あれは中学2年生の時のこと。
別に嫌なことがあった訳ではない。
それなのに、家に帰ると何故だか無性にイライラするような感覚があった。
特に、母のいない間、お姉ちゃんから口うるさく「宿題はやったのか」とか「早く寝なさい」とか言われることにストレスが溜まり、ついつい反抗的な口調で言い返してしまうことが先日あった。
「う、うるさい!お姉ちゃんのばか!!そんなのいちいち言われなくても分かってるって!!もう中2なんだからほっといてよ!!」
「…は?なに、その態度は?私にそんなこと言って許されると思ってる?」
夕食の後、ソファーでゴロゴロと寝ていた時お姉ちゃんに小言を言われ、我慢できなかった。
だけど、言ったすぐ後に(あ…しまった…)と心の中で後悔してしまう。高校2年生のお姉ちゃんには、どう足掻いても勝てないし敵わない。
逃げようとして駆け出した次の瞬間には、天井がひっくり返り絨毯の上に仰向けに押さえつけられていた。
両手を頭の上でまとめた状態で万歳させられ、腕の上に乗っかって脚で挟み込むように押さえつけられ馬乗りされながら顔を見下ろされる。
…よく幼馴染みにやられる体勢だ。
この状態で押さえつけられてくすぐられたら、足をバタつかせることしかできず決して逃げられない。
「ごめんなさいは?今素直に反省して謝ったら手加減してあげるけど、どうする?」
さっきまで強気な態度を取っていた手前、今さら素直にごめんなさいするのも恥ずかしかった。それに、お姉ちゃんに顔を覗き込まれているとまた余計にイライラとした気持ちも甦ってしまう。
「…あ、謝らないし。早く退けよ!!ばかっ!!」
「はぁ…言うと思った。じゃあ反省するまでくすぐり地獄の刑ね。ほら、こちょこちょこちょ~」
「っっぁぁぁっ!?ぎゃぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっあははははははははははははははは!!!!!ひゃめっひゃめでぇぇぇぇぇぇっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっあははははははははははははははははははは!!!!ひぃぃぃっっんぁぁぁっ!」
薄いシャツの上。腋の下に指先が触れたかと思うと、次の瞬間には文字通り地獄のようなくすぐったさが全身を貫いていた。一瞬で反抗する心が粉々に砕かれてしまうような、容赦の無いくすぐりに目には涙が滲み口の端から涎が垂れてしまう。
「こちょこちょこちょ。どう?くすぐったい?我慢できないよね?どうしてさっき私に生意気言ったのかな?ごめんなさいは?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっあははははははははははははははははは!!!!ひぃぃっひぃぃっごめっ!!ごめんなざぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁっも、もうひゃめでぇぇぇっぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっあははははははははははははは!!ゆるっっゆるじでぇぇぇぇっ!!!!」
開始からまだ1分も経たないうちに、ひぃひぃと笑い狂いながら必死に何度も何度もごめんなさいして許しを乞う。
"くすぐり拷問師"になるため日々研鑽を積んでいるお姉ちゃんだけあって、年々その技術は確実に高くなっていた。
どこをどのくらいくすぐったら心が折れるのか。
弱いところを見つけて執拗にねちねちとこちょこちょされ、くすぐったくて苦しくて1秒でも早く止めて欲しいと願ってしまう。
しかし、この日のお姉ちゃんは簡単に止める程優しくは無かった。反抗期の心を、徹底的にくすぐって躾をするように。
「ん~?そんなに笑いながらごめんなさいしても説得力無いよ?こちょこちょ止めて欲しいから口ではそう言ってるだけにも見える。ちゃんと心から反省するまで絶対やめないから、覚悟してね?」
お姉ちゃんはそう言ってシャツの中に細長い器用な指先を滑り込ませ、無防備な腋の素肌を直接こちょこちょカリカリとくすぐっていく。
その瞬間、足をバタバタと暴れさせ腰をくねらせ、白眼を剥いて意識が飛びそうになる程のくすぐったさが襲いかかる。
