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秋風運ぶは恋紅葉。(1)

プロットなし、着地不明の勢いで書く芳村琥々現世編です。先に【想いをのせる】を読むことをおすすめします。 **** たくさんの人とすれ違いながら歩く。人混みはあまり好きではないから早くここから離れたかった。隣を歩いていた信吾さんが横断歩道の中心でぴたりと足を止めた。不思議に思い信吾さんが見つめる先を追う。そこには大きな画面に映される三つ編みのお下げの少女が楽しそうに歌って踊っていた。少し立ち止まってそれを眺めていたが、横断歩道の青の表示が点滅し始めたことに気付いた俺は慌てて信吾さんの腕を引いて小走りで渡りきった。信吾さんはまだ変わらず巨大な画面を見つめていた。 「ココちゃん相変わらず可愛いよなあ」 「いーや、ヒカリのが可愛いだろ」 信吾さんと同じく画面を眺めている2人の男の会話が聞こえて確信に変わる。 「……琥々チャン、ここが君がいた世界なんだね……」 秋風運ぶは恋紅葉(1) 「お疲れ様でしたー!」 仕事で着ていたふりふりのアイドル衣装から、私服のワンピースに着替えて帽子をかぶり事務所を後にすると少し離れて停まっていた車の後部座席に乗り込んだ。 「琥々、今日もお疲れ様」 「うん。ありがとうパパ」 車の中から街を眺めるとわたしたちのグループのポスターをちらほら見かける。新曲もたくさんの人に聴いてもらえているようで嬉しくなった。 「いや~新曲もいいねえ。琥々歌ちょっと上手くなったかい?」 「そうかなあ?……そうだといいなあ」 「……こうしてまた楽しそうな琥々を見ることができて本当によかった。もう目を覚まさないかと思ったんだよ」 ひとつき前、わたしは1ヶ月間意識を失っていた。気を失ったのはひさか先輩が作ったゲームをやってからだった。わたしと同じようにゲームを体験した会長、副会長、まこと先輩はまだ意識が戻らず入院している。 「他の子達も目を覚ますといいのだけどね」 「うん……」 意識を失っていた1ヶ月間、天誅組のみんなと過ごした日々は辛い出来事のほうが多かったけど、わたしにとって大切な思い出になった。だけど、ひさか先輩が作ったゲームの世界……つまり今わたしがいる世界とは異なった世界の出来事だったということだ。インターネットで歴史を調べたりしたけど、確かに現実のものとは異なっていた。あの世界で出会った人たちは現実には存在しない……だけど。 『君が好きだよ』 最後の瞬間、とらさんに囁かれた言葉を思い出すたびに全身が熱くなった。あの時とらさんが、わたしに向かって言った「好き」は、どういう好きなんだろうと考えてしまう。とらさんから妹のようだとはよく言われていたからそういう意味で?人として好きという意味で?それとも、恋愛感情的な意味で……って、ないない!とらさんには奥さんがいたんだもん! 「また琥々が意識を失っていたときの夢の話聞かせてほしいな。あの吉村虎太郎と共に行動をしていたなんてすごいことだよ」 パパが目を輝かせて言う。パパは幕末の歴史が好きで、特に土佐の人たちが好きなんだそう。意識を失っていたときのことを少し話したら興味を持ってしまったのでちょっとずつ話していた。 「バーチャルゲームの世界での出来事だから史実とは異なるんだけど……」 「パパは歴史のゲームも大好きだから大丈夫だよ!いやまさか琥々と幕末の話が出来るなんて夢のようだ……!」 「あ、あはは……っ、パパ停めて!」 「え?! 」 家に近づいてきたそのとき、歩道を歩く2人の男性の姿をとらえたわたしはパパに叫んだ。パパは慌ててハザードランプのボタンを押して車を路肩に停めてくれた。 「なんだ、どうしたんだい急に。忘れ物かい?」 「……っごめんなさい、ちょっと待っていて!」 「あ、ちょっと待ちなさい…! 身なりを整えてからじゃないとバレるよ!?」 わたしは慌てて車から降りると2人の男性に向かって全速力で走った。自分の身なりなんて気にしていられなかった。だって、だって、あの後ろ姿……! すれ違う人たちがわたしを見て「ココちゃんだ」と言っているのが聞こえた。 「すいません!!」 わたしの声に2人は振り返る。