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小説 琵座流島の新年馬巫女祭 前編

 常春の温暖な気候の内海に浮かぶ、人口千人程度の島、琵座流《ビザール》島。  橋も定期航路もなく、島民が所有する舟でなければ行き来できず、本土と隔絶されたこの島には、いっぷう変わった風習がある。  それは、毎年の正月に行なわれる、新年馬巫女祭。  もっとも、その祭が奇異であると感じるのは、島外の人のみ。  18歳の島の娘、喜多城加奈(きたしろ かな)をはじめ、琵座流島に生まれ育った者にとって、新年馬巫女祭は連綿と受け継がれてきた伝統行事にほかならない。  ともあれ、加奈が馬巫女に選ばれたのは、12年に1度の午《うま》年。  伝統ある馬巫女祭が、例年以上に盛大、かつ厳格に行なわれる年だった。  そのため、例年なら冬至前後に開始される馬巫女の訓練は、12月に入るとすぐ始まった。 「午年の馬巫女訓練、よろしくお願いします」  琵座流島の中央部に存在する琵座流神社の社務所。島の娘を馬巫女に仕立てる役割を担う巫女長を前に、加奈が深々と頭を下げた。 「午年の新年馬巫女祭まで、加奈さんは設えの間から1歩も出ず訓練を受けることになります。そのあいだ、ほとんどの時間をわたくしと過ごすことになります。こちらこそ、よろしくお願いしますね」  緊張して首を垂れた加奈に対し、優しくほほ笑んで答えた巫女長は12年前、午年の馬巫女を務めた女性である。  村にとってもっとも大切な新年馬巫女祭をとり仕切る巫女長は、村長や村議会議長より深い尊敬の念をもって島民から接せられる。巫女長の座を引いてからも、村内では特別な便宜が図られる。  そして、午年の馬巫女の務めををつつがなく果たすと、将来の巫女長の地位が約束される。  裏を返せば、それだけ午年の馬巫女の務めが重要だということだ。  もし午年の馬巫女が務めを果たせなければ、その後の12年間、島は琵座流の神さまの加護を失い、ありとあらゆる災厄に見舞われ続けるとされている。  加えて、午年の新年馬巫女祭が行なわれるのは、12年に1度。前回はまだ6歳だった加奈には、祭りの記憶がない。  午年の新年馬巫女祭は島外不出の秘祭であるから、年長者も多くを語らない。  島にとって最重要の祭という情報と、祭の概要しか、加奈は知らされていない。  加奈が緊張しているのは、そのためなのだ。 「加奈さん、肩の力を抜いてください。あなたなら、きっと大丈夫ですよ」  そんな加奈に、巫女長が優しく諭すように語りかける。 「かつて午年の馬巫女の務めを果たし、12年間巫女長を務めあげてきたわたくしが保証します」  そう言って加奈の肩を抱き、巫女長は社務所奥の馬巫女設えの間――午年の新年馬巫女祭までの期間、加奈はそこから出ることが許されない――に誘《いざな》った。  広さは8畳ほどか。壁も床も天井も木製の、窓のない設えの間。そこで服をすべて脱ぎ、生まれたままの姿になった加奈に向かって、巫女長が口を開いた。 「それでは、馬巫女の装具を身につけていただきます」  そう言って巫女長が取り出したのは、白い光沢ある奇妙な素材の全身スーツと、馬具を模した赤い革製の装具だった。  それは、巫女長が着ている巫女服と共通の配色である。  本土では紅葉前線が北上しつつある頃、加奈は専用装具を誂えるための、詳細な身体測定を受けた。  それで作られた2着の専用装具のうち1着が今、加奈の目の前に並べられた。  祭り本番の専用装具にはいっさいの汚れ穢れがあってはいけないから、訓練で1着を使用し、もう1着は本番で使われるのだ。 「装具の白いラバースーツは、加奈さんのサイズより小さめに作られており、伸縮性を活かしてぴっちり着る仕様です。そのため着つけにさきだち、肌に潤滑用の香油を塗り込めをいたします」  ラバースーツは、見た目どおり夏は暑く、思いのほか冬は寒い。  