夏休み最初の週に旧住宅街の花火大会兼夏祭りが開催されるのだが。 今年は、茜が祖父母の家に帰省のため不参加だという電話が入り。 数年ぶりの二人きりの夏祭りを過ごしていた。 猫閨町はこの少子化時代には珍しく旧住宅地も新住宅街も子供が多く。 学園都市というには少々田舎だが。 私立校が二校、公立が一校駅からそこそこの距離にある。 旧住宅地にすんでいる。 知っている顔の大半は、半被を着て、褌姿で神輿から開放されてすぐ、各々始まる前から決めていた屋台へと走る。 それもいつもの行事だ。 「く~っ!!やっぱ夏はコレだよな!!」 カキ氷のキンっとくる頭痛に足をばたつかせながら本日3杯目のカキ氷に舌鼓を打つ刈安は行儀悪く団扇であおぎながら、花火を眺めていた藍の太腿へと横になる。 おい、小●校最高学年男子。ソレは同性にする行動じゃないだろう。 内心の動揺とツッコミを飲み込みながら。 見慣れた髪が無くなった少年らしい短髪を撫でながらたずねる。 「刈安ってなんで浪人みたいな髪型してたの?」 「ろっろうにんじゃねーし!!侍だっつの!!いや、まぁ侍ハルカゼもしんじまったからなぁ。俺ももう大人だしそろそろチャンバラは卒業かなって。」 チャンバラ視聴が趣味の小学生という時点で、卒業も何も少数派だろうとおもいながら。 「ふぅん。」 と、軽くなった髪をいじり続ける。 案外長く一緒にいても知らないことはあるものだ。 「なぁ、コレ食い終わったらもう一周しようぜ。」 キラキラとした笑顔で言ってくるが。 ヨーヨー釣りや射的に輪投げ、夕飯もかねた出店巡りを一緒にしたが。 あまり使ってない自分でも残りが心許ないのに。 コイツはおかわりをしまくり、娯楽系で店を網羅して今月のお小遣いは残ってるのだろうか? 「お小遣い、今日全部使ったら一ヶ月どうするんだ?月末の祭りもどうせ行くんだろ?茜も帰ってくるし。」 「だって、かーちゃんも父ちゃんも店あるっつって、どっこも連れてってくんねーんだもん。いいじゃんコレくらい。」 それ以外にも使い道はいくらでもあるのだが、計画性の無い刈安に言っても仕方ないかと諦め。 まわっていない店を数えてみる。 「あと一つぐらいなら付き合うけど。どこ行ってなかったっけ?」 「あー……型抜き、籤、金魚すくい、やり忘れてるな。」 単価が親子連れ向けというか、あこぎというか、子供にはお高いラインナップだけのこしているなとぼんやり考えながら。 「じゃあ型抜きあたりにしとく?成功したら景品出るとか言ってたし。」 「いいや!ソレ、オマエの一人勝ちになるじゃん!型抜き以外!」 くい気味の否定に、ため息が出る。 一番安いしリスクも少ないのに。 「以外っていっても……金魚なんて飼わないし。」 渋い顔をしながら尋ねるが。 「おまえんちの池で飼えばいいじゃん、鯉とかと一緒に。」 「世話なんて、俺は餌やるくらいしかしてないし。掃除とかなんかイロイロいるだろ?それに、刈安が、忘れてザリガニいれたりする可能性だってある。」 「し、しねーし!!あぁーもう、かあちゃんみたいなこというなよ!!」 数年前未遂に終わったが鯉を育ててる池に蛙やらザリガニを放り込もうとした前科者に飼育の大変さを説く。 頭の輪を絞められる孫悟空のようにジタバタしながらむくれる姿は不覚にもかわいいと思ってしまうのは惚れた弱みだろう。 「もう十分遊んだし、駄菓子か小さめの景品の籤あたりで手を打ったら?」 「もっとおもしれーのがいい。」 「高い方のクジはムリでしょ。財布の中見てみろって。」 むくれながら。 「確かに。ムリだ。」 とボソリと呟く刈安が動くたびに短くなった髪が太腿を撫で、微妙な気持ちにしてくる。 そろそろ立たないとやばい。 「刈安と藍じゃん!!」 そんな、不埒な考えを頭のなかでぐるぐるしているところ、半被を着た幼馴染というか昔なじみたちが合流。 クラス三分の一くらいの人数になると。やはり、一度は落ち着いていたやつも、それなりに皆テンションが上がっていく。 「よー、どうだった戦利品は?」 「オレ、コレ、このだっさいのとった。」 「えーマシじゃん?オレぬいぐるみだぞ。」 「妹にやればいいじゃん。」 「つーか、今年もダメ、あのクジや絶対ズルしてる。」 