XaiJu
Kara
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【F/M】擽鬼夜行──霧雨女──#3

3. 10分ぶっ通しコチョコチョ地獄 (F/M) 梅雨はまだ明けていない。 岬の親友の七子は今日も来ていない。 岬は今朝、目を覚ましてからずっと昨日のあの出来事は、特異な出来事だったのだと思っていた。 嫌いな少年──尾国俊介に助けられて、その礼に家に立ち寄らせて、あまつさえゲームを一緒にするという特異なイヴェント。 あれは、親友がいない中、一人で恐ろしい道を通って恐ろしい女に襲われたことで発生した普段では絶対に発生しない異常事態だったのだ。 だからもう多分──あんなことは起きない。 それで良い。 それが岬の日常なのだから。 ただ、やっぱり聞きたいこと、知りたいことはあるのだけれど。 「おはよっ!」 登校してから朝のホームルームが始まるまでの退屈な時間を、席につき雨に濡れた窓を見つめて過ごしていた岬の耳に、たいそう耳障りな声が差し込まれた。 反射的に岬は声のする方を見てしまう。尾国がキラキラした目で岬を見て、ニコニコしている。 何も言わない岬に対し、尾国はもう一度「よっ」と挨拶をした。今度は、小さく右手を挙げている。 「なに?」 「なにって。朝の挨拶」 尾国は腹の立つ笑みを浮かべたままそう言って肩に掛けていたバッグを机に置いた。 「うんおはよう」 岬は頬杖をついたまま素っ気なく返した。 「なあなあ。今日また勝負させてくれ」 椅子を引いたのと同時にどかっと着席した尾国はまた神頼みするみたいに岬に手を合わせた。 「はぁ?まだやんの?」 「当たり前だろ!勝ち逃げはずるだぞ」 尾国が岬を指差して、脚をばたばたさせる。 「勝ち逃げって…それ私が負けるまで言われんの?卑怯じゃない?」 「卑怯なもんかよ。絶対に勝てないと思ったら諦めるからさ」 絶対に勝てないと思ったら──つまりそれは、尾国にとって岬は"勝てると思っている相手"であるということ。 岬の闘争心に再び火がつく。 「いいよ。どうせ暇だから───暇つぶしね」 岬は尾国の方を見ずに快諾した。暇つぶしだと強調して。 胸の内側が強く強く鼓動している。耳の辺りが妙に熱い。 「やったぜ!」 尾国は拳を握りしめた。 尾国がまだ自分に勝てると思っているのなら、その対抗心を砕いてやろうと思った。 どうせ打ち負かすのなら、根っこから徹底的に。 ◯ 尾国 俊介が自分の部屋にいるのはやっぱり妙だけど、なんだかもう慣れてしまった。 「今日の俺は昨日の俺とは違うぞ!なんせ帰ってから動画サイトで何回もコツをチェックしたからな」 尾国は、ちっとも誇れないことを誇らしげに言った。 「なにそれずるくない?」 「ずるくないずるくない。どうせ実践できないから」 尾国は自分で言ってへらへら笑った。 「はぁ…?」 尾国の意味不明のズル宣言からの自虐に岬はうっかり、笑いそうになった。 「あ、そうだ。この勝負に俺が勝ったらさ、古賀、俺に英語教えてくれない?」 「英語?」 意外な要求に岬はつい、高い声を出してしまう。 「うん。ほら古賀って英語得意だろ?俺苦手でさぁ」 確かに岬は英語が得意な方である。 けど──。 「別に私にじゃなくて良いでしょ。他にもいるだろうし。英語得意な人」 わざわざ自分が尾国に英語を教えてやる必要性が感じられないし、うまく教えられる気もしない。 「いやいや古賀じゃなきゃダメだって」 尾国が食い下がる。 「なんで」 岬は、自分でも意外なほどに食い気味に聞き返した。 「むさい男に教えられたくない…」 泣きそうな顔と声で尾国は言った。予想していなかった答えに岬は思わずため息をつく。 「何その顔…」 「な!?いいだろ?そもそも、俺が勝ったらって話だからさ!」 尾国に言われるまで、岬はこれが対戦に負けた場合の話であることを忘れていた。 岬が負ける可能性は依然低いままだ。それなら、受けてやっても良いだろう。そう思って渋々承諾した。 「じゃあさ。私が勝ったらどうするの」 自分だけがリスクを負うのはなんだか癪だった。 