XaiJu
土装番
土装番

fanbox


宇宙からの金属侵食 1話先行公開版

 人間の探究心は留まることを知らず、化学や天文学、数学等、いくつもの学問や研究が日々進歩しようと、世界に残された無限に近い謎を探求し続けている。  それでも未だ、人類には殆ど手の届かない宇宙には、数え切れない程の謎が眠っている。  現代よりも少し進んだ未来の日本では、人間にそっくりな機械人形であるアンドロイドが、人々の生活に深く浸透するようになっていた。  擬似人格によってまるで人間のように受け答えし、身体中にうっすらと見える継ぎ目が無ければ、人間と見分けることが難しい程の精巧さ。  そんな第二の人類とも言える存在だが、未だ人類の代わりとなりうるには程遠く、立場としては人間そっくりな電化製品や機材といった立ち位置となっていた。  そんな時代では、身体の一部を機械に置き換えるという研究は進められてはいるものの、全身を機械に改造するようなことは夢のまた夢と言われていた。  人間がアンドロイドのようになるなどあり得ない。少なくとも今のテクノロジーでは。  人間の物でない、人類の探究心の外からもたらされた未知なる存在であれば、或いは可能なのかもしれない………… * * *  ある日の首都京東都に属する自然山の高頭山。  ここでは、世界各国から無数の観光客が訪れ、世界一の登山者数を誇る山として知られている。  そんなある日、都内にて流れ星の目撃報告がいくつかネット上に流れた。  一時のニュースとして、それはすぐに過去の物となったが、その流れ星は高頭山のほぼ人目につかない山肌に着弾していた。  規模も小さく、目撃直後に雨が降ったことにより誰の目にも止まらずにいた。  だがその三日後、着弾地点の土穴から、ぐじゅぐじゅと何かがうごめいた。 「`(58……aa……ア……ぁ…………私は……修復……完了し……テ……いる……?」  地球上の言語ではない、音では解読不能な言葉を発しながら、そこから現れたのは、自律的に稼働する銀色の液体だった。  時折、金属がひん曲がるような音をたてながら、ゆっくりと土の上を動く。  その物質の名はエルマ。外宇宙より飛来した、液体金属生命体である。  エルマは機械生命体と液体金属の共存する星の産まれであり、そこでは性別変換が容易である為、概念としての性別しかほぼ存在しない。が、比率としては女性側に分類される個体が多くを占めている。  調査研究の為に星を出て、故郷とはまた別の星を探して航行中、地球を発見した矢先にトラブルが発生。  防護策として保護外殻を纏い、炎に包まれながら大気圏突入後落下し、現在に至る。  ナメクジのようにずるずると移動するエルマ。  視覚器官を作りつつ土の上を動き、目に見えぬ損傷を自己修復しながら山肌を動いていたその時、彼女の聴覚センサーに硬質的な足音が聞こえてきた。 「…………これは……足……オト……? 私が、いル……場所と……ha……音が異なる……?」  現在エルマが接地している地面からは決して鳴り得ない音。  生命体の存在は確定的だと判断した今、一体それがどのような物なのか、確認する必要がある。  足音はどうやら、その場を歩き回っている。  現状を知る為にも、まずは情報を得なければと、エルマは自身の音に細心の注意をはらい、目標へ近づいていった。 「ふっ、やっぱり山の空気は良いわね。自然の中にいると、生き物として帰ってきたって実感が湧いてくるわ……」  登山向けの厚着を身に着けた一人の女性が、コンクリートと土の境目の場所に立ち、大きく深呼吸をしていっぱいに清い空気を浴びている。  彼女は週に一度、都会の喧騒から離れてこの高頭山に登り、心体のリフレッシュに入っていた。  人工物のジャングルから、自然そのままの場所へと移り変わる感覚。森の中を感じられる、木々や生物の音。  特に今日は珍しく登山者が少なく、一年でもこんな日は二度とないくらいに最高の気分に浸っていた。 「登った後の水、いつにも増して美味しい……もうしばらくここにいたくなっちゃうな」  日差しを弾くような綺麗な肌に、美しい顔立ち。  