冒頭の一万字をお見せしたいと思います。
基本これだけではなく、挿絵や音声、そして動画などを入れての作品になる予定です。
ビジュアルノベルというよりは、ムービーも入り混じった複合ノベルみたいな感じですね。
エロシーンや重要なシーンは動画で。
それだけではなく、背景も動画を使った贅沢仕様にする感じになります。(もちろん全てではありません。労力的に不可能ですね)
ジャンルは
「ミルキングゾンビパニックADV」でしょうか。
基本的に分岐点は作らず、一本道の読み物としての作品になるでしょう。
(分岐点は余裕があったら作るかも)
簡単にキャラ紹介をします。
左の子が。
青空 杏里(あおぞら あんり)
右の子が
沖田 華名(おきた かな)
です。
ちなみに、今回の文章には搾乳シーンは入ってません。
(まだそこまで進んでないです。でもプロットは出来上がってます)
あと単純に褒めてくれると作者は喜びに身を震わせ、制作期間の短縮がされるかもしれません。
それでは、乳辱ひしめく
「ミルキングオブザデッド ファーストパンデミック」
の世界の入り口を、とくとご覧ください。
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晴れた日の朝。
何事も起こらない、平凡な日常。
学生の生活というものは、毎日が同じことの繰り返しなのだ。
決まった時間に起き、決まった通学路を歩き、決まった時間に帰路に着く。
傍から見れば、機械と同じなのかもしれない。
ある大人は言う。今しかない時間を大事にした方がいい。青春は取り戻せないと。
ある大人は言う。学校なんて詰まらないものだ。早くお金を稼げるようになるといいな、と。
私は、どちらかというと前者の方だった。
やりたいこと、打ち込みたいことが明確だったのだ。それが今は青春なのかは分からない。けど、寝食を忘れるくらい、没頭していた。
私にとって「泳ぐ」という行為は、私にとっての「全て」だったのだ。
1秒、タイムが縮まるだけでも歓喜に身が震える。
成長している実感。今を生きている実感を持てる、最高の瞬間。
毎日毎日、怠い学校の授業が終わった後は、真っ先に水着に着替え、大会に向けてひたすらに泳ぎ続ける。
先生からは期待の言葉を投げかけられ、後輩からは毎日相談された。
どうすればそこまで速く泳ぐことが出来るんですか。コツを教えてください。といった具合だ。
正直、言語化出来るほどの語彙力は持ってない。だから、いつも感覚的にしか教えれなかった。それでも理解して実践している後輩達は凄いと思う。
「期待のエースは人気者だねぇ。さっきの説明、本当に日本語?」
そう、私を揶揄う人がいた。
昔からの親友、水泳のライバル。
「んもー! 本当に難しいんだからね!」
ふーん、っと、にやけながら横目で私を捉える親友。
帰りの時間のひと時。
家が近いこともあって、いつも一緒に帰っているのだ。
「ねぇ、今日もコンビニであのアイス買ってさ、いつもの所で食べようよ」
学校と家の中間地点に、程よくさびれた公園がある。
もう機能していない噴水が中央にあり、そこの端に座って遠くを眺めながらアイスを頬張る。
そして、他愛もないおしゃべりにふけるのだ。
好きな男子いないの? 最近どんな音楽にハマってる?
