へと突き入れる。 じわじわと先端から欲液が漏れ出るが、それを啜る。 巧みな口淫は丈之進を昂ぶらせ、全身を刺激し、甘美な快楽によって痺れさせた。 「ああっ、お蘭、わしは、また……」 お蘭は陰茎の根元を強く握る。 「あうっ」 射精欲求は激しいのに、先端から白濁が放出されることはない。 そのもどかしさが、丈之進を狂わせる。 「お蘭、頼む。お蘭」 「丈之進さま。お蘭の今生の願いを、どうか」 お蘭は舌先で亀頭をちろちろと舐めた。 陰茎の根元は強く握られたままだ。 丈之進は歯を食いしばり射精欲求に耐えていたが、そんな抵抗は風前の灯火に等しかった。 「わ、分かった。そなたの頼み。この丈之進が叶えようぞ」 そう丈之進が口にするのを聞くと、お蘭は艶然と微笑み、陰茎を銜えて、激しく啜った。 じゅぶ、じゅぶ、じゅぶぶぶ――。 そして陰茎の根元から手を離す。 「あああああっ、お蘭、おらぁんんんんっっ」 「んんっ、んぐうううっっ、うううん、くうううんんんっ」 お蘭の口の中で、丈之進は白濁を弾けさせたのだった。 ごくごくと咽喉を鳴らし、粘ついた白濁をお蘭は飲み干す。 「ああ、お蘭……」 放心したように、お蘭のその様子を眺めながら、丈之進は呟いた。 「丈之進さまのお約束の証、お蘭、しかと受け取りました」 口角に白濁を滴らせながら、艶然と嗤うお蘭の顔を見て、丈之進は秘めたる決意を感じ取っていた。 片岡五平と連絡(つなぎ)が取れ、某城主に仕えるという矢倉丈之進が片岡に挨拶に来る日取りが、二日後に決まった。 丈之進とお蘭は、昼間は着物を仕立てたりし、丈之進の身なりを整えた。丈之進は追っ手を案じ昼間に外出することを控えたかったが、お蘭の提案には逆らえなかった。 疑心を募らせると、団子屋の親父まで城下の追っ手に見えてくる。幸い、数日は何ごともなく昼を過ごすことができた。 そして夜は――。 既に夕餉は済んでいる。 酒の入った徳利と猪口だけが、盆の上に載っていた。 酒は飲みかけである。 男は既に酔っていた。 酒にではない。 「ああ、お蘭」 「ふふ、丈之進さま」 女と、その肢体に酔っているのだ。 丈之進は女を引き寄せ、襦袢をはだけさせると、まるび出た乳房を愛撫し、吸った。 「ああンンっ」 お蘭は上体を僅かに仰け反らせる。 「いよいよ明日でございます。明日、わたくしの宿願が叶う日」 お蘭は丈之進の頭部を愛撫しながら言う。 「丈之進さまのお力添えで、憎き片岡五平を亡き者に。父母の仇を討ってくださいまし」 丈之進はその顔面をお蘭の豊乳が作る深い谷間へと沈める。 「ああ、ああ、お蘭。わしがやってやる。そなたの仇を取ってやるぞ」 くぐもった声でそう繰り返した。 「ふふ、ありがたき幸せ」 お蘭は丈之進の後頭部に手を添え、自身の豊乳に男の顔を更に押しつけた。 「むぐ、むぐううう」 「女子の乳は不思議なもの。殿方に赤子の頃の安寧と、牡としての昂ぶりを当時に与えるもの。そのまま、わたくしの乳房に沈んでくださいませ――媚術・淫乳獄」 乳房に顔を埋めたままの丈之進の身体が、びくんびくんと跳ねた。 そして、俄に栗の花の香りが立ち上る。 男の陰茎はいつの間にか精を放ってしまったのだ。 それでも丈之進はお蘭の背に腕を回したまま、その上体に抱きつき、顔を乳房に沈めたままである。 時折、息をする音が微かに聞こえる。 「ふふ、矢倉丈之進、これでそなたは、わが乳と身体の虜。