また一日、臆病になる(旧作)
Added 2024-06-06 00:04:08 +0000 UTC1日目 「ここはどこだ?」 誰もいない暗闇の中。俺はただ熱さを感じていた。 「私はここよ。」 誰かもわからない、頭の中の幻聴。暗闇の先で、小さく光球が見え始めた。 「はっ!?またこれだよ、ここ最近毎日だ...」 ベッドの中から一人の青年、内海薫(うつみ かおる)が飛び起きた。彼はどうやら恐ろしい悪夢を見ていたらしい。パジャマは汗だくで、ひどい悪寒も走っていた。 「どんな夢だったか憶えてないのが幸いだな。もしそうなったら気が狂いそうだ。」 縁起でもないことを呟きながら、出勤の準備を始める。実は彼の少し散らかったモノトーンの部屋には盗聴器が仕掛けられていた。「もうそろそろ、本番に入ってもいいかな。」もちろん誰かが聞いていたことなど知るよしもない。 「内海さん、最近元気がないですが大丈夫ですか?」 「ああ、最近悪夢にうなされ気味でな...こんなゲーム作ってるから、何か悪いものが乗り移ったのか?」 「そんなこと言う余裕があるなら、きっと大丈夫ですよ。それだけ世界観に没入できるって凄いですね。いい作品が出来るわけです。でも、体調管理にはお気を付けて。」 「そうか、没入感か...少し気が楽になったよ、ありがとう。」 内海はあるゲーム会社の若手ディレクターであり、その作品は世界中で愛されているのだ。今度の作品はVRを活用した「究極のホラーゲーム」であり、開発チームは「今までのゲームを過去にしよう」と意気込んでいる。自分でも震え上がるほどの作品が出来ているなら、彼にはうれしい限りだ。 ~~~ 2日目 「またここか...」 嫌なことになった。憶えていたくはないのに、この暗闇をよく知っている。 「私は何度でも現れるわよ...」 そして頭に響く女の声。光球は大きさを増し、明らかに近づいていることがわかった。 「く、来るな!」 俺は声が光球と同じ存在であると悟る。暗闇はサウナのように熱くなり、心臓が高鳴って破裂しそうだ。 「...はっ!?ああよかった。没入感はいいけど、もう二度と俺の夢に出てこないでくれ。」 そう呟くと、彼は「清潔感のある白い部屋」の中で汗だくになったパジャマを着替え始めた。自分の背丈が昨日より小さく、体つきは華奢になり、乳首と乳輪も大きくなっていることにも気づかずに... 「内海、ちょっとこれを見てくれる?」 「ええっ、また俺ですか!?正直嫌なんですけど。」 「いいからいいから。昼飯をおごってやるからさ。」 「...そこまでいうなら。」 内海はあるゲーム会社の若手プログラマーであり、その才能で会社でも成長を期待される筆頭株だ。しかし、高すぎる才能も考え物。恐怖系が苦手であるにも関わらず、VRを活用した「究極のホラーゲーム」のプログラム担当に抜擢されてしまったのだ。彼も社運を賭けたプロジェクトであることは承知の上だが、内心うんざりだろう。 「うわっ!!!すごい臨場感...」 「やっぱり正直に反応してくれると嬉しいね。実際に見てもらわないとわからないからさ。」 「でも俺ばかりで大丈夫なんですか?怖がりの意見ばかりでは内容が偏ると思うんですが。」 「それはそうだな。後で他の奴らにも見てもらうよ。」 「...俺が見た意味は一体...」 ~~ 3日目 「まただ、もう勘弁してくれ!」 今日もこの暗闇の中だ。サウナのような熱さも、光球の眩しさもそのままである。 「何が目的なんだ!?よそに行ってくれ!」 「情けないわね。あなた本当に男なのかしら?」 そう嗤いながら近づいてくる光球は更に大きさを増し、明らかに火の玉であることが明確になる。その証拠に、熱さは火傷しそうなほどの領域まで高まっていた。 「あなたもそろそろ~」 殺される。そう直感した俺は恐怖のあまり叫び声も出せず、股間から何かが漏れ出しそうな感覚を覚えた。 「...はっ!?...何で「僕」ばかりいつもこう。」 そうつぶやきながら、内海はゆっくりと起き上がった。...もしかして、この「パステルカラーの部屋」の中に奴がいるんじゃないだろうか。