女子校生らしいのか。
そう思う自分は背伸びをしているだけなのか。
「杏里さ、進路とか決めたの? やっぱり泳ぐ方にいくの?」
「そりゃぁもちろん! 華名も同じでしょ?」
「うーん、私はどうしようかなって思ってさ。だって泳ぐだけが全てじゃないし」
「それ、前も言ってたよね。華名、頭良いんだからさ、もっと上の所狙ってもいいんじゃないの?」
「もちろんそれも考えてるよ! でもさ、その前に心残りあるじゃない」
彼女は、どうしても私に勝ちたいそうだった。
私に勝ったら、泳ぐのは辞めてもいいと、そう言っていた。
「何よ、今日のタイムは華名の勝ちじゃない」
「ちーがーうー! そうじゃないの! 最高の状態で勝ちたいの、私は」
ライバルと切磋琢磨し、今日は勝った、今日は負けた、と馬鹿笑いを出しながら公園で談笑する。
その時間がとてつもなく楽しく、自分の全てを肯定されてるような感覚がした。
今思えば、煌びやかな毎日を過ごしていたと思う。
それがとても懐かしく、恋しい。
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曇り空。
もう7月だというのに、冷房が効きすぎてるのか若干肌寒い教室に、私は一人でいる。
周囲のざわめきが無くなってることから、もうそれなりに遅い時間帯になってるのを察した。
鞄の中に入っているスマホを取り出し、時間を確認。
18:00と表示されている。
そりゃあ誰もいなくて当然だ。部によってはもうそろそろ帰る時間だ。
が、水泳部に限ってはそうではない。
この学校は水泳に関しては超が付く程の強豪校。夜遅くまで練習出来るようにどでかい照明塔が取り付けられてるくらいだ。
ーそれに、夏だ。
5分10分、ベンチで休憩するだけで体は火照り、風が心地よく感じる。
体力も気力もそれだけで回復するってもんだ。
でも、今日は時短の日。もうそろそろ練習上がりのはず。
だから、準備して校門で待っていよう。
重たくなった体を立ち上がらせ、鞄を手に取り、教室を後にする。
もう部活動をしていないのなら、さっさと家に帰るべきなのだが、一人は寂しい。
学校の中、一人は怖いものだ。
鈴々とした虫の鳴き声も聞こえず、人の声も聞こえない。
先生達も帰っているのか、人の気配が微塵も感じないのだ。
ーそりゃ、怪談話も一つや二つ、出てもおかしくないよね。
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コツコツと足音だけがこだまする。
道中、チラシやポスターなどが貼ってあるコルクボードが目に入った。
20xx年全国大会。水泳部 青空 杏里 さん。優勝おめでとう。
ーまだこの前のポスター貼ってるんだ。はがしといてくださいって、先生に頼んだのに。
ズキッと頭が痛む。
青空杏里。自分の名前がそこにあることに嫌な違和感を覚えるのだ。気分が悪い。
思わず、乱雑にそのポスターを引きちぎり、無理やり鞄の中に押し込んだ。
後日先生に怒られようが知ったことではないし、それに、先生も自分には強く言えないだろう。だって私の状況もよく理解しているし、「元」水泳部のエースなのだから。
ーはぁ。
やってることがただの幼稚な子供のやり方なのだと、理解はしている。
けど、内なる感情には逆らえない。
ズキッ。
また頭にチクッとした痛みが走った。
思い出したくない記憶が蘇る。
水の中。
苦しい呼吸。
真っ暗な森の中。
ーさっさと行こ。華名を迎えに行かなきゃ。
小走りに歩いていくと、段々と心拍数が落ち着いてきた。
ーー
校門まで小走りに歩いていると、そこにはいつもの彼女の姿があった。
肩より短めに切ったショートカットに、きりっとした目元。
スラッと伸びた手足とは裏腹に、大きく膨らんだ胸。
男子からも圧倒的な人気を誇り、先生や後輩からも高い支持を受ける。
おまけに成績もトップ3に入るときた、完璧超人。
ーー沖田先輩! また明日ですー!
後輩の元気な挨拶に片手で答えると、私に気付いたのか、そのまま私に向かって再び手を振りなおした。
ー華名、おつかれ。
ー杏里こそおつかれ。もう、待ってなくてもいいのにさ。
ーうん…そうだよね。待ってなくても…だよね。
ーちょっとちょっと!? 落ち込まないでくれる!?
少し冗談ぽく会話をする。
でも、こうして私の我儘に付き合ってくれるのも少し悪い気がしているのだ。
彼女には、彼女の生活がある。
ーじゃ、早速帰ろうか。
通学路は大体歩いて15分。他の生徒は自転車通学だが、私と華名は徒歩通学だ。
ー今日の練習どうだった? 大会近いんでしょ?
ーん、まぁぼちぼちかなぁ。でも一向にタイムも縮まらないし、やる気も無くなってくるよね。杏里の方はどうなの?
