褐色の女王――オアシス都市は褐色の肌に支配される
Added 2020-04-19 12:55:23 +0000 UTC砂漠のオアシスを中心に発展する交易都市には、大小いくつもの隊商が行き交い、人々で賑わっていた。熱と乾燥による過酷な砂の道の途中、人々はここで憩いを得る。そして、ある者は商いに精を出し、ある者は情報を求め、またある者は後ろ暗い目的を抱くのだった。 その都市の中心である大バザールを見下ろすように、庁舎が建てられており、多くの商人や旅人が交易許可証の更新や、商売権の交渉などの理由で、役所を出入りしていた。その、都市の心臓部とも思われる市場と庁舎の直ぐ裏手に、珍しい白亜の塔が聳えている。それは月の塔と呼ばれ、このオアシス都市の記念碑的な建造物であったが、交易商人ばかりか、この都市に居住する者達も、何の目的でそれが建てられたのか、知るものは少ない。 そこからは晴れ渡った青空が地平線まで見通せ、砂漠の果てとの境界がくっきりと天と地を分けている光景さえ望めた。 「今日も賑やかね」 褐色の砂漠の中に、オアシスを中心にした緑と、そして色とりどりの天幕に覆われた大バザールを窓外に見下ろしながら、メーテは艶やかな唇を微かに上げる。 磨かれたような褐色の肌、流れる黒髪に深い黒曜の瞳、そして熟れた果実のような張りと大きさを主張する二つの乳房と、括れた腰、引き締まった臀部にすらりと伸びた嫋やかな腕と脚……女としての魅力を充分過ぎる程湛えた彼女こそが、月の塔の主なのだ。 そしのその女主人は、エメラルドの耳飾り、金細工の首飾りに腕輪と、僅かな装飾だけを身に付けて、あとは惜しげもなくその見事な裸身を晒しているのだ。 塔の下で賑やかに生業を繰り広げている人々は、そんなことは露知らない。 「貴男の仕事も順調そうみたいじゃない」 窓辺から離れて、メーテは部屋の中央へと向かう。広い豪奢な部屋の真ん中には、大型の寝台が陣取っている。メーテはそこに腰掛けて部屋の入口の方へと視線を向ける。そこには、若い男が緊張した面持ちで立っていた。 「それは、メーテ様がお取り計らいしていただいたお蔭です」 ぽつりとそう言って男は顔を下げる。 緊張のためか、それとも暑さのためか、その額には汗が浮かんでいる。 「いいえ、貴男が頑張ったのよ。わたしは単に商業組合に言って資本金を融通してあげただけだわ。珍しい東方の香辛料の輸入で財をなしたのは、貴男の才覚よ、ジアール」 ジアールと呼ばれな男は、若くしてこのオアシス都市を拠点として商人だ。彼は東方の香辛料の仕入れて、このオアシス都市で方々へと売りさばくことによって巨万の富を得た。そして都市を運営する商業組合に席を得たのである。 「その融資がなければ、わたしは東方へ行くことも出来ませんでした。感謝申し上げます、メーテ様……」 「言葉だけなら要らないわ。真の感謝は態度で示すものよ」 その言葉に、ジアールは顔を挙げると、寝台に座るメーテへと近づく。 蠱惑的な瞳がジアールを捉えて離さない。 ジアールはメーテの足元に跪く。遠慮なく晒された桃色の秘裂が、ジアールの視界を射る。 ジアールはゆったりとした衣服をまとっていたが、その内側で股間は盛大に屹立していた。 彼はメーテの素足を恭しく手に取ると、その甲に口づけをする。 じわり、とジアールの鈴口が僅かに濡れた気がした。 「ふふ、接吻、上手だわ。さあ、組合の正装なんてさっさと脱ぎなさい。ここでは生まれたばかりの姿こそが正式なのよ」 メーテがそう命じると、ジアールはいそいそと衣服を脱ぎ出し、全裸になる。 股間の屹立は既に反り返っていた。 「準備は万端みたいね。昼には戻らないといけないのでしょう。さあ、始めるわよ、来なさい」 艶やかな唇から零れた言葉が男を誘う。 差し出された手を取り、ジアールは寝台に上ると、そのままメーテに覆い被さった。 「都市運営委員、商業組合員、ジアール商会の代表者ジアール、貴男はこの儀式をもって、正式にこの都市の運営者の一人として認めるわ」 メーテはそうジアールの耳元で囁くと、その首に腕を回し、彼を引き寄せた。 