そんな疑念が一度頭をよぎると、中々布団から抜け出せない。部屋を一通り見回して、やっと安心した彼はびしょ濡れの「くまさん柄のパジャマ」を着替え始めた。その手は女子にも力負けそうなほど白く細くなり、乳首はぷっくりとしたピンク色、胸もしこりによって少し膨らんでいた。 しばらくして、会社の先輩からメールが届く。 「内海、休日に悪いがあのホラー映画を見に行ってきてくれないか?俺は仕事で手が離せないんだ。」 「...なんで僕なんですか?怖がりなのは知っているでしょう?」 「ある程度怖がりな奴の方がどこが怖かったか鮮明に伝えてくれそうだからな。」 「...わかりました。」 内海はあるゲーム会社の新人プログラマーだ。その腕は確かだが、流石に入社して1年もない新人に大きな役割はやってこない。昇進のためには上司に気に入れられなければ。それがどんなに嫌なことでも。 幸か不幸か昼からのチケットが取れたので、彼は早速映画館に向かった。話題のホラー映画は「男なら漏らすな」という挑戦的なキャッチコピーが話題になっており、その質も相まって界隈ではカルト的人気を誇っているらしい。彼にとっては信じがたい世界だが、先輩が作っているものが「究極のホラーゲーム」なのだから仕方がない。 「どうせ作り物だ、作り物...」 席に座ると同時に、ひたすら頭の中でそう念じる。しかし生来の臆病にそんな小細工は通じない。ホラー映画ファンでさえ震え上がる納得の出来を見せつけられた。 「ひぃぃ...!」 思わず指で顔を隠す。しかしそれは恐怖のみから来る仕草ではなかった。 ジョワァァァァァ....... 「彼女」はあまりの恐ろしさに漏らしてしまったのだ。自慢の「ホットパンツ」のせいで、その染みの広がりは誰から見ても明らかである。周囲の奇異の目も合わさり、彼女は恥ずかしさのあまり泣き出してしまった。 その後彼女はタクシーで何とか家に帰ってきた。玄関のドアを閉めへなへなと座り込む。 「どうしてこんなことになったの...」 どう考えても、原因はあの夢しか考えられない。あれから周囲の気配に臆病になってしまった。それまでは「ファッションが趣味」で、このホットパンツだってその自信の表れだったのだから。じゃああの火の玉は...?どれだけ考えてもわからない。もう気力も残っていなかった彼女はシャワーを浴びてベッドに入ることしか出来なかった。 ~~~ 4日目 「熱い、熱いよぅ!」 私は巨大な火の玉にその身を焼かれていた。業火の中に入ってわかったことだが、その中心には血のように真っ赤な一台の車が佇んでいた。 「とうとうこの日が来たわね。」 その車から降りてきたのは、車に負けないぐらい赤い髪の魔女だった。 「誰なんですか!?おねがいやめて!!」 「クリスティーナ、今更知っても意味ないけどね。さあ、あなたのエナジーを頂くわよ。」 魔女の周りに青白い光が集まると、鋭いナイフに変わった。そのナイフが私の首を引き裂こうとして~ 「はっ!?た、助かった...?」 辺りを見回すといつもの「花柄の部屋」があった。下からは不快ながらも慣れ親しんだ感覚。 「ああ、今日も漏らしちゃった...」 布団をめくると、そこにはおしっこで膨らんだ「紙おむつ」があった。彼女はベッドから起きると、びしょぬれの「ネグリジェ」とおむつの着替えを始めた。 「内海かおり」は大学の情報工学部に通う学生である。専門はVR研究で成績も優秀なのだが、ある大きな悩みがあった。性格が非常に臆病であり、おもらしをしてしまう癖があるのだ。特に就寝時は紙おむつを履かないと眠れないほどだ。それでも今日は休日、家で安心した1日を過ごせると考えていたのだが... 「あっ、おむつがない!通販でも買い忘れているしどうしよう...」 外出したくはないが、おむつがないと安心して眠れない。 「...買い出しに行くしかないか...」 憂鬱な気持ちになりながら、彼女は白いブラウスにパステルグリーンのフレアスカートという「おむつの目立たない格好」に着替え家を後にした。 外は心と同じ曇り空。周囲にビクビクしながら道を急ぐ。