そんなラバースーツが屋外の祭りで使われるのは、琵座流島が常春の気候だからである。  とはいえ、古来よりラバースーツや革製装具が使用されていたわけではない。  この国に西洋文明が定着し始めた頃、彼の地で好事家たちが行なっていたビザールな遊びのひとつ、ポニープレイが間違った形で島に紹介され、島外ではフェティッシュアイテムに分類される装具が、馬巫女用として定着してしまったのだ。  ともあれ、琵座流島で生まれ育った加奈にとっては、馬巫女装具は神聖なもの。着つけに必要な香油の塗り込めも、尊い行為にほかならない。  そう考え、裸身を隠しもせずに立つ加奈の前で、巫女長が香油の壺に手を浸けた。 「それでは、始めます」  背後に立った巫女長が告げた直後、香油まみれの手が肩のあたりに置かれた。  そして、香油が塗り広げられる。  肩から二の腕、肘、前腕部。まずは右側、続いて左。  香油でヌルヌルの手が肌の上を動くほどに、どこか妖しい感覚が駆け抜ける。  手の甲まで香油が塗り込められたところで、巫女長の手はいったん加奈の身体を離れた。  もちろん、塗り込めが終わったわけではない。  再び手を壺に浸し、香油を足して背中、腰、お尻の肉。塗り込めが進むほどに、妖しい感覚が強くなっていく。  もう1度手を壺の香油に浸し、巫女長が加奈の前に立った。  鎖骨のあたりから、デコルテライン。  巫女長の手の動きを見ながら、妖しい感覚が強まっていくのを感じていると、香油まみれの手が胸の膨らみに移動した。  手のひらで乳房を包み込むように優しく香油を塗り込められて、さらに大きくなった妖しい感覚が、乳房にゾワリと駆け抜ける。 (いえ……)  そこで、加奈は気づいた。 (この感覚は……)  性の快感だ。  これまで緩いものだったゆえ快感と認識されなかったそれが今、はっきりした性の悦びになった。  実のところ、加奈が快感を得ているのは、琵座流神社に伝来の香油に媚薬成分が含まれているせいである。それが経皮吸収されて、加奈は性的に昂ぶった状態に陥り始めているのだ。  とはいえ、加奈はその事実を知らない。知っている巫女長は教えない。  知らず教えられないまま、わが身の昂ぶりにとまどう加奈に、乳房への塗り込めを進めながら巫女長が語りかけた。 「加奈さん、悦びを得られていますね?」 「は、はい……すみません」 「謝ることはありませんよ。それは馬巫女として、とてもよい兆候です」  午年の新年馬巫女祭は、琵座流の神さまと、神さま好みの姿になった馬巫女によるまぐわいを象徴する行事である。  それは、島で生まれ育った者なら、誰もが知っていることだった。 「そして巫女長たるわたくしは、琵座流の神さまの代理人。わたくしの手による午年の馬巫女訓練は、神さまとの睦事に準ずる行為。それで馬巫女が悦びを得ることは、吉兆とされているのです」  巫女長に言われたところから、乳房に生まれる快感がいっそう大きくなった。  快感を得ることが吉兆と聞かされ、精神が肉体の昂ぶりを抑制しなくなったのだ。 「加奈さん、気持ちいいのですね」 乳房への執拗な塗り込め――その艶かしい手つきは、もはや愛撫と呼んでも差し支えない――を続けながら、巫女長が声をかける。 「は、はい……気持ちいいです」  答えて巫女長の目を見、加奈はドキリとした。  巫女長の瞳に、妖しい光が宿っていたからだ。  それは、巫女長もまた、手から媚薬成分を経皮吸収しているゆえ。  加奈と同じく性的に性的に昂ぶった状態で、巫女長が乳房に香油を塗り込める。 「はっ、ふっ、はぁ……」  淫靡な手つきで乳房を愛撫され、緩く開いた口から漏らす吐息に甘みが混じり始める。  午年の馬巫女に選ばれた娘が、ますます肉を昂ぶらせていく。  とはいえ、現時点での巫女長の目標は、加奈を性的に昂ぶらせることではなかった。  香油の媚薬成分を手から経皮吸収して高揚しつつも、目的を忘れていない巫女長が、加奈の乳房から手を離す。  