ー私? 私はねぇ、家で映画見ているくらいしかすることもないかな。あ、でも受験勉強はしっかりしてないとね。進路、決め直さないとだし。
もう、特待かなにかで進路が決まることもない。ポジティブで考えれば、これからの未来を自由に決めても良いということなのである。
でも、急に広大な野原に投げ込まれると、人間はかえって不安になるものだ。今までしっかりとレールに沿った人生を歩んできた者としてもは、億劫なのである。
そう言うと、華名の表情が少し暗くなった。
あの事故からそこまで時間は経ってないからか、時たまこうやって言葉を選んでくれるのだ。
ー杏里、不躾な質問で申し訳ないんだけど、まだやっぱり水が怖いの?
水が怖い。
そう、私は水が怖いのだ。
理由は二つある。
ーうん、もうダメかな。実はこの前ね、学校がみんなお休みの時にさ、こそっとプールに忍び込んだんだ。
華名の顔が驚愕の表情に変わる。
ーそれでね、飛び込みしてみたの。でも全然ダメダメ。怖すぎて軸と方向がぶれたし、潜水もまともにできやしないの。
落ち込んだーー
そう言いかけた瞬間。
ーどうしてそんな危ないことしたの!?
華名が急に大声を上げだした。
瞳にはじんわりと涙を浮かべたながら、鞄を地面に落とし、力いっぱい私を抱擁し始めたのだ。
ーやめてよ、せめてさ……一声かけてよ。親友でしょ。
鼻が詰まった声を出しながら、じっと私の瞳をまっすぐ見つめてくる。
ーご、……ごめん。ごめん、もうやらないよ
目をそらしながら答える。
馬鹿なことをした。私は、私のことしか考えていなかったのだ。自分の周りの人の事を、蔑ろにしていた。
一人で生きているとさえ思っていたのだ。でも、そうじゃない。こうやって私のことで涙を流してくれる人がいる。
ーふんだっ! 罰として今日は一緒にホラー映画の刑だからね!
感情の切り替えが上手な彼女は、こうして私を引っ張って行ってくれる。
さっきまでの雰囲気が嘘みたいで、涙を拭きながらも口角は上げてくれるのだ。
ーうん、明日はお休みだし、いつまでも付き合うよ。じゃ、私の家来る?
沢山お菓子とジュースを買って、パジャマに着替えて、二人で身を震わせながら楽しむ。夏の醍醐味。
以前、部の合宿で行って以来、何かと病みつきになっているのだ。華名の悲鳴ったら凄いのなんの。乙女まっしぐらだ。
ーじゃあスーパー行く?
ー行こう行こう!
ーー
学校から家を通り過ぎ、少し歩いた所に、大きなショッピングスーパー「エオン」がある。
その先ももう少し歩くと、華名の家があるのだ。
私達は何かとこのエオンに来る事が多い。中央駅周辺に足を運べばもっと小洒落たお店が並んでいるのだが、大体の用事はこのエオンで収まってしまう。
地下鉄で二駅分で、物の10分で到着するのだが、やはりそこまでするのは面倒だ。
ー鞄にしこたま入れていこーぜー!
子供の用にはしゃぐ私達。
華名と一緒にいると、嫌な事も忘れれる。
ーやっぱりポティチとコーラでしゅ定番はね! 杏里も早く決めようよ。
ーちょっとちょっと、晩御飯はどうするのさ。
ーあ、確かにそうね。簡単な物にする? うどんとか?
うどんパックなら簡単に調理出来る。
粉末状のだし汁も家にあるし、ネギとか揚げ物とか入れればそれっぽくなるでしょう。
ーにしても真面目だねー杏里は。一日二日くらい、ただれた食生活でも構いやしないのにさ!
ーだーめ! お父さんとお母さんと約束したんだから。食事だけは最低でもきっちり取りなさいって。華名の親も同じ事言ってたでしょ!