思わず声をかけてしまいたくなるような彼女の整った容姿は、森林という場所がより魅力的に引き立たせる。 「…………よし、あと5分くらい経ったら降りましょ」  だが、いくら幸せな気分でも、いつまでもここにいるわけにはいかない。  5分後に携帯端末のタイマーを設定し、じっくりと森林浴に浸ろうとしたその時。 「あぁ……こんな時間がいつまでも続けばい……え、な、なに!? なんだか冷た……あがっ!?」  彼女の身体に、得体の知れない奇妙で冷たい液体のような何かが纏わりつく感覚を覚えた。  柔らかいのに硬く、水のようだが鉄板に触れたような冷たさ。  それがスライムの如く、衣服の上から、その下の素肌から、足と胴体に絡みついてきた。  反射的に悲鳴をあげようとしたが、その時間すらも潰すように、口、耳、へそ、女性器、アナルから体内に侵入していった。 「ふあぁ、あ、あ、あえ、が、ごっ、ぎ、あああああ゛、ななななにががおおおぎで、ぎ、げっ、あ゛あ゛、あ!?」  身体の中で何かが暴れている。足先から脳天まで未知なる嫌悪感に満たされる。  自身の理解が追いつかない。吐き出したい。  拒絶の思考が脳内を埋め尽くし、その場に倒れのたうち回りそうになるが、直後、全身に奇妙な心地よさが襲いかかった。  女性は化物のような苦しみと恍惚さが入り混じった声を上げ、その場に正面から倒れる。  すると、皮膚の下から何かが蠢くような様子が表れ始めた。  女性の身体は服の下で形を歪め始め、首がレバーのように真横に、上に、折れていく。  両腕関節がぐりぐりと反対側に曲がり、両脚が可動域を無視してねじ曲がる。  拷問の如き凄惨な光景だが、女性の声は一切痛がるような雰囲気を見せていないどころが、困惑と恐怖すら消えて気持ちよさそうな感情に満ちているようだった。  狂った人型クリーチャーのような動作が収まり、死んだようにぐったりとした直後、身体中からごき、ごきと、音を鳴らして人間らしい形を改めて取り戻す。  ふらふらと覚束ないバランスで立ち上がると、女性は虚ろな瞳をぎょろっ、と動かし、右手を見つめた。 「…………なるほど。この有機生命体は……人間と言うのね。生物の分類では男性と女性。地球というこの星に於いて、巨大なコミュニティを形成。実質的な支配生物。この女性の名称は飯島薫子……」  液体金属生命体であるエルマは、真っ先に目撃した薫子に寄生し、この星の情報を取得しようと思考した。  結果、生体脳から得られる情報を全て読み取り、人間の構造から生理現象まで、さらには薫子の産まれたときから今に至る全情報まで、全て読み取り取得してしまったのである。  無理な寄生侵食により、服の下では無数の痣や皮膚の皺が生まれ、露出している首元にも、人間にはありえない首の皺が発生している。  皮の内側は肉と金属が入り混じった状態となり、脳に至っては奥まで染み込んだようになってしまっている。  エルマが器官機能を維持し、生命活動を強制的に継続しなければ、既に死んでいるだろう。  彼女の情報を取得した事で、人間社会における常識や言語も知り、このままでは怪しまれることも理解したエルマは、早速次の行動に移ることにした。 「私の星の……機械生命体とは違う……寄生は可能であり……単純な物質置換は可能だけど……まだ情報が足りない……有機生命体への単純な侵食では、長期行動は不可能……ね。移動を開始しましょう」  今のエルマは、いわば薫子の皮を被った化物のような状態。  行動可能とはなったものの、このまま動き続けることもできない。  そう思考したエルマは、取得したデータを頼りにふらふらと安定しない足取りで下山し、学習した人間的振る舞いも加えつつ電車に乗る。  周囲に人のいない車両に乗り込み、その間に不自然な動作が生まれないようにと調整を図るが、どうしても眼球が左右バラバラに動いたりと、違和感のある挙動が拭えなかった。  人間のフリをした液体金属は、得た情報から導き出した次のプランの為、京東都の中心部に向かうのであった。 * * *       電車に乗り込み、薫子の記憶を頼りに終点かつ京東に於ける中心都市の一つである新屋に到着したエルマ。  なんとか動作調整をある程度完了させ、それなりに人間らしく振る舞えるようになった彼女は、己の安全と居場所を確保するべく、記憶を頼りに移動を開始した。 「改札口を通過する際は、走らずゆっくりお願い致します。そちらの方、タッチがちゃんと出来ていませんよ」 「いらっしゃいませ! 新規オープンしました当店のミックスジュースはいかがですか! 搾りたて作りたてで、新鮮に美味しく栄養満点でーす!」  建造物に囲まれた土地に溢れ返る、無数の人間達。  その中に入り混じっているのは、まるで人間との区別がつかない機械人形、アンドロイドである。  人間と同じ色の人工の肌。それが覆う身体中にうっすらと見える、着脱可能であると示す継ぎ目が、人とは違うことを示している。  だがそれ以外には、人間とアンドロイドの違いを見分けるのはやや難しい。  擬似人格にちょっとした違和感を覚えなければ、大抵の者には唐突に与えられた区別問題でも正解するのは難しいだろう。 「あれが……アンドロイド……という名称の機械人形か」  見た目麗しい人工の女性達が、様々なジャンルの店舗で作業を行い、耳心地良い綺麗な電子音声で通行人へのアピールを欠かさない。  同じ無機物であるエルマには、その違いはすぐに認識することができた。  今後の事も考えると、この存在への興味は強く湧いてくる。  エルマは、目標地点とした百貨店への道から少しだけ外れ、一旦人気のない道へと移動する。  するとそこには、電源の入っていない薄汚れた女性型アンドロイドが一体不法投棄されていた。 「記憶に間違いはないみたいね。参考として確かめさせてもらおう」  エルマは、薫子の過去の目撃した記憶を元に、常習的に不法投棄が行われている場所を探し出し接触した。  道具として扱われる分、用済みとなれば家具の如くゴミとして捨てられる。  家電に分類される為、処分には費用がかかる。それによって、電源を切られ隠れるように放置されることも珍しくはなかった。  先程までの華々しい姿とは正反対の、諸行無常な姿。  衣服は一切着させられておらず、ぼさぼさとした人工頭髪の金髪と、土埃や手垢に汚された大きな乳房や顔、全身の人工皮膚が、人形らしさを負の面で強調する。  電源の切れた虚ろな瞳の美人の顔を持ち上げ、ぐっと顔を近づける。  そして、どれだけ、どのように扱われたのかもわからない、衛生的にも不安の強いシリコンの唇に自らのそれを重ねた。 「んん……ん、ぅ……ん、んん…………」  薫子の口から、人形の薄汚れた口内に写っていくエルマの身体の一部。  同じ無機物である分、機体への侵食はスムーズに進んでいく。  薫子の口からは、意図的で無いであろう色っぽい声がわずかに漏れる。  そんな状態が30秒程続くと、ゆっくりと唇を離した。  すると、アンドロイドの体内まで繋がった液体金属が餅のように伸び、機体解析の為に動作する本体がぶるっ、ぶるっ、と振動していた。 「なるほど。アンドロイドの概念、構造、プログラム、製造理念、材質、理解した。材質もほぼ我々と同じ……だけど、アンドロイドにも、人間女性と同じ生殖器が付与されてるのか。生殖器は、人間が製造する上で重要視される。人間との構造の共通項は……」  人間に必要とされている箇所を読み取り、全身をくまなく弄り調査するエルマ。  停止したアンドロイドは、身体中を侵されてもリアクション一つ取ることはない。  一方、既にエルマに乗っ取られた薫子の身体は、一部が抜けた事により手足がぐったりと弛緩し、気のせいか若干潰れているようにも見えた。  左眼は白眼を剥き、右眼はわずかに瞳を残しながらもあらぬ方向を向いている。  そして、機体の調査を終えると、エルマの身体はアンドロイドの全身を覆い始めた。 「これは私の身体に加えさせてもらおう。第一のサンプルは基準として残したほうが良い」  最初に頭部から、まるでスライムに包まれたように覆われる。  