男女の唇が重なり、陽の差す部屋は昼間だというのに淫靡な雰囲気に満ちる。 窓外の喧騒が聞えてくる。オアシス都市を見下ろす塔の上で、今褐色の美しい女と、若い商人は密かに原始的な交わりを繰り広げようとしていた。 (わたしの身体を見た男で、堕ちなかった者はいないわ) 褐色の美女にして、この交易都市の女王と噂されるメーテは、己の魅力とその使い方を熟知していた。 メーテは元々、このオアシス都市の高級娼館で働く人気娼婦であった。主に豪商に要人といった上客たちを、美貌と肉体、そしえ卓越した性技によって持て成し、更には虜にしていった。ジアールのように商才に長けた、しかし若く体力もあり精力もある男を手玉に取ることなど造作もない。 人気娼婦として贅を尽くした生活を送ってはいたが、しかし娼館に縛られていることには変わりなかった。また、経営者である老婆も決して好ましい人物とはいえない。 そんなメーテにある時運命の好機が舞い込んできた。 当時はまだ豪商という訳でもなかったが、都市の外でひと財産築いてきた幼馴染が帰郷し、メーテの客となったのだ。 ある日、その客は気を許していたメーテに告げた。 ――自分は新開発した煙草を主力商品として、更にひと旗挙げるつもりだ、と。 その計画をメーテは聞き逃さなかった。 いくら高級娼館の人気娼婦で、暮らしに不自由がないといっても、それは籠の中での自由でしかない。彼女は自由が欲しかった。そして、今以上の富と地位もまた彼女の求めているものだった。そして、自由と富への活路を、メーテはその時新しい事業を起こそうとしている馴染みの客に見出したのだ。 極上の肉体と、絶妙な性技、そしてある奸計によって、メーテはその客を言いなりにし、遂には新しい事業の共同事業者となることを約束させた。 そして、今までの豪商や要人といった上客たちへ自分の関わった事業の主力商品である煙草を積極的に勧めることで、販路を拡大することに貢献した。彼女の客は殆どが都市の外にも影響力を持っている。彼女の客達を通して、彼女達の煙草は交易都市から砂漠を越え、国中に流通していったのだ。 煙草事業は大成功だった。それによって得た財で、メーテは自身の頸木であった娼館を買収した。晴れて、彼女は自由の身になったのである。 時を同じくして、彼女は都市運営委員会の改革に取り掛かった。 それは改革ではなく、都市の運営権そのものを自分のものとしてしまうことであった。 メーテは当時の運営委員達を自身が買収した娼館に招待すると、痴態の限りを尽くさせた。それを元に、暗に脅迫めいた工作を開始したのである。醜聞を恐れた運営委員達は単なる飾りとなり、都市運営員会は骨抜きにされ、その実権は新たに設立された商業組合に移った。 これは、若い起業家に対して積極的に融資をすることも主たる活動の一つとしており、それによって成功した者は、組合員になって都市の運営に参加することが出来る。それがメーテの目論んだ制度だった。 勿論、メーテ自身が表立って動くことはなかった。煙草産業は軌道に乗り、共同事業者は組合書記長に就任すると共に、都市の顏となっていた。公式的な事柄は彼が担っていた。ただメーテは、必要な個所で彼女が見極めた人物相手に、秘密裏に肉体的な交渉をするだけだった。そして、それはメーテが最も得意としていることである。 かくして、オアシス都市の運営機構は一新され、若い企業家達が交易都市の運営にも関与するようになった。 肝心なことは、その数名の若手企業人皆と、メーテは性的関係を持っていることである。 (わたしに抱かれることで、真の意味でこの都市の運営機構の一部となれるのよ) 若い男達によって表立って運営されているオアシスの交易都市、しかし運営の本体は、月の塔と呼ばれる秘密の部屋の、豪奢な寝台の上で営まれているのだ。 (さあ、存分に稼ぎなさい。財を築くのよ。このわたしのために……) オアシス都市は、メーテという女の美しい褐色の肉体によって支配されているのである。