牡の快楽と赤子の安寧を得るために、如何なる命令にも従うのよ」 知るはずのない丈之進の姓を、お蘭は口にした。 丈之進は少し乳房から顔を離し、 「かしこまってござる、お蘭どの」 と言って、再び顔をお蘭の豊乳へと埋めた。 そしてその下半身は、止めどなく射精を繰り返すのだった。 翌日。 矢作丈之進は、陣羽織を身につけ、片岡の邸の謁見の間にいた。 すっとした姿勢で正座をしているが、その目は、見る者が見れば生気が宿っていないことが分かる。 しばらくすると、ずんぐりとした男が入室してきた。 「これはお待たせした。まさか近くの城下のお武家様が挨拶に見えられようとは」 平身低頭で言った男こそ、平岡五平である。 丈之進は、平岡が正面に座ったことを確認し、引き下がって頭を下げた。 「いやいや、そのようなことは結構。こちらが恐縮してしまいます」 人の良さそうな声で、片岡は丈之進を制する。 しかし、丈之進の懐が鋭く光ったのは見逃したようだ。 頭を上げると同時に、丈之進は電光石火の速さで懐に忍ばせた小刀を抜き、片岡の首を一閃し、怯んだ隙に心の臓の箇所に小刀を突き立てた。 片岡の悲鳴が屋敷内に響くと同時に、丈之進は呆気に取られた片岡の配下の者達を蹴散らして、狼のように逃げ出していったのだった。 宿場町は騒擾に満ちていた。 町の有力者が殺されたのである。 その様子を、高みから見下ろす影があった。 お蘭である。 「上手くいったようね」 その口元には艶然として笑みが浮かんでいる。 遠目の技と遠耳の技を駆使すれば、平岡の邸でなにが起こったのか、お蘭には離れていても手に取るように分かった。 そして、逃げ出した丈之進の行方も。 お蘭の手配で、平岡の邸の周辺には微かな睡眠香が焚かれていた。家の者達は眠ってこそいなかったが、その身体はいつにない気怠さを感じ、変事が起こっても直ぐに反応できなかったのだ。それ故、丈之進は逃げおおせられたのである。 丈之進が逃げおおせれば、落ち合う場所は決めてあった。 そして、もし捕まってしまったり、殺されてしまっても、実のところお蘭の目的には支障がないのだ。 お蘭は身を翻し、森の奥へと身を隠した。 鬱蒼と茂る森の中に、邸が姿を現す。 それは山屋敷。お蘭と落ち合うことを約束した隠れ家だ。 見た目は木々に溶け込むようにして建つ古びた屋敷だが、中は整えられており、安宿よりも広く、奇麗である。 夜になるまで森の中に身を隠していた丈之進だったが、夜陰に紛れてここまで辿り着いたのだ。まさかこんな森の奥に見事な屋敷が建っているとは思わなかった。お蘭に徴を教えられていなかったら、見つからなかっただろう。 丈之進は土や埃で汚れていた。陣羽織を着た身なりは崩れ、さながら敗残兵にようだ。 そうだ、自分はいつも逃げていた。妻と間男を斬ったあの日から。 しかしお蘭と出会って、その肢体を抱いた。お蘭に溺れている時だけ、忌まわしい記憶を忘れることができた。 お蘭。 丈之進は屋敷へと入る。 「お蘭」 女の名を呼んだ。 行灯が点いているのか、奥から明かりが洩れている。 「お蘭」 丈之進は屋敷に上がると、明かりの方へと向かう。 障子を透かして、明かりが見える。 そしてその明かりが、障子に中にいる者を影を浮かび上がらせていた。 丈之進は障子を開ける。 「お帰りなさいませ」 白い襦袢姿のお蘭がそこにいた。 まるで妻のように丈之進を迎える。 