はて? 初耳ですが。みたいな反応を見せる彼女。
ボケをかますなボケを。一緒に二人で空港まで見送った時念を押されたじゃないか。
ーぶー、覚えてますよー。にしても、一体いつ帰ってくるんだろうね本当。もうそろそろ一年経つんじゃない?
自衛隊、しかもその中でも名前を言えない程の特殊部隊に配属されているらしい私達の両親。
海外で長期任務に就くからと、ずっと家にいないのである。
そして、それは華名の親も同じ。同じ部隊に配属されたとかなんとか。
ー今夜電話してみる? 一月前には電話出来たしさ。元気にやってるみたいだけど
ーえ!? そうなの!?
ーうん、全然帰れる目途が経ってないんだってさ。
ーなにそれー、私何も聞いてないんだけど!
不貞腐れる華名ちゃん。
なんだかんだ、彼女も親に会えなくて寂しいのだ。
そんな寂しい二人だから、こうして寄り添い支えあっている。
ーぶー、いいもんね。でももうちょっと時間空いてからにしようよ。時差的にまだ向こうは朝迎えてないんじゃない?
確かにそうだ。
それなら深夜手前で電話してみよう。
ーほらほら、じゃあ今夜のご飯はうどんにして、それでお菓子買って帰ろう!
二人で手分けして食材と飲み物を漁る。
私は食材と飲み物。華名は主にお菓子系だ。
ーうーんと、果物系のジュースは家にあるから良いとして、ここで買うべきものはっと。
やはり炭酸は欠かせない。
炭酸は全てを解決する。楽しいこと、辛いこと、踏ん張り時。人類の傍らには常に炭酸が置かれていたのだ。それは私でも例外ではない。
そうして飲み物を選んでいると、お酒のコーナーまで足を延ばしていた。
まだまだ飲める歳ではないが、興味はある。
大人達が好んで飲んでいる飲み物だ。さぞかし美味いに違いないのだ。
ーゴホゴホ
ーゴッホっ!
ーゲホォッ!
意識はしていなかったが、其処ら辺で咳き込む男性が多い。
最近色々な病気が多いのだ。特に一番目立つのが「M病」
空気感染するらしく、じわじわと感染する者が後を絶たない。それに関係しているかは解らないが、こうして咳き込む男性が増えているのだ。
今の所、「M病」に感染するのは女性だけとなっている。だから、男性が咳き込む理由は別にあるとニュースで言っていた。が、やはり世間の目は今一番流行っている奇病と関連付けたがっている。
ー本当、多くなったな。なんだか気味が悪い。
私も「M病」だ。
しかも、重度の副作用付き。
それが原因で私は泳げなくなったし、身を案じながらの生活になっている。
今の所、治療法が無い。
お酒のコーナーを通り過ぎる間、何人かの男性の視線が一極に集中しているのを感じた。
もちろん理解している。
私は、普通の一般女性よりも遥かに胸部が発達しているのだ。
おかげで、生まれてこの方ずっと嫌な視線を送り続けられている。どれだけ服でごまかしたところで、それが無くなることはなかった。
電車に乗って痴漢にもあったし、しつこく付きまとってくるおじさんだっていた。そのせいで昔から大の男性嫌いなのである。彼らは私の体しか見てないし、考えてる事も大方予想はつく。
ーあー気持ち悪い。早く目ぼしい物カゴの中に入れてさっさと華名と落ち合おうっと。
華名曰く、大きくてうらやましいとのことだ。自分だって十分に大きいくせ、欲張りな奴。
ーゴホゴホ
ーゴッホっ!
ーゲホォッ!
咳き込む男性の間を抜け、お菓子コーナーに向かった。
ーー
ーどう? 目ぼしい物は見つかっーーって、詰込みすぎでしょ。
華名の持っているカゴの中には大量のお菓子。
しかも塩味とチョコレートが均等に入っていることから、宴を始める気満々らしい。
ーど? センスの塊じゃない? 明日の朝もこれで凌げるね!