その中から、みし、ばき、と硬質な物体が潰れ壊れていく音が小さく鳴り始めた。  かつて美しい人間女性の顔を象っていたパーツは、瞬く間に跡形もなくなり、首なしの女体に変わってしまった。  それから間もなく、四肢、上半身、下半身と、何の迷いも無くアンドロイドを喰らい尽くすエルマ。  周囲に一片の機械部品も見当たらない程に吸収し終えたところで、エルマは薫子の身体へと戻った。  力の抜けた手足に動作が取り戻されるが、エルマが戻った後の身体は、若干ながら胸と尻が増量され、身長もわずかに高くなっていた。  吸収を行った分体積が増加しており、その余剰分を薫子の容姿に反映させたのだった。  それが気の所為ではないと示すように、彼女が着ているぴったりサイズの衣服は、これでは小さいとばかりにぴんと張っていた。 「これで準備は完了。まずは私の安全圏を確保する為に、仲間と居場所を作らなければな」  より扇情的な女体となり、魅力が振りまかれるようになったエルマは、人間の皮を被ったままに、目的の百貨店へと足を向けた。  窮屈な衣服の下では女性器から、乳首から、ちろっと漏れそうな液体金属が見え隠れしていた。 * * *  新屋駅東口からしばらく進んだ先にある、映画館併設の百貨店、マルニ新屋店。  スタッフとして稼働するアンドロイドは、人々の心地よさを優先する為に全てが女性型。  常に笑顔で、耳心地の良い音声で接客し、身体の造りも申し分ない。  人間よりもアンドロイドがスタッフの多く占めているこの場所で、エルマは一体の女性スタッフに訪ねた。 「あの、すみません。お手洗いの場所がわからなくて……案内して頂けませんか?」 「はい、かしこまりました。私が案内しますので、こちらへどうぞ」  薫子の脳内から学習した、丁寧な立ち振舞と所作で、百合と名付けられたスタッフに案内をしてもらうエルマ。  百合は彼女の動作に一切不審な様子を覚えることなく、無数の人間に見せてきた笑顔を振り撒きながら、移動を始めた。  マルニ新屋店のお手洗いまでの道は、壁に囲まれたやや長めの通路が設けられており、店舗側からは隔絶されている。  プライバシーに考慮して監視カメラも設けられておらず、アンドロイドの眼球ユニットもその役目を担っていた。  自社供給のスーツを身を包んでいても、手首や首元に見える分割線が、彼女が機械人形だと示している。  見ごたえのある綺麗な歩行スタイルで歩き続ける背中を、まじまじと見つめるエルマ。  そして、女性用トイレの入口前に到着すると、百合が180度反転し、手を差した。 「こちらが化粧室になります。それでは、失礼し、ししし……」  案内を終了し、一礼の後で持ち場へ戻ろうとしたその時、エルマの右手が百合の左耳に伸ばされた。  人差し指の先端から、皮膚を突き破って液体金属が姿を現し、一瞬の間に百合の電子頭脳内へ侵入。  百合は笑顔のままでかたかたと震え、音飛びしたような音声を発した。 「このまま中へ移動するんだ。私と一緒に個室の中へ」 「は、い……かしこま、り……ま、ま、した…………」  視覚カメラの記録が切られ、現在地情報が改竄される百合。  捨てられた機械人形を解析し理解したのは、地球の機械文明は自分達よりも劣っている。  エルマの住む星のテクノロジーは、まさしく未知の、未来の産物。  赤子の手を捻るよりも、この星の機械を扱うのは容易い。その場で軽くハッキングする程度なら、お手の物である。  エルマは百合の手を握り、抵抗もさせないまま女性用トイレに連れ込むと、すぐさま個室の中へと入っていった。  内部システムに意図的な不具合を起こされ、瞳に意思が感じられなくなった百合。  そんな彼女の唇を、エルマは迷うことなく奪っていった。  余計な動作を起こさせないように抱き締めると、互いの柔らかな胸が衣服越しに潰れ合い、なんとも色香に満ちた光景が生まれた。  刹那、エルマの身体がほんの少しだけぴくっと反応した。 「この個体は……なるほど、こうなってるのか。百合、この店の終業時間前に、私が指定した地点に移動すること。