窓辺の姫君
Added 2021-04-19 15:12:20 +0000 UTC窓辺で唄を口ずさむ彼女の姿を見かける度に、小さなころ読んだ童話を思い出す。塔の天辺で暮らしている髪の長いお姫さま。華奢で可憐なその姿は、絵本の表紙に描かれたあの姫君にどことなく似ていた。 顔を合わせて話をしたことはない。それどころか本名すらよくわからない。彼女が住んでいるお屋敷の表札には『野菊』と書かれてあるから、きっと野菊さんというのだろう。十代に見えるが、学校へ通っている様子はない。三階建ての広々とした洋館で、家政婦らしき女と二人きりで暮らしている。 まだ日の高い春の午後、微かな声に誘われて書斎の窓から外を見る。向こうも三階、こちらも三階。向い合わせの窓と窓が彼女と心を通わせるたった一つの糸口だ。 今日もまた少女が窓辺で歌を唄っていた。春の陽気を思わせる昔ながらの季節の唱歌。さえずるような歌声に聴き惚れていられるのは、ほんの少しの間だけ。窓越しにこちらの姿を認めると、彼女は歌うのをやめてはにかんだ。 少女が部屋の奥へと姿を消した。といって焦ることはない。こちらも書斎の窓を開いてしばし待つ。やっぱり少女は戻って来た。ただし今度は顔は出さない。代わりに出すのは尻だった。 そう、尻だ。 少女が窓から尻を出している。 下着を脱いで、スカートを捲り、小さな出窓に腰掛けて、若い果実のように瑞々しい尻を惜しみもなく見せ付けている。 初めて見たときはずいぶん面食らった。年頃の少女が人前で尻を出すなんてにわかには信じ難い。本当に彼女の尻だろうかと疑ったこともある。しかしどうやら本物らしいのだ。 抽斗から双眼鏡を取り出して少女の尻を改めて見つめる。華奢な手脚からは想像もできないほど肉のついた豊かな尻だった。尻たぶを形作る輪郭は円く滑らかで彫像のように美しい。しかし彼女は生身の人間。いくら造形が美しくあっても、穴もあれば毛も生えている。薄茶色をした菊の花びらの周囲には、金色の陰毛がびっしりと生い茂っていた。彼女の美しい髪と同じ色だった。 爽やかな春の風が屋敷の間を吹き抜ける。剥き出しになった少女の菊門がにわかにヒクッと息づき、ブボォッと濁った音を立てた。少女が放屁したのだった。 「あ……」と微かな喘ぎ声が聴こえた。放屁を羞じらう乙女の声だ。しかし当の少女の尻は、本人の羞恥を嘲笑うかのように、ブボバッ、ブブフォッ、ブフォオッと立て続けに屁を打ち放った。 美しい歌声とは似ても似つかない汚濁した音色。だがこれ以上なく魅力的だった。彼女ほど美しい少女ともなれば、唇の奏でる声はいうまでもなく、尻の穴から漏れ出る屁ですら人の心を惹き付ける。 しばらくそのまま放屁の音に耳を傾けた。一発、また一発と尻のあわいでガスが弾けるごとに、少女が漏らす羞恥の声が甘く蕩け始めた。 小さな菊門が花の蕾のようにむっくりと膨らんでいる。腹に貯めたガスが尽きる時も近い。 双眼鏡のレンズ越しに、綻びかけた蕾をじっと見守る。不意に少女が「うぅン」と焦れったそうに息んだ。ブホォオッと残ったガスを一息に放出した直後、みぢっと湿った音を立て、とうとう肉色の菊花が花開いた。 肉厚の花弁の中央から、焦げ茶色の長物が姿を現した。太さはちょうど少女が結っている三つ編み程だろうか。ぶりぶりぶりぶりぶりぶり……と先立って放った屁にも負けず劣らず汚ならしい音が鳴り響いている。 もはや疑う余地はない。少女は今、脱糞をしている。脱糞する姿を人に見せつけるため、窓から尻を出し肛門を露にしている。放屁は飽くまでその余興に過ぎない。 「ぁ……あァ……あァぁン……」 少女が女の声で艶かしく喘ぐ。ウンウンと力を込めて息みながら、糞が菊門を通り抜ける感覚を楽しんでいる。春の午後の陽射しを浴びて、双眼鏡を握る手がいくらか汗ばんできた。少女も暑いのだろう。