とても学生のお小遣いじゃ買えない量。
だが、私達は両親のおかげで何不自由無い生活をすることが出来ている。
特に、華名の両親は華名の事を溺愛しており、彼女が欲しいと言った物は即断で買ってしまう程。
が、そこは賢い彼女。量より質を求めている事から、ここぞとばかりにでかいおねだりをするのが得意なのである。
ー朝ごはんがお菓子なの? そんなんじゃ太っちゃうぞ。……主に私が。
今は運動をしてないからか、以前に比べて少し太っちゃったのだ。
主に胸がね。
ー大丈夫よ! 気にしすぎだよもー! じゃ、早く買って家に帰ろうよ!
大量の商品をレジに通し、しっかりと袋に詰め込む。
結構な重さになったが、なんとか一人で持てる程度だ。
ーねぇ、さっきのレジを打ってるおじさんも、並んでるおじさんたち、お兄さん達もさ、全員マスクしてたね。しかも咳き込んでた。
華名が不安げな表情を浮かべながら、私の顔を見つめてきた。
ーうん、ここ一週間で明らかに多くなったよね。家帰ってネット見ようか。
ーー
華名は断ったが、一旦荷物を置くために彼女を家に帰す事にした。
パジャマや他にも入用だし、お泊りするのだ。スマホの充電器とか、最近買ったノートパソコンとか。
テレビに繋いで月額制のアプリで映画を見るだろうし。
重い荷物を両手で持ち、なんとか家に到着。
玄関のカギを開けて、家の扉を開く。
そして、扉の中に入る前に、一回周囲を見渡すのだ。
ー誰もいないよね。
一度、ストーカーが家に押し入りそうになりかけたことがあった。
間一髪なんとか押しのけられたが、警察が来るまで遠い時間を過ごしたことがあるのだ。
その後、犯人は逮捕されたが、同じ状況にならないようにこうして警戒を習慣付けた。
ー……何か、視線を感じるような。
背中辺りに、ぞくりと寒気が走る感覚がした。
何かに見られているような、監視されてる感覚だ。
ー流石に気のせいだよね?
こんな感覚、初めてだった。だから猶更余計気になったのだ。
何か、内側から訴えられているような感覚。本能的な恐怖。
静かに、耳を澄ましてみる。
ー……
ー……
何かを啜る音と、こもった女性の声のような音が聞こえた。
時折、獣の叫び声みたいな音も混じっている。
ー……
ー……
啜り音は大きくなったり小さくなったりを繰り返していた。
女性のこもった声は変わらずだ。手で口元を抑えられた声がこんな感じだ。
音は反響しているのか、どこから発生しているのか分からない。
ー気味が悪いな。もう家の中入ろうっと。
よくあるやつだ。
幽霊よりも、現実の人間の方が怖いって。
ーふぅ、気にしすぎだよね。
両親も、ボディガードの一人くらい雇ってくれてもいいのにさ。
ま、昔からの知り合いで、守ってくれるじいさんもいるにはいるけど、最近体調が悪いってので連絡取り合ってないしな。
お見舞いに行こうとしたのに、危ないから来ちゃだめだって言うんだもん。
先ほど買い込んだ荷物を机の上に置き、飲み物を冷蔵庫に入れ、部屋へと上がった。
窮屈な制服を脱ぎ散らかし、余裕のある寝間着へと身を包む。
ーむ、また大きくなってる? もういいのに……
「M病」になってからというものの、胸の貼りがまた一段と上がってしまった。
以前はHカップくらいだったのに、今はJカップになっている。
しかもそれだけじゃない。
ピンポーン
と、チャイムが鳴った。
急いで階段を降り、扉を開ける。
ーごめんね遅くなった~。いやぁ、なんか家の近所にパトカーが止まっててさ。野次馬してたんだよね。
ーパトカー?
ーうん、お隣の新婚さんの家だったよ。状況はよく分からなかったけど、なんか旦那さんが錯乱してて警察官の人に嚙みついててさ! もうやばかったのなんのって!
そう言いながら、華名はスマホの画面を見せてきた。
けたたましいサイレンの音と、警察官の怒声。そして周りのギャラリーの声が飛び交う。中々の混沌っぷりだ。
玄関に突っ立ってぼーっと虚空を見ている男性を、警察官の人がなんとか言葉で説得しようとしている。
ーうわー怖っ!
