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メイドM

 白河麗華《しらかわ れいか》さまは、私の女主人《ドミナ》である。  私、紀野美月《きの みつき》は、麗華さまにお仕えするメイドである。  ふたりはもともと、寄宿生女学校の同級生にして、恋人どうしだった。  とはいえ麗華さまは、超がつく名家のご令嬢。対する私は、ただの商家の娘。身分違いで、卒業後は離れ離れになる運命だった。  そこで、麗華さまは私に、ご自身の専属メイドになることを提案した。  麗しき令嬢とお別れしたくない私は、提案を受け入れ、麗華さま付きメイドになることを決めた。  麗華さまのお姉さまが、白河家の次期当主に指名されたのは、その直後のことだった。  白河家では不毛な跡目争いを避けるため、現当主が実子のなかから次期当主を指名したあと、ほかの子は家を出るしきたりになっている。  その伝統にのっとり、こじんまりとした館《やかた》――といっても、私にとっては充分に豪邸だが――と、白河家の者としての体面を保つに充分な財産を分与されたうえで、麗華さまは家を出た。  もう、ふたりが恋人として、いや生涯の伴侶として、一緒に暮らすことを妨げるものはない。  にもかかわらず、麗華さまは私を専属メイドにする方針を変えなかった。お付きのメイドとして麗華さまにお仕えする道を、私は選んだ。  それは、ふたりがふつうの恋人ではなかったからである。  麗華さまは、私を拘束して昂ぶり苛めて悦ぶ、天性の加虐性癖者《サディスト》。私は、麗華さまに拘束されて昂ぶり苛められて悦ぶ、生まれついての被虐性癖者《マゾヒスト》。  お互いの凸凹がぴったり合ったふたりにとって、明確な主従関係があったほうが都合がいい。  そんなわけで、私は麗華さま付きのメイド、いやMのメイド、メイドMとしてお仕えしている。  お屋敷が比較的小さいこともあり、麗華さまにお仕えする使用人は、私と警備員を兼ねた庭師、それに通いの料理人のみ。  庭師はお屋敷内のことに口出ししないし、料理人が管理するのは厨房だけ。  お家から分与された代理人が運用の報告と打ち合わせに来るのは2週間ごと。  週に1度専門の清掃業者が入ることも相まって、私の仕事はもっぱら麗華さまの身の回りのお世話とお出かけのお供である。  常日頃からふたりが女主人と使用人の立場を超えて仲よくしていても、訝しがる者はいない。  そんなわけで、今日もまた麗華さまの寝室に呼び出された私は、壁ぎわに設置された『それ』を見た。 「麗華さま、これは?」 「もちろん、美月のために用意した拘束具……いえ、メイドMを閉じ込める、完全拘束装置と呼ぶべきかしらね」  妖しく光る瞳で見すえられて告げられ、私は嵌められっぱなしの排泄管理機能つき特殊貞操帯の奥で、金属製ディルドを咥え込まされた肉壺を熱くした。 「私の声、聞こえる?」  麗華さまに問われ、私は視線だけでうなずいた。 「きつすぎたり、締まりすぎて痛いところはない?」  耳孔にねじ込まれた耳栓兼用イヤホンを介して訊ねられ、もう1度。  言葉で答えたくなかったのではない。答えられなかったのだ。  クラシカルなメイド服をまとった身体は、足に歩行を制限するバレエヒールのブーツを履かされ、両手に拘束ミトンを嵌められた状態で、幾本もの革ベルトで拘束装置に縫いつけられている。  私の顔の下半分を覆うマスク形口枷の内側には、鼻孔に当たる位置に長い呼吸用チューブが、口中に押し込まれた金属製パイプには食餌用ホースが取りつけられている。  鼻孔のチューブは気管の奥まで挿入され、口中のホースは食道にまで達し、それぞれ生体用パテで隙間を埋められている。  そのため、声帯を空気が通過せず、そこを震わせて声を出すことができないのだ。  それだけではない。  特殊貞操帯に取りつけられた尿道用排泄管理器具には青いチューブが、肛門用排泄管理器具には赤いホースがつながれて、拘束装置の台座内の器械に接続されている。  身動きできない私は、呼吸も、食餌も、大小の排泄も、膣内のディルドにより性感も、管理された状態で、完全拘束装置に閉じ込められてしまうのだ。 