(くすぐったいくすぐったい…!本当に死ぬ…死んじゃう…)
心臓がバクバクと高鳴り、本気で死を覚悟してしまう程のくすぐったさを、中学生の身体が耐えられる筈もない。
お姉ちゃんの指先は縦横無尽に肌の上を駆けまわり、まるで100本の指にくすぐられているような感覚だった。
「っっぎゃぁぁぁぁっ___ぁぁぁぁっ!!!?ぁぁぁぁっひぃぃぃっじぬぅぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁっあはははははははははははは!!!!!!ひゃめでぇぇぇぇぇぇぇっんぁぁぁぁぁぁぁっ____っぁぁぁぁぁぁっ!!げほっ、ごほっ、ぁぁぁぁっあははははははははは!!!」
「こちょこちょこちょ~。そろそろ反省した?」
お姉ちゃんのくすぐりが、少しだけ言葉を発することが許される程度にまで弱まる。口からは笑い声と謝罪の言葉しか出てこなくなる。
「はんぜいじましだぁぁぁぁぁぁぁっごめんなざぃぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁぁっにどと反抗じませんからぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁっあははははは!!!ゆるじでぇぇぇぇっおねがいじますぅぅぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
さっきまで威勢の良い言葉を吐いていた姿はどこにもない。お姉ちゃんのこちょこちょには敵わずに情けなくひぃひぃと泣いて笑い狂って何度も何度もごめんなさいさせられ、トドメとばかりに強めのくすぐりを受けた後ようやく解放された。
「っぁぁっ__はぁっ……はぁっ……」
「次また反抗的なこと言ったら…この程度のお仕置きじゃ済まないからね?」
「ひっ!?…は…はぃ………」
すっかり虫の息で全身汗だくで、手足やお腹がピクピクと痙攣してしまう程にぐったりとしていた。
お姉ちゃんが去ってからも、しばらくその場から動けないほどに体力を消耗している。
それから土日を迎えるまでの平日数日間は、お姉ちゃんに対して表面上は大人しく素直に従っているフリをして過ごしたのであった。時間が経つにつれて、どうしても姉や母に一泡吹かせたい気持ちが芽生えていた。
反抗期は、まだもう少しだけ続く。
**
土曜日の昼下がり。
この日は珍しくお姉ちゃんも予定が無いようで朝から家にいて、昼ごはんを食べてから1時間後くらいに母が仕事から帰ってきた。
「ただいま~♪二人とも良い子にしてた~?ケーキ買って来たから後で食べよっか!」
仕事から解放されて、上機嫌な様子の母。
しかし、勘の鋭い様子で何かを感じ取ったのか、優しい口調のまま尋問が始まる。
「あれ…?もしかして二人とも喧嘩した?何かあったのかな?」
母からの問いかけに対して、お姉ちゃんが説明を始める。
「実はね…5日くらい前かな。この子ったら、反抗期なのか知らないけど私に暴言吐いてきたから、軽くお仕置きでくすぐってあげたの。反省したようだから許してあげたけど、その後何か不貞腐れてるように見えて…」
「べ、別に不貞腐れて無いし…」
「ほら、また反抗してる。」
お姉ちゃんに冷静に分析されたように説明されると、何だか恥ずかしさを感じて照れ隠しのようにまた反抗してしまうのだった。そこに、「はいはい、そこまでにしようね」と母が仲裁に入る。
そして、今度は自分に対して視線を向けられ、眼の奥を母に覗き込まれる。
「ふ~ん…そっかぁ、反抗期なんだ。じゃあさ、私に反抗してみなよ?ほら、どうぞ?」
「なっ…!?」
わざとらしく手を広げてニヤニヤと挑発される。
一体何を考えているのだろう…。
誘いに乗って反抗的な事を言ってしまうと後が怖い…。
しかし、こうして目の前で"許可"が出ている以上、多少反抗しても許されるのではないかという考えが頭をよぎる。
一か八かの賭けではあったが、精一杯の反抗心をぶつけてみることにした。
「こ、このっ!!くそババア!!!……ぁっ………」
言った瞬間、空気が氷点下にまで下がるのを感じた。
母は変わらず余裕のある表情で聞き流しているかのようだったが、その後ろでお姉ちゃんが鬼の形相になっているのが見えた。
