(ここは…)
眼を開けてまず視界に飛び込んできたのは雲一つない青空。周囲は木々に囲われているが、自分のいる場所だけ少し開けており陽光が差し込んでいる。その眩しさに思わず目を細めた。
遠くでザー…ザー…という何か波のような音が微かに聞こえてくる。仄かに香る海の匂いが気持ち良い。
(ここはどこだろう…)
記憶が混濁している。今日が休みだったか、仕事だったか、それすら思い出せない。
スーっと涼しい風が吹き、木陰が揺れる。肌寒さから腕を摩ったが、そこで初めて違和感に気付いた。
(あれ?)
服がない。衣服はおろか下着すら穿いていない。どういうわけか私は全裸で地面に転がっていたようだ。
(レイプされて山に捨てられた・・・?)
思わず考えたくもないような最悪の事態を脳裏に浮かべてしまうが、しかし特に膣に違和感や強姦された跡はなかった。
背中やお尻こそ多少土で汚れているくらいで、むしろ身体は綺麗なほうだ。
なんとか状況を整理しようと頭を巡らせるが、どうしても今の状況に説明がつかない。
(確か仕事が結構残業になって、それで・・・)
そう最後に残っている記憶は仕事終わりの帰路。入社してからまだひと月も経っていないのに、自分の配属された部署が人手不足だったということもあって過度な期待を背負わされ、初っ端から残業の嵐に見舞われていた。
慣れない社会人生活に疲弊しながら、フラフラで家に帰るところだったはず。
しかし、そこからの記憶が全くない。帰る途中で何かあったのだろうか。ぼーっと記憶を辿っていくが、どうしても今に至る経緯が思い出せない。
何も分からず途方に暮れていると、ふと遠くのほうで何か鈍い音が聞こえた気がした。
始めは波の音に掻き消されてよく聞こえないくらいだったが、その音は見る見るうちに大きくなっていった。
様子が変だ。何かがこちらに迫っている。
足音。
気付けば地面が俄かに揺れ始め、小石がカタカタと揺れている。
そこで漸くハッとなって私は立ち上がった。音だけでもその何かがとんでもなく巨大であることはわかった。そしてそれは自分に命の危険が迫っているのと同義であると漸く気付いたのである。
後ろを振り向くこともなく全力で私は走った。夢であってほしいとひたすらに祈りながら、素足で必死に。
足裏の柔肌に小石が食い込み激痛が走る。靴に守られていなければ、ただ地面を歩くことすら儘ならないのか、と自分のひ弱さを痛感する。木の芽みたいな軟弱な爪では身は守れない。小さな口では噛みつくことも難しい。野生下において都会で生きる人間の女の身体など、“血液の入ったビニール袋”と大差なかった。
地面の揺れに加え恐怖で足が縺れる。何度も転びそうになりながらそれでもなんとか距離を取ろうとする。
裸でこんなに全力で走った経験がない。乳房がばるんばるんと暴れ走り難い。
(もう嫌だ・・・)
巨乳コンプレックス。自分で言うのもなんだが私は乳がかなりデカいほうだ。サイズで言うとゆうにGカップはある。
しかし、正直言っておっぱいがデカくても今までいいことなんてほとんどなかった。
そんなこと言っていると他の女性に怒られそうだが、実際、下着の種類は選べないし、変な男は寄ってくるし、水泳のときも泳ぎ辛い。今だってこうやって走るのを邪魔して、死を近づけさせる。
大きな物音に思わず後ろを振り返る。
そこには木々を押し退けてこちらを追いかける大きな影が見えた。
頭が真っ白になり、恐怖で声も出ない。目には涙が浮かび、視界までぼやけてくる。
しかし、それでもなんとか足を前へ前へと動かそうとする。
だが…
ゆうに自分の10倍近くはあろうかという怪物のその歩幅の前では逃げ切れるはずもなかった。
次の瞬間には自分の全身をすっぽり覆ってしまうくらいの巨大な手に捕まってしまう。