部屋は座敷になっていて、床が延べてあった。 白い寝具は、まるで貴人の寝所のようだ。 「お勤め、ごくろうさまでした」 「あ、ああ」 「お酒はご用意してございます。夕餉は、もうよろしいでしょう」 「う、うむ。そ、それよりも」 丈之進は後ろ手で障子を閉める。 どこかで山鳥が鳴いた。 「お疲れなのに、何をお望みですか」 そういいつつ、お蘭は立ち上がり、汚れた姿の丈之進と相対した。 「お蘭、わしは、叶えたぞ」 掠れた声で、丈之進は言う。 「そなたの本懐、叶えてやった」 「ええ、分かります」 丈之進の目の前で、女は一層艶美に微笑んだ。 「丈之進さまからは、血の匂いがいたしまする。それはあなたさまに染みつき、取れることはないでしょう。そう。奥方さまを斬った時から」 「何……」 疑惑の視線を向けた丈之進の首に腕を回し、お蘭はその唇を塞いだ。 「ンン、ちゅ、くちゅ、ちゅちゅ」 舌を絡め合う濃艶な接吻の音が、しばし響く。 ややあって、お蘭は口を離した。二人の唇の間に唾液の糸が引かれ、ぷつりと切れる。 「あなたさまは、奥方さまが他の男と情を交わしているのを目撃された。そして嫉妬のあまり間男共に斬り捨てたのでしたわね。ふふ、しかしそんなあなたさまも、わたくしという妻以外の女を抱きましたわ。それに、また人まで斬った」 丈之進に抱きつきながら、その耳元でお蘭は囁くように言う。 風もないのに行灯の火が揺らめく。 「そ、そなた、何者じゃ」 動揺して丈之進が言った。 しかしその身体は、密着したお蘭のふくよかな乳房や柔らかな肢体を感じて興奮せずにはいられない。 お蘭の願いで人を斬った。 あの時、妻と間男を斬ったように。 一人斬るも二人斬るも、三人斬るも同じこと。 血の匂いと、そして精の匂いが染みついている。 女の匂いもまた。 「あなたさまは、逃げ切れると思ってこの屋敷に来たのではありません」 お蘭はきっぱりと言う。 「ここに来れば、またわたくしと会えると思ったから。そう、わたくしを抱けると思ったから」 「あ、ああ。そなたの願い叶えたぞ。わしは、そなたに懸想しておる。そなたが恋しいのじゃ」 「ふふ、その血にまみれた手で、女子を恋うのですか」 「そなた、一体何者じゃ。何を知っておる」 「わたしはお蘭。夜の女房。さあ、夜伽の時間ですわ」 お蘭は丈之進から離れると、その正面に立った。 そして襦袢を脱ぎ捨てる。 音も無く襦袢はその足下に落ちた。 丈之進の目の前に、白い肌を持った見事な女体が浮かんだ。 同時に、濃艶な女の匂いも立った。 惚れ惚れするような素晴らしい肢体だ。 見る見る内に、丈之進の股間は盛り上がる。 丈之進はもどかしげに着物を脱いだ。それは身体にまとった布を引きちぎるような仕草である。 丈之進にとって女が何を知っていようと関係なかった。 女のために人を斬った。 女を抱くために人を斬ったのだ。 人を斬れば、この女を抱ける。 その歪んだ確信だけが、丈之進を突き動かしていた。 やがて、全裸になった男がそこにいた。 股間の陰茎は盛大に勃起している。 「武士の魂が刀に宿るのなら、殿方の魂は等しくこの肉の刀に宿るもの」 お蘭は近づくと、陰茎を撫でた。 それだけで丈之進の身体に痺れが走る。 先走りの液が漏れた。 「ああ、お蘭、わしは……」 「ふふ、人まで斬って求めたこの身体、心ゆくまで堪能なさいませ」 お蘭は屈み込み、上目遣いで丈之進を見つめると、そのまま怒張した陰茎を口に含ませた。 