ニャンニャンダーは町の平和を守るなんていうものは。胡散臭い覆面をした自称「博士」による設定だ。 レッドこと茜や、イエローの刈安はソレを信じているが。 本来の博士と、何がしかの取引が合ったらしいピンク、桃矢と。 そもそも、この正義の戦隊という設定に疑問を持っている。 ブルーこと藍に関しては少々事情が違った。 正義のためではなく、だまされたレッドたちに近づきすぎた「博士」が、ここ最近起こっている、猫閨町での問題の、黒幕である可能性を加味し、事態の悪化を食い止める。 そのためにヒーロー活動をしているだけにすぎない。 そう、面倒ことは大嫌いなのだ。 それでも、目の前に苦しむ、危ない目にあう子供が居れば体は動くもので。 できればピンクのように傍観しているだけの、そういった立場がよかったとコキリと首をならしながら。 不思議な風貌のネコミミ?いや、キツネミミをした少年を手篭めにしようとする大人に向かい地を蹴った。 元々身体能力の高い藍の足に特性スーツの作用で数倍の跳躍力が発揮される。 ゴッ 先ずは一人目。 下顎を狙い、脳を揺らす。 気絶した子供相手にニヤニヤとしていた男は、何がおきたのかもわからないままに下半身を丸出しのまま意識を手放す。 仲間が鈍い音と共に地に沈んだ事と、急な来訪者に戸惑う二人目には流れるような、体をねじったハイキックをお見舞いする。 ガツンッ と、骨に響くような鈍い感触があったが、先ほどの男よりも幾分体格のいいその男には攻撃が浅かったらしく。 「っ」 息を詰まらせるような音を喉から漏らしながらも。 よろりとよろついただけで。転ぶことすらなく。ブルーのほうへと向き直る。 「んだ、クソガキ。変な格好しやがって。」 言われなくとも知っている。 股間を強調し、ブルー特有の強化バージョンスーツは乳首部分を乳バンドのようにぴったりと覆った布地と。 発展途上の股間の先端がくっきりとわかるビキニタイプのパンツに、白のレザーブーツなのだから。 「う、うるさい。」 いらないと判りながらも、つい羞恥が勝りつい感情的に声を荒げ。型の乱れた攻撃に出てしまう。 「はっ、変な格好って自覚はあんのな。」 身体能力は高く、強化能力のあるスーツを着用しているとはいえ。 本来、合気道で、受身の攻撃を学んでいる藍の攻撃は、一度読まれると簡単には届かなくなってしまう。 残念なことに、眼前の悪党は、少年に手を出すようなクズでありながら。 何かしらの心得があるらしく。正拳突きをいなされ、手首をギリリと握られる。 「くっ」 距離をとろうとするが、その前に、引かれた腕とは反対方向へ大人の手加減なしの力を込めた手の甲でのビンタが頬に見舞われる。 バシッ と鈍い音と。ゴーグルがはじかれ、ヒビが入る。 「っぅ」 手首を握られた時とは比較にならないほどの痛みと、脳を揺らされる感覚に思わずよろめく。 「ああ、思い出したわ、最近ヒーローごっこしとるガキがいるんだっけな。」 確かにそうだが、なんと答えるべきか。 「おいおい、そんな危ないことしたら親御さんが心配するし。今回みたいに。知らない人にケンカ売って。無事じゃすまないかもしれないだろう?」 最初の奇襲とは違い自身の優勢を確信した男の目に下卑た光が差す。 頬のジンジンと熱を持ち始める痛みと、骨をきしませる手首の痛み。どちらからも逃れようにも強化スーツは、あくまで強化をするだけだ。判断が鈍れば上手く機能はしてくれない。 右足を、左足を、どちらを主軸に踏み出すべきか。 普段は誰かしらいるサポートの無い窮地に。冷静さを奪われる。 恐怖心を認めるのは癪だが、目の前の小物らしい悪党に萎縮してしまったのだ。 判っている。本気で、冷静にたいしょすればどうにかなる程度だと。 それでも、脳を揺らし、頬を張った手の痛みが体を竦ませる。 その様子に、男は、完全に折れたと判断したのだろう。 心を嬲る言葉を吟味するようにブルーを引き寄せ。汚い歯を唇から覗かせる。 やばい 痛む頬を乱暴に捕まれ、唇を奪われる。その嫌悪で頭がカッと白くなったときだった。 「くそっ!!いたいだろバカァ!!ヘンタイ!!ヘンタイヘンタイヘンタイ!!」 先ほどまで気絶していたはずの、獣耳をした少年だった。 野生動物並みのすばやさで突っ込んできたかと思うと。男に一撃強烈な蹴りを顔面にお見舞いする。 