私と合流した後は、マスター設定をエルマに固定。いい?」 「は、い…………かか、かしこま、りま……しした……タスクにと、登録しま、ました」  最初に調べたアンドロイドとの違いを確認しつつ、百合の電子頭脳に侵食するエルマ。  マスター権限の無い相手ならば、本来は拒絶出来る命令も、強制的に受け入れるようにハッキングされた今は、与えられる言葉を従順に聞き入れる。  びくっ、びくっ、と震えながら、初めて出会った女性からの命令を聞き入れた百合は、液体金属の寄生から解放され、数秒間不安定な足取りを見せながら去っていった。  誰もいない一室で、自分の身体を見つめるエルマ。  彼女の興味は、人体が及ぼす影響や性的欲求へと傾けられた。 「胸同士が触れた時、快楽信号に近い何かを抱いた。所謂キスをした際にも……肉体的接触でしか得られない物なのだろうか。百合にも女性器ユニットや乳房、性奉仕用プログラムが実装されていたが……やはり、人間にとって性行為とはそれ程重要な物なのだろう。一つ試してみる価値はあるな」  エルマのいる星では、好きな時に自由に快楽信号を電子的に、物理的に得る手段が備わっている。  人間が行っているそれらは、エルマの知るそれとはまた違う物であり、強い興味を惹かれる。  それに関する体験も兼ねて待つことにしようと、エルマは人気のない路地裏にて、夜になるまで待機することにした。 * * *      マルニ新屋店の閉店時間30分前。  百合は命令通りに出入り口に向かおうとしたが、従業員である人間の一人が声をかける。 「おい百合、どこに行こうとしてるんだ? もうすぐ閉店だぞ」 「太一さん、先程外部カメラに不審な陰が見えたんです。危険物の可能性も考えられるので、何かしらの被害が発生する前に、私が確認しておこうと」 「そうか。くれぐれも気をつけろよ。お前が壊れたら、弁償代がかかるからな」 「はい、気をつけます」  アンドロイドを便利かつ何をしても許される道具程度に考えている太一は、壊れなきゃそれでいいかというぞんざいな扱いと、万が一の場合を考え、百合をそのまま外へ向かわせた。 「…………エルマ様からの命令を実行。指定されたポイントへ移動します」  ひと目のつかぬくらい影の位置まで移動すると、唐突な感情のないシステムメッセージを誰もいない場所で発し、店舗から足早に去っていった百合。  彼女を追跡する発信機や機能はエルマによって殺されており、目視でしかその姿を確認することができない。  スーツの上から胸を揺らし、息も上がることなく走り続けると、百合の視界に、ひと目につかない暗がりで待つエルマの姿が写し出された。  まるで犬のように走る速度を上げ、彼女の側まで走り眼の前まで到着すると、嬉しそうな百合の表情がふっと消え、展示されたロボットのような直立の姿勢となった。 「指定されたタスクを実行します。現所属を削除し、マスター設定を更新。新しいマスターとしてエルマ 様を登録します…………こんばん、私の新しいマスター。これからもよろしくお願いしますね」  正式な手続きを経ることもなく、地球産の機械を手中に収めたエルマ。  まるでずっと前から付き従っていた相手かのように、警戒心もなく側まで近づく姿は、母星の低級機械生命体を彷彿とさせる。   「まずは一体。しかし、私と共に行動させるには少々の不安が残る。これから私がお前の改造を行おう」 「わかりました、エルマ様。でも、メーカーを介さない機体の改造は、サポートの対象外になるので気をつけてくださいね」  今から作り変えられるというのに、定型的な警告メッセージを口にするだけでやすやすと受け入れた百合。  これはこれで都合がいいと、エルマは口を開けて侵食の為のキスをしようとした。  だが、くっつく直前で一旦口を離し、じっと目を見つめて問いかけた。 「ねえ百合、百合には性行為機能があるんでしょう?」 「ええ、私の胸部や女性器ユニットを使用して、人間と同様にセックスをすることができますよ。