XaiJu
猪熊夜離
猪熊夜離

fanbox


出口と入り口は遠くに設定する

pixivFANBOX公式企画「#わたしのプロット」に参加しようと思って記事を準備してたのですが、本命の記事は上手くまとまらなくて時間かかりそうなので先に創作小話をひとつ。


猪熊さん、最近オタ友と話してて「なろうの悪役令嬢ものやチートものを読んでる人間は、現実に満足してない負け組の妄想とか馬鹿のひとつ覚えなこと言われても、俺は純粋に楽しくて読んでるんだ」と言われたんですね。


それで物語を考える時は核とガワの二層で考えたらいいよという話をしたんです。骨と皮と言い換えてもいいですけど。


なろう系って初期の転生チート俺Tueeeeeから最近流行りの悪役令嬢ものまで、基本的なログラインを一言で表すと「報われなかった人間が何かの転機で報われるようになる」物語なんです。


これが物語の核に当たる部分。ここは時代が移り変わっても人間の嗜好が劇的に変化しない限り急に廃れるってことはないです。皆さんも思いつくんじゃないでしょうか。「報われなかった人間が何かの転機で報われるようになる」物語


そのとき私が例に出したのは映画『ロッキー』でした。才能はあるけど腐らせてる三流ボクサーが、無名のボクサーにチャンスを与えることで自分の人気取りに利用しよう、アメリカンドリームの夢を見せてやろうと考えた王者から挑戦者に指名される、最初は渋ってたけど周囲のサポートを受けてリングに立つ。最後は勝敗を超越した次元で己の人生に自分で胸を張って生きる手応えを掴む。


もはや説明の必要がないくらい有名な名作で、見たことない人でもタイトルは聞いたことある、パロディやオマージュシーンは何かで見たことあるんじゃないでしょうか。


これも「報われなかった人間が何かの転機で報われるようになる」物語の一つですよね。

(frame embed)


やはり人間って生きてて報われることばかりじゃないじゃないですか。上手くいかなかったり、挫折したりすることのほうが多かったりしますよね。そういう自分の境遇を重ね合わせられる主人公像というんですかね、仮託して昇華できる主人公は人気出るんですよね。


なろう系でも流行りの主人公像ってあるじゃないですか。初期の俺Tueeeeから追放やら、おっさんやら、悪役令嬢やら。その時々で核に何を被せるかの皮相の部分は変わりますよ。変わりますけど核になってる部分は全然動いてないわけですよ。


それで、その時代の読者が、自分に近い皮を見つけて被せてくれる物語に親しむことの何がいけないんですか? 今の時代はたまたまこれだけど、数十年前の人間は、数十年前の人間が肩入れしやすい皮を自分たちで用意して核に被せてただけじゃないですか。それを丸ごと駄目なことかのように論ってたら物語なんか何も楽しめなくなりますよ。


主人公の属性を冷ややかに論ってみせることが作品を語ったことになる、対象を見切って作品の上に立ったことになると思ってるタイプの人は、やはり基本的には駄目評論家気質であって創る人向きではないんだと思います。


たぶん創る人向きの性格してる人は、ここまで読んだ段階で『ロッキー』を悪役令嬢ものにコンバートするにはどうしたらいいか、ボクシングはファンタジー世界の何に置き換えられるか、ロッキーを鍛えるトレーナーのミッキーは誰か、ロッキーを支えるエイドリアンはどういったキャラにできるかと考え始めてると思います。


この方法は小説なりシナリオなり創作系の学校ではよく教えてる手法ですね。私も昔、専門学校で講師してる人と個人的に知り合って教えてもらいました。


この時やっちゃいけないのは元になる作品の要素を残しすぎること、解体しすぎると再構成できないからといってオリジナルの要素に頼りすぎることです。なぜかって言うとパクリになるからですね。この方法は便利なように見えて「ヘタクソな人間が使うと出来の悪いパクリばかり量産する」ことになります。

出口と入り口は遠くに設定する

ここでタイトル回収です。オタクは好きですよね、物語後半のタイトル回収。


まず元になる作品があるときは、その要素を「そんなこと言ったら何だって言えるじゃん」というくらい、とにかく抽象的に還元します。


『ロッキー』の例で言うと、ボクシングをファンタジーに持ち込むからと言って、そのまま剣や魔法での戦いにする必要は全然ないです。これでも元の要素を残しすぎてるくらいですね。


『ロッキー』という映画は、シルベスター・スタローンが現実のボクシング世界タイトルマッチに感動して、俺もボクシングを題材にした物語書いて主演したいと映画会社に持ち込んだからボクサーの物語になっただけです。『ロッキー』をなろう系にコンバートする人間が、ボクシングとか戦うこととかに固執する必要まったくありません。


ここは報われない負け犬キャラが自分の全存在を懸けられる特技くらいに考えましょう。そうすると人によって何を設定するかが変わってきますし、特技から主人公のキャラクターも出来てきますよね。こうやって「そんなこと言ったら何だって言えるじゃん」というくらい抽象的にした場所から始めると、作者の個性が付与されやすくなって結果的に元の作品とは全然別物になります。


後で「〇〇って実は✗△が元ネタなんだよ」と明かしても、あれからこれを!?と感心されることはあっても、パクリだと糾弾してくる人はいません。


ちなみに昔読んだ五代ゆうさんと榊一郎さんの対談によれば、生前ヤマグチノボルさんは「『ゼロの使い魔』はデュマの『三銃士』が元ネタ」と言ってたそうです。こう言われると『ゼロ魔』を読んで『三銃士』要素を探したくなりますね。

