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作品のたまご⑤~うっかり大蹂躙ヒーロー~

「大怪獣がA市中心部を時速100㎞で北上中!蹂躙速度が速すぎます!至急巨大ヒーロー投入の許可を!」

慌ただしく司令部へ通信する一機のヘリ。機内にはヒーロースーツに身を包んだ一人の青年が搭乗しており、出撃の時を今か今かと待ち侘びていた。


「馬鹿な…町中で乱闘させる気か!?まだ市民の避難は全く完了していないのだぞ!?」

司令部もまた混乱していた。

突如A市に巨大怪獣が出現したという報せが入ってから幾許も無い。また、怪獣の進行スピードがあまりにも速いこともあり、指示が後手後手に回り市民の避難どころではなかった。


「し、しかし…このままでは数分もしないうちにB市に怪獣が到達してしまいます!このままでは被害が数万どころか数十万人クラスに…」

既に怪獣の通り道は死体の山。幹線道路は渋滞し、その渋滞の列を容赦なく怪獣が踏みつぶしていくので、被害は急速に広がっている。


「むぅ・・・止むを得んのか・・・命を・・・命を天秤にかけねばならぬのか・・・。仕方があるまい。巨大ヒーロー投入を許可する!!速やかに大怪獣を撃滅せよ!」

司令官は市民が次々と踏み殺されていく映像を見て青ざめながら、しかし、覚悟を決めて決断した。


「司令部より許可が下りた。今より30秒後に投下する。巨大化の準備を」

「・・・了解!」

猫獣人の青年はグッと拳を握りしめた。ヒーローと言ってもまだ若いが、しかし、その面持ちは覚悟が決まっており、凛々しさすら感じる。

その横でヒーローの補佐役を務めている男が、ヒーローの心中を察するように下を向きながら呟き始める。

「・・・怪獣の進撃があまりにも速くA市はパニック状態のまま避難も全く進んでいない・・・A市で戦えば多くの市民が巻き添えになるだろう。・・・すまない、こんな辛い役回りばかり。」

これからヒーローは怪獣との戦いの中で多くの市民を殺害することになる。その心痛を察しているのだ。


「・・・人に恨まれる覚悟はできています。今までも沢山の遺族から石を投げられてきました。でもそれ以上に多くの人々から感謝され、そして助けを求められているからこそ僕は今もヒーローでいられているんです。人々に求められる限り・・・僕は批難されてもヒーローを続けます!」

青年の顔には曇り一つなかった。

「・・・ありがとう」

補佐役もその顔をみて少し安堵した。


「投下まで残り10秒です!10・・・9・・・8・・・」

ついに怪獣とヒーローの大乱闘が始まろうとしていた。


「3・・・2・・・1・・・投下!!」

号令と共にヒーローはヘリから空中に身を投げ出した!


(今回の怪獣は特にでかいな・・・200いや300mはあるか? 能力も不明だ。中途半端な巨大化でもし力負けするようなことがあったら取り返しがつかない。怪獣の2倍か、いや3倍以上に巨大化して、できるかぎり一瞬でケリをつけてしまおう!)


腕時計状の巨大化デバイスのダイヤルを「30」にあわせて真ん中のボタンを押す。すると彼の身体が瞬く間に膨れていった!


—彼は対怪獣生物兵器として巨大化実験を受け、唯一生き残った被検体である。


彼の体内には小型の原子力発電機のような装置が埋め込まれており、腕時計型のデバイスのスイッチを押すことで装置は核融合を開始する。生み出された原子力エネルギーは、彼の細胞がすべて吸収し、急速な細胞分裂を促す。


彼のセットした「30」は細胞分裂の回数。則ち彼の細胞数が2の30乗となる。


彼としては丁度キリの良い数値を設定しただけで、怪獣より巨大化して一瞬で倒すという判断も一見間違っていないように思われた。長時間の死闘を繰り広げてなんとか怪獣を倒したとしても、町が廃墟と化していては意味がないからだ。


—しかし、巨大化する上で致命的なリスクが一つあった。それは、超巨大化被害。

巨大化し過ぎることの弊害まで彼は考えていなかったのだ。

ズドオオオオオオオオオオオオオオン!!!


細胞分裂30回後の彼の体重は6000万トン。背丈はゆうに1.5㎞を超える。

そんな超巨大生物が町に突如落下したのだ。


彼が着地した時の衝撃は比喩ではなく、本当に小隕石の衝突級の威力と遜色ないエネルギーを孕んでいた。


轟音と共に地面が割れ、町にあるすべての物が宙に投げ出されるほどの衝撃。


彼が巻き起こした未曽有の大地震と人知を超えた爆風は、皮肉なことに守る対象だった筈のA市を一瞬で地盤ごと粉々にし、そこに住んでいた住民約200万人を皆殺しにしてしまった。

(・・・しまった!巨大化し過ぎた!)