わたしの姿を見ると大きく目を見開いた。 「琥々、チャン……?」 わたしは2人に抱きついた。 「な、琥々……!」 「なんで、なんでなんで!? どうしているの!?いつからここに……っ」 「うーんとねぇ……それがよく分からなくてね。それよりも琥々チャン、周りは大丈夫なのかい?」 「周り……?」 顔を上げると近くにいた人たちがわたしととらさんとしんごさんを囲っていてスマートフォンを構えていた。カシャカシャとシャッター音が聞こえて我に返る。 「ココちゃん! この男の人たちはココちゃんの何なの!?」 「抱きついていたよな…?」 「もしかして、彼氏なの……?彼氏いたの……?」 聞こえてくる言葉にどう答えたらいいか分からず混乱する。 「あの、あの……っ」 「琥々チャン、落ち着いて」 とらさんを見上げるととらさんはギャラリーに向かって堂々と答えた。 「俺は琥々の兄です。こっちは俺の友人です」 とらさんの言葉にしんごさんがぎょっと驚いた表情を浮かべる。 「吉村、」 「確かにココちゃんと似ている気がする……」 「でもココちゃん前に兄弟はいないっていっていたような……」 わたしのことを知ってくれている人がいて嬉しい……って、とらさんどう答えるんだろうとハラハラする。 「それは俺の生活を邪魔したくないという琥々の優しさからです。……ですからここでの出来事はどうか心の中だけに留めておいてほしいです。お願いします」 とらさんが深々と頭を下げると隣にいたしんごさんも同じように頭を下げた。 ギャラリーたちは顔を見合わせると撮っていた写真を削除してくれているのかスマートフォンを触り始める。 「分かったよ。ネットにもあげないようにするよ。なあみんないいか」 「ああ。ココちゃんはお兄さん思いなんだなあ」 「っていうかココちゃんのお兄さんイケてない……?」 「私お兄さんの友人さん派かも……」 「ココちゃん応援してるよ頑張ってね」 「あっ、は、はい!ありがとうございます!!」 わたしも慌てて頭を下げるとギャラリーは去っていった。 「び、ビックリしたあ……と、とらさん…あんな嘘ついていいの?」 「まあなんとかなるさ」 「な、なんとかなるのかなあ……とりあえずわたしのパパの車に乗ってください。こっちです」 ****** 車に戻るとパパが真っ青になっていた。 「こここここ琥々!?今のは大丈夫なのかいあと誰だいその2人組は!?ま、まさか彼氏……」 「ちがうから!とりあえず車出したほうがいいと思うけど!」 「ハッ、そ、そうだね。ちょっと遠回りして帰るからね」 パパは後ろに乗ったとらさんとしんごさんの姿を何度もミラー越しにみている。 「運転に集中してほしいなあ……」 「したいのは山々なんだけど無理だよ! き、君たち琥々の一体何なんだ!?ファンか!?」 「ふぁん……?とは、何でしょうか」 「ふぁ、ファンじゃないなら尚更何なんだ!?琥々!場合によってはお説教だよ!?」 「落ち着いて聞いてほしいんだけど話していい?」 「彼氏紹介とかパパまだ聞きたくないな!」 「パパ?違うって言ったよね……?」 わたしがパパを睨み付けるとパパはしゅん……と小さくなった気がした。パパは何度か深呼吸をしてから真面目な表情になった。 「話、聞かせてもらおうかな」 「うん。……わたしもビックリしているんだけど、この2人、わたしが意識を失っていたときに見ていた夢の中の人物なの……」 「……え?」 「自己紹介遅れて申し訳ございません。俺、いや……私は吉村虎太郎と申します」 「那須信吾と申します」 とらさんとしんごさんが深々と頭を下げながら名乗る。 「え、っと……聞き間違いかな……?吉村、虎太郎…って言った?……それに那須信吾だって……?ごめん、パパ今運転するの危ないかも。ちょっとどこか停めていいかな……?」 「そ、その方がいいかも」 再び路肩に停めるとパパは車から降りて近くにあった自販機で飲み物を3本購入してきた。 「どうぞ」 「ありがとうございます。…えーっと、琥々チャン、これどうやって開けるのかな……?」 「あっ、えっとここが蓋になっているので、蓋の部分だけこうやって回してもらうと……あきます!」 「なるほど。そう開けるのか」 「街でよく見かけていたけど仕組みが分からなくて手を出せなかったんだよねえ。