(frame embed)



実際に創ってみよう

理屈ばかり説明されても分からないと思うので実際に創ってください。


1.主人公は出入りに制限がある場所にいる


2.主人公のいる場所に敵が迫る


3.主人公は偶然から大きな力を手に入れる


4.敵の目的は主人公が手に入れた力にある


5.主人公は手に入れた力で敵を撃退する


『機動戦士ガンダム』第1話「ガンダム大地に立つ!!」を抽象化するとこんな感じです。

(frame embed)



主人公アムロ・レイはスペースコロニーに住んでいるため、他のコロニーや地球へ行くためには特殊な移動手段が必要です。これは全寮制の学校でもいいし、人里離れた山奥でも、周囲の人間から見下されている妾腹の王子や王女が住む王宮の奥深い場所でもなんでもいいです。


そんな適当でいいのかって? そんな適当に遊ぶ余地を残しておかないとパクリ量産マシーンになるんですよ、この手法は。


主人公のいる場所に敵が迫るというのはシャアの襲来です。ここは敵としてしまったけど、もっと広く抽象的な言葉で驚異としてもいいですね。敵だと属人性が出てくるけど驚異なら天変地異も守備範囲に含まれるので。


主人公が手に入れた大きな力はガンダムですが、ファンタジックな物語にするなら伝説の剣とか封印されてた精霊とかなんでもいいです。


シャアはガンダム目当てで来ました。主人公が手に入れた力と敵の目的を一致させることで、今後も繰り返し敵が主人公の前に現れる因縁を作りやすくなります。


アムロはガンダムを駆ってジオンの兵士を撃退します。しかし、それは本質的な解決にはならず、大きな力を手に入れたことで主人公は大きな争いに巻き込まれるのでした。

だから出口と入り口は遠くに設定しろ

繰り返しになりますけど、この手法で気をつけなければいけないのは、抽象度が低いままコンバートして粗悪なパクリになることです。


ここまで挙げてきた例でも「悪役令嬢ものを書きたいなら、今なろうのランキングに乗ってる作品や、既に書籍化されてる悪役令嬢ものを参考にしたらいいじゃないか。なにも『ロッキー』なんて古臭い畑違いの作品をコンバートしなくたって」と感じた方が多々いると思います。


そうやって横着する人はパクラーと呼ばれる危険があります。


考えてみてください。売れてる悪役令嬢ものを参考にして悪役令嬢ものを書く。動かせる余地が少ないです。まず悪役令嬢ものというジャンルが被ってる時点で、ほぼ物語の大枠は一緒にならざるをえないのに、さらに細かな要素もそんなに大きくは変えられないんですよ。せいぜいが大喜利レベル。


たとえば他の例で言うと『呪術廻戦』が好きだから『呪術廻戦』を何回も読み込んで、『呪術廻戦』のような話を書く。これもインプットとアウトプットの距離が近すぎて充分に作者の個性が挟めず、すぐに元ネタが割れてパクリだと糾弾され最悪の場合は法的な問題に発展するパターンです。よっぽど上手い人が各要素を微妙にずらして、ずらしてオリジナリティを挟んでくれば別かもしれないですけど。


ぜんぜん違う場所から持ってくるからコンバートしなければいけない要素、元ネタがあると言いつつ作者が自分で考えなければいけない余地が増えて結果的に他とは違う物語になるんですよ。そこの手間を惜しんで楽に済ませようとする分だけパクリ度合いが上がります。


だから『ロッキー』を悪役令嬢ものにするとか、昭和のベッタベタに男臭い男と男のスポ根漫画を現代の百合漫画にリメイクするとか、それくらい出口と入り口が離れたコンバートのほうが実はパクリを避けながら完成させる分には難易度が下がります。インプットとアウトプットが接近するほどパクリを避けるのが難しいです。

抽象化の練習には読み切り漫画が最適

既に完成してる物語を逆算してプロットに起こしたり、抽象化したりする練習には映画鑑賞がよく勧められます。創作系の学校に通ってた人とか、あるいはTwitterの作家アカウントをフォローしてる人とかなら、ストップウォッチ持って映画を観ろと言われたことあるかもしれません。


ハリウッド映画は巨大産業だから制作費回収のために大コケできない。そのため大外れが少ない完成されたフォーマットに則って作られている。ストップウォッチを持って鑑賞すると、何分何秒でどんな要素が出てくるかだいたい一緒だ! みたいな話です。


それもいいんですけどガチ初心者が物語の構造や抽象化できる要素に目を向けながら観るには、映画の2時間って長すぎるんですよね。そんなに集中力は続かないと思います。最近の映画は観客を飽きさせないため次から次に物語を展開させていくため、どこが物語の本筋か見失いやすいことも関係しています。


なので個人的には漫画を元ネタに練習することオススメします。漫画は静止画なので同じ箇所を読み返すことが動画よりも楽ですし、読み切り漫画ならページ数は長くても数十ページ程度なので最初に手を付けるボリュームとしても苦になりません。


連載漫画でもいいんですけど、連載が長期化するうちに初期設定が変わったり、インフレして別な物語になったりするのでね。読み切りは決められた枚数で終わるし、これで人気が出たら連載化! と気合を入れた漫画家と編集が時間かけて準備してくるのでコンパクトな中にプロの技がギュギュッと詰まってます。勉強させてもらいましょう。


初心者はジャンプ+の好きな読み切り漫画でストーリーの逆引きや抽象化を練習するといいですよ。無料ですし。

(frame embed)



出口と入り口は遠くに設定する

More Creators