ーでしょでしょ!? ここからがやばいんだよ!
玄関の旦那さんであろう人が急に獣の声を上げたかと思えば、目の前にいる警察官に対して襲い掛かり始めたのだ。
必死に抵抗する警察官だが、右腕をこれでもかと嚙まれている。
すると、後ろにいたであろう警察官たちが次々に飛び掛かり、なんとか旦那さんを羽交い絞めすることに成功。そのまま両手両足に手錠を嵌められ、パトカーの中に放り込まれたのだ。
ーうわーお、ナニコレ。
遅れて救急車が到着し、玄関に倒れている警察官をタンカに乗せた後、続いての後発隊が家の中に入っていった。
動画はここまでだ。
ーねね、これさ、オマエチューブに投稿してみてもいいかな。結構再生数いくかもよ!
ーんんー、どんな反応来るか面白そうね! 無線つなげる? パスワードは冷蔵庫に貼ってあるから。
華名は嬉しそうに冷蔵庫へと向かっていった。
最近新しく買い替えた無線機だからか、まだ彼女のスマホには登録されてない。
ーへへーっと、これでアップロード完了!
そして、背中に背負っているリュックの中から、一枚のノートパソコンを出し、テレビの前に机の上に広げた。
最新型のパソコンだ。高校生が持って良い物かどうか疑問が浮かぶ程のモリモリスペック。
華名はゲームとかも好んでやるし、こうした日常の動画を撮って編集するのも趣味の一つだ。
ーえーっと、ケーブルをここに挿して、ミラーリングモードにして……出来た。
テレビ画面には、先ほどの動画が大画面ではっきり映っていた。
もともと超高画質で撮影していたからか、ズームすればするほどくっきりと見えてしまうのだ。
ーうげー、何やってるのよ。
ーいや、少し気になってさ。遠くからだったから肉眼では見えなかったけど、なんかあの旦那さんおかしくて
ーおかしいって、もう挙動おかしいじゃないの。
ーううん、そうじゃないの。まぁ見てなって。
すいすいとカーソルを動かし、ズーム率を徐々に上げていく。
100% 110% 120%。
ーほら、見て見て。顔と口元。
気持ちが悪いのであまり見たくなかったが、華名がどうしてもというので横に並んで見ることにした。
確かに、違和感がある。
ー皮膚が……うげぇ、なにこの色。
明らかに肌色じゃない。腐食しているような……これって。
ーゾンビみたい。
華名が動画を止めてさらにズームを掛ける。
口元には真っ白な液体。口の中から外に垂れているのだ。
ーねぇ杏里、これってさ、M病のやつじゃないの。
ーそう……ね、言われてみれば、確かに。
M病の最大の特徴、それは年齢や体の状態に関係なく、「母乳」が出ることである。
世界保病機構がその名を「MILKING SICK」と命名したことにより、日本では「M病」という名前で定着することになったのだ。
この「M病」が出てきてから1年が経つ。が、未だ解明の目途は経ってないのだ。
ーつまり、旦那さんは奥さんを襲ったってことだよね? そしておかしくなった?
ーそうなる……のかな。
「M病」が出てからというもの、性犯罪の件数が飛躍的に上昇している。
それもここ半年間でだ。
最初の頃は数少ない奇病扱いだったのに、じわじわと感染者を増やし続けているのだ。
ーやっぱり、最近変な事件が多いのもM病のせいなのかな。どんどん広まってってるよね。
怖いのが、加害者である人物が完全に暴徒化しているのだ。その後の処理がどうなったか知らないが、ニュースで言うには、麻酔を投与して強制的に眠りに着かせ、体内にあるウイルスが減退してから起こすという手法らしい。
が、国民はそう簡単に騙す事などできやしない。
そもそもどうやってウイルスを撃退するのか。
それに、男性側でM病に掛かった報道なんて一つもない。絶対に別のウイルスなんだろうけど、解明が出来てない以上、何も言えないのだ。
ー私も気をつけなきゃね。男性に襲われでもしたらひとたまりもないよ。
そう言いながら立ち上がり、キッチンへ足を運んだ。
ともかく腹ペコなのだ。うどんも三人前くらい食べちゃうぞ。
ーあ、それなら私ネギ切るね。麺はとだし汁が頼んだよ!