(終わった)
このまま握り潰されるか、頭からバリバリと喰い殺されるか、滅茶苦茶に犯されてボロ雑巾のように捨てられるか…こんな何もわからない場所で、まさかこんな突拍子もなく死を迎えるだなんて。
あまりの恐怖に悲鳴をあげることもできず、真っ白になった頭ではもはや正常な思考はできなかった。
しかし、その真っ白な世界の中でまるで水面にぷくぷくと水泡が生じるように、何でもない日常の一幕がフラッシュバックするように浮かんでは消えていく。
誕生日に行った初めての遊園地でマスコットキャラクターに祝ってもらった思い出。何でもない昼下がりに友達とパフェを食べたあの日常。昔飼っていた猫が縁側でお昼寝している長閑な一幕。全力で打ち込んだ部活動・・・
(死にたくない…)
ただそう思った。そしてそう思った瞬間、私は無意識に絞り出すように口を開いていた。
「お願い・・・殺さないで・・・」
涙を浮かべ、震える声で…
私はそこで初めて自分を襲う何かの顔を直視した。・・・しかし、そこには血に飢えた野獣の顔など存在せず、穏やかな表情を浮かべたネコ科の巨大な顔があった。
「怖がらないで、小人さん。僕、小人さんのこといじめたりしないよ」
その大きな口から発せられたのは、若く少年のような優しい声。そもそもこの巨大生物から人語が発せられたこと自体に驚きが隠せず、ただ茫然とその大きな瞳を見つめ返すことしかできない。
「安心して。食べたりなんてしないから。」
怪物はゆっくり手を開き、そのまま私を手の平の上に乗せながら、なんとか落ち着かせてあげようと声を掛け続けている。
そこで漸く私はその怪物がどのような容姿をしているのか冷静に正確に認識することができた。
身長はおそらく20mほど。全身は毛で覆われモフモフとしており、長い尻尾が生えている。頭部はネコそのものだが、しかし、人間と同じように髪を伸ばし二足歩行で立っている。
アッシュブルーの美しい毛並みと太陽が反射してトパーズのような輝きを見せる大粒の瞳からは高貴さすら感じさせるが、しかし、ネコ科特有の縦に細長くなった瞳孔からは抑えきれない野生も感じた。
“獣人”というのが、正しいだろうか。小説やゲームで見たような幻想上の動物が今、確かに目の前にいる。そして、その若い声や幼くみえる顔つきからみても彼がまだ成獣ではないことが見て取れた。
私が昔猫を飼っていたこともあり、多少の色眼鏡はあるかもしれないが、その容姿は決して怪物のソレではなく、むしろ愛らしさすら覚えるような顔つきだった。しかし、それでもこの体格差の前では、その可愛さすら狂気を内包しているように感じられ、彼が喋る度に覗く無数のナイフのような牙を見るだけでゾッとしてしまう。
「小人さんはどこからきたの?」
まだ心臓がバクバク言っていて、声を出すのも精一杯なくらいだが、でも黙っていて相手の機嫌を損ねたらそれこそ命取りになるかもしれない。私は必死に口を開いた。
「・・・わからないの。き、気付いたら地面に倒れていて・・・どうしてこんなところにいるのかも、どうやったら帰れるのかも、何もわからなくて」
今目の前にいるのが敵なのか味方なのかはわからないが、殺気がないのはなんとなく感じたていた。
怖い。確かにそうなのだが、でも手の平の肉球の温もりのおかげか、まるで足湯にでも浸かっているような感覚を覚え、少し気分を落ち着かせてくれる。
「そうなんだ・・・。実は僕もこの島を出てみようと何度か海を泳いだんだけど結局他の島も大陸もまだ見つけられてないんだ」
絶海の孤島。こんな巨大獣人が住んでいる島を人間が認知すらしていないことなどあり得るのだろうか。それとも国が隠している?巨大生物実験場?だとしたら、なぜそんなところに私が?