「うーんそん時は…罰ゲームとか?モノマネとかそういうの」 「そんなのしょぼいでしょ。釣り合ってない」 「どんだけ俺に英語教えたくないんだよ…」 「うーん…」 岬は考え込んだ。 底抜けに明るい尾国のことだ。変顔とかモノマネとかそう言った普通の人が恥ずかしがることをさせてもダメージはないだろう。むしろ喜んでやりそうだ。 だからそれらは却下。罰ゲームになっていない。 もっと、尾国が嫌がるようなこと。本当に懲らしめられること。 "アレ"だ。 「決めたよ」 「おっ。なに?」 「言わないけど」 「なんだそれ」 「その時になったら教えてあげる」 岬は言って、上がりかけた口端を無理やり下げた。それでも口端は少しだけ、上がってしまった。 「まじかっ!!!昨日より上手くなってない!?」 勝負は岬が勝った。昨日よりも圧勝だ。昨夜、岬はずっとこのゲームをやり続けていたのだから当然だった。 尾国はよほどショックだったのか、コントローラーを置いて頭を抱えていた。 「じゃあ…約束通りだね」 岬は立ち上がり、押し入れを開けてタオルを取り出した。 「うん?何すんの?また頭グシャグシャ?」 「違うよ。ほら両手出して」 岬は尾国の前に立ち、手のひらを向けて尾国に手を出すように促した。 「ちょ、ちょっと待って。なにするかだけ教えて?」 尾国はやや体重を後方へ掛けている。警戒心剥き出しだ。 「10分間こちょこちょ」 岬がそう告げるなり、尾国の肩がぴくりと動き、尾国が立ちあがろうとする。 岬は尾国の細い手首を掴んでぐるりとタオルを巻きつけた。 七子が依然、敵対する生徒にこうやってたのを見ていたのだ。 七子がやっていたのを思い出しながら、尾国の両手首をタオルでぎゅっと縛り上げる。 「ちょっ!?勘弁してくださいよ姐さん!」 「姐さんじゃないし。はい手挙げて」 「い、いやぁ…」 尾国が首を傾げて甘えたような顔をする。 「ほら早く」 岬は背後から尾国の横っ腹を突っついた。 「ぎゃっっ!!?」 尾国の細い身体がビクンとくねる。 さっきの罰ゲーム発表時のリアクションから察してはいたが、やはり想像以上にくすぐったがりだ。 これは──当たりだ。 岬は、タオルで縛った腕をグイッと引き上げ、そのまま縛られた腕と腕によって形成された輪っかを自分の首に通して引っ掛けるようにした。 これで、尾国の両腕は、岬という柱に縛り付けられてしまった。 「そ、そんな本格的にやる…!?」 「こういうのって、手抜いたらつまんないでしょ」 ──やるなら徹底的に。根っこごと。 岬は両手を、閉じることのできない両脇に近づける。 七子の指遣いを思い出しながら、指をワキワキと曲げ伸ばしする。 それを見た尾国の顔からさっと血の気が引いていくのが見ていて分かった。 「じゃあ今から10分ね」 ちらりと部屋の時計を見て岬が告げる。 尾国は変わらず縮こまっている。 「いくよ?」 尾国は観念したのか何も言わず、ただじっと固まっていた。 岬は、すっと手を引っ込める仕草をして見せた。 尾国の身体が警戒心を解いたその瞬間──。 岬は、その指先を尾国の開いたままの腋の下に喰らい付かせた。 「ぎゃうっっ!!?」 不意打ちを喰らった尾国の背筋がビンっと乗り切り、岬はそのままの勢いで腋の下を指でモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョと揉みしだくようにくすぐった。 「ぶあっっ!!?ちょっ!!?おっ!!?だめだっっ!!!だめだこれっっ!!うわぁぁぁぁぁぁぁあああはははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?ギブっ!!ギブっ!!!ギブぅぅぅっっ!!!」 尾国の身体からすとんと力が抜ける。 腕を下ろそうとしているのか、ぐいぐいと岬の首に圧がかかる。 岬は尾国の抵抗を阻止するべく、さらにモニョモニョモニョモニョと脇をこちょばす。 「ギブとかないから。まだあと9分50秒くらいあるから。はい頑張って」 モニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ! 