「庭師と料理人には、美月はしばらく里帰りすると伝えてあるから、安心してね」  つまり、それだけの長い時間、私は完全拘束完全管理下に置かれてしまうのだ。  そう考えるだけで、被虐性癖《マゾヒズム》を煽られて、肉壺の淫具を食い締めてしまう。  シュー……。  肉が昂ぶり、鼻の呼吸孔から吐息を漏らしてしまう。 「うふふ……」  そんな私を見て妖しく嗤い、麗華さまが完全拘束装置の蓋を手に取った。  私の身体の前側全体を覆う蓋は、軽金属製とはいえ、相応の重さになっているだろう。  そんな重量物を、畏れ多くも麗華さまお手ずから持ち上げて、完全拘束装置に被せる。  ガタン。  重いものどうしが当たる音を、金属の振動で聞く。  カチリ。  口と鼻の開口部が蓋に接続され、呼吸と食餌の経路が確保されたことを、骨伝導で伝わる音で知る。  そして、もうなにも見えない。 「封印していくわよ」  しかし、耳栓兼イヤホンから、麗華さまの声が聞こえる。  それだけで、私には充分。  麗華さまの姿は目蓋の裏に焼きついているし、声だけは聞かせてくれるのだから。  カチッ、カチッ……。  金属の振動を介して聞こえるかすかな音は、蓋が特殊な金具で固定されるときのもの。  カチッ、カチッ……。  専用工具なしでは外せない金具で、完全拘束装置の蓋が留められる。  カチッ、カチッ……。  そして、すべての金具が留められ。 「それじゃ、ゆっくり愉しんでね」  麗華さまの声が耳孔に直接聞こえた直後、静寂が訪れた。  手元の端末を操作し、イヤホンの電源が切られたのだ。  完全な暗闇と、無音の世界。  だが、麗華さまが施してくれた、きつく厳しい完全拘束がある。  麗しき女主人が用意してくれた金属製ディルドが、私の膣を占拠している。  然るべき時がくれば、食餌と排泄を管理してもらえる。  そして、麗華さまが肌身離さず持ち歩く端末で、完全拘束装置内に設置されたセンサーが拾った私の身体データは、常にモニターされている。  それで異常が感知されれば、すぐさま対応してくれる。  そのことに私が安堵するとともに、満たされた気持ちになった直後である。  ほぼ空っぽだった胃が、軽く満たされる感覚。 (これは……)  口中のホースに接続された蓋の開口部から、飲料水が流し込まれているのだ。  だが、私の舌が触れているのは、口中を占拠する金属製パイプのみ。そこを通過する飲料水の味はわからない。  水分補給がいつ終わったのかも、正確には把握できない。  やがて、小水が半ばまで溜まっていた膀胱が、少しずつ軽くなっていく。 (きっと……)  水分補給が終わり、貞操帯に仕込まれた尿道用排泄管理器具から、台座内の器械に小水が回収されているのだ。  とはいえ、小水が流れるのは、金属製の排泄管理器具の中。尿道を液体が通過している感触はない。  この今ひとつスッキリしない排泄にも、もう馴らされた。排泄管理機能つき特殊貞操帯を嵌められているかぎり――おそらく、それは一生涯――これが、私の小水排泄なのだ。  それは、これから始まる大きいほうの排泄も同じ。  私が麗華さまに管理される覚悟をあらたにしたところで、肛門用排泄管理器具がブルッと震えた。  直後、器具を介して、人肌の温水が体内に注入され始めた。  いや、正確にはただの温水ではない。  私のお腹に注入されているのは、浣腸液だ。温水で希釈されたグリセリン溶液が、肛門の器具から送り込まれているのだ。  その量は、通常なら約500ミリリットル。  ふだんでも充分苦しいのに、今は拘束用ベルトでお腹を締めつけられている。その上からメイド服ごしに、完全拘束装置の蓋が押しつけられている。  外に向かってお腹が膨らまないぶん、大量の浣腸液を詰め込まれる苦しさは、いつもよりずっと強い。  おまけに、そうなるよう作られた薬液は、すぐに排泄を促そうと働き始める。  やがて注入が止まっても、苦しさから解放されるわけではない。  お腹の中にある排泄物が、腸のぜん動により押し出されるまで、そのまま待機させられる。  苦しい、苦しい。  その苦痛を紛らわせようと、膣を占拠する金属製ディルドを食い締めたり緩めたり。  連動して動く括約筋で、肛門の器具も締めたり緩めたり。  