思考がぐるぐるして気持ち悪くなってくる。
「とりあえず、小人さんは僕から離れないようにしてね。そんな毛皮もない柔らかそうな身体じゃあ、ここでは格好の獲物だよ。流石にこの僕より強い動物はいないけど、小人さんより大きくて凶暴な肉食動物がこの島にはわんさかいるんだ。」
武器も衣服もなく生身の身体一つでは、確かに野犬一匹でも脅威である。薄皮一枚の柔肌など、ちょっと爪を引っかけただけでも、裂けて血が流れてしまうだろう。
「ほら、ここ血が出てる」
そう言うと巨大獣人はいきなり口を近づけ、私の身体より大きな舌をベロンと出した。
「きゃっ」
食われるかと思ってつい声をあげてしまったが、走って傷ついていた足裏を舐めてくれただけだった。猫の舌のザリザリとした感触は決して気持ちの良いものではなかったが、不思議と痛みが引いていく。
そう、私はただ走っただけでも血を流すほどの弱い生き物だ。
この島で一人生きていくのは到底不可能。でもだからといって、この巨大獣人を信用してしまっても本当に良いのかという疑問は残る。
確かにこうして話していても敵意は全くといって感じない。事実、彼の優しい声と温もりのおかげか身体の震えは止まっている。しかし、例えば今、戯れに手を握りしめれば、それだけでバキバキに骨が砕け、ただの肉の塊になってしまうだろう。スッと爪を喉笛に引っ掛けただけでも首が落ちるだろうし、それこそこの手からただ落とされるだけでも大怪我である。
そう考えると、どうしても警戒して身体が強張ってしまうのだ。
「何も分からないと不安だし怖いよね・・・でも大丈夫!小人さんのことは、僕が守るよ!」
女の緊張がなかなか解けないのを見た巨獣の少年は、なんとか安心させてあげようとそっと彼女の頭を撫でる。
この体格差だ。どこまで行ってもそう簡単には緊張は解けないだろう。しかし、一点の曇りも感じさせないその大きな瞳を見ていると、不思議と彼を信用したいという気持ちにさせられた。
「あなた・・えっと巨ケモさん・・・?」
とっさに出た“巨ケモ”という言葉。自分より小さな人間を彼が“小人さん”と呼ぶように、私も彼に合わせて巨大な獣を略して巨ケモさんと呼んだのだ。
「巨ケモさんはずっとここに住んでるの?他に人間や仲間は・・・?」
とりあえず自分を落ち着かせるためにも、自分からコミュニケーションを取っていく。巨ケモが目の前にいるというこの状況もそうだが、何より何もわからないことが一番精神的な負担になっていることは自分でも気付いている。
「そうだよ。もう何年くらいここにいるかなぁ。・・・仲間もいないし、人間も結構『久しぶり』に見たかな。」
(久しぶり?)
彼は人間を元々知っている?私のように前にもここに人間がきたことがある?
「えっと、それって・・・」
「あ、そういえば」
過去に出会った人間の話を聞こうとしたが、巨ケモは遮るように被せて口を開いた。そして何を思ったのか徐に私を乗せる手を自分の股間のほうへもっていった。
・・・そこには“巨大な♂”があった。
「きゃあああああああ!!」
彼女の視界いっぱいに巨ケモのペニスが映る。いきなり何をさせられているのか、理解もできないまま私は悲鳴を上げた。普段大声をあげるようなタイプではないのだが、流石に肉の巨塔が目の前に勃ち上がるこの光景には心が大きく揺さぶられてしまった。
ソレがまだ幼獣の性成熟してない可愛らしいものなら、まだここまで驚かなかったかもしれないのだが、普通にズル剥けの大人ちんぽがそこには鎮座していたのだ。
しかもバキバキに勃起しており、クッキリとした亀頭と脈動する血管、そして膨張した海綿体に押し出されるように尿道が迫り出している。
その長さはゆうに3mはあるだろうか。彼女の身長を遥かに超える“雄の塊”がこちらを威圧するように立派に天を向いている。
仄かに香る雄の匂い。しかし、ツーンとするような嫌な匂いはなく、むしろ干した布団のような良い匂いがする。
そういえば猫という生物は、全身の手入れに余念のない綺麗好きな生き物だ。彼も猫と一緒で全身をグルーミングしているのだろうか。
「ははは、ごめん、僕の大きいからびっくりしちゃった?でもいつもはこんなんじゃないんだよ。もっと小さくて柔らかいんだ。」
異性にちんこを見せるという行為自体、おそらく彼にとっては普通のことなのだろうか。