店まであと半分、がんばれ自分。そう思った瞬間、彼女の心は縮み上がった。雲から現れた太陽だ。空の光球が現実まで焼く尽くそうと、ジリジリと照り付ける。 「あぁぁ.......」 最早まともに立つこともできず、道端のブロックに寄りかかるしかなかった。 チョロチョロ...... 膝を温かく濡らし、足元に水たまりが広がっても恐怖感は増すばかりである。 「熱いよぅ...怖いよぅ...助けて、誰か!」 息もできない絶望感。視界が真っ暗になると、彼女はバタリと倒れ~ 「あの、大丈夫ですか?」 ...なかった。優しい声と共に抱えられた。 「あ...ありがとうございますぅ!?」 視界が開けた時、彼女は驚いた。それはサスペンダー付きの白シャツと黒ズボンに身を包んだ、王子様のような女性だった。同性でも思わず惚れてしまいそうだ。 「ぜ、ぜひお礼をしたいのですが...」 「それなら僕の家に行きますか?すぐそこだから、シャワーも浴びていきなよ。」 「い、いいんですか?ありがとうございます!」 彼女はその言葉に甘えて、家にあがることにした。 「僕の着替えで大丈夫だった?」 「ご丁寧にありがとうございます。少し大きいですが、大丈夫です。」 彼女はシャワーを浴びた後、リビングで世間話をすることになった。女性の名前は栗原千華、同じ大学の2年先輩ということがわかった。一人で住むには大きい家だったり、一人称が「僕」だったりと少し変わったところがあるが、とても優しい女性。 「でも、あの車...」 彼女が気にしていたのは、玄関から見えるガレージの車。あの赤に流線型のライン。間違いなく夢に出てきたあの車であった。 「実は...ありえない話なんですが...」 栗原を信頼しきっていた彼女は正直に全てを話すことにした。 「...あそこで倒れそうになっていたのも、その夢のせいなんです。」 「...なんか色々大変そうだね。悪かったね、嫌なこと思い出させて。」 「いえ、全然大丈夫ですよ!それで栗原さんに出会えたんですから。」 「いやいや。」 そんなことを話していると日が暮れ始めた。帰らないといけない、そう考えると底知れぬ恐怖感に襲われる。 「私、帰りたくないです。一人になるのがとても怖くて...。」 「それなら僕の家に泊まっていく?空き部屋がいくつかあるし、ベッドも。」 「本当にいいんですか?」 「うん。悪い人ではなさそうだしね。」 「すみません、私頼ってばかりで...」 彼女は一つの空き部屋に案内され、静かに眠りについた。 「おやすみなさい、内海......薫さん。」 安心して意識が落ちていく彼女には、その言葉は最後まで聞こえなかった。 ~~~ 最終日 「あら、やっと帰ってきたのね。」 そんな、あの家を離れれば悪夢も見ないと思っていたのに。私は絶望でいっぱいになる。 「少し手間取ったけど、今度こそおしまい。」 灼熱地獄の中で、彼女のナイフが振り降ろされ~ 「待て!」 ...なかった。ふと顔を上げると、そこには私を庇って立つ栗原さんの姿があった。 「内海さん、ここは僕をおいて逃げて!」 ナイフで切り付けられたのか、栗原さんは右頬から血を流している。 「でも!」 「いいから!」 両手で突き飛ばされると、私は凄い勢いで火の玉から弾き飛ばされた。 「だめ、栗原さん!一緒に行こう!」 そんな願いは届かず、光球は小さくなって、小さくなって...とうとう見えなくなった。 「...はっ!?」 気が付くと、私はベッドから飛び起きていた。いつものネグリジェに、普通の下着の感覚。なんの恐怖感もない清々しい朝だった。 「今までのは全部夢...?」 ネグリジェ姿のまま、一階のリビングに降りると... 「おはよう、かおり。」 あの笑顔が私を出迎えた。 「うわぁん、お姉ちゃん!!!」 「え、どうしたの?」 「お姉ちゃん、お姉ちゃん..!!!」 「いつもの日常」なはずなのに、何故か安心感で涙が止まらなくなる。それを微笑ましく見ているかのように、ガレージの赤いオハコ・2000Sはやわらかな日光を反射していた。 「...計画通り。」