菊門を囲む肌には薄っすらと汗が浮いている。 尻から垂れた一本糞が重力に従って真っ直ぐ下方に伸びていく。遠目には宙に垂れた枯れ蔦のようにも見える。だがその出所は出窓から突き出た白い尻だ。奇怪な光景ではあるが、目を離すことができない。 何よりも驚くべきは少女の放り出す糞便の長さだ。健康な人間が一時に排する大便といったらせいぜい三〇センチやそこらだろうが、彼女の尻から垂れ下がるブツはその二十倍はあると見てよい。何せ三階の窓から垂れ下がった蔦が二階の窓を通り過ぎ一階の軒にまで達しているのだから。 これがあるからどうしても童話の姫を思い出すのだ。物語の姫君は窓辺から長く美しい髪を垂らして王子を塔へと迎え入れるが、彼女の場合は尻を出して糞を垂れる。館に足を踏み入れられるのは、その長い糞の梯子を辿ることができた者に限られるのだろう。 六メートルにも及ぶ長い長い一本糞。背景となるクリーム色の壁と見比べると、同じ一本でも色や質感に違いがあるのがよくわかる。初めに出した部分ほど黒っぽく、磨かれた石のように滑らかで、中程に向かうほど太さは増し、色は艶のある茶色に変わる。今まさに少女の肛門から放り出されているのは、剥いたバナナのように繊維質な黄褐色の大便だ。ブリブリと尻の割れ目で弾ける音も心なしか大きく聞こえる。 並の便壺ではとてもじゃないが受け止めきれない多量の糞便を、美しい少女がゆっくりと時間をかけて庭の片隅へと捻り出していく。 排泄というのは本来瞬く間に終わるものだ。糞詰まりを起こした女が長らく便所に籠ることは珍しくないが、それにしたって詰まった糞を息んで押し出すのに時間がかかるのであって、便の先が尻から出てしまえば後はものの数秒だろう。しかし彼女の排泄は違う。菊門から糞の頭が顔を覗かせてから十分、あるいは二十分という時間をかけて少女はぶりぶりと脱糞を続ける。当然その間、長糞をぶら下げた尻は露になったままだ。 程なくして伸びるだけ伸びた糞がゆらゆらと妖しく揺れ始めた。風はやんでいる。では何故揺れているかといえば、出窓に腰掛けた少女が尻を揺すっているのだ。いや、腰を振っているという方が正しいか。長い排便に気が高ぶったのだろう、少女は出窓の床板に股を擦り付けて自慰に耽っていた。こうなると、終わりは近い。 「ぁッ……あぁあぁあァ────……、ッ……!」 甲高い声が響く。華奢な背中が仰け反ると同時に菊の花が大きく開き、残った糞をつるりと吐き出した。塀に囲まれた草地の下方でドサドサドサッとひどく重たい音が聴こえた。 「あ、あぁ……ハァ……あぁん……」 閉じ切ることの敵わない尻の穴からブフォッブフォッと屁を吐き出しながら、少女は絶頂の余韻に腰をくねらせた。 一通り自慰に耽って、少女が出窓を下りた頃、塀の向こうに人影が現れた。家政婦が糞便を回収しに来たのだろう。館に住まう二人の女にとって窓からの放便は日常の光景らしかった。 再び少女が窓から顔を覗かせた。今度は顔だ、尻ではない。頬がひどく赤らんで見える。 彼女は確かに羞じらっていた。しかし、それと同じくらい、排泄に興じる己の姿を人に見られることを悦んでもいる。 少女がはにかむ。こちらも微笑みを返した。それからしばし黙って見つめ合い、太陽が西に傾くまで待って互いにカーテンを閉めた。 なぜ少女は高い部屋の窓から排泄をするようになったのか。そしてなぜそれを人に見せつけようと思ったのか。意図を確かめたことはない。言葉を交わしたことすらないのだから当然だ。 彼女が窓辺に垂らした糞は日に日に長くなっている。先週見たときは一階の窓に達した瞬間途切れていたのが、今日は窓の中程まで伸びていた。時を待てば、いつか地面にまで達する日が来るかもしれない。 見事に梯子がかかったら、そのときは彼女を訪ねて門扉の呼び鈴を鳴らしてみようと思っている。