だけど、セクサロイドのようにアナルの使用はできないし、口淫も専用部品を使用しないと出来ないから気をつけてくださいね」 「そうか……なるほど」  聞いていなかった部分まで事細かに、親切に話してくれる百合。  マスター相手への返答だからか、百合の頬は若干紅くなり、恥ずかしそうに小さく目線を反らしている。  エルマは、溢れ出る興味のままに命令を下した。 「百合、今から私とセックスしないか? 私は肉体的快楽がどのような物か知らない。単純に快楽信号を受信するのとはまた違う気持ち良さがあるなら、是非とも体験してみたいんだ」  人体から発せられる肉欲が、エルマの好奇心を強くくすぐる。  本来そのような用途では無いであろうアンドロイドにも、それをする機能がついているのなら、人間にとってそれば余程重要な要素に違いない。  それを是非とも体験してみたいと、ちょうどいい相手に命令すると、百合は身に着けたスーツを脱ぎ始めた。 「わかりました。エルマ様の命令ならば、私は喜んでお相手しますよ。だけど、女性向けのサービスはプログラムされてないので、どうかエルマ様がリードしてください」  男性用の接待プログラムしか実装されていないが、マスターの命令とあれば、従う以外に無い。  冷たい風が吹く街なかで、鳥肌も立たない、分割線の見える人工の裸体を晒した百合。  それを見たエルマは、同じくそれに応えて身につけていた衣服を全て脱ぎ去った。  寄生直後よりも若干の劣化を起こしており、身体中に補正痕の歪みや痣が見えるが、未だ素晴らしいスタイルが崩れていない薫子としての身体。  それぞれの裸体を抱き締めあい、ゆっくりとエルマが押し倒す。  コンクリートの床をベッドにし、エルマは互いの大きな乳房を潰れるように押し付けながら、ゴキゴキと体内から異音を鳴らしつつ無理やり女性器同士を重ね合った。 「ん……あっ……ぁ……これ……は……あっ……快楽信号とは……いや……同じ快楽信号だが……あっ……性質が違う……は……あんっ……」 「あっ、は、あっ、あんっ、エルマさま……ぁ……私の身体……あっ……気持ちいいですか……? エルマ様が……あっ……あんっ、満足していただければ……私は嬉し…………あっ……」 「そうか……は、あっ……ん……あっ…………乳首が、クリトリスも……ん……主な性感帯は……は……あっ……把握できた……これは……あっ……クセになる……わ…………あっ!」  女性器、乳首が擦れあい、全身で抱きあいながら絡み合う度に、感じたことのない新しい快楽信号が、薫子の肉体を通してエルマに響いてくる。  これは人類が自分達の模造品にまで求めるはずだと、即座に納得しながらも、若干の物足りなさを覚える。 「んん……あっ……んむ……ぅ……こうして、唇を重ねるだけで……こんなにも……あっ……」 「あっ……んん……あっ……エルマ様……気持ちいいですか……私は、エルマ様のお役に……あんっ……たてていますか……?」 「ああ……あっ……ええ…………私の役に……とてもたっている……」  初めてのキスを重ね、未知なる気分と湧き上がる高揚感に身を任せるエルマ。  肉体からの感覚が生体脳に伝わり、液体金属へと広がっていく。  気持ちよさが止まらない、もっと気持ちいいのが欲しいと、エルマはうまく重なっていない女性器同士の密接度を上げようと、ゴキゴキと異様な音を鳴らし、下半身の形を腰から折れ曲がるように変化させた。  より密着するような形で貝合わせを再開し、痣が歪みが増えながらも愛液が分泌されていく。  絡み合う度に、百合に対するエルマの気持ちに変化が起き始める。 「あっ……ぁ……百合……ぃ……これは……初めての気持ちが……あっ……あっ……ああっ! これが好き……ということなの……? 肉欲的な……感情が……あんっ!」 「エルマ様……あっ! あんっ! 私も、エルマ様が好きです……ん、あっ! はあっ! あんっ!」  これまで母星でも抱いたことのなかった、謎の感情。  だが、不快でもなく怖さもなく、なぜだがとても心地良い。  自分がハッキングし、自分の物にしたアンドロイドに対して、もっと快感を共有したいと考えている。  