そして、丈之進を立たせたまま、じゅぶじゅぶと口淫を始める。 何度も受けているのに、巧みなお蘭の口使いは飽きることはない。同時に陰嚢を軽く揉まれると、精巣が勢いづくのが分かる。下半身が振るえだし、下腹部の奥に火が灯ったように熱くなる。その欲望の火がますます大きくなってくる。 舌が陰茎に絡みつく。 陰嚢が指先でやわやわと揉まれる。 それだけで、丈之進の中の牡が目覚める。 「あ、あうううっ、ぐうううっっ」 獣のような呻き声が、丈之進の口から上がった。 「ンンっ」 白濁がお蘭の口腔内で爆ぜた。 口に放たれた精を全て呑み込むように、お蘭は咽喉を鳴らす。 その動きも刺激となり、丈之進の陰茎はまだまだ精を吐き出した。 お蘭が口から陰茎を離すと、虚空を舞った精は、寝具を、畳を汚す。 「ふふ、あなたさまの真っ白で純粋な欲望の塊、すごく濃くて臭いますわ。女子の胎内に至ることもなく、容易にまき散らせて、丈之進さまはまこと――」 お蘭はその艶唇を丈之進の耳元へと寄せる。 「獣にございますわね。それも、女子のなんたるかを知らぬ哀れな獣」 「わしは……わしは……」 「奥方さまを斬った瞬間、興奮されたのでしょう」 丈之進は目を見張る。 何故、お蘭がそのことを知っているのか。 しかし、お蘭の手が再び丈之進の陰嚢を揉み始めると、頭の中に桃色の霞が掛かり始め、その疑問を消していく。 「そ、そなた、わしは……」 「そもそも奥方さまが、ご自分以外の男と交わっている姿を見て、興奮されていたのでしょう。そして、ご自身の陰茎を挿し入れる代わりに、その刀を突き立てたのでございましょう」 「わしは、妻を……」 あの時に見た妻の目。 それは淫熱に濡れて、潤んでいた。 今まで、夫婦の床でも見たことのない、色香を湛えた目だった。 それを見た瞬間、丈之進は――。 鮮血が舞った。 刀身が閃いた。 血煙で、視界が霞んだ。 そして気がつくと、既にその身は城下を離れて、森の中にあった。 どこをどう走ったのか分からぬ。 草と土、木々の匂いを感じた。 山鳥が鳴き、ばさばさと羽ばたく音が聞こえた。 鞘に収まった刀を抜いてみると、無意識に拭ったのか、そこに血糊はなかった。 鞘を収め、歩き出し、見いだした古ぼけたお堂で、この女と出会ったのだ。 この、お蘭という女と。 「ああ、お蘭。そなたと肌を重ねていると、わしの罪はどうでもよいものに思えてくる。妻と、その相手を斬ったことも、今日平岡を斬ったことも」 丈之進はお蘭の豊乳をその硬い手で揉み、そして乳首と乳暈を口へと含んだ。 ちゅちゅと、吸い付く音がする。 「丈之進さまは、赤子(ややこ)と同じですわね。わたくしのお乳、美味しゅうございますか」 片手で丈之進の陰茎を扱きながら、もう一方の手で丈之進の後頭部を抱え、乳房に吸い付く彼をあやすようにお蘭は言った。 「殿方の肉剣など、わたくしの手技の前にはナマクラも同然。そして、その武士の魂とやらも、女子の身体の前では役には立ちませんでしたわね」 お蘭は陰茎を扱く手に力を籠めた。 「んんっ」 丈之進の乳房への吸い付きが強くなる。 どく、どくっ。 陰茎の先端から、白濁が噴き出すと、それを握っているお蘭の手を汚した。 お蘭の手の中で、陰茎は暴れるように激しく脈動する。 「まあ、もうお出しになられて。早いのですね。これでは、奥方さまのご満足されなかったのも当然」 しゅしゅしゅ。 