「あんたさぁ…百歩譲って私に暴言吐くのはいいよ。でも、ママに向かってよくそんなこと言えるね?お望み通りくすぐり殺してあげ__」
「まぁまぁ、香織も落ち着いて、ね?」
今にも飛びかかってきそうなお姉ちゃんを、母が手で制している。何であんなことを言ってしまったのだろうと、後悔でガタガタと身体が震える。
「…で、言いたいことはそれだけ?」
「ひっ!?ごめんなさいごめんなさい…許してぇ…」
母に凄まれ、思わず身体が自然と土下座の体勢になって必死にごめんなさいを繰り返していた。
「もうちょっと反抗してくれたら躾甲斐もあったのに…まぁいいや。そうやって反抗的な態度取っちゃうのは、きっと寂しかったからだよね?ごめんね…。ほら、頭をあげて?」
きつい処罰が待っているかと覚悟をしていたけれど、思いの外優しい反応であった。少しホッとして顔を上げると、にっこりと微笑む母と未だ納得のいってなさそうなお姉ちゃんの姿が見えた。
「…香織、両手押さえといて♪」
「…え?ちょっ、ちょっと待って…!何で!?ひっ!?や、やだぁぁっやめてよぉぉ!!!」
お姉ちゃんに両手首を掴まれ、無理やり万歳させられて仰向けの状態で押さえつけられる。
そして、腰の辺りに母が馬乗りをして胴体を脚で挟み込むようにしてしっかりと押さえつけられてしまった。
「お仕置き…ごほん。いや、たまにはスキンシップも必要だよね♪ほら、こちょこちょこちょこちょ~♪香織も好きにくすぐっていいよ?」
「…この間お仕置きしてあげたのもう忘れたの?たっぷり躾直してあげるからね。」
身構える間も無く、二人がかりで上半身をこちょこちょと責められる。しかし、"拷問"のような厳しいくすぐりではなく、微かに愛情すら感じるような責め方だった。
「ひっっぎゃぁぁぁぁっぁぁぁぁっあはははははは!!!!ひゃめでぇぇっんぁぁぁぁぁぁっくひゅぐっだぃぃぃっぁぁぁぁぁぁぁっあははははははは!!!!!!ひぃぃぃっごめんなさぃぃぃぃぃぃぃぅぁぁぁぁぁぁっあははははは!!」
とはいえ、プロの拷問師である母に加え、容赦の無い手つきのお姉ちゃんにくすぐられるのは死ぬほどのくすぐったさであった。
「こちょこちょ~。ほらほら、反省しなさい?」
お姉ちゃんに顔を見下ろされながら首筋を10本の指で余すところなく包み込むようにこしょこしょとくすぐられる。
情けなくひぃひぃと笑い悶えている顔を見つめられながら、力が抜けるような指先のタッチでこしょこしょされておかしくなりそう…
「ふふっ♪こちょこちょこちょ~♪たまには"遊び"でくすぐるのも楽しいね。…ちなみにさっき私に『くそババア』って言ったの、ちょっと怒ってるからね?」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁっごめんなざぃぃぃぃごめんなざぃぃぃぃっぁぁぁぁぁっあはははははは!!!に、二度と言わないぃぃぃぃっぁぁぁぁぁぁっ言いませんからぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁぁぁぁぁっあはははははは!!ひぃぃぃっもう勘弁してぇぇぇっぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
腋の窪みを素早くカリカリとこちょこちょされ、脇腹を的確な力加減で揉みしだいてくすぐったいツボを容赦なく刺激される。目から涙が溢れ、ひぃひぃと涎を垂らして情けなくごめんなさいしている姿をたっぷりと見下ろされ、息絶え絶えになってぐったりするまでお仕置きされたのであった。
**
「っはぁっ……はぁっ………死ぬかと思った……」
ようやく人力拘束が解かれても、しばらく動けないくらいに疲弊している。何だかデジャブすら感じてしまうが、今回の場合はどこかスッキリとした気分。
「よしよし、これに懲りたら反抗なんてしないで、お姉ちゃんとも仲良くするんだよ?わかった?」
「はぃ……分かりました……」
母に顔を覗き込まれ、恥ずかしくなって頭上を向くと、今度はお姉ちゃんと目が合ってしまう。
「ぁ……姉ちゃん……」
「…私もこの前はやり過ぎたのかもね。ごめんね?仲直りしよっか」
「…ぅん…こちらこそ…その…ごめんなさい……」
お姉ちゃんとも平和に打ち解けて仲直り。
しばらくの間は、特に姉弟喧嘩もなく平穏な日々を過ごしたのであった。