3たび壺に手を浸して香油を足し、残る部分への塗り込めを続ける。  お腹、わき腹。敏感な乳房から手が移動しても、塗り込めにともなう快感は生まれ続ける。  下腹部、鼠蹊部。媚薬成分を含む香油で肌が濡れ光る面積が増えるほどに、加奈の昂ぶりは強くなる。 「はっ、ふぅ、はぁ……」  漏らす吐息に甘みが増す。  火照りを覚えていた秘所が、しっとりと潤い始める。 「加奈さん、お股が潤っていますよ?」  脚に香油を塗るためにしゃがみ込んだ巫女長に、そのことを指摘された。 「それは、とてもいいことです。琵座流の神さまも、きっとお喜びになっておられます」  そのうえで言われ、午年の馬巫女として認めてもらったと感じ、恥ずかしさより嬉しさが強くなった。  そんななか、脚への塗り込めも終わった。  手ぬぐいで手についた香油を拭き取り、巫女長が白いラバースーツを手に取る。  背中のファスナーを開いたラバースーツを手に、再び加奈の前にしゃがみ込む。 「香油で滑りやすくなっています。わたくしの肩に手を置いて身体を支えながら、片方ずつラバースーツスーツに足を入れてください」  言われてそのとおりにすると、ラバースーツの中は冷たく、肌にまとわりつくような感触があった。 「独特な感触でしょう? でもすぐ、慣れますよ」  声をかけ、5本指に分かれたソックス部分に足がきちんと収まったことを確認し、巫女長がスーツを持ち上げる。  足に続いて脛が、膝が、太ももが、白いラバーの膜に覆われていく。 「少しのあいだ、持っていてください」  脚のつけ根近くまでラバーに覆われたところで、スーツの上半身部分を持たされた。  そのあいだに巫女長が立ち上がり、加奈が持っていた上半身部分を受け取り、背中の開口部を広げる。 「では、両手を差し込んでください」  言われたとおりにすると、腕が白いラバーに覆われた。  足のソックス部分と同じように、グローブ部分に指をきっちり合わせて、巫女長が加奈の背後回る。  後ろからスーツをぐいっと引かれると、肩までスーツに収められた。  それから、背中側のファスナーが閉じられていく。  腰、背中。ときおりスーツを後ろ側に引っ張られながらファスナーを閉じられるほどに、身体にスーツが密着する。  ただ密着するだけでなく、軽く締めつけてくる。  ただし、胸には加奈の乳房に合わせてマチが作られており、周囲は締めつけられても膨らみが潰されることはなかった。  そしてファスナーを閉じ切られたあと、ミチミチと音をたてながらラバーを擦って微調整されると、加奈の首から下は、白いラバーに覆い尽くされていた。  ただ、1箇所。女の子がもっとも隠しておきたい媚肉と肛門の部分が切り抜かれ、露出させられている。  加奈がそのことにとまどっていると、巫女長が優しく声をかけた。 「大丈夫ですよ。馬巫女装具にお股を覆う金属製のカバーが取りつけられていますから」  その言葉に安心したところで、赤い馬巫女装具の着つけが始まる。  山のように積まれたぶ厚い革製品の中から、ワンピース水着のような装具を手に取った。 (いえ、これは……)  水着などではない。  胸はオープン、というより、覆うのは乳房の下端、バージスラインまで。肩にかけるストラップはなく、胸の上部にはベルトが取りつけられている。  背中に編み上げ部分が設えていることから、コルセットと呼ぶべきかもしれない。  側面の腰にはふたつの頑丈そうな金属製リング。  そしてお股の部分には、巫女長の言葉どおり、金属製のプレートが。 (でも……)  小水の排泄用だろう。本体から少し浮かせて針で突いたような穴が無数に穿たれた金属板が取りつけられたプレートは、後ろ半分が丸くくり抜かれて開口していた。 (これじゃ、お尻の穴が見えちゃうけど、きっと……)  大きいほうの排泄は、小水のように極小の穴が開いていればいいわけではない。  新年馬巫女祭当日、外に出る際は、蓋で隠されるに違いない。  