溢れ出る精を潤滑液にして、お蘭は再び陰茎を扱き出す。 ぐいぐいとその豊乳を、膝に寝かせた丈之進の顔へと押しつけた。 「お乳を吸いながら女子に手で精を扱き出されるという情けない殿方のお姿を見て、奥方さまならどう思われますかしらね」 丈之進は自分から顔をお蘭の張りのある豊乳に押しつける。 何もかも忘れるように。 そして、その手の動きに身を任せるように、またも無様に精を放った。 丈之進とその妻の営みは淡々としたものだった。 妻は丈之進に抱擁され愛撫されることを余り良しとはしなかった。 丈之進が妻の陰部に陰茎を突き立てると、妻は歯を噛みしめ、痛みを堪えるよに眉根を寄せる。 妻に心では拒まれていると分かっていても、妻の白く、むっちりとした肌に本能を刺激されて、彼は硬くなった股間のものをようやく妻の中へと挿し入れた。 精を放つのは一瞬だった。 その後二人は背中合わせになって眠る。 二人の間に子はなかった。 そんな妻が、自分の知らぬ間に男を引き入れ、姦通に興じていた。 妻の蕩けるような痴態を見て、丈之進は間男に感謝すらしていた。 あの妻があのような濡れた目をするとは。 妻とその間男を斬った時、丈之進は密かに精を漏らしていたのだった。 「ふふ、もう頃合いかしらね」 授乳手淫の体位で、豊乳を丈之進の顔に押しつけ、片手で陰茎を扱く。陰茎の先端からは止めどなく泉のように白濁が滴り落ち、細いお蘭の指はどろどろに汚れていた。丈之進の顔も真っ赤に上気し、乳房に覆われた表情はきっとだらしなく蕩けきっているのだろう。事実乳房の感触と香り、そして巧みな手淫の刺激に、丈之進は身体の芯から溶け、脳髄は桃色に染まりきっている。まさに桃源郷の中にいるような心地だった。 お蘭は陰茎を手放すと、丈之進を仰向けにし、その上から今一度豊満な挿入を覆い被せるように丈之進の顔面へと押し当てた。 豊乳の作る深い谷間に、男の顔が埋まっていく。 「媚術、乳・封・淫」 お蘭はそう唱えると、両腋を締め、上からと左右から、丈之進の顔面へと乳圧を加えたのだ。 ふー、ふー、と胸の谷間に閉じ込められた男の息が荒くなる。 くぐもった声が、胸の隙間から洩れ出る。 突然、びくびく、と丈之進の全身が痙攣したように上下し、そして、その天を突くように怒張した陰茎からは、先程までとは比べものにならない勢いで、精が噴き上がった。それは、まるで間歇泉のようで、白濁が天井に届く程の勢いと量である。 「矢倉丈之進、おぬしはこれで、完全にわたしの乳に堕ちるのよ」 お蘭は艶然と嗤いながら、丈之進の顔に乳圧を加える。 それはまるで、胸の谷間で男の顔面を喰らっているような光景だ。 まるで陰茎を扱かれているように、乳圧が加わる度に、男の身体は振るえ、陰茎からは尽きることのない射精が繰り出されるのだった。 部屋はたちまち栗の花の香に満ち、畳の上には点々と白濁の染みが滲んでいた。 射精は東の空が白み始めるまで続いたのである……。 ☆ もうもうと湯気が立ち上っている。 岩に囲まれた温泉。立ち上がる湯気の中に一つの影が浮かび上がった。 なだらかな肩まで仄かに朱く染めた女は、艶やかで色っぽい。 「ふう」 お蘭は嘆息する。 ぷかりと、豊乳が湯面に浮かんでいた。 「ずいぶん手の込んだことをしたね、お蘭」 もう一つの影が湯気に浮かぶ。 それは、どこか婀娜っぽい雰囲気をもった女だった。 