その足が、モフモフと動物っぽく、ソレはブーツではなく、毛が生えた獣だと気づき、二重に驚きながらブルーは出来たチャンスを手に。自分を拘束していた男と距離をとる。 「早く帰んなきゃ叱られるっていってんのに!!ここどこだよ!!」 キャンキャンと小型犬が吠えるように噛み付く少年に蹴られ、よろめいた男は。チッっと舌打ちし、血走った目で睨み付けながら。 少年に手を出そうとする。 だが、ソレを許せば、ヒーローごっこですらない。 ヒーローとして、男として、一度折られかけたプライドを賭け。 道場で学んだ足捌き、手捌きを思い出しながら。 男へ向かって跳躍。胸倉を掴み。今度は、平手打ちや、拘束の隙は与えず地面へとたたきつける。 本来ならば受身が取れるように配慮した型をとるが。 コレは本気のヤりあいだ。 通常では入れることは無い力と、スーツの強化を使い。 頭から叩き落す。 確かに致死の可能性が無いわけではないが。 肉量からいって、脳を揺らす程度で済むだろうと判断してだった。 ドッ と鈍い音と共に男が鈍いカエルを握りつぶすような声を漏らし口から汚らしい泡を飛ばしながら落ちたことを確認してから、手を離す。 開き直ったすがすがしいほどのクズだったが、最初に一発で沈んだ下半身丸出し男と、目の前の小汚い男を交互に見る。 先ほどまで、少年を助ける為必死で気づかなかったが。 お決まりの「仲間をヤりやがったな。」そういった類の発言は目の前の伸びている男からは発せられなかった。 もう一度見やると、下半身男の、着ているシャツは、この街でいわゆる悪堕ち現象で、悪い大人になった男たちが着用している黒いTシャツだ。 眼前の男は、小汚い不良といったような格好だが、ジャケットの下に同様のシャツを身に着けていた。 悪党の制服というやつなのか、大昔戦隊ヒーローの敵で出てきた。 「イー」 しか発さない雑魚を思い出す。 「雑魚って言うにはちょっと面倒なヤツじゃないか。」 ジンジンと痛む頬を拭って痛みが消えるわけではないが、無意識で拭いながら。ため息をつく。 「すっげ!!」 「?」 「オマエ、強いんだな。ありがと!オレ、イアン、って。ああ、でも、いま、紹介とか時間無いんだ。なぁ、ここら辺に教会とかなんかそういうのない!?」 ピョコピョコと揺らす耳や尾、ふさふさの手足をせわしなく動かし、地団太を踏みながら焦る少年に。 「そこの先曲がったとこに、一軒教会ならあるけど。」 「!!あっちだな!?ありがとう!!今度あったらマッチ割引してやるよ!!」 忙しなく、人ではないが人の形をした未確認生命体な、ケモミミ少年はそれだけ言うと嵐のように去っていった。 「なんだったんだ?」 助けて、感謝もされたのだがなんともスッキリとしない幕引きに肩透かしをくらいつつ、ワルモノを縛ってまとめようとしたときだった。 「何しとるんだ!!」 「っ!!?」 思わず悲鳴を上げそうになる。 そこに居たのは、見知った男だったからだ。 近所の空手道場の二代目で。父の知り合いだ。 道すがら近いとは思っていたが、ココが道場だったか。 言い訳を考える前に距離を詰められ、逃げ損ねたブルーは、歯切れ悪く。言葉に詰まる。 ワルモノをやっつけたといっても、珍妙な格好をして、ケンカ殺法の末の状況だと説明して許してくれる相手ではないことも、イヤというほど知っているし、何より、目の前の男は。 日常での絶対非暴力主義者なのだ。 勿論ソレは敬意をもてることだが、殊更まずいのが。 その非暴力に背いた行動を、彼の道場で取ったものには門下生であろうと、そうでなかろうと。罰を受けさせられるというものだ。 状況が状況だ、少年が居ない今、自身が被害者だった説明すればわかるか?とも思ったが。 「まったく、神聖な道場で、なちゅーことし腐るんじゃ。」 「いや、あの。俺はただ、」 「いかがわしぃコトしようとしたのはコイツらじゃ、いうことはわかっとるが。だけん、力任せな喧嘩しくさったのはオメもじゃろが!!」 ピシャリと、どこの方言なのか不機嫌に男を転がしながら、反論を許さない男を前に、ブルーはただただ、困惑する。 「人助けは大切なことじゃ。けんど、武道の心得ある人間が適当して他人ケガさせたり。ヒーローじゃぁ言うて小便臭いガキが危ないことしてええ理由にならんわ!!」 「しょ、しょうべ……」 想定外の単語と侮辱に顔を引きつらせるが。 