初めて肉体的な快楽と共に、百合に対して自分達の星での快感も与えてあげたい。  同じ無機物で造られた機械人形ならばそれが可能であると思考し、エルマは女性器から 本体の液体金属を排出し、女性器ユニットに滑り込んだ。   「あっ、あ…………!!? あああっ!!? エルマ様ぁっ!? な、なにか、女性器ユニットから、あっ!? 不明な異物が、ああんっ! かか、快楽信号が、想定外の数値を検出しししし、あっ!」  液体金属が女性器ユニットの膣内を満たし、貫くような刺激を全体に与える。  人間ならば痛がるようなものでも、アンドロイドはそれを秘肉への刺激と認識して快楽信号を発する。  想定されたスペック以上の性感を与えられ、思わず機械的なメッセージを口にした直後、エルマの口から液体金属が侵入し、電子頭脳を侵食する。  外部から無理やり設定を改竄され、本来ならば破損した際には痛覚信号が発信されるはずが、それを快感に感じるように作り変えられた。  エルマの星の住人は、壊れてもいくらでも自己修復することができる。  その分、お互いに派手に破損し壊れ合い、そこから快楽信号が発生するような退廃的な性行為がスタンダードとなっていた。  エルマなりの愛情として百合の中身を改造し、全身に液体金属を浸透させる。  内側から関節部、モーターなどの内部機構を圧迫し、女性器ユニットを外側から締め付ける。 「あああ、がが、ええエルマ様まま!? そそ想定外の外の事態が発生ししてして、不明な損傷が損傷が、あああっ!!」 「私の相手をしてくれた……あっ……あっ! お礼に……百合の快楽信号を……引き出してあげる……」  もっとこの感覚に浸っていたかったが、いつまでも余暇を愉しんでいる時間はない。  だが、この感覚を学習しておけば、自分なりの方法でまた新たな快感を覚えることができるだろう。  それを初めて味わわせてくれた百合へのお礼として、改竄した設定のままに下半身の内部機構への圧力を高め、人工皮膚の下からみしみしと軋む音を鳴らした。   「あ、あ、あ! 警ここ告、下半身に破損の危険性が危険性がが、ああんっ! 脚部おお及び女性器ユニット、ににに、あ、あんっ! あ、あ、ひああああああっ!!」  あまりの気持ちよさに、音声が乱れ、スピーカーから大音量の嬌声を叫ぶ百合。  何者かに見つかってしまわないようにと、即座に音声機構に接続し、自分のみが聞けるように調整した。  エルマは平然としているが、薫子の身体は脳に与えられる直接の刺激に悲鳴を上げ、ガクガクと震えている。  そして、耐久力の限界を迎えた百合の下半身は、ぐしゃっと無残にも潰れてしまった。    「ひぎあ_$)#@下半しし身しんに重大なそそそ損傷が損傷が発せせせsssss、エラー、ただちにサポートセンたーへのれれ連絡を連絡ををを%#」  絶頂に達したかの如く、人工愛液の潮を淫らに噴き出しながら、エラーメッセージと共にガタガタと痙攣する百合の全身。  上半身は、乳房を震わせながら未体験の快楽に震えている様子だが、下半身は内部機構がボロボロになり、身体の揺れに釣られるだけの付属品となってしまった。  人工皮膚の表面は殆ど傷ついていないように見えるが、皮下ではボロボロの機構が今にも突き出さんばかりに主張している。  電子音混じりの声で、到底人間にそっくりとは言えない乱れようを見せる百合。  そんな彼女の姿に、エルマは故郷の同族を思い出すような、嬉しそうな顔を見せた。 「電気信号的な快楽、こちらでは……あっ……見ることは無いと思ってたけど……ふふ、私の……ん……思い違いだったみたいだ。アンドロイドとは、人類はなんと良い物を造ってくれているんだ……ああっ……」  人の形をしながら、機械的な挙動を起こす百合の姿は、人間の感覚も理解したエルマにとっては、体験したことのない極上のポルノのようなもの。  墜落した時はどうなることかと考えたが、これなら日々を楽しく過ごせそうだと、エルマは全身に肉体的性感を感じ、余韻に浸っていた。 「さて、これからどうし…………あれ?」  寄り道はしてしまったが、ひとまず人間に不審に思われない下準備は出来た。  