「あら、お藤じゃない。あなた温泉が好きだったものね」 「ふん、あたしの気配くらい、あんたなら気づいていただろう」 二人の女は笑い合った。 「男二人を消すという命令だったのよ。ちょうどいい手駒がいただけよ」 お蘭は髪を掻き上げる。 お蘭とお藤は、さる隠れ里に属する忍びである。 上からの密命を帯び、情報収集から情報操作、そして裏切りから暗殺までこなす影の者達だ。 隠れ里、霧生のくノ一、それがお蘭とお藤の正体なのであった。 お蘭が消せと命じられた男、一人は平岡五平である。 宿場町の税吏にまで出世した平岡には、当然敵も多かった。お蘭は深く聞いたわけではないが、大方平岡の死んだ後、税吏の座に就いた某人物が、依頼の出所だろう。 そしてもう一人が矢倉丈之進である。 丈之進の存在を消せと依頼しのは、彼の城内での同僚であるらしい。仕事でも剣術でも丈之進に敵うことなく、城内での派閥も別れていて、丈之進に嫉妬と敵対心を持っていた人物は、彼を密かに城下より消そうと思ったのだ。 しかも、その同僚は丈之進の妻に横恋慕していたのである。 丈之進と平岡を消す。その密命を帯びたお蘭は、策を練った。 くノ一の得意とする策は、色絡みである。 まず、自分の部下にあたる下忍の男女を丈之進の邸に忍ばせる。 そして、女忍には丈之進の妻の顔に変装させて、あえて丈之進の前で間男役の男忍と目交わってみせるのだ。 その際、邸には秘伝の邪淫香を焚き、丈之進の劣情と嫉妬を昂ぶらせておいた。 そう、丈之進が斬ったのは、妻とその間男ではなく、妻役と間男役を演じた忍びだったのである。 お蘭の予想どおり、そのまま丈之進は城下を出奔。 そして、待ち構えていたお堂で、丈之進と偶然を装い出会ったのであった。 「部下まで喪って、ずいぶんと手の込んだことだね」 お藤が言う。 「ふふ、あの下忍の二人も、里抜けを企み捉えられていた身なのよ。最後に交わりながら死ねて、本望じゃないかしら」 お蘭は妖しく微笑んだ。 湯気の中、掛け流しの湯が流れる音が響く。 お蘭たち、くノ一にとって、人を性の地獄へと堕とすことは容易だ。入念にその情欲を刺激してやれば、それだけで快楽に染まってくれる。 丈之進を消すことを依頼した同僚も、丈之進の妻とともに、今では昼も夜も淫らな交わりに興じており、仕事どころではないはずだ。 くノ一に関わった人々は、それが誰であれ、色地獄へと誘われる。 「ねえ、その丈之進ってお侍はどうするんだい」 お藤が訊く。 「腕は立つから、しばらくは殺しの仕事をやってもらうわ。もし身元が割れても、わたし達との繋がりは分からないもの。そうね、今後の仕事が上々にいったら、あなたとわたしで相手をして上げましょう」 「ええ、いいのかい。そりゃあ、新しい男とするのは吝かじゃないが、あんたとわたしでしたら、そのお侍、色狂いで死んじまうよ」 「ふふ、その時は、それまでということよ」 湯気の濛々と立つ中で、お蘭は言った。 お蘭とお藤、二人のくノ一の絹肌は、湯の中で薄く朱に染まっている。その艶めかしく仕上がった魅惑の肢体を伸ばすと、二人は妖しく目配せをした。 そして、ゆっくりと近づくと、女同士、その肉体を試すように、手脚を絡ませ、豊乳を押しつけ合う。 互いの乳首が擦れた。 「あ、ンン……」 どちらからともなく甘い喘ぎが上がると、温泉は忽ち、桃色の淫気に満たされたのであった。 ――媚術・女芯淫合。 (おわり)