一理ある男の言葉にますます逃げることも言い返すことも出来ず。 不機嫌な顔を浮かべるくらいしか出来なくなる。 人助けをしたというのに、何故、このように叱られるのか。と 「そこ、足開いて壁に、手ついて立ちぃ。」 「え?」 「オメみたいなガキがヒーローごっこぉ言うてあぶねことしてんの知らん、ご両親に代わって仕置きするんじゃ!!」 「なんでっ……」 なんでそこまでやられなきゃいけないのだと。 悪いのは気絶している男たちだ。ソレなのに、何もかも終わってから入ってきた人間に叱られ、何故罰まで与えられなきゃいけないのか。 言いたいことはあったが、 「それともご両親呼ぶか?ヒーローゴッコちゅぅて、ケンカ遊びしとるって叱ってもらおうか?」 タァンッと竹刀で床を叩き。 座った目で見据えられると、不満は喉元まできて、胃袋へとまた引っ込んでいく。 「……。」 ジトリと睨み返しながら、渋々尻を突き出す形で。 壁に手をついた。 「フンッ、まぁ最近はあぶねぇヤツも多いからの。正当防衛っちゅーことはわかっとる。だけん、ケツに手で十発、腿にコレで十発ずつ。で勘弁したる。今回はじゃ。次やったら、うちの門下生らと一緒で百ケツしばいて。親御さんに突き出すからな!!」 フンッっと鼻息荒く言う男は、男なりの正義と、罰をどんぶり勘定なりに考え、決めたのだろう。 子供に危ないことをさせない戒めとした意味と。 不可抗力とはいえ、武道を他人に使う危険性を叱咤する為ということはなんとなく理解できる分。 必要以上に反発は出来なかったし。 何より、父の教えに背いて武道をケンカでなくとも、道場以外で使っている後ろめたさもあったから。 罰というヤツを受けようと思ったのかもしれない。 ただ、そう判断した自分を、肉体強化の代償に、とある効果があるスーツを着用していた事実により。心底後悔することになる。 「じゃ、いくぞ。」 肩幅に足を開き、踏ん張るように立ちながら突き出した尻を抱えるように、華奢な腰に腕を回し抱えるようにして。 はぁっと大げさに息をかけた掌を、男が振り下ろす。 ビタンッ 尻どころか背骨まで響くような尻タブに食い込む厚い平手に。 「かっは……」 まるで戦闘漫画のワンシーンのように、呼吸が止まったような音が漏れる。 「ほれ、足踏ん張り。」 パンッ!! 二発目は一発目ほどではないが。大きな尻をすっぽりと覆う平手による平手打ちは体に響き。自然と膝を曲げ尻を庇うように足を上げてしまう。 「っ」 たった二発で泣いたら格好が悪い。 頭ではそう思っているのに、自然に、目頭と鼻が熱くなり。 視界は涙の膜で歪み、汗がにじむ。 バシッバチンッ 「くっん」 三発四発は足を下ろさせ、腰ではなく片足に手をかけ、うごけない状態にされ、続けざまに叩かれる。 強がっていても、絶え間ない、庇うことも出来ない痛みに喉から悲鳴が漏れ。 熱くなった頭はイヤイヤと左右に動き、懇願するように伸ばした手は、男の胴着を握り締める。 その縋るような動きに対しては、怒ることはせず。 「しっかり立ち。」 それだけ言って男は小さなぴったりと体に張り付くスーツ越しの尻を叩き続けた。 ひっくひっくとしゃくりをあげ始めた喉と、どんどん熱くなる頭と、痛みがジンジンとビリビリとズキズキを混ぜたような下半身の感覚が無くなる様な錯覚させする痛みに何度も足をばたつかせたがきっちり十発。 それ以上や、静止に追加などはなかったが、重い平手が尻に見舞われた。 状況があまりに理不尽で忘れていたが、強化スーツの効果は、耐久値を上げ、強化と感度を急上昇させることにある。 つまり、スーツを着ていたため、耐久値があがり、ダメージこそ耐えることが出来たが。 あがった感度で痛みが数倍に跳ね上がっていたのだが、その事実を知ることはなく。腫れあがり、赤く火照る尻をおさえながらしゃがみ込みそうなのを、正され、壁に手をつき最初の体勢へと促される。 もうイヤだと泣きながら逃げ出したいはずなのに、痛みで鈍った判断と、罪悪感を帳消しにするための免罪符欲しさに体は勝手に、罰を受けようとする。 ただ、その考えが甘かったことを、竹刀での一打で思い知る。 掛け声をかけられてることにも気づかず、片手で尻を押さえ泣きじゃくりながら、震える膝で差し出した尻より少し下の腿にキツイ一打が食い込む。 パァンッ 竹刀特有の張った音が道場に響き。