そう考えていると、巫女長が編み上げをめいっぱい寛げて加奈の前にしゃがみ込んだ。 「水着やパンツのように、足から穿くように着てください」  言われて、コルセット水着形装具に足を通す。  単体でも立っていそうなほどぶ厚い革で作られたそれを、ぐいっと引き上げられる。 「ひっ……!?」  短く悲鳴をあげたのは、熱く火照り潤い始めた媚肉が、冷たい金属板に触れたから。 「んふっ……」  甘みを帯びてうめいたのは、敏感な女の子の肉を、硬い金属板で擦られたゆえ。  ともあれ、このたび巫女長はそのことに触れず、装具の装着を進めた。  コルセット部分の上端をバージスラインに合わせ、乳房上側のベルトが背中で締めて留められる。  それから、編み上げ紐の締め込みが始まった。  まず、編上げの中央部で紐をぐいっと引かれる、  それでコルセットの革がインナーのラバースーツに密着したところで、途中で弛んだ紐を指で引っかけて締め、また中央部でギューッと締め込み。  それを何度か繰り返すうち、お腹が苦しくなってきた。  さらに締め込まれると、胸郭の動きが制限され、深く大きく息を吸い込むことが難しくなった。 「はっ、はっ、はっ……」  媚薬入り香油による肉の昂ぶりが残っていることも相まって、緩く開いた口で浅く短い呼吸を繰り返すようになったところで、ようやく締め込みが終わり、編み上げの紐が結ばれた。 「馬巫女コルセットに慣れるにつれ、締め込みをきつくしていきますが、今日のところはこのあたりにしておきます」  言われて視線を落とすと、私のウエストは、自分のものとは思えないほど細くくびれていた。  それから巫女長が手にしたのは、つま先部分が馬の蹄を模し、靴底に蹄鉄が取りつけられた、踵のないハイヒールのサイハイブーツ。 (ほんとうに……)  こんなブーツを履いて、歩けるのだろうか。いや、立っていることすら困難かもしれない。  ふつうのハイヒールすら履いたことのない加奈がおののきながら考えていると、巫女長が優しく声をかけた。 「見るだけだと、不安になりますよね。でも、履いてしまえば、意外とへいきですよ」 「ほ、ほんとうに?」 「はい。わたくしが言うのですから、間違いありません」  言われて、思い出した。巫女長は、午年の馬巫女経験者。彼女はかつて、同じブーツを履いて務めを果たしている。 「立ってままで片足ずつ履くと、途中でバランスを崩しやすくなりますから、この椅子に座ってください」  その言葉に従って、巫女長が用意した丸椅子に座り、ブーツを履かせてもらう。  まずは右足。  ブーツに足を差し込むと、つま先立ちのような形を強いられた。太ももの裏側が椅子の座面から離れ、膝が左より十数センチ近く高くなった。  つまりそれが、馬巫女ブーツの高さ。  そうと思い知らされながら、左足にもブーツを履かされだところで、巫女長が加奈の手を取った。 「わたくしが支えますから、安心して立ってください」 「はい」  巫女長に答え、思いきって脚に力を込めると、思いのほかあっさりに立てた。 「馬巫女のブーツの靴底は広く、かつ身体が若干前傾するように作られています。そのため踵荷重にならないので、ヒールがなくても安定しやすいのです。もっとも、体幹の強い加奈さんでなければ、今ほど容易には立てなかったでしょうが」  その点も含めて、加奈が午年の馬巫女に選ばれたのだろうか。  ともあれ、テンション強めのストレッチ素材で作られたブーツの筒を脚にピッチリ張りつかせながら引き上げられ、上端のベルトをコルセットに接続されて、巫女長が次の装具を手にした。  それは、ひとことで言うと、二等辺三角形の革袋。  開口部のある底辺から頂点付近まで、コルセットのものに似た編み上げが設えられており、頂点に金属製リング、各所にベルトが取りつけられている。 「馬巫女のアームバインダー、腕の拘束具です」  その装具の名を口にして、巫女長が加奈の背後に立った。 「両腕を後ろに。