一瞬犯されるのかとたじろいだが、しかしよく考えれば、そもそも自分よりデカいペニスに犯されようがないことにすぐに気付いた。
「なんかね。小人さんのこと見たり、小人さんの匂いを嗅いでいると、おちんちんがおっきくなっちゃうの。なんでかな?」
どうやら彼は発情期のようだった。匂いと言われて私は一瞬ドキッとした。
(そういえばもうすぐ排卵日だったかも…)
人間より鋭いであろう彼の嗅覚を前に、異種族とはいえメスの匂いを嗅ぎ取られたのかもしれない。猫のようでありながら人間のようでもある彼からすると、ギリギリ私も性の対象にあたるのだろうか。
自分でいうのもなんだが、少なくとも人間だけの範囲で考えれば、私のルックスは悪くないほうだ。事実、学生の時には一度ミスコンにも選ばれたこともあるし、肌や髪のケアにも力を入れている。ややコンプレックスではあるが、胸に関してもAV女優も顔負けのサイズがあると自負している。
女性としての魅力は十分にあると思っているが、もしかしたらその女性的な部分に彼の股間が無意識に反応しているのだろうか。
「な、なんでだろうね・・・」
「ねー」
ぎこちない会話が続く。いきなりちんこを見せられた時には何事かと思ったが、しかし、どうやら勃起したことにただ疑問を覚えて聞いただけで、襲う素振りは一切見せない。もしかしたら、彼は本当に性の知識0で性処理すらしたことないのかもしれない。
大人ちんぽをぶら下げてはいるものの、やはり顔や声の通り幼く、そしてずっと一人で生きてきたのなら、性の知識が入ってこないのも頷ける。
もし“経験済”であれば、あそこまでフル勃起して、ナニもしないのはむしろ酷なくらいだ。
「良いこと思いついた!」
巨ケモは私と自分のペニスを交互に見比べると、何か思いついたように目を輝かせる。
そして、次の瞬間、彼は私を優しく摘まみ上げると、あろうことか自分の勃起ペニスの根元に跨らせてしまったのだ。
(・・・え?)
こんなことをされて戸惑わないほうがおかしい。まさか自分が男性器の上に乗せられるだなんて思ってもみなかった。
「ふふ・・・小人さんにぴったりだね。今日からここを小人さんの居場所にしよう。これなら手も塞がらないし、誰にも襲われないから、安心だね。」
勝手に女性の置き場所を決めてしまう巨ケモ。滅茶苦茶なことをやっているようだが、彼としては名案のつもりらしい。
普通であれば、咄嗟に拒絶してしまいそうなものだが、しかし、あまりにも突拍子もないことをされたこともあって、ただ唖然として固まってしまっていた。
と同時になぜだかそこまで嫌な気分がしていない自分にも驚いていた。
なぜだろうと自問自答したが、その答えは他でもない巨ケモの口から発せられた。
「寒くないでしょ?おちんちんの毛は特に柔らかいんだ。」
そう暖かくて柔らかい。それが嫌悪感を相殺していたのだ。
ひと際モフモフしている彼の陰毛は、沈み込むような高級羽毛の無重力ベッドの上にでもいるかのような感覚があり、手の平の肉球より暖かい肉棒ヒーターがじわじわと身体の芯から温めてくれる。
暖房器具と違って、なぜか心まで温まるような気がするのは、この暖かさが“命の温もり”からきているからだろう。
少なくとも性的とはいえ好意がそこにはあり、彼の股間に血が沢山流れて、この命の温もりは生まれている。それは存外不愉快なものではなかった。
「小人さん、僕のおちんちん、気持ちいいでしょ?」
無意識のうちに強張っていた私の表情が緩んでいたようで、その顔を見た巨ケモは少し自慢げに言った。
なんとも奇妙な状況にあって、認めたくはないが、でも確かに心地が良い。
それもこれもやはり彼から一切敵意や殺意を感じないからこそ成り立っている気持ちの良さなのだろう。
ドクンドクンと股間が脈動する振動や音だけで支配されそうな、それくらいのスケール差が確かにここには存在しているが、それが味方であると考えるとむしろここまで頼もしく安心感のあるものは他にはないだろう。
彼は間違いなくこの島最強のボディーガードなのだ。
気付かないうちに、女性のほうも“巨ケモのペニスの上が一番安全で、ここが今の自分の居場所なのだ”と納得し始めていた。
ふわふわの体毛と暖かなペニスの体温。ただただ純粋で優しい少年に、身も心も許してしまう。
「うん…。巨ケモ君のおちんちん、とっても気持ちいいよ…」
