7月期の更新物となりますが。 7月期の予定が現在不明瞭のため。 一端更新できるものから、先立って更新させていただいております。 『幼い家族と、初夏の縁側』 「藍、痛むか?」 マオの言葉にピクリと力が入るが 藍は再び溢れそうな涙をこらえた藍は。 「別に痛めてなんて無いです。」 傷跡は無い。 内部からの修復に時間がかかり、痛覚が残っている。 ソレがスーツのせいでおきたダメージであり、同時に、あの場で動けなくなるほどのケガにならなかったことを。恨めばいいのか、感謝すればいいのか。 藍は判断に迷っていた。 マオにしても、そうだ。 怪しげな『博士』を名乗る男と契約し、自身の主人であるカインらが関与しているらしい、猫閨町で起きる。 仄暗い事件について、非現実的な意識操作を相殺後、直接干渉するためにスーツ自体は着用しているからだ。 効果は十分知っている。 そのスーツを着てなおダメージを引きずるのが相当の蓄積ダメージを受けたということは理解できた。 ただ、『悪さをする子供たちの仲裁役』といった立ち居地の正式ではないヒーローをしている立ち居地としては。 正体を明かすことも、直接聞いてやることも出来ない。 そのため、下宿先であったことを幸いに、藍が気にしている、彼の父親の目に触れる前に、風呂場へと連れて行く。 「ちょ、ちょっと、マオ兄さん!?」 弟よりは子供とはいえ、そろそろ思春期といった年頃で、大人と一緒に風呂。 ましてや着替えを手伝われるのは相当恥ずかしいのだろう。 イヤイヤと抵抗する藍の腕を器用にいなしながら、ボタンを一つ一つはずし、半ズボン、ブリーフへと手をかける。 「パンツくらい自分で脱ぐよ!!」 さすがに起こった様子の藍に。 「ふむ、元気が無かったので、背中でも洗いながら話を聞こうかと思ったのだがな。」 嘘偽りのない直接的な探りに、少しだけ怯みながら藍は口を開く。 「少し稽古を一人でしていて、付け根を傷めただけだよ。くじいたりはしてないし。父さんに心配かけるような状態じゃないから……言わないで。」 節目がちに答える藍に、ため息が漏れる。 父子家庭であること、母親を早くに亡くし、小さい頃から慕った父親の前ではイイコであり、できるだけ心配や負担をかけないように。 甘えたい時や助けを求めるときすら、こうやって隠す癖がある。 両親を亡くして兄である自分や幼馴染である本来は主であるカインにベッタリ甘えっぱなしの弟とは対照的で。 マオには、師弟関係を抜きに彼も弟のようで心配せずにはいられない。 「痛みが残らないようならな。朝稽古に響くようないため方なら、師匠(せんせい)に報告する。」 出来うる譲歩だというように言い聞かせると。 苦い顔をしながらも藍は頷く。 「まぁ、背中を流すついでに痛め方と、ケアが必要か確かめるから。先に入っていろ。」 「え?兄さんも入るの!?」 「男同士だ、それにセンセイの家は風呂場が広い問題ないだろう。」 「いや、まぁ……」 父親の趣味で作られた、大きなヒノキ風呂に二人で入れないともいえず、困った表情を浮かべながらも。 マオの折れなさに諦め。観念したように風呂場へと足を踏み入れる。 しばらくすると服を脱いで入ってきたマオの手馴れた手つきと、ふわふわの泡にあわ立てたタオルでの優しい愛撫のような背中の流し方に、痛みを忘れ別の意味で苦悶したのはここだけの話。 ---- 「なんだ、二人で風呂に入っていたのか。 せっかくなら私も入ればよかったな。」 「その時は背中を流しますよ師匠」 「いや、三人はきついよさすがに。」 風呂上りの冷たい麦茶を用意してくれていたらしい浴衣姿の藍の父はカラカラと笑い、マオはそれにあわせて悪戯っぽく返す。 その様子に、からかわれてると判りながらも。 困った大人たちに注意するように口を開く藍、いつもの光景がそこにある。 「晩飯なんだが、素麺まだあったかな?」 「一番上の戸棚の奥に三人分くらいなら残ってると思うよ。薬味になるようなものあったかな?」 「何か手伝うか?」 「んー器だけ出しておいて。」 テキパキと先ほどまでの気落ちを感じさせない手際のよさで冷蔵庫を明け、二個ほど卵を取り出し、椎茸や、大葉などをチェックし始める。 藍のその姿に、二人の帰宅姿に気づいていたのだろう父はほっとしたような笑みを浮かべ。 師である大家には隠せないとマオもまた柔和に笑うのだった。 ---- 少し気落ちしていた様子に、心配をしていたが。 早めの夕食を食べ、風鈴がチリチリと仕事を始めた縁側で新聞を開いていると。 とん………と、藍が、腕にもたれるように本を読み始める。 普段のてきぱきと、どこか淡白な反応とは違い、時折見せる。こういった姿は子供らしく、傍で寛ぐ姿は思わず顔が綻ぶ。 少しだけ眠そうに、気だるげに厚い表紙の小説をめくりながら、ズルズルと段々と行儀の悪いもたれ方になる。 「眠いのか?」 そういって軽く汗ばんだ額に張り付く髪を撫でると。 「そんなことないよ……」 そういいながらも、まぶたは正直で、随分重そうで。1ページ、2ページ、3ページをめくる指を動かす前に、ズッともう一段階ずり落ちるように、そのまま瞼を落としてしまう。 「暑くなったとはいえ、こんなところで寝たら体調を崩すぞ?」 頬を手の甲で撫でるが、 眠気に敗北した藍は、瞼同様に重い唇をもぐもぐさせるだけで。返事はせず眠っている。 「ふ………」 小さいころから、頑固なところは変わらない。 手近にあった内輪を手繰り寄せ、わき腹にもたれかかっていた頭を太腿へと移動させる。 膝枕をされた状態で本を抱いたまま眠っている藍にそよそよと軽く風を送る。 揺れる長いまつげや、眉なんかは、母親に似ている。 寝息を聞きながら、浅葱は息子の成長を感じ。 もう妻を亡くして五年以上経つのかと、妻が亡くなった頃家のことは皿を片づけくらいしか出来なかったのに。 こんなにも成長して、家族分の食事や洗濯、その他の家事を切り盛りしてくれている。 私たちの子は、しっかりと育った。 ソレを妻に教えてやりたいと思いながら。 ゆっくりと内輪を揺らす。 「先生、西瓜を切りました。」 「ん?ああ、ありがとう。」 しばらくぶりに居候をはじめたマオが豪快な切り分け方をした西瓜を手に顔を出し、眠りに落ちている藍に気づき何か言おうと口を開きかけるのを、そっと指を立て、 「しぃ……」 制す。 同じ年の瀬の弟がいるからか実弟のようにかわいがってくれている彼にも本当に助けられる。 小さくうなずき机に西瓜を置き。 少し近くに座りながらスヤスヤと眠っている藍を眺めながら。 母国語で何かを呟く。 「ん」 意味までは知らないが、彼の優しい面持ちを見ていれば、家族のことを考えていることくらいは判る。 「勿体無いな、こういう時間ももう少しだろう。」 来年は六年生、再来年は中学だ。 友達の見ていないところだけとはいえ、しっかり者ではなく。 ただの子供としての姿の時間の短さに寂しさを感じ目を細めながらただただ微笑むのだった。