ありがとう琥々チャン。勉強になったよ」 「この容器に名前はあるのか?」 「これはペットボトルって言うの」 「ぺっとぼとる、か」 まじまじとペットボトルを眺める信吾さんを見てクスッと笑ってしまった。パパはわたしたちのやりとりをぽかんと口を開けて眺めていた。 「ペットボトルを知らないとは……。もしかして車も初めてだったかな?」 「はい。目的地まですぐに着きそうな便利な乗り物だなと思いました。これを使うと土佐から京へはどれくらいで着くのでしょうか?」 「高知から京都だと高速を使って約5時間くらいだそうだよ」 「何日もかからないのですか。すごいですね」 「……改めて聞いてもいいかな。君たちはいつ頃からこちらに?」 パパの問いかけにしんごさんが答える。 「一月ほど前です。気がついたらこの世界にいました。吉村とはこうして合流出来ましたが他の面々はいませんでした」 「着ている服はどうしたんだい」 「吉村と困っていたところ、老夫婦が私たちに声がけしてくださったのです。経緯を話したところ家に招いてくださり、衣服までわざわざ買ってくださいました」 「タダで頂くわけにはいかないと思いましたので我々に出来ることをさせて頂いておりました。とはいえこの時代のものに疎いので出来ることは限られていましたが……」 苦笑いするとらさん。 「なるほどね。いい人たちに巡りあえて幸運だったねえ。……じゃあ次、先程の出来事について聞いてもいいかな?」 「琥々さんと関係を持っているのではないかと疑われましたので自分が咄嗟に琥々さんの兄だと答えました。申し訳ございません」 「……なるほど。あれは琥々が悪いので仕方ない」 「う……っご、ごめんなさい……」 今度はわたしが小さくなる。 「琥々さんは皆を笑顔にする活動をされているのでしょうか。先ほど街中の大きな画面に映し出されている琥々さんをみましたが……」 「うちの子は歌ったり踊ったりして皆を楽しませるアイドルという仕事をしているんだ。男性ファンが多いグループだから、異性関連の話題には皆敏感になってしまうんだ。彼氏なんてご法度、そんな世界で仕事をしている子だから、吉村さんが兄だと機転を利かせてくれてよかった。……それでなんだけど、2人とも、琥々のところにいてくれないか?」 パパの突然の提案にわたしは固まった。 「最近ちょっと厄介な追っかけ増えてきているから牽制もこめてね。あっ、琥々が住んでいるアパートは僕が管理しているアパートでね。琥々がいる2階の部屋はすべての部屋に行き来できる、つまり繋がっているんだよ。1階の各部屋には住人はいるけど僕の知り合いしかいないし皆いい人だから安心して」 「しかし良いのですか。自分の娘が異性と共に生活するなど……」 しんごさんがパパに問いかける。 「琥々があんな風に心の底から嬉しそうに笑ったのをみたのは久しぶりでした。貴殿方は信頼できる」 かあああっと顔が熱くなった。 パパには言っていない、というか絶対言えないけど、わたしはしんごさんのことが好きだと向こうの世界にいた時に言ってしまっている。とらさんと同様、天誅組に参加される前のしんごさんにも奥さんがいた。その話はしんごさん本人から聞いていたから、叶わない恋だって分かっていたし、だからこそしんごさんと別れる前に自分の想いを伝えられて良かったなと思っていたのにこの状況。 とらさんも最期の瞬間に彼から突然想いを告げられている。とらさんのわたしに対しての「好き」が一体どれに当てはまるのかわたしはわからない。少女漫画やドラマでしか見たことがない関係がわたしととらさんとしんごさんで出来ている気がする。 ちらりととらさんの方をみると、わたしの視線に気付いたとらさんが微笑みながら首を傾げる。 大変だ、どうしよう。とらさん見ただけなのに心臓がドキドキとうるさい。 「ありがとうございます。是非ともそうさせてください」 「私からもよろしくお願いします」 2人が改めてパパに頭を下げるとパパはこちらこそ娘をよろしくお願いしますと頭を下げた。 「じゃあ家に帰る前に2人がお世話になっていた方の家に挨拶に行かなければいけないね。突然いなくなったら驚かれるだろうし」 「我々もきちんとお礼とご挨拶をしなければね」 その後、パパととらさんとしんごさんは手土産を持って老夫婦の家に挨拶に向かった。