ああいった映像を見た後でも食欲を失わないのは、華名とホラー映画を見ているからだろう。
超絶グロテスクなのを見ても、鶏肉とか焼いてペロリと平らげてしまう私達である。耐性が高いのだ。
ーさっきのってさ、ゾンビだよね? 明らかにゾンビだよ! だって噛みついてたしさ!
ーだとしたら、さっきの警察官もゾンビになっちゃうよね。噛まれたてたしさ。次第にゾンビになって、警察署の中をパニックにするかも。そして町中に感染が広まって街を脱出するゲートが閉まって出られなくなって、私達は決死のサバイバルをするって訳!
ーゲートが閉まるのはやだなぁ。でもさ、その展開だったら杏里と私は大丈夫だよね。両親軍のなんか偉い立場だし、ゲートの向こうは行かせてもらえるよ。特別で。
あくまで映画の話しだが、ゲートに関しては現実だ。
この街は自衛隊の管轄で重要な地点だそうで、なんと国内なのに検閲をしないと中に入らせてくれないのである。
ー杏里はまずどこに逃げる?
どこに逃げる、か。
映画とかだとショッピングモールが妥当だろう。
が、現実だとどうかな。モールこそ危ないのではないだろうか。
あんだけ広いと管理も大変だろうし、逆に大量にゾンビが入り込んだら逃げ場も無い。追い詰められて終わりだ。
ー私ならー……妥当に基地に逃げるかな。武器もいっぱいあるだろうし、それに中にいる人は強いだろうし。
それに、お父さんもお母さんもいる。
ー華名はどこに逃げる?
ー私はねー……やっぱモールかな。んで調子に乗って洋服とか宝石とか頂いていくぜ!
あ、一番最初にゾンビに食われるやつじゃんそれ。
そして私が探しに行った所に君は現れるんだ。うわーぁ、おぉーぅとか獣みたいな叫びをしなが……って、あれ?
私の突然の停止に違和感を感じたのか、華名が肩をさすってきた。
ーどうしたの杏里? お湯湧いてるよ?
華名の言葉に意識を戻され、とりあえず火を止める。
ーねぇ華名、さっきの映像でさ、旦那さん叫んでたじゃん。獣の絞った声みたいにさ。あれってもっかい聞ける?
ーへ? 聞けるけど、どうしたの?
ーいや、ちょっと気になってさ。なんか直感なんだけど……。
りょーかいと言い、華名は手を止め、テレビの前まで移動し、パソコンのキーボードを凄い速さで打ち込み始めた。
テレビ画面にはなにやら意味不明なウィンドウがいくつも展開され、その中には小難しそうな英語がずらりと並べられている。
私も料理を止め、華名の隣に座り込んだ。
ー杏里の直感ってさ、昔からよく当たるじゃん? あのストーカーの時もそうだったしさ。
小さい頃からの仲だからこそ、私の不安には敏感になってくれている。
ーありがとう。で、これは何をしているの?
打ち込みが終わり、再び再生ボタンを押す。
すると、先ほどあったけたたましいサイレンの音、ギャラリーの声、警察官の声が綺麗に無くなっているのだ。
聞こえるのは旦那さんの音だけ。
ーこの最新スマホはね、空間音響に対応してるんだ。カメラから光を出して計測してー……って、そんなことはどうでもいいね。ほら、聞いてみようよ。
難しい事はよく分からないが、簡単に言うと、対象を絞ってそこの音以外を消す技術らしい。
再び、耳を澄まして聞いてみる。
微かに聞こえるうめき声。完全に映画のゾンビの声だ。そして急に大きくなる。
ーやっぱり。
ーやっぱり? どうしたの?
一つ深呼吸で前置きし、心を落ち着かせる。
ーあのね、私が家に着いたとき。この声が聞こえたの。そして何か液体を啜る音もね。