まっすぐ揃えてください」 「は、はい……」  拘束されると知り、いくばくかの緊張感をもって従った加奈の腕が、革袋に収められる。  揃えた指先が内側の先端に当たると、革袋の縁は二の腕の半ばに達していた。  縁に取りつけられていたベルトが、右腋の下から身体の前面に引き出され、肩にかけて再び背中に回され、バックルに留められる。  左腋からもベルトが引き出され、同じように肩を経て背中で留められる。  これで二等辺三角形の革袋は、加奈の両腕を閉じ込めたまま、下にずり落ちなくなった。  だがアームバインダーの拘束は、ここからが本番だった。 「胸を張り、肩を後ろにすぼめる感じで、両肘をくっつけるようにしてください」  言われて従うと、編上げ紐の締め込みが始まった。  馬巫女コルセットと同色のぶ厚い革が、ラバーに包まれた腕に密着していく。巫女長に言われ、左右の肘がくっつくほど後ろにすぼめた腕が、その状態で固められる。  いや、固められたのは、腕だけではない。  肩まで固定されてしまったせいで、上半身全体の動きが制限されてしまったようだ。  その不自由さにおののくなか、肩にかかるベルトを増し締めされた。続いて、革袋の縁付近、肘の少し下、手首付近の3箇所で、革ベルトを締め込まれた。  そうして腕の拘束を終え、巫女長が次の、そして最後の装具を取った。 「馬巫女の頭絡《とうらく》。遮眼帯《ブリンカー》や馬銜《はみ》、手綱をつなぐための馬銜環《はみかん》が一体になった、馬巫女用馬具です」  言いながら見せられたそれには、馬巫女を馬に見立てるための、馬の耳を模した飾りも取りつけられていた。 (つまり……)  最後の装具、馬巫女頭絡を取りつけられた瞬間、加奈はほんとうに馬巫女になる。  琵座流の神さまに気に入られ、愛でられるためだけに存在する、午年の馬巫女となる。  そうとはっきり認識したところで、巫女長に命じられた。 「口を開けてください」  指示に従うと、口中に金属製の棒、馬銜を押し込まれた。 「少しのあいだ、馬銜を噛んでいてくださいね」  そして、馬巫女頭絡の2本のベルトが、後頭部で締め込まれる。  すると、馬銜や馬銜環、遮眼帯や馬の耳を模した飾りも固定され、動かなくなった。 「これで、ひととおりの馬巫女装具が装着されました。続いて、馬巫女としての歩行訓練を始めます」 「あぅ(はい)」  巫女長の声に答えようとしたがまともに喋れず、加奈は身体の自由に続き、言葉も奪われたことを実感した。 「午年の馬巫女には、定められた歩法があります。新年の馬巫女祭では、この歩法を守って歩くことが求められます」  加奈に装着した馬巫女の頭絡、馬銜から斜め前方に突き出して設えられた馬銜環に手綱をつなぎ、巫女長が口を開いた。 「まずは、姿勢を正すこと。背すじを伸ばし、顔は正面を向け、けっして足下を見ないことを心がけてください」  言われて、馬巫女アームバインダーの装着には、厳しい拘束以外の意味があったことに気づいた。  その拘束具の編み上げを締め込まれる前、胸を張り、肩を後ろにすぼめ、両肘をくっつけるようにしたことで、背すじを伸ばしていることが自然になっていたのだ。  あとは、顔の角度を正しく保つよう気をつけるだけ。  ともあれ、加奈が思ったとおり正しい姿勢ができていたようで、巫女長は満足げにうなずいた。 「その姿勢を保ったまま、歩法を固めていきましょう。まずは、その場で足踏みです。太ももが床と水平になるまで足を上げ、そのまま下に下ろす。これを繰り返してください」  指示どおりに太ももが床と水平になるよう意識して足を上げ、そのまま下ろす。  コッ。  すると、馬巫女ブーツの靴底に取りつけられていた蹄鉄が、硬い木の床を叩いた。 「いいですね。逆の足も同じように」  コッ。 「そのまま続けてみましょう」  コッ、コッ、コッ……。  加奈が何回か足踏みしてみせると、巫女長が感嘆の声をあげた。 「加奈さん、素晴らしいです」  そして、次の指示を出した。 