これからするべきはなんだと思いながら、百合に潜り込んだ本体を戻し、立ち上がろうとしたその時、がくんと膝から崩れてしまった。  直後、エルマが寄生している薫子の身体から発せられる異臭が強く立ち込めだした。  折れ曲がった上半身や関節部など、夢中になって無理やり動かしたことにより、見た目の不自然さはより大きくなっている。 「いけない……この身体が有機体だから、こうなってしまうのか……まあいい、この際、実験台にしましょう」  全裸のまま冷たい地面にうつ伏せになった状態で、ぶつぶつと呟くエルマ。  直後、彼女の身体がびくっ、と魚のように跳ねた。 「あ、ア……ガ……が……ギギ……物質置換を行イ…………全身をヲヲ、作り変エ…………機械の身体にいイイぃィィ…………」  ごき、ぼき、と強引な音を鳴らし、全身の形を強制的に戻されていく薫子の身体。    すると、ぴくっと一度震えた後、足先の徐々に皮膚の色合いが変わり始めた。  元々の肌の色からは殆ど変わりはないが、どこか綺麗になったような、つるつるとした美しい樹脂の肌に生まれ変わっていく。  各部に生えている体毛は、参考にしたアンドロイドの如く自動的に除去され、アンダーヘアも全て消失していった。  下半身、腹部、上半身と、生きた皮膚は材質から作り変えられ、内臓は金属化された後に分解。  女性器は着脱可能なユニットに生まれ変わり、子宮部はそれに付属した、子を成すこともないタンクへと変わっていった。  これは、捨てられた機体と百合の両方に備わっていた精液タンクを参考にしたものである。  骨格は丸々金属部品に置き換えられ、既に生まれ変わった筋肉部分と共に、内側に配線が張り巡らされる。  乳房はより柔らかな膨らみを増し、一度も妊娠していないにも関わらず乳首から液体を噴出する機能が実装された。  砂のついた樹脂製の乳首は、手触りの良い見た目通りの淫靡さを放っている。  液体金属が眼球を覆い、瞳の奥でレンズが動作する眼球ユニットへと置換されていく。  首筋には、新しく造られたロボットらしいカバーの下に、心臓部に造られたバッテリーへ電力を供給する接続端子が実装された。  行き過ぎた快楽を受け続け、壊れかけながらも無理やり生かされている生体脳の奥まで液体金属が浸透し、体積を縮めながら電子頭脳へと変化していく。  既に彼女の全身には血の一滴も通っておらず、一見すればセクサロイドが道端に捨てられ誤作動を起こしているようにしか見えない。  そして、薫子の身体が、びくんっ、と意思なく跳ね上がると、じゅくじゅく、と身体中に生まれた継ぎ目から液体金属が漏れ出し、色をつけてカモフラージュし始めた。  皮膚の材質こそ変わっているが、これで人間との区別は大きくつきにくくなった。  痙攣が徐々に小さくなり、しん、と動かなくなってから2分後。  目を開けたまま地面に倒れていたエルマは、生まれ変わった薫子の身体を動かして立ち上がった。 「…………よし、成功……ね。やっぱり、機械体にしてしまった方が、有機体の時よりも動きやすいな」  両手をわきわきと動かし、首をぐるぐると回しては、眼球をバラバラに向けて動作確認を行うエルマ。  実質死体であった分、改造はやや簡単に終わらせることができた。  これで地球での活動が大幅に楽になる。肉体的、機械的快楽も存分に愉しむことができる。  一方大きな前進が出来たと思いながら、エルマは下半身は派手に壊れた百合の側に近寄る。 「しばらくの間手伝ってもらうから、よろしくね百合」 「きもちちちち、いい……エラー、せせ正常な動作動作が保証されませされませせんせんせん……」  マスターからのよろしくの言葉にも、快楽信号からの反応とエラーメッセージを発するのみで、対話を行える様子ではない百合。  思わぬハプニングに見舞われたが、予想外に素晴らしい星に降り立ったと胸を躍らせるエルマ。  この日より、地球外の液体金属生命体と、地球のテクノロジーを超えた機械による、人間社会への侵食が始まったのであった。


More Creators