2.「暗殺者の出自を探るってことは、自殺願望でもあるわけ?」
その少女の半生は、一言で言うなら地獄であった。
諸事情により、彼女の暗殺者時代についての言及は避ける。その時期の剣呑さつきに関して私は何ひとつ知らないし、何も聞かなかった。
悪名高い殺し屋集団・剣呑一族を卒業という名の破門後、アサシンギルドからも脱退。暗殺者稼業をひとまずは脇に置き冒険者に転身するも、強すぎる毒手の呪いの力ゆえ他の同業者からも敬遠され難儀していたところ、女商人・愛田れいたに拾われ、愛田が経営する特殊洗体店で湯女として働くことに。
そのつてで、当時最強と謳われていたレベル1000女勇者・雷電院勇虎の冒険者パーティーに加入、彼女からもらった呪いのビキニアーマーの力で、一時はかなり毒手の力が収まっていたものの、直接相手に触れて接客するようなことは叶わず、もっぱらドM客の股間を蹴り上げる金蹴り要員としての雌伏の生活を余儀なくされていた。
そこへお忍びで客として現れたのが、勇者の国ブレイブヘルム現国王・レベル100勇者王、つまりこの国の王様である。『レベル100勇者伝説』という冒険譚にふれたことがある者ならおそらく顔が思い浮かぶ、あの動けるタイプのデブ、その十数年後の姿である。
さつきの毒手で触れられてもびくともしない久々の強者の出現に不思議な安心感を覚えるさつきは、雷電院勇虎と初めて出会ったときの不思議な高揚感を思い出していた。
勇者王は勇者王で、さつきの不憫な境遇に大いに同情し、また彼女の容姿が割とガチで好みのタイプであったため、せめて両手の毒手の呪いが癒えるまでは、養子として勇者王国に入り療養しないかと提案する。
降って湧いた厚意に戸惑うさつきだったが、雇用主の愛田にはすでに巨額の支度金が渡っており、愛田からは割と強めに「行って来い×2」と言われたため、勇者王の養子として王国に赴くことに。女アサシンからよもやプリンセスになるとは、なんともパンチの効いたシンデレラストーリーである。
勇者王の養女として勇者の国・ブレイブヘルム王国に破格の厚遇で迎えられたさつき。それまで修羅の道を進んできた彼女にとって、愛田風呂に続いてまたも心安らぐ日々が訪れ、それがいいことか悪いことかは別にして、戦士としての鋭さをますます失っていくのであった。
中でも、勇者王の妻である淫魔女王メリベルの出現は驚きであり、自分よりもさらに幼い見た目の魔族が自分を実の娘のように可愛がり、さつきは何ら不自由のない生活を送っていた。
一方で両腕の毒手の治癒は思うように進まず、王国内最高の治癒士・呪術師らをもってしても毒手の呪いを解くことは叶わなかった。
そんな中、さつきがふと話した、レベル1000女勇者からもらった呪いのビキニアーマーによって毒手が和らいだくだりにヒントを得て、さつき専用の魔道具「魔法のヨロイ」を制作し、それによって毒手を癒そうという方向性を見出したのは勇者王であった。
餅は餅屋ということで、ヨロイに詳しいというか本人がすでにヨロイである魔王「悪魔の鎧」を頼ることになる。
勇者王と女王メリベルを伴い悪魔の鎧の居城を訪ね、助力を乞う一行であったが、こともあろうに魔王・悪魔の鎧がさつきに一目惚れしてしまい、いきなり求婚する。
当のさつきはその申し出をにべもなく袖にするわけだが、そのクールさもまたイイと悪魔の鎧は協力を惜しまないことを約束した。さすが魔王と言うだけあって器もデカい。
そうして、魔王が愛するさつきのためにあつらえた特注のマジックアイテムこそ、解呪と解毒の力を秘めた呪いの鎧「魔王鎧(まおうがい)・いばら姫」である。
このヨロイは毒手の痛みをほぼ完全に消し去り、毒手の呪毒を吸い上げ逆に排出することで攻撃も可能、そのうえ半ば自動的に変形して戦いさつきを守る伝説級アイテムが爆誕してしまった。さつきに気に入られたいがため、魔王が文字通り粉骨砕身して作り上げたまさに愛の結晶。愛の力は偉大である。
ちなみに、露出度が多いビキニアーマーのデザインは、夏期の気候に対応していると言うよりかは、明らかに魔王の趣味だった。
さつきはさつきで、魔王の変態チックな嗜好を散々なじったが、ヨロイの高性能ぶりには脱帽せざるを得ず、しばらくの我慢と自分に言い聞かせ、当面の一張羅と定める。ノー・チョイスであった。