オレはアンタが好きだった。
オレを人として接してくれるアンタが。
醜くて、化け物のオレを信じてくれるアンタが。
わかっていた。自分じゃ理解できないようなこの感情が。何一つ伝わらないことを。
アンタに出会えてから世界が変わった。これは本当だ。
誰からも暴力を振るわれなくなった。
自分の部屋が荒らされることも。食事に毒を盛られることも。
人生が生まれて初めて明るく見えたんだ。
オレがはじめてここに来た時、別棟に隔離されていた。
誰もオレを生きているものとして扱ってくれなかった。
本当に辛かった。あの時ほど死にたかったことはないよ。
思い出したくもないね…。
そんな時アンタが来た。
アンタの手がオレの腕を引っ張った。
「ここから逃げよう」…なんて言ってさ?
突然の出来事だった。でもオレは…そんなアンタをすぐに信用してしまった。
生まれて初めてみたものを親だと思い込む雛鳥のように、オレはアンタを勇者だと思ったんだ。
こんなことアンタに言えないだろうな。きっとからかうだろ?
でも本当だ。全部…。オレを助けようとしてくれたその行動が、オレのために何かしてくれたアンタの全てが、夢のようだった。
親友もできた。アンタのおかげで。友という概念を心の底から知ることができたんだ。
今も信じているんだ。アンタはオレの勇者だった。恥ずかしいから、言えねえけど。
ああ、オレの腕を引っ張って……。気づけば手を繋いで。花畑に来たんだ。
黒い花が一面を覆う、そんな場所に。
「綺麗だろ?」ってアンタは笑った。
綺麗だよ。そう答えた。
風になびくその金髪が、とにかく美しかった。
オレは子供の頃からアンタに惚れていたんだな。
ああ、ごめん、こんな姿で生まれて。
笑うことが怖かった。また殴られたら。
でもアンタは否定しなかった。オレの顔を見ても、オレの髪を見ても、何一つ悪い顔をしなかった。
だがアンタのような美しい姿なら、アンタはオレのことをもっと見ていたかもしれない。
なあ…そうだろ?
アンタは急に行方不明になった。
オレは信じたくなかった。
知っていたんだ…アンタは全部ひとりでやっちまう。
オレを頼りにしたことなんてなかった。
なあ、オレが醜いのか?
オレが化け物だからか?
アンタがいなくなったら、オレは。
エガレェ…頼むからひとりで抱え込まないでくれ。
だからオレはアンタを追いかけようとした。
国外れに行ったかもしれない。
オレはどれだけ星の位置が変わろうと…探し出す。
今度はオレが助けなきゃいけねえんだ。
そう思っていた。
知らない人間がオレの腕を引っ張った。
あの時よりも、痛みと恐怖が伴った。
ああ、そうだ。オレは…化け物なんだ。
違う。化け物にされたんだ。
手足を拘束されて。
見たこともない機械に、何度も打たれた注射器、叫ぶオレに見向きもしないで肌を切り裂いていく人間。
気づいた。魔物はいつもこんな目にあっているということに。
人間が急に憎くなった。「人間」そのものに酷い憎悪を抱くようになっていた。
血肉を抉られる恐怖、過去の出来事の記憶、自分の両親がオレに仕掛けたこと。
今でもオレを縛り続ける。
脳の繊維ひとつひとつに絡みつくように、こびりついて離れない。
オレは死ぬことができなかった。体の細胞が死を拒絶せるようになった。
生きる希望がなかった。だからアンタを探し続けた。それが希望になれたから。
本当は不安だった。親友を既に失っていたから。
不死という縛りを受けているせいで、まわりの死に耐えられなかった。
アンタは…オレを置いていかないだろう?
あのとき伸ばしてくれた腕は、オレのためなんだろう?
オレはまたひとりになるのか?
オレをひとりにしないでくれ!
アンタを襲うものは全てオレが殺す。
目が黒いやつを殺せばいい。そうすれば化け物になった瞬間ぶち殺せばいいし、アンタが化け物に襲われることがなくなるだろう?
それにアンタを襲う人間もいなくなるんだ。
オレをひとりにしなかったアンタをひとりにさせたくないんだ。
……オレを、信じてくれよ。
もう、何も失いたくないんだ…。
こうなることくらい、わかっていた。
こんな世界で、強く生き続けていたアンタが、本当に立派だった。立派すぎた。
自分がどのくらいの間探し続けているのかわからなくなっていた。
何故人を殺しているのかわからなくなった。
せめて、一度だけ話しておきたかった。
どうしてだろう、涙が止まらない。
人のことに、こんなに泣くことは今までなかったのに。
心に穴が空いた気分だ。
オレは何を目指して生きていけばいい?
この感覚はなんだろう。悲しい、わけではない。
何かを心から奪われて、ぐちゃぐちゃに潰されて、あぁ……くそっ、オレはアンタのために何か出来ていたのか?
死ねない体で、アンタを追うこともできない。
自分の銃を自分に向けることすら怖い。
オレは……何も出来なかった。
だめだよな、結局自分の鎖が、枷が、外れなかったんだ。
この感情をどこにぶつければいいんだ?
考えても無駄だ。わかっている。だがオレはそうでもしないと、自分の感情に潰される気がする。
呪いに体を乗っ取られる。姿までもが、化け物になってしまう。
オレはアンタに依存していた。あの時からずっと依存し続けていたんだ。
悔しいよ、そりゃそうだ。命に限りがあることを、どこかで忘れていたんだ。
オレは……。
「どうしたんだ?大丈夫か?」
探し続けて、アンタの子に出会ったよ。
無駄な足掻きだろう。だがオレにとっては生きる希望を見つけただけにすぎない。
見間違えるほど瓜二つなんだ。
だから羨ましかった。あの美しい容姿を引き継いだアンタが。
オレは過去に戻ったのかと思った。
いっそのこと、アンタの姿をエガとして想い続けたほうがよかったのかもな。
…。
アンタの子は…さすがエガの子だって思えるよ。
魔物の存在も否定しないし、何より…オレのことを攻撃しなかった。
オレと同じ瞳をもつ目の前の男は、ただこちらを不安げに見つめていた。
「何で泣いているんだ?どこか痛いのか…?」
「……なにもないさ」
ああ、心が痛くてたまらないんだ。
アンタは……
アンタはオレを捨てないよな?