「ほえへへへへへへへへっっ!!?じゅっっ!!じゅっぷんはやっぱ長いっってぇぇっ!!!っっへへへへ!!へっへははははははははははははははははははははははははははははは!!!ちょっ!!ちょっと止めてっ!!ちょっとっ!!っっひひひひひははははははは!!」 尾国はパニックになったように脚をバタつかせたり、首を振ったりして悶えている。 だがどうやったって、岬の指先から逃げることは不可能だ。 岬は、自分の手で、指で苦しめているという現実が、たまらなく愉快だった。 だから止める気なんてなかった。10分間みっちりとこちょばし倒してやるつもりだった。 モニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョモニョ!! 「ほあははははははははははははははははははははははははは!!ちょっ!!?古賀っっ!!上手すぎっっだってぇぇ!!っっへへへへへへへへへ!!?っっへへへはははははははははははははははははははは!!まじでっ!!マジでっっ!!!っっへへへへへへははははははははははは!!」 岬の白くて細い指の繊細な先端部が尾国の腋の下をモニョモニョと柔らかくするように動くたびに、尾国は腰を浮かせたり、背中を反らせたりして必死に逃げようと暴れる。 ──岬ってこちょこちょの才能あるよ。 もっと良いこと教えてあげるね。指先と爪の先のどっちもをこう…肋骨のあたりに食い込ませてゴリゴリやるの。これ、やばいから。 岬は以前、七子に教えられた通りにした。 腋の下からするすると指を滑らせ、尾国のバンザイの格好で浮きてた肋骨まで移動させる。 凸凹した肋骨のミゾの一つ一つに指先を食い込ませる。 「くあああああっ!!?」 尾国が甲高い声を上げた。尾国の上半身の筋肉が強張るのが岬の指先にまで伝わってくる。 「ちょっ!?それはっ──」 尾国が言い終えるのを待たずして岬は肋骨全体をグシャグシャと泡立てるようにゴリゴリゴリゴリと神経をほぐしくすぐった。 「ふあっっ!!?ぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああははははははははははははははははははははははははは!!?かはっ!!?それっっなっっ!!?なんだぁぁぁぁぁぁっっ!!?っっははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?」 尾国の綺麗な瞳が滲んで、目からじゅわっと涙が溢れ出る。 尾国の顔が真っ赤に染まる。 指先が神経を捉えているのが、絡め取っているのが岬に伝わってくる。 岬は、自分の細い指の先が、少し伸びた爪の先が、くすぐったさの塊を尾国の肋の神経に捩じ込んでいるのがよぉく分かっていた。 グシャグシャ!! ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!!! 「ごぁぁぁぁぁぁぁあああああっ!!?まじでっ!!やめっっ!!一旦!!!一旦ストップっ!!!古賀っ!!なぁっ!!っっはははははははははははははははははははははははははははははははは!!!?もうきついっ!!きついってこれぇぇぇぇっっ!!!」 岬が何かを掴むような動きでワシワシゴリゴリと肋骨の隙間の神経を刺激するたび、尾国は笑い声なのか悲鳴なのか絶叫なのかも分からない声を絞り上げて暴れる。 「あと八分あるからね。頑張って」 岬は敢えて──残り時間を多めに教え、絶望させてから肋骨をゴリゴリくすぐり砕き続けた。 グシャグシャ!! ゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリゴリ!!! 「ぐはっっ!!!?っっはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?きっっきつっっ!!?まじでっ!!死ぬっ!!!これっっ!!!これ死ぬってぇぇぇ!!っっへへへへへはははははははははははははははははははははは!!!」 自分の指先の動き一つで、尾国が呼吸もままならないほど悶えて苦しんでいるという現実に、岬は高揚していた。 力では敵わない相手が、指の関節を折り曲げるだけで笑い転げてこの責苦からの解放を懇願してくるのだから。 ──こちょこちょにはさ、色んな方法あるんだけど、同じタイプのこちょこちょばっかりより、色んなやり方混ぜた方が苦しめられるよ。例えば、ゴリゴリ系からいきなり───。 岬は肋骨から指を抜くと、そのまま尾国の伸び切っている横っ腹に爪を立て、カリカリコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!っと引っ掻いた。 「ぎょえっ!!?んぁああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!?あへへへへ!!!い、いきなりっっ!!!ぃっっひひひひははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?」 七子の言っていた通りだった。 尾国は、突然系統の違うくすぐり方──爪の先っちょを使った引っ掻くようなくすぐりに、腰をくねらせ大悶絶している。 ──爪は伸びているほど引っ掻き系のくすぐりには有利だからね。 ちょうど、岬の爪は良いくらいに伸びている。 その爪の先っちょを、張り詰めている横っ腹の表面に当てて、こちょりこちょりと引っ掻く。引っ掻く。引っ掻く。 コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! 「うえへへへへへはははははははははははははははははははははは!!?なっっ!!!なんだよっっ!!!?プロかよっっ!!?っっへへへへはははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!ぎひひはははははははははははははは!!!うぁぁぁぁあはははははははは!!!」 爪の先っちょで横っ腹をコチョコチョし始めてから、尾国の皮膚に鳥肌が立っているのが分かった。 ゾクゾクするくすぐったさが送り込まれているのだ。苦しいのだ。 ならもっと。もっと。爪の先っちょをもっともっと──。 コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!! 「あっっひひひひひひひひひひひひ!!?いひひひひひひひははははははははははははははははははははははははは!!?ぁぁぁぁへへへへへへへ!!?っっへへへへへ!!?ちょっ…!!?古っっ賀ぁぁぁっ!!!!っっはははははははははははははは!!!」 罰ゲーム開始から五分が経過していた。 岬は、五分ぶっ続けで尾国をこちょばし倒していたのだ。尾国は涙をどろどろ流し、顔をぐちゃぐちゃに歪めて今にも笑い死にしそうになっている。 それでも岬は宣言通り10分間みっちり尾国を苦しめるため、指を止めない。絶対に、爪で神経をなぞるのをやめない。 カリカリカリカリカリカリ!! コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!! 「にょははははははははははははははははははははははははははは!!!あは!?あはははははははははははは!!いひひひひひひひひひ!!!ひぃぃぃぃひひひはははははははははははははははははははははははははっっ!!!」 爪の先が制服の薄いシャツを引っ掻く音が、それで尾国が身を捩らせ苦しむ様を見るのが、岬はとてもなく楽しかった。 ───それでさ。意外とやばいのが──。 またしても舞い降りる親友の言葉。 岬は、するっと両手を尾国の小さな顔の下──首回りに移動させると、そこをこしょこしょこしょこしょこしょこしょっとこしょぐり回した。 「うげっ!!?うへ!?へっ!!?うへへへへへへへへへ!!?ひ!?ひひひひひははははははははははははははははははははははははははははは!!!ぎひひひひははははははははははははは!!?なっっ!!?なんだぁぁぁぁぁぁ!!?」 激しいくすぐりの合間に入れる緩やかなくすぐり刺激。そのギャップが辛いのだと七子は言っていた。 さらに、それをじっくりじっとりと神経に送り込むことで、相手の頭がおかしくなるような苦しみを与えられるとも言っていた。 本当にそんなふうになるの? 岬は好奇心を抱きながら、尾国の小さな顎の下を引っ掻いたり、耳の周りや首を爪で撫で回す。 こしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょこしょっ!! 「ぐふふふふ!!?ぐひっ!!?ぐひひひひひひひひひひひひひひ!!!?きっっきつっっ!!?ぃひひひひひ!!!?やばいっ!!やばぃっ!!ぃぃぃひひひひひひひひひひひ!!!んあひひひひひひひひひひ!!?」 笑い方としてはさっきよりも激しくはない。だが、尾国はじわじわと送り込まれてくるこの刺激に確実に心身を蝕まれている。 "引っ掻く"というより"撫で回す"動き。その動きで、首回りをゾクゾクコチョコチョ刺激していく。 尾国が首を窄めて指が挟まっても、指先だけを器用に操って爪の先でコチョコチョする。 「ぐふふふふひひひひひひひひひひ!!?待っでごれっっっ!!!?これなんかやばぃっでぇぇぇ!!っっへへへへへへへへへへへ!!!いひひひひひははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!?」 ゾクゾクしたくすぐったさを絶え間なくじっくりと首回りに注がれ続けている尾国の顔の筋肉は完全に弛緩している。 確かにこのまま続ければ確実にこの尾国をとろとろにすることが出来るだろうと岬はそう思った。 でも。 ───でもやっぱりトドメはドギツイのイッておかないとね。そういう時はやっぱりお腹──あそこ、まじ呼吸困難になるから。 岬は両手を尾国の薄くて引き締まった腹に滑らせた。 「ふえっ!?」 指関節を折り曲げ、爪を立てる。 そして。 ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!!!っと掻き回した。 「ぶあっっ!!?なっっ!!?かっっ!!?ひゃぁぁぁぁぁああああああああああああははははははははははははははははははははははははははは!!?かはっ!!?はっ!!?うわぁぁぁぁぁあああははははははははははははははははははははははははははは!!?」 腹に炸裂するこちょぐったさに尾国が身体を丸める。だが岬は、瞬時に一瞬──右腋の下をこちょぐり、尾国の身体を開かせた。 そしてまた、露わになった腹に指を滑らせ掻き回す。 ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!!! 「ごはっ!!?はっ!!?ひゃぁぁぁああははははははははははははははははははははははははははははははは!!?かはっ!!かはっ!!くはっ!!?くるじっ!!?いひひひひははははははははははははははははははははははははははははは!!!」 くすぐった過ぎるせいで、尾国がまたしても丸まろうとするので、岬はそのまま後方に倒れ、仰向けになった。 岬の身体の上に尾国の身体が乗っかるような体勢になる。 これでもう尾国は、腹筋を使わないと丸めることができない。くすぐられてへろへろの尾国には腹筋を使うことなど出来ない。 逃げ場を奪われた尾国。 その無防備なお腹を、岬はめたくそにこちょぐり回す。 シャツの下の硬い腹筋の感触を味わうように。躍動する神経を蹂躙するように。 ワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャワシャ!!! 「かはっ!!?ほあっ!!?くはっ!!!くるじっっ!!まじでっっ!!っっひ!?ひっ!!!はははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!くはっ!!くはっ!!!ぁぁぁぁぁああああああ!!!」 岬の身体の上で尾国がもがく。 下腹部が弱いと判断した岬は、両手の指を下腹部に集結させ、トドメに死ぬほど暴れさせた。 ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!! 「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああ"っ!!?あっ!!!あっっ!!?あっっっ!!?ぅぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああっっ!!!っっ!!?っっ!!!!くっっ!!?かっっ!!?かっっ!!!?」 猛烈なこちょばゆさにより、ついに呼吸が追いつかなくなった尾国は声すら発する事もできず、咳き込んだりしながら無言で脚をバタつかせた。 明らかに罰ゲームの範疇を超えたコチョコチョ地獄だ。それは岬も分かっていたが──やめられなかった。 ゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョゴチョ!!! 「くくくくくかっっ!!?かっっ!!!!っっっ!!?ほっっ!!?かっっ!!?こがっっ!!!っっっひひひひ!!!まじっっ!!ギブっっ!!あっっ!!!かっっっ!!?っっっっ!!!」 ぱしぱしと尾国の手が岬の頭を軽く叩き、我に帰った岬は時計を見た。 既に制限時間を一分も過ぎていた。 岬は慌てて指を止めた。 「ぶあああっ!!はぁっ!!はぁっ!!はあっ!!」 尾国はまるで溺れていたみたいに必死に酸素を取り込んで、まともな呼吸を始めた。 「はいお疲れ」 岬はそっけなく言って首から尾国の両腕を外した。 「はぁはぁ…古賀って…ドSなんだな…」 尾国は床に倒れたまま呼吸を必死に整えながら言った。 「別に」 そんな自覚はない。自分がSかMかとか考えたこともない。 ただ、この尾国に対してはなんとなくこうしてやりたくなっただけだった。 そういう意味ではSなのかも知れない。 「いつまで寝てんの」 岬はつま先で尾国を小突いた。 「うげっ。もうちょっと休ませてくれよ…マジで死ぬかと思ったんだから」 「罰ゲームなんだからこれくらいするでしょ」 「やり過ぎだって。っていうか、俺の方が釣り合ってなくないか!?死ぬほどくすぐられるのと、英語教えるのって全然違うだろ!」 尾国ががばっと上体を起こす。 「そんなことないと思うけど」 「そんなことあるだろ…。いや、あるね。よし」 尾国はバッグから英語のノートと教科書を取り出して座卓に広げた。 「ちょっとなにやってんの?」 「なにって。英語教えてもらう」 「はぁ?あんた勝ってないでしょ」 岬はすかさず、ノートをのける。 「勝ってない!!けど、英語教えてもらうくらいのことはしてもらって良いくらいの苦しみを受けた!」 尾国は大袈裟に身振り手振りをしてみせた。 「そんなに?」 「そんなに!」 まるで子供のような言い返し方だった。 「今日教えられたとこの復習でいいからさ!な!」 「うーん…まぁそれくらいなら…」 ルールとは違うが、確かにさっきのはやり過ぎたかも知れない。 もうとっくに助けられた恩は返したし、だからこそさっきの罰ゲームでは日頃の鬱憤をぶつけたのだが──それでもやり過ぎた気はしていた。無論、やっている最中は楽しくて仕方がなかったのだが。 結局、岬は尾国に英語を少しだけ教えてやることにした。 尾国の教科書やノートのあちこちに落書きがされていた。 上手い。 「絵。上手いんだ…」 意外だった。 騒ぐか、笑うか、走り回ってるイメージしかなかった尾国が綺麗な絵を落書きで描いてしまうなんて。 「絵描くの好きなんだよ」 尾国は得意げに笑って指でペンをくるくる回した。 「なんかさ、本の表紙見たり…それこそゲームのパッケージのデザインとか見るの好きなんだよなぁ…!好きなやつ見つけたら模写したりするし!」 「デザインか…へぇ…意外」 「そうか?」 意外だ。 岬から見た尾国俊介とは、そういういわゆる文化的な側面を持たない。どっちかというと文化を消費するだけの人種だと思っていた。 でもよく考えれば、マイナーなゲームであるデッドホームをやり込んでいたり、ゲームのパッケージをまじまじ眺めていたりと昨日の時点でそういった文化的な面はちらほら見えてはいたのだ。 「さ。俺の落書きはどうでも良いから教えてくれよ」 尾国は教科書を開いて、のどにぐっと折り目をつけた。 「いいよ」 岬は筆箱から赤いボールペンを取り出し指に挟んだ。 尾国は意外にも岬の教えたことをすんなり受け入れ、理解した。たまにぶつけてくる質問もとても分かりやすかった。 本当に英語が苦手なのかと疑うくらい、尾国の飲み込みは早かった。 「古賀って教えんの上手いんだな。人に何か教えるのとか好きなタイプ?」 尾国は座りながら後ろに手をつき、あくびをした。 「いや別に。それに、上手くもないよ」 尾国の飲み込みが早かったからだ。断じて自分が教えるのに長けているからではない。岬はそう思っている。なんせ人に勉強を教えたことなんてないのだから。 けれど、教えるのを少し楽しいと思っていたことは事実ではあった。 自分の知識を頭で整理して、上手く伝えられるようにする。それが相手に伝わって理解してもらえる──その過程が楽しかった。 こんな気持ちになったのは初めてだった。 「そういやさ、古賀って"ツナちゃん"と仲良かったよな」 天井に吊るされた古い蛍光灯を見つめていた尾国がぼつりと言った。 「はぁ?誰?いや待ってまさか──」 ツナちゃんと言われて一瞬、岬は誰の顔も思い浮かばなかった。けれど、はたから見て岬と仲が良いと分かるレベルの生徒は限られている。 つまり。 阿久津七子。 アクツナナコ。 ツナ。 「うわぁ…まさか七子のことそう呼んでんの…?」 岬は顔いっぱいに不快感を表して言った。 「うん。一年の時一緒でさ。本人公認だぜこれ」 尾国は親指を立ててニカッと笑った。 「嘘でしょ…」 あの七子がそんなふざけたあだ名を許すとは思えなかった。 だが、七子は結構面食いだから、尾国には許していたのかも知れない。 だから、尾国以外が呼べばきっと拳か蹴りが飛んでくるだろうと思われた。 「ツナちゃん可愛いのに強ぇよなぁ。一年の時さ…入学してすぐの頃に三年がツナちゃんに目付けて、ツナちゃんをどっかに連れてっちゃったんだよ。それでさ、ツナちゃんがその三年どもを体育館裏でぼっこぼこにしたって。中には男もいたんだぜ?すごくないか」 「すごいよ。七子は」 七子のことは自分がよく知っている。強いのは当たり前だ。 その話も知っている。入学した時点で噂になっていた七子が三年の不良たちに目を付けられたことが発端で起きた事件だ。 確かその時七子は、文鎮か何かを使ったと言っていた。 「なんつーか、思い切りが良いっていうかさ、普通やんないよな。後のこと考えたら…それをやっちゃうのが怖い…っていうかすごいよな」 尾国はヘラヘラ笑った。 その通りだ。七子の強さは、そこにある。 「俺、小学校までは関西にいたんだけどさ…」 「え?そうなの?」 ちっともそんなふうに見えない。 言われてみれば、たまにイントネーションが違うところがあったような気もする。その程度だ。 「そうそう。そうなんだけど…周りにはツナちゃんみたいな子はいなかったなぁ…」 「関西にはいなかったんだ。七子みたいに強い人」 「うん。いや、待てよ…不良じゃないんだけど、なんてったっけなぁ…かん──なんとかってヤツが悪ガキどもをぶちのめして回ってるって話ならあった」 「かんなんとか?知らないの?」 「知らないよ。苗字だとしたら"かんだ"とか"かんざき"とかそんなのかもな。他になんか候補ある?まぁ、見たこともないし、友達じゃねぇから分からんなー。男か女かも知らんし」 「男でしょ流石に」 もし女でそんな奴がいたら、それこそ七子みたいに強い女がいるということになる。それは、岬としてはあってはならない。 帰り際、尾国はまた意外なことを言った。 「色々世話になったな。なぁ!今度さ、面白いところ行こうぜ。いいとこあるんだ。英語教えてもらったお礼に教えてあげよう」 「え?」 岬はまだ次があることに驚いた。 けれど、けれど不思議と嫌ではなかった。 尾国は岬の返事を聞かないまま、玄関ドアを開けて帰ってしまった。


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