車の中から3人の様子を伺っているとおばあさんがわたしに気付いて驚いた表情をされた。おじいさんに向かって何かを話すとおじいさんもわたしのほうを見るから何だろうと首を傾げているとパパはわたしを手招きしたので車から降りてそちらに向かう。 「あらあ、本当にココちゃんじゃないの。可愛らしいわねえ」 「おふたりは琥々のファンだそうだよ」 「え!?えっとえっと、ありがとうございます!」 ペコリと深くお辞儀をしてから顔を上げるとおばあさんもおじいさんが嬉しそうに笑っていた。 「まさかあのココちゃんに会えるなんて夢のようだよ。2人には感謝しないとねえ」 「得体の知れぬ我らを約一月という長い時間置いてくださってありがとうございました」 「なんのなんの。私たちも助かっていたからね」 「またいつでも遊びにきてくださいな」 「はい、ありがとうございます」 挨拶を終え、車の中から手を振って老夫婦と別れた。 「琥々チャン、本当に有名人なんだねえ」 「以前から歌が上手いなと思ってはいたがどうりで」 「えっと、とらさんとしんごさんにはただの琥々として見てほしい、な……」 ちらりと見ると2人はもちろんと頷いてくれた。 車を走らせて30分ほどすると、街から離れた静かな場所にあるわたしが住んでいるアパートに到着した。2階に上がり3部屋ある中の一番真ん中の部屋の扉の前に立つ。 「お疲れ様。ここが私の娘が住んでいるところだよ」 パパが鍵を2つ取り出すと1つずつとらさんとしんごさんに渡した。 「部屋の鍵は失くさないように気をつけて。先ほども話しましたが、部屋同士が行き来出来るようになっていますので。中にはいったら娘の私物が散らかっているかもしれませんが」 「ちゃ、ちゃんと整頓してるもん……」 「守ってほしい点が2点あります。まず、出かける際は各部屋の扉から出ること。同じ部屋から出ると彼氏だのなんだの周りが敏感になるのを避けるためです。次に出かける際はなるべく1人で、琥々と一緒に出かける場合は時間をずらすこと。外出する際は部屋を出るタイミングをずらして後々合流するよう心がけてほしいです。中で生活する分には一緒にいていいけど人目につく場所ではなるだけ1人で行動してほしいかな」 「分かりました。注意します」 「まだまだわからないことがたくさんだとは思うけど、娘のことどうぞよろしくお願いします」 パパと別れて、とらさんとしんごさんは貰った鍵を使って部屋の中に入ったのを確認してからわたしも自分の部屋に入る。荷物を置いてから隣の部屋に繋がる扉を開けて、とらさんの元に向かった。 「とらさん」 カーテンを開けて外を眺めていたとらさんに声をかけるととらさんは微笑みながらカーテンをしめた。 「またこうして君と出会えるなんて夢にも思わなかったよ」 「わ、わたしもびっくりしました。……とらさん、怪我したところはどうなっているの?」 「傷跡はあるけど平気さ。痛みも全くないし。ほら、普通に歩いているでしょ?」 とらさんは傷が深くて最後の方は歩けなくなってしまって他の人に運んでもらって移動していたから、ホッとした。 「もう会えないと思って君に想いを告げたのにねえ」 ドキッと胸が跳ねる。とらさんを見上げると真剣な表情をしていてわたしは思わず目を逸らした。 「あ、あのね、とらさん……。あの言葉の意味が知りたいの……」 「おや、言ってしまってもいいのかい?」 胸の音がうるさい。 もし、もし異性としての好きだったとしたら、わたしはどうするんだろう。 「琥々チャン耳まで真っ赤だねえ。……そうだなあ。言いたいのは山々なんだけど……顔が怖いよ信吾サン」 振り返るとしんごさんがとらさんを睨んでいた。 「吉村、琥々に一体何を、」 「なにもしてないよ。ね、琥々チャン」 「嘘を言うな。琥々と父君に迷惑をかけるのか?」 「そんなつもりはないさ。……琥々チャンが望むなら分からないけどね?」 不敵に笑うとらさんを鋭い視線で見つめるしんごさん。 このないしょの共同生活、どうなっちゃうんだろう。

秋風運ぶは恋紅葉。(1)

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