まさか着地しただけで町が粉々になってしまうとは思ってもおらず、瓦礫の山と化したビル群を見ながら、彼はポリポリと頭を掻いた。

またネット上では批難が殺到するだろうし、記者会見で謝罪もしないといけないと思うと気が滅入る。


巨大ヒーローは大きな溜息をついた。


200万人を虐殺したにしてはあまりに軽い反応のようにも見えるが、これは彼が長年ヒーローをやってきた弊害でもあった。


すなわち“虐殺馴れ”である。


ひとたび怪獣と戦えば、足元を逃げ惑う人々を否が応でも踏み潰してしまう。戦いを終えた巨大ヒーローの足裏はいつも踏み潰した人達の残骸でどす黒く汚れているのだ。


はじめこそ踏み潰した感触や遺族の悲痛な叫びを目の当たりにして罪悪感に苛まれ、食べ物が喉を通らないくらい心を病むこともあった。しかも、こちらは世界を守る為に止むを得ず身体を張っていると言うのに、世間では「化け物」「犯罪者」「世紀の虐殺者」など好き放題言われ、もはや同じ人とすら見てくれない。


そんな民衆に対し、自らの心を守る為に彼がとった対策は民衆をただのゴミとしてみることだった。罵詈雑言を突きつけられようが、それがただのゴミから発せられたものだと思えば何も感じない。


実際、巨大化した時の自分からしたら民衆など物理的にゴミのような存在になるし、圧倒的強者である自分が慈悲で“生かしてやっている”というくらいの気分でいないととても巨大ヒーローなんてやってられないのだ。


そうやって生きているうちに徐々に殺しに馴れ、気付けば足元に気を遣うことすらなくなっていた。踏み殺す感触も“強い自分”を肌で感じられる瞬間であり、むしろ最近は踏み殺したいとすら思うときもあるぐらいだ。


勿論、ヒーローを名乗る以上、良心はあるし、決してわざと虐殺するようなことはしない。ただ、今回のように“不慮の事故”で大量虐殺してしまった時でも「やっちゃった」くらいしか思わないのはそういうことなのだ。


そしてこの価値観の変遷はもう一つの弊害を生んでいた。


(やべ・・・勃起してきた・・・)


そう、破壊と殺戮に性的興奮を覚えるようになってしまったのだ。


強い自分。神のような自分。ゴミ共の命を簡単に左右してしまえる自分。憐れな弱者を“生かしてやってる”慈悲深い自分。


常に批難とパッシングの嵐に晒されている彼にとって、ヒーロー活動に伴う“破壊と殺戮”こそが唯一自己肯定感が満たされ、優越感に浸れる瞬間となっていた。


しかし、町一つ壊滅させておいてあろうことか勃起するなど、流石に世間は許してくれないだろう。ぴっちりとしたヒーロースーツを着ているとはいえフル勃起すれば、パンパンにテントを張ってしまう。


彼はなんとか劣情を振り払おうと、本来の目的である怪獣討伐に集中しようとした。


怪獣はというと、巨大ヒーローの降臨に伴う衝撃で吹き飛ばされたらしく、A市とB市の境辺りに蹲っていた。

しかし、ヒーローの視線を感じたのか一目散にB市のほうへと逃げ出した。


「あ!!B市が危ない!!!」


咄嗟の行動だった。町一つ壊滅させてしまったとは言っても彼は腐ってもヒーローだ。反射的に怪獣を止め、B市を守ろうと地面を蹴っていた。高く高く飛び上がった巨大ヒーロー。


(あ・・・)

空中で彼はその咄嗟の判断が間違っていたことに気付く。しかし、もうどうすることもできなかった。

スドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!


A市に続きB市も消滅。


ヒーローの人々を守ろうとする無意識の善意。それがB市の全住人300万の尊い命を奪った瞬間だった。


結果的に今回のヒーロー出動によって積み上がった死体の数は計500万。もはや言い訳はできない。

そして、もうチンコにも言い訳できなかった。


大量の遺体が転がる廃墟と、命乞いしながら震えるちっぽけな怪獣、そしてそれらを見下しながら頬を染め、バキバキに勃起し、股間をもっこりさせる巨大ヒーロー。


その極めて異様な光景はしっかり報道陣のヘリのカメラに収まっていた。


つづく

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