「それでは、前に進んでみましょう。歩こうと意識するのではなく、身体を前傾させ、倒れないよう脚をつくような感じで」  言われて、身体全体を前に倒しながら、これまでと同じように足をあげ、スッと下ろす。  コッ。  すると、30センチほど前に進んでいた。 「その調子です。もう1度」  コッ。 「そのまま続けてください」  コッ、コッ、コッ。  手綱を取られて、そのまま部屋の隅まで。  そこで向きを変え、壁に沿って。  コッ、コッ、コッ……。  隅まで歩くと、また向きを変えて次の角を目指す。  コッ、コッ、コッ……。  そうして馬巫女の歩行を続けるうち、媚肉に快感が生まれ始めた。  そのせいで、媚薬入り香油を塗り込められているときの昂ぶりが蘇ってきた。 (ど、どうして……)  歩いているだけで、媚肉に快感を覚えてしまうのか。  それは、馬巫女の歩法を守って歩いているからである。  太ももが床と水平になるほど高く上げて足を運ぶことで、股間周りの筋肉も動く。筋肉が動けば、周辺の軟らかい肉も動く。  対して、コルセットに固定された金属製のプレートは動かない。  そのうえ、プレートの裏側には、被装着者の媚肉を緩く開かせ、滑らかに仕上げられた金属に密着させる加工が施されていた。  コッ、コッ、コッ……。  加奈が馬巫女の歩法を守って歩くと、緩く開いた媚肉が、密着する金属板に擦られる。  滑らかに仕上げられた硬い金属が、加奈のそこに快感を生む。  コッ、コッ、コッ……。  1歩足を運ぶたび、香油に含まれる媚薬成分に冒された身体が、緩い快感に襲われる。 「んっ、ふっ、んぅ……」  肉が昂ぶり、馬銜を噛まされた口から、甘い吐息を漏らす。 「んっ、うっ……あうッ!?」  馬銜のせいで閉じられない口の端から、口中に溜まっていた唾液が、涎となって垂れ落ちる。 「あっ、ふぅ、んァあ……」  火照る媚肉から熱い蜜が吐き出され、小水排泄孔から溢れて太ももを伝う。  恥ずかしい。 (でも……)  嬉しい。  午年の新年馬巫女祭は、琵座流の神さまとと馬巫女のまぐわいを象徴する行事。  そして、琵座流の神さまの代理人たる巫女長による馬巫女訓練は、神さまとの睦事に準ずる行為。  それゆえに、訓練で馬巫女が悦びを得ることは、島にとっての吉兆とされている。  琵座流島で生まれ育ち、島の価値観に染まりきった加奈が、それで嬉しくならないわけがない。  コッ、コッ、コッ……。  規則正しく、設えの間に蹄鉄の音を響かせながら。 「んっ、あっ、あぅ……」  加奈は肉体を昂ぶらせる。  股間の金属製プレートに、緩く開いて濡れそぼつ媚肉を擦られて、性感を高められる。  コッ、コッ、コッ……。 「あぅ、あッ、ああッ……」  馬巫女としての務めを果たす喜びと、性の悦びに包まれていく。  コッ、コッ、コッ……。 「ああっ、あうッ、あッ!」  気持ちいい、気持ちいい。  コッ、コッ、コッ……。  嬉しい、嬉しい。  少しずつ、頭がぼうっとしてきた。  ものごとを、深く考えられなくなってきた。  そんななかでも、加奈は歩法を守り、規則正しい蹄鉄の音を響かせて、午年の馬巫女として歩み続ける。 「加奈さん、いよいよ高まってきましたね」  巫女長の言葉は、加奈の高まりを揶揄するものではない。 「快楽に酔い、蕩けるなかでも歩法を守って歩ける。それは、午年の馬巫女として理想の姿なのですよ」  どこか高揚を感じさせる声で告げられた言葉は、巫女長の心のそこから湧き出てきたものだ。  とはいえ、馬巫女訓練の主目的は、加奈を性的に高めること自体が目的ではなかった。 「加奈さんの高い馬巫女適性は確認できました。休憩を挟んで、午後は違う訓練をいたしましょう」  馬巫女歩法の歩みを止めさせると、優しい目で加奈を見て、巫女長が告げた。

小説 琵座流島の新年馬巫女祭 前編

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