雑談交じりで、花火も、もうそろそろ終わりかなんて話になる。 大人たちの祭りは打ち上げと称した飲み会が本番なのであと三時間くらいは終わらないだろうけど、子供はそろそろ帰宅するように注意をされるだろう時間ではある。」 「なぁなぁ、どうせ帰されるなら。裏の祠いってみねぇ?」 「祠なんてあったっけ?」 「なんか祟られそうなヤツあるって兄ちゃんが言っててさ。このまえ肝試ししたらメッチャ怖かったんだって。」 「へぇ。」 「面白そうじゃん。」 やいのやいのと二人、三人、もう一人と賛同者が増えていく。 「裏山って……この時間明かりもないし、バレたら面倒だろ。」 一応、注意をしてみるが。 「んだよ藍、しらけるこというなって。」 「そうそう、こんだけ人数いたら怒られるのだって怖くないって。」 怒られることが前提なあたりどうかと思うのだが、告げ口というのも性に合わないし、仮に強く反対して更なる度胸試しになっても困るので。折れておくことにする。 他の面子と一緒に来た委員長が申し訳なさそうに 「よかったの?」 と尋ねてくるが 「仕方ないよ。こうなったら止められるのは地震か雷か、あそこにいるオジサンたちくらいなもんだし。」 とため息をつき、委員長苦笑しあって後ろにつく。 「ちょっとぉ、告げ口されたくなけりゃわたしも連れて行きなさい!」 どこから聞いていたのか、小走りに来た、委員長の自称彼女の女子一人追加。 合計で十人近い人数だ。 いっそここで、通りすがりの大人にでもバレてくれれば。楽なのだけどと思いつつ。 観念をして。 裏山に入る。 三人ずつ列になって手だったり半被のすそを握り合って全身しながら。 この話を持ってきたやつが。 自分は怖くないアピールをするため、兄から受け売りの。 祠にまつわる怪談をはじめる。 興味津々のヤツや、不安になったヤツ、各々のリアクションをとりながら小道を歩いていて、ふと刈安の姿が消えたことに気づく。 「あれ?なぁ、刈安」 刈安は、と尋ねかけたところで。 鼓膜を揺さぶるような怒声が飛んでくる。 「コォラ!!何やっちょるかぁああ!!」 酒屋の頑固ジジイの声だが、散々ビビッていたやつらは悲鳴を上げて尻餅をつき。 そんな彼らを驚かせようとしたらしい。刈安の驚きの声が頭上から漏れる。 「うわっ!?」 こんな暗がりで木登りとか命知らずにも程があるだろう。 そう思うのと、驚いて足を滑らせた音と同時におおよその落下地点の下へと走る。 もちろん自分より重い刈安をキャッチなんてできないが、骨折を防ぐクッションくらいにはなるとはんだんしてのことだったが。 暗がりで目測を誤ったらしく。刈安のひじで顔面強打されるハメになった。 モロに入ったわけではなかったが。 強打と、刈安の下敷きになった衝撃でほんの数分意識が飛んだのはこのあとの状況を見ると。 ついていたのかもしれない。 「藍、藍、判るか?コレは何本だ?」 頬をぴたぴたと叩かれ、ぼんやりとする頭でピースさいんする父の指の数を答える。 「二本。」 「大したことはないみたいだな。」 「ごめんなさい。」 心底安堵した父に、反射的に謝罪が出る。 「謝るくらいなら、危ないことをするのはやめなさい。友達が行こうといったのなら。キチンといさめるのも強さだぞ。」 道場の時の師としての顔と、父親としての顔で言われるとどうにも言い訳も出来ず。 「はい。」 と、肯定することしか出来なかったが。 おおよその流れは把握しているらしく。それ以上は叱られることはなかった。 「もう、花火も終わったし、そろそろお開きだから帰りなさい。私は婦人会のかたがたに礼をいったら帰るから。」 「はい。」 鍵を受け取り帰路につくため、刈安を探そうとしたところで、隣の部屋からの騒ぎの主が刈安だったのだと気づく。 「こんのバカ息子が!!藍くんになにかあったらどうするつもりだ!!」 「わざとじゃないんだってぇ!!」 「わざとであってたまるか!!このバカッ!!反省しろ!!」 ビタンビタンと尻が波打つほどの屈強な腕を振り下ろして見舞われる平手が下ろされるたび。 泣き喚いて暴れながら悲鳴を上げる刈安の姿に少し申し訳なさを感じる。 偉そうというほどではないが、刈安は近辺のガキ大将的存在だ。 