彼女は本心からそういった。
性的な意味ではなく。本当にただただ居心地が良かったから、それを言葉にして伝えただけだ。
巨ケモはそんな私の様子を見て余程嬉しかったのか、にっこりと笑顔を見せた。
「まずは僕の住処と、島の案内をするね。落ち着いたら一緒に小人さんがお家に帰る方法見つけようね。・・・大丈夫。“今度こそ”ちゃんと守る。」
最後のほうは心の声がそのまま言葉に出たような感じで小声ではあったが、巨ケモの笑顔が一瞬真剣な眼差しに変わったのを私は見過ごさなかった。
しかし、今はまだ彼の事情について、とやかく聞くべきではないと判断した。これから沢山彼と交流することになる。その中で少しずつ距離を近づけていけばいい。お互いのことを知っていければそれでいい。
色々と事情はあるだろうし、知らなければならないことは確かにいっぱいある。
なぜ自分はここにきて、なぜ裸だったのか。この島はいったいどこにあり、なぜ巨ケモが存在しているのか。彼がなぜ人語を操るのか、なぜここまで優しくしてくれるのか。わからないことだらけだ。
でも今はただ何も考えずにこうして彼のチンコの上で揺られていたかった。短時間の間にあまりに急展開なことが起こり過ぎて、だいぶ疲れてしまったのだ。
私は改めて思った。こんな不安だらけの状況で、誰も頼る者もなく、たった一人でこの島に放置されていたらどれだけ孤独だったことだろう、と。そう考えると結果的には彼がここにいてくれて良かったと心底そう思う。
彼ならきっと一緒に真剣に家への帰り方を探してくれるはずだ。
今もこうやって自分を気遣いながら優しく歩いてくれる。その心の温かさだけで今は十分だった。
「ふふっ…。あったかい…」
沈み込むような柔らかい陰毛のベッドの上で、優しい温もりを発し続ける巨大な肉の抱き枕を抱きしめる。
巨大な獣人と小さな人間の世にも奇妙な共同生活がこれから始まろうとしている。
おわり
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おまけ
その日、僕はこの島に“落ちてきた”。
何も知らない土地。凶暴な島の動物。小さな身体の僕にはただ生き延びるだけでも辛くて、いつも不安で押し潰されそうだった。
しかし、そんな時、一人の人間と出会った。
島の動物達と違って彼は僕のことをイジメたりはしなかった。それどころかいつも優しく語りかけてくれた。
僕はそんな声に応えたくて必死に口を動かすが、口から出るのはいつもニャンニャンという鳴き声だけ。
でももどかしくても僕はずっと彼に喋り掛け続けた。
・・・そして、ある日不思議なことが起きた。
驚いたことに僕の言葉が人間に伝わったのだ。そう、気付けば僕は人間の言葉を話していた。
人間も驚いていたが、どうやらこの奇跡はこの島に秘密があるようだった。そして二人で考え、ある仮説を立てた。
“この島は想いが叶う不思議な場所なのではないか”と。
人間も自分の住む町からこの島に“落ちてきた”らしいが、島に来てから数日で身体に変化があったという。
島の動物達から逃れたいと願えば足が速くなり、食料を必死に探していると、気付けば急速に視覚や聴覚が鋭くなっていったと言うのだ。
そして僕も人間とコミュニケーションを取りたいと強く願ったから、言葉を喋れるように声帯が変化したようだった。
人間との共同生活は楽しかった。
人間は色んなことを知っていて、沢山のことを教えてもらった。そしていつか二人でこの島を脱出しようと約束した。
しかし・・・
ある日、二人で食料を探してきた時、僕らは凶暴な肉食獣の群れと鉢合わせした。
退路を塞がれ、絶対絶命と思われた時、人間は僕を掴み上げ、木の上に放り投げたのだ。
そして、僕から注意を逸らそうと人間は獣たちに無謀にも突っ込んでいった。
僕はただ木の上から人間の身体が獣共に引き裂かれていくのを見ているだけしかできなかった。
恐怖と悔しさで震えながら。
(自分にもっと力があれば人間を助けられたのに…!)
そう思うと自分の弱さが嫌になった。
強くなりたい。大きくなりたい。そう思った。
そして僕は誓った。
もし次に誰かがこの島に落ちてきたときは、人間が僕にしてくれたように今度は僕が全力で守ると。
何があっても絶対に死なせたりはしないと。
おわり