それでほのかな快感を貪っているうち、ついに排泄が許された。  だが、水分補給や小水の排泄管理と同じく、排泄物が肛門を通過する実感はない。  ただ、器具のかすかな振動とともに、お腹の苦痛か和らいでいくだけ。  さらに、器具の洗浄を兼ねて温水による洗腸を受けて、排泄管理は終了。  おとなしく管理を受けたご褒美と言わんばかりに、膣内を占拠する金属製ディルドが震え始めた。  とたんに生まれる、蕩けるような快感。  それはただ、今しがた始まった振動のみがもたらしたものではない。  私のそこは、これまでも動かないディルドによって、緩い快感に苛まれ続けていた。  そのうえ、きつく厳しい完全拘束下で、すべてを管理されるという境遇に置かれて、私は被虐性癖を煽られていた。  排泄管理機能つき特殊貞操帯を嵌められっぱなしだったからこそ、完全拘束を施されていたからこその、大きな快感なのだ。  金属製ディルドが震えて、肉壺が融けてしまいそうなほどの快感に襲われる。  さらに、ディルドの振動が貞操帯の金属板を通して、肛門の排泄管理器具に伝わる。震える金属板を介して、陰核《クリトリス》も刺激される。尿道の器具も震え、そこでも性感を煽られる。  貞操帯に固定されたディルドが振動するだけで、私のお股全体が快感に襲われる。  そして、暗闇と静寂のなかで身じろぎすらできない私は、襲いくる快感から逃れることはできない。  きつく厳しく拘束された状態で、押し寄せる快感を余すところなく受け止めなくてはならない。  前後不覚に陥ってあげる嬌声は、うめき声にもなっていないだろう。 「シュッ、シュー、シュッ!」  どれほど喘いでも、完全拘束装置の外に漏れるのは、小さい呼吸孔を空気が通過する音だけに違いない。 「シュッ、シュッ、シュッ!」  呼吸が苦しくなるのは、肉体が休息に昂ぶっていくからか。  それとも、小さい呼吸孔からでは、昂ぶった肉体が求めるだけの空気を取り込めないのか。  わからない。なにもかもわからない。  それは、性感が高まって頭が蕩けているせいか。  あるいは、酸素不足に対応して生存のための機能を優先し、脳が深い思考を放棄しているのか。  わからない。もう、考えることすらできない。  つらい、つらい。  でも、気持ちいい。  身じろぎすらできない完全拘束のきつさを、被虐性癖者の血が快感に変換する。  苦しい苦しい。  でも、気持ちいい。  麗華さまに与えられたものなら、呼吸の苦しさすら快楽に直結する。  そこで、ひときわ大きい快感が襲いきた。 「シュッシュッ、シュシューッ!」  昂ぶらされる。高められる。蕩けさせられる。  押し寄せる快感に飲み込まれ、押し流されされ、翻弄されて私は――。 「シュッシュッシュッ、シューッ!」  空気の通過音で静かに悦びを叫び、動かせない身体を完全拘束装置の中でこわばらせ、性の高みに到達させられた。  たどり着いた場所で、恍惚の世界に漂う。  なにも見えず、なにも聞こえない。鼻で感じるのは、チューブのゴムの匂いのみ。舌に触れているのは、口中を占拠する金属製パイプだけ。手指に接しているのは、拘束ミトンの革。  完全拘束装置に囚われて、まったく動けない。意味のある言葉はおろか、声も出せない。  五感をすべて支配され、いっさいの自由を剥奪されていながら、私はほかに変えがたい不思議な幸福感を堪能する。  絶頂させられた直後だから。  生まれついての被虐性癖者が、完全拘束・完全管理下に置かれているゆえ。  麗しき女主人、愛しき麗華さまに望まれて、そうしているせいで。  いつまでたっても、恍惚から覚めない。  私はいったい、いつまでここでこうしていればいいのだろう。 『庭師と料理人には、美月はしばらく里帰りすると伝えてあるから、安心してね』  私を完全拘束装置に閉じ込める前の、麗華さま言葉。  女主人が口にした『しばらく』とは、何日間なのだろう。  わからない。  わからないが、どうでもいい。  麗華さまが望むだけ、女主人の課す責めを受け止め受け入れるのが、メイドMたる私の務めなのだから。 (了)

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