そんなヤツが、本気で泣きながら尻を腫らして暴れる姿に萎縮しないヤツがいないわけが無く。 既にそれぞれの親から叱られたらしく、褌姿の尻に豪快な一つ手形をつけていたり、頭さすりつつ苦笑いな他のメンツと目が合う。 苦笑いの中一人、むくれっつらしてる一緒にムリヤリついてきた女子も。 今回ばかりは一発キツイやつをもらったのか。 浴衣ごしにそわそわしながら。目を赤くして、先ほどまでべったりだった委員長には気取られないような位置に立っている。 「大丈夫だった?」 「ああ、ちょっと受身失敗しただけだから。」 「びっくりしたよ。」 「ごめん。」 委員長もゲンコツでもされたのだろう頭をいじっていた手を下ろし。 お茶を入れて労ってくれる。 この恐怖の公開処刑はどの程度続くのかについては触れずに。麦茶に口をつけながら。 刈安の悲鳴が途切れるまでポツリポツリ夏休みの宿題など気を紛らわせ、段々と逃げ出すほかのメンツを見送り。委員長と二人刈安の釈放を待った。 結局三十分近く、刈安のおじさんの怒号と、刈安の泣き声は続いていたように思う。 「バカ息子がすみませんでした」 そういって皆に頭をムリヤリ下げさせたおじさんに開放された刈安を合図に。 本格的な解散。 刈安に渡してあげてと、いつの間にか手にした濡れタオルを渡してくるのだから。 委員長は本当によくできたヤツだと思うし。お嫁さんにするならこういうやつだろうなと。 先ほど頭を打ったせいかぼんやりとバカなことを考える。 大人たちは気を取り直して宴会のようで、刈安は自分が悪いとわかりながらも。 現金な態度なおじさんに小さく、いーっだと歯を見せ逃げるように集会所から離れる。 もちろんバレないように。 やや中腰、褌のせいもあり、暗がりでも腫れが判る尻をさすりながら、鼻をすする刈安の隣を特に何も言わずに歩いていく。 「おばさん、遅くなるっていってたし、うちに来るだろ?」 「……ん。」 ようやく答えた普段の口数からは考えられないほど、しょぼくれた刈安の背にトントンと励ますようにタッチして部屋に誘導する。 「藍、あの、さっきは……落ちた時まきこんで悪かった。」 ずっっと鼻水をすすりながら真っ赤な目を節目がちに謝られると居心地が悪い。 本当にこういう素直なところは厄介だ。 こんな風にぐちゃぐちゃに泣かせるほど乱れさせたい。 なんて、普段内心で豪語していたって、ソレはキモチイイことを一緒にしてみたいというのであって。 こういう居心地の悪い空気はゴメン被りたい。 誰かに叱られての姿が見たいわけでも、自分から彼を怒りたいとかそういったものでも無いし。 そんな趣味はさすがに持ち合わせていない。 「別に、刈安に迷惑かけられるなんていつものことだろ」 考えてから、すこし笑って答えると 「そうかよ。」 と、あからさまにふてくされる姿にいつもの刈安を感じながら。 冷蔵庫へと向かう。 後ろから着いてくる刈安が、すこしの間とのあと、 「……なぁ、怒ってないならさ、今日泊まっていいか?」 怒られて、相当バツが悪かったのだろう。 珍しいお願いだ。 まぁ、言われなくても。 彼の両親もソレは把握済みで。 しばらく懲りてるだろうから、今夜は泣き言に付き合ってやってほしいというように、実は集会所を出るときに頼まれている藍は再び軽く微笑んで答える。 「いいよ。」 マオや父の帰りえが遅く。棚ボタ的な二人の時間をのんびり、下心だとかも忘れて過ごす。 大好きだった人の弟で、親友で、幼馴染で、エロい気持ちにもなるけど。 でも、多分自分はこうやってなんでもない時間を過ごせる刈安との関係が好きで。 壊したくないのだなと。 自分のずるさを感じながら 麦茶の入ったグラスの水滴が机をぬらすのを眺める。 まぁ、今考えても仕方の無いことだ。 ただ、いまは、こうして幸せな時間が巡ってきたことに感謝をすればいい。 そんなことを考えながら。風呂に入り一緒の布団に入る。 自分や父のニオイとも違い、甘さと汗臭さの強い香りを感じながら。誰かの体温のある睡眠を貪るのだった。 朝になり、隣で寝ていた刈安が、カキ氷の食いすぎで作ったらしい世界地図について。 内密にしてほしいという懇願と、謝罪されることなど露ほども知らずに。