何が起こったのかわからなくなるような痛みが全身に走る。 「あ、っか」 悲鳴ではないような単語を口から漏らし、よろけながら。 そこでようやく、自らのスーツの機能のデメリットを思い出す。 快感などで堕ちないために、確かに耐久をあげられているが。 同様に、通常の快楽にも耐えられるためという名目で、痛みや快楽は数段強く感じるように肉体改造されているのだ。 「ま、まって、ムリ、ちょ、っとおねがい、まって。」 脂汗が粒になり、自分がふてくされて安請け合いした罰が、今感じている以上に辛くなると察したブルーの口からは止め処もなく、弱音があふれ出す。 不貞腐れ、泣きながらも仕置きを受けていた少年の豹変に。 強くしすぎたかと思いながらも。 「あと八発じゃ、耐え。」 と事情を知らない男は加減のない竹刀打ちを一打、また一打と追加する。 「ひ、っいぎっ」 ばたつくなんて騒ぎではなく。情けない悲鳴を上げながら必死で逃げようと尻を引き、足を動かそうとするが。 そうするたびに軸足にして逃げようとした太腿を強く打たれる。 「っぁ」 よくわからないと形容するしかできない痛みに。 脳内の痛いという感覚を支配され、思考が焼ききれるのではないかと思うほど長い時間に思えた。 実際は厳しくは打っていたが。 限界になったブルーを見て。 多少手短になるように加減をしてくれていたことに気づく余裕などはなく。 レザーブーツとビキニタイプのスーツから伸びた太腿は、無残なほど白く太い蚯蚓腫れで出来た筋と、ソレをかこむ赤い線が踊る。 「っ、ぅ、ぅああああああん」 普段、叱られて、こんな風に泣いたのはいつだったか。 ケンカで負けようが、ヒーロー活動で痛い目にあおうが。 悪態をつき苦い顔をして来たブルーの目からはボロボロと涙が落ち、痛みから力が入らなくなった膝から崩れると。四つんばいで痛む傷に爪をたて、必死で耐えるようにしながら。 チョロチョロと音をたて、その場にツンと鼻につく水溜りをつくってしまう。 男は何かを言っていたようだが、ソレを聞く余裕もなく。 泣き続けた。 どうやって道場から逃げたのか、帰ったのか。 気づくと、博士が居る診療所で寝かされていた。 ぐっしょりとかいた汗と、スーツを脱げばほぼ完治するはずの痛みが。まだ足に残るようで。 おぼつかない足取りだったが、診療所に居て涙をうっかりこぼすところは博士に死んでも見られたくなかったし、茜や刈安が来て、今日の失態を知られるのがイヤで。気がつけば診療所から家路についていた。 回復しているはずなのに、ビリビリと痛むような違和感のある足と尻を庇うように歩きながら、時々鼻をすする。 自分から仕置きを受けることを最後は納得していたはずなのに。 それでも今になって悔しくて仕方がなかった。 気を抜けば泣き声まで漏れそうだ。 ツンっとする鼻と、家に帰って父親に気づかれたらどうしようという焦りが頭にもたげる。 父は誰よりも自分を見てくれている、少しでも変化があれば心配をし、向き合おうとする。 ヒーローであることは隠せても。今日のような心が揺れているようなことを隠せる自信がなかった。 門限はだんだんと迫っているのに、足はどんどん重くなる。 「アイ、大丈夫か?」 ポンっと頭に置かれた暖かい掌に驚きながらも、慌てて涙を引っ込める。 「マオ兄さん。」 兄弟子といえばいいのか、日本で仕事の間、居候をすると、数年ぶりに家に来たマオの姿に間抜けな声が漏れる。 父ほどではないが観察眼の鋭い彼に見透かされないかと言葉を選ぼうとするが。 「どうせ、一人で稽古でもして、ぶつけたりして痛めたんだろう?」 ふっと細められた目を柔らかな笑みに、構えた力が抜け。 自然と『嘘』だが、本当の返事が口から出る。 「うん……」 「仕方ナイ、俺が背負っていってやろう、アイが居ないと先生と私じゃマズい飯しか作れないからな。」 遠慮を先読みされてのマズ飯発言に思わず力が抜け、されるがまま、背負われると、首へと腕を回す。 「ソレは困るかなぁ、父さんもマオ兄さんもしょっぱすぎるから。」 「うん?そうか、ちょっと辛いほうが美味いだろ?」 「限度があるよ?」 クスクスと笑いながら、何年ぶりかのおんぶに気恥ずかしさと心地よさ、先ほどまで感じていた痛みが段々と薄れるのを感じながら。 「ありがとう。」 マオのうなじに頭を埋め、そう呟くのだった。