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【全体公開版】スケベスキルで世界最強~やっぱ最強はちんぽっしょ!!~ 18

 ジェルに告白すると決めてから、少したって。

 おれは困っていた。


「今日の訓練はここまででいいだろう。また腕が太くなった気がするのだが、良かったら触ってみるか?」


 聞き間違いかと思っても、上裸のジェルはにこやかなまま力こぶを作って待っている。狼の毛並みは汗で湿っており、膨らんだ上腕二頭筋の曲線が綺麗に浮かび上がっていた。

 スピードタイプである『神風』の話だけ聞くと勘違いしそうだが、ジェルの体はでかい。逆三角を描く上半身は当然として、下半身のごつさがえげつないのだ。

 素早く動くための脚だからそりゃそうだろうが、本人曰く、俊足を制御するブレーキとしての側面が強いとのこと。確かにあの速度を制御するにはこれくらい脚が太くないと駄目かもしれない。

 おれの掌四つでも囲いきれるかってくらいの太ももだから、相当ごついよ。それでいて腰がシュッとしているせいでバランスがイケメンすぎる。それでも腰はおれの胴体の倍くらいはあるけど、相対的な話で。樽のようなフォグやゴライザ、筋肉の鎧を着こんだヤードとはまた違った体つきだ。


 そんなジェルがおれを誘っている。

 アーミライト家の中庭で太陽を浴びるジェルは魅力の塊で、きらきら輝いているのは汗のせいだけでは絶対にない。だって鼻血が出そうだもん。

 本当に『愛撫』のスキルが憎い。これさえなければ、おれは喜んでジェルにさわるのに。


 もうばれてるだろうけれども、おれが自分で言うまでは隠しておきたいのだ。


「いいよ、遠慮しとく。ありがとうね」


 だから断腸の思いで目をそらす。これ以上見ていると股間とかがえらいことになるから駄目。


「そうか、変なことを言ってすまなかった」


 耳を倒してシュンとする狼に心が死ぬほど痛む。

 いや、本心では触りたいし、なんだったら抱き着きたい!


 けど……やっぱりまだ駄目だと、自分に言い聞かせる。ここで甘えてしまったら、絶対犯す。そうなれば告白とかもう夢のまた夢になってしまう。


 最近ずっとこうなのだ。ジェルがおれにアピールをしてくる。

 ジェルがおれにアピールをしてくる!

 ジェルが! おれに! アピールをしてくる!


 なんだこれは。いったいどうしたというんだ。

 あのジェルだぞ。堅物真面目ど天然。交際経験どころか性行為経験すらなしの、あのジェルだぞ。


 それがここのところずっと、何かあればおれに触るように体を見せつけてくるのだ。

 一緒におふろに入ろうと言ってきたり。

 はてには同じベッドで寝ようとしてきたことだってある。

 

 …………いったい何がどうなってるんだ。

 逆に怖くなってきた。え、ひょっとして、おれ探りでも入れられてるの?

 エロ関係のスキルだろうと確信を得ようとしている?


 何か裏がありそうで素直になれないおれをよそに、タオルで汗をぬぐったジェルは後片付けを始めた。

 謹慎しているせいで暇を持て余しているためか、こうして訓練に精を出していることが多い。洗脳された自分のふがいなさをたしなめる意味もあるのだろう。

 そのタオル欲しい。使用人に片付けさせるくらいならおれにちょうだい……なんて言えない。


「今日」ジェルが頬を拭きながら。「これから商人が家に来てくれることになっているから、好きなものがあれば何でも頼んでもいいぞ」

「えっと、何でもって……何でも?」


 さわやかイケメンマッチョ狼の魅力に言語中枢が死んでる!!


「ああ、好きなものを頼むといい。思えば、お前にはねだられたことがなかったからな。この世界についてよく知らなかったのもあるