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ハルカナ
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ショーダウンⅡ 『41:幕は下りて……』

#41『幕は下りて……』 ――麗華と百合子の因縁が決着を迎えた頃、メインホールでは…… 「ハァハァハァハァ……生きてる? 紅葉?」 「……えぇ、どうやら生きてる……みたいね。いちお、呼吸は……してるわ……」 「ゲホゲホ! そう……なら、よかった……」  麗華がエレベーターに乗り例のサーバールームへ向かったその数分後、カジノのメインホールは駆け付けた複数人の警察官によって速やかに現場を押さえられた。  警官達は『不正の通報を受け現場を押さえるよう指示を受けた』とカジノ側の主任に告げ、客達を退店させるよう促しを入れていた。そして店側は直ちにカジノ機器の稼働を止めて控室にて待機する様指示が加えられ今に至るのだった。 「ちょっ! 何すんのよ! 私達は、このカジノ関係者じゃないって言ってんでしょ!!」 「あのぉ……本当に私達はただ言われた通りのショーをやっていただけでして……」  ステージにて綾香と紅葉を責め立てるショーを続けていた鈴音と智恵理は、その現場の異様さを目撃した警察官によって直ぐに取り押さえられ……何故か手錠まで掛けられ拘束されていた。  綾香と紅葉は違法カジノの何かしらの被害者ではないかと疑われ、すぐさま拘束を解除されると……現場の混乱が収まるまでとりあえあずと言うことでステージ端に二人して隣同士に横に寝かされ、ギャンギャンと喚いている鈴音たちの様子を見ていたのだった。 「アハハ……ザマァないわね。調子に乗って責め過ぎたからカジノ側の人間だと勘違いされて取り押さえられているわ♥ 鈴音なんて本気でビビって涙目になってるじゃない……あぁ、イイ気味♥」  綾香は身体を横に傾けて、現場に押さえつけられている二人と困惑している警察官の様子を見てほくそ笑んでいる。  一方の紅葉の方は、ぼんやりと天井を眺め気の抜けた声で独り言を呟いている。 「……警察が来たという事は……もう完全に……このカジノは終わってしまった……という事ね……」  その独り言を横で聞いていた綾香は声のトーンを落として背中越しに彼女に問い掛けを返す。 「未練が……ある? このカジノに……」  綾香のその言葉に紅葉は少し自分の考えを整理し顔を少し綾香の方に傾けて、その背中に言葉を返す。 「まぁ、拾われた身だったから……多少はね。でも、ディーラーもイカサマも……私の本当にやりたい事じゃなかった……。あんたを釣る為だけに始めた事だから……」  紅葉の言葉に綾香は身体を彼女の方へと向け直して彼女の目を見つめ言葉を続ける。 「そうだったわね。じゃあ……あんたが本当にやりたかったことって……何?」  綾香にその様に聞かれ、再び目を閉じ少しの間を開ける紅葉……  そして、閉じていたその目を開くと……天井に思い描いた理想の自分を投影させて言葉を紡ぎ直していく。 「私が……やりたかったこと? そんなもの……最初から決まってる。私は……煌びやかなステージに立って、私の手品を堂々と披露して……お客さん達を驚かせてあげたい……。あんたのステージを見て、ずっとそう想い続けた……」 「ふぅ~ん、やっぱり……私がそのキッカケになっていたって訳か……」 「初めて見たあんたのステージは……客は全然いないわ、ステージや機材もショボイわで散々だって思ったもんよ?」 「あら、言ってくれるじゃない。でも……駆け出しのマジシャンなんて皆そんなもんでしょ?」 「えぇ。確かに私も同じ道を歩んだから何となく分かってる。でもさ……あんたのステージは、機材や演出はショボイのに……何故か引き付ける魅力があった。まるで……あんたの夢の世界に引き摺り込まれたかのように、仕草や言葉に夢中にさせられた……」 「……なんか、そう言われると照れるわね……」 「見終わった後、凄いと思ったわ……。こんな、人もいない、ステージも小さい、機材もショボイって思える環境で客の心を鷲摑みにして放さなかったのだから……そりゃあ、素晴らしい舞台に立ってそれを披露すれば凄いショーになるだろうって……子供の私にも思えたほどだもの……」 「……うぅ……そんな過大評価してくれていたの? 当時の私を……」 「私より何歳かしか違わない若い女の子が……見られている事に気負う事なく、堂々とマジックを実演している姿を見た時の衝撃は……凄かったわ。その凛とした顔を見ただけでカッコイイって思えた……」 「ちょ、やめてよ! 私はそんなんじゃないわよ! あんたも……今日知ったでしょ? 私はくすぐり如きに子供のように笑ってしまう……ただの根性無しだって……」 「そうね……正直、アレを見てビックリもしたわ。あんたに笑うイメージなんて一切無かったから……ゲラゲラ笑うあんたを見て、別人を見てるのかと疑ったほどよ」 「わ、悪かったわね! 笑わないイメージ植え付けて!」 「でも、良かったわよ? あんたの……笑い顔……」 「……ッっ!?」 「案外、可愛らしく笑うじゃない♥ そして、だらしなく笑う姿も扇情的で……エロかったわよ?」 「う、うるさいなぁ! そう言うあんただって……子供もみたいに笑い悶えていた癖に!」  綾香に反撃の言葉を食らうと、紅葉はクスリと口元に笑みを浮かべて薄く目を閉じる。そして、彼女の言葉を否定することなく飲み込んで自身の考えを紡ぎ始める。 「フフ……。不思議よね? くすぐりって……」 「……?」 「私がどんなに……綾香の前で無様な姿を見せたくない! って思っていても、そんな思いを無視するように無理やり笑わせてしまう……」 「…………」 「あんただってそうでしょ? 本当は私なんかにあんな無様な姿見せたくないって思ってたでしょうに……でも、くすぐられたら思わず笑ってしまって自分じゃ制御できなくなってしまう……」 「ぅぅ……思い出したくない……」 「笑ってしまうのが悔しくて……無様な姿を見られるのが恥ずかしくて……自分の意思通りに身体が動かせない事がもどかしくて……辛くて苦しくて怒りの感情すらも勝手に湧いて来る。そんな状態を長時間強いられたのに……なぜか解放された後は、よく分からない爽快感みたいなものが湧き上がってくるんだもの……」 「爽快感?? な、なに? くすぐられ過ぎて……頭イカレた?」 「い、イカレてないわよ! 失礼な! でも、あんたも感じなかった? とことんまで笑わされて追い込まれた後、拘束を解かれた瞬間に感じるあの安堵感……苦しくて辛かった責めから解放されたあの爽快な解放感を……」 「……うぅぅ……まぁ、感じなかった訳じゃ……ないけど……」 「私は、それをさっき味わったわ……。気絶する瞬間……意識を手放す瞬間……体が浮いてしまうかのような解放感を感じてしまった……気持ち良さすらも感じたくらいよ? その余韻が今でも残ってる……」 「……えっ? あんた……もしかしてマゾだったりする?」 「さぁ、どうかしらね? そういう気質があったのかもって、私も自分で思った程だけど……でも、これって私達に共通して感じられる感覚じゃない?」 「共通して……?」 「この解放感の正体は多分……普段、感情を抑え込んでいる人間であればある程感じられるものだと思うの……」 「普段……感情を……抑え込んでる?」 「私もそうだけど……あんたもそうでしょ? 仮にもマジシャンやディーラーなんて仕事やってたんだから、客の前でポーカーフェイス決め込むなんて当たり前だったじゃない」 「……まぁ、そう……ね……」 「感情を抑えなくちゃいけない仕事をしてれば、普段から感情を無意識的に隠してしまう事だってざらにあると思うのよ……」 「う、うん……」 「それってさ……結構ストレスになってるって思わない?」 「……っ!?」 「無意識にとは言え……本心を隠して偽の表情を作るのって、知らず知らずのうちに心にストレスを抱えていたんだって今なら思えるのよ……」 「……それは……」 「私は普段それに気付かなかったクチだけど、でも今日……思いっきり笑った後に気付かされたわ。笑う事って……こんなに気持ち良い事だったんだって……」 「い、いや……でも……くすぐられて笑うのと、楽しくて笑うのって……違くない?」 「まぁね。確かに、私がさっき笑ったのは……私の意思ではなかった。楽しくもなかったし、笑いたいとも思っていなかった……。むしろ、苦しくて辛くて……早くやめて欲しいとさえ思ってた」 「そりゃそうよ……。私だって……好きにでくすぐられた訳じゃないし……」 「でも……いざくすぐりが終わって苦しい笑いから解放されるとさ、そこで思っちゃうんだよね……。私は今……久しぶりに何の気兼ねもなく笑いを発散したんだって……」 「なんの気兼ねなく……発散……」 「テレビとか漫画とか見て笑う事はあっても、客を前に笑う事なんて……滅多にないじゃない? しかも、こんな馬鹿笑いを人に見せるなんて……大人になった身からすればあり得ない事じゃない?」 「……そう、ね……(でも、私は2年前同じことをされたんだけどね)」 「こういう事がない限りは……人前で大口を開けて笑うだなんて……あり得なかった。でも、いざ……笑わされてみると……今まで溜め込んでいたものを吐き出せたような気分になれて……実に爽快な気分になれたのよ♪」 「あ、あんた……それ……鈴音には言わない方が良いわよ? それ聞いたら“責めが足らなかったみたいね、もっとヤってあげる♥”とか言いかねないから……」 「フフ……♥ それを言われると……ちょっとゾクッとするわね♪」 「……(絶対マゾだ、根がマゾだったに違いない)」 「なんてね……冗談よ。私だって……あんな、死ぬほど苦しい体験をまた味わいたいとか思ってないわ……」 「………………(本当かなぁ?)」 「でも、良い経験をしたとは思ってる。恥ずかしかったけど……でもそれ以上に、私もあんたもちゃんと人並みに“笑えるんだ”って改めて気付かされたし……」 「人並みっ!? ……ちょっと、何それ! まるで私が普通の人間じゃないみたいな言い方じゃない!」 「そうよ。だってあんたのあの笑い顔を見るまでは……私は信じてなかったもの。カード捌きの女王と呼ばれたあんたが、くすぐり如きに感情をむき出しにして笑い悶える姿を見せるなんて……」 「う、うっさいわね! 昔からくすぐりは苦手だったのよ! それにあんな弱点丸出しの格好で拘束されてくすぐられれば……誰だって……」 「まぁ、そうなんだけどさ……。でも、実際……私は最初見た時は流石に心の中では動揺したわ。クールでカッコイイと思ってたあんたが、あんな子供の悪戯の様な行為で簡単に笑ってしまってる姿を見て……」 「もぅ! 私は別に……カッコよくも何もないんだって……」 「その姿を見れたから、逆に考えも改まったの。綾香も……私と同じで、くすぐられると笑う……普通の女子なんだ……って……」 「だから! 私は今も昔も普通の女子なんだってば!」 「私はそれを今日知ったわ♪ だって……それまでは、完全無欠で完璧なマジシャンだって思っていたんだから……」 「うぅ……」 「くすぐりが……あんたのそんな仮面を剥いでくれた……。あんたが普通の女子であると私の認識が改まったからこそ、余計な色眼鏡で見ずに済むようになった……」 「なんか……ヤなんだけど? くすぐりで人間認定されたみたいで……」 「そう? でも大事な事だと思うわよ? イメージなんてモノは本人が思う以上に周りの人間が勝手に誇張して付けるものなのだから……」 「むぐぅ……」 「無様な姿を見てギャップを感じて……今までのイメージが崩れて……そして再構成されたあんたのイメージは、私にも親近感を覚えられるほどの普通の女子って感じに纏まったわ。今までは遥か遠くの手の届かない場所に居たあんたが、急に隣にまでやってきたかのような親近感を覚えた……」 「手が届かないなんて……買い被り過ぎよ!」 「んで、その親近感を覚えた後に……アレを見せられたじゃない?」 「……アレ??」 「苦しむ私を……身を挺して助けてくれた。身代わりになってくれたじゃない♥」 「……あ、あれは! そ、その……」 「まぁ、あんたにも事情があったかもしれないし考えがあってそうしたのかもしれないけど……でも、私はその時……九死に一生を得たと思える程に助かったと思った」 「………………」 「その時はまだ……私にもあんたに対するわだかまりは持ってたけど、あのあんたの連れが過去を語ってくれて……自分の誤りにも気付く事が出来た……。それと同時に、わだかまりも綺麗さっぱり消えてなくなってしまった……」 「……うぅ……」 「私はあの時……またあんたの事を“カッコいい”って……思い直したわ……」 「……か、カッコ……いい??」 「身を挺して私の事を庇ってくれたあんたは……やっぱり、私の思っていた通りカッコいい椿綾香だった……って……」 「……ッっ!?」 「どんなに醜く笑い悶えても、どんなに子供のように嫌がって暴れる姿を見ても……私はやっぱりあんたの“芯”の部分に憧れていたんだって……そこで気付いた……」 「……芯?」 「どれ程あんたの性格の悪さを見ても……どんんだけ想像とのギャップを覚えても……あんたは……私の憧れに違いなかった……。それを再認識させられたわ……」 「……うぅぅ……何よそれぇ! 絶対褒めてないでしょ!」 「アハ♥ 照れる顔も可愛いじゃない♪ 顔も真っ赤になっちゃって♪」 「う、うるさいなぁ! あんたが恥ずかしい事ばっか私に言うからっ! 私は……他人から褒められるの……慣れてないのよ……」  プイっと視線を逃がすように顔を横に向ける綾香に、紅葉はクスリと爽やかな笑顔を顔に浮かべてみせる。その笑顔は、小麦色に焼けた顔に……なんとも映える可愛らしい笑顔だった。  綾香は顔を真っ赤にさせつつも紅葉に見えないように口元に笑みを浮かべ、そこでやっと……心の底から安堵した息を大きくつく。そして、ほんの少し間を開けた後、火照ったままの顔を再び紅葉の方へと向けて改まった質問を零していった。 「ねぇ……紅葉?」 「……うん?」 「あんた……その……まだ、あの夢……叶えたいと思ってる?」 「……あの夢?」 「ほら、さっき語ってたじゃない。あんたの夢……」 「……あぁ、マジシャンになるって夢?」 「そう……。煌びやかなステージで、沢山の観客の前で手品を披露する……それがあんたの夢だったって……そう言っていたわよね?」 「……うん。それは……変わってない……」 「……だ、だったらさ!」 「でもね……」 「……?」 「その夢は……私の罪を償ってからまた見ようと思っているの……」 「……ッっ!?」 「私は……私の意思でイカサマに手を出した。それは紛れもない事実だし……被害にあった人も大勢いると思う……」 「……で、でもそれは……あの、伊角とかいうオーナーが指示した事だったんでしょ? だったら……」 「指示を受けて、私はあんたを罠に嵌める為に利用した……その事実は、今更変えようがないモノよ……」 「……そ、そうかもしれないけど……」 「もしかして……誘ってくれようとしてた? こんな私の事……」 「……えぇ! あんたが嫌じゃなければ……私と夏姫を手伝って貰いたいって……そう思ったから……」 「フフ♥ ありがとう。でも、その申し出は……今は受け取れないわ……」 「な、何で? あんたが夢見た煌びやかなステージも、沢山のお客さんも用意できるのよ? イリュージョンが嫌とかなら……あんたの為の手品コーナーだって作ってあげられる! そこでなら……あんたの夢は叶うのよ?」 「……あぁ、そう言えば……あんたに言ったイリュージョンを嫌悪してるかのような発言……アレは訂正しておくわ」 「……?」 「私は別に……イリュージョンが嫌いという訳じゃない。アレも手品の延長線上にあるものだって……理解してるから……」 「だ、だったら何であの時……露骨に嫌悪するような事を……」 「アレはあんたに当てつけをぶつけただ~け♥ 手品を捨てて大掛かりな機材に頼るショーに転向したあんたに嫉妬の感情をぶつけてやっただけよ♪」 「……うぅ!」 「あぁ、でも今は理解してる。あんたは……身を隠しながらも限られたチャンスの中から自分が出来る選択を行っただけよね? それも聞いたわ……」 「……麗華……あいつ、どこまで私の事喋ってんのよ!」 「だから、別に……あんたと組んでイリュージョンをすると言われても嫌とかではないわ……」 「じゃ、じゃあ!」 「でも、私は私なりにケジメはつけないと……」 「……っ!」 「ヤった事は消せない……被害者を生んだことは……事実なんだから……」 「……出頭する気? 自分もイカサマに加担した……と……」 「そうね……そのつもり……」 「イカサマに加担したと世間にバレたら……被害に合った人間に……復讐されるかもしれないのよ?」 「……知ってる。それはあんたも……経験している事ですもんね?」 「下手したら……殺されるかもしれない。殺されなくても……怯える日々を過ごさなくちゃならなくなるわよ? 私みたいに……」 「その時は……あんたが傍に居てくれる……でしょ?」 「……っ!?」 「ケジメは……ちゃんとつけて来る。もしかしたら……酷い制裁を受ける事になるかもしれない……。でも、もし……それでも私に……再び夢を追いかけるチャンスを与えてくれるって言うのなら……私はそれに縋ってでもあんたとショーに出たいと思っているわ」 「……も、紅葉……あんた……」 「その時は……よろしく頼むわ♪ 今度は綺麗になった身体で……あんたの前に姿を見せてあげるから♥」  屈託のない笑顔で堂々とそう言い放つ紅葉に、綾香は一瞬出そうとしていた言葉を呑み込もうとしてしまう。しかし、彼女の素直な物言いを受けさすがの綾香も呆れる息を零す事を余儀なくされ……呑み込みかけた言葉を再び口から零す事とした。 「あんた……ほんっとに……真面目なのね? 見た目とは大違い……」 「あぁ! あんた今……私がギャルっぽいからって偏見の目で見てた事サラッと告白したわね?」 「あ、当たり前でしょ? そんな……金髪に日焼けのチャラい姿を見りゃ……誰だって偏見くらい持つわよ!」 「ムカつく! そうやって人を見た目で判断するから、差別とかイジメとかの温床になるってのよ!」 「人間の第一印象なんて見た目が9割よ! その見た目をチャラくしたのはあんたの意思でしょうが! そんなに真面目な考え持ってんだったら、もっと大人しめの格好しろ!」 「ギャルの何がいけないのよっ! 良いでしょ、別に! 私はこういうファッションとこういう見た目が好きなのっ!」 「ったく……自首するんなら、それ相応の格好しておけって言ってんのよ! でなきゃ……その姿を見ただけで“勘違い”する人間だって居るんだから……」 「うぐっ! ギャルに対する世間の風評は……追い風だって言いたいのね?」 「ふざけて自首したと見られなければ何でも良いわよ……これでも、あんたの事心配してやってんの!」 「ふぅ~~~んだ! あんたの所に姿を見せる時は絶対このギャルファッションで会いに行ってやるんだから! 覚悟して待ってなさいよね!」 「はいはい……。せいぜい、反省してますって顔で世間様に謝罪する事ね……」  綾香はその様に憎まれ口を叩きながらも、紅葉の芯の強さを見て彼女に羨ましさすらも抱いてしまう。  自分には到底彼女のような決断は出来なかった。麗華と結城が手を差し伸べてくれた好意に……素直に甘えてしまう道を選んでしまった。  その結果……決して晴れぬ復讐の目に怯える日々を過ごす事になっているが……綾香はそれも自分の贖罪の一環であると自分に言い聞かせている。  あのような事をしでかした後に……普通の生活が出来るとは思ってもいない。名前を公表して恨みつらみの矢面に立つ事も考えたが……その勇気は遂に自分の胸中に沸いては来なかった。  不特定多数の人間から同時に向けられる恨みを直視するのが怖い……  多人数から捲し立てられては自分の誠意など伝わらないのではないか? と、そう不安に思ったから……今の今まで自分の手の届く範囲でしか贖罪を行えていなかった。  もう2年も経とうとしているのだから……今更感は拭えないが、しかし……紅葉の覚悟を見て綾香も思うのだった……  あの時……自分も、恨みの矢面に立たされるべきだったのではなかったのか……と。  麗華達に甘えるべきではなかったんじゃないか……と、自責の念に苛まれてしまう。  しかし、それも……今更なのだ。  あの時……綾香は決断した……  自分は、不安を抱えながらも生きながらえてこそ……贖罪になるのだと……  自分が苦しむ姿を誰にも見せずに、ひっそりと世界の片隅で後悔しながら過ごす事こそが、自分らしい贖罪になると……  それを全うしようと……心に決めたから、今更考えを変える気など無い。  紅葉の贖罪の仕方と綾香の贖罪の仕方……それは、道こそ違えど……自分の行いに後悔をしているという点については共通している。  だから、またいつか交わる事もあるだろうと……期待できる。  互いに……終わりのない贖罪の旅を続けなくなくてはならない身なのだから……いつか必ず、その道は一つに繋がる事になるだろう。  綾香は、それに期待を込めて紅葉に言葉を送る。 「必ず……夢の舞台でまた……会いましょう……」 「私がその舞台を用意して待っているから……だから、必ず……スポットライトの当たるステージの下……沢山の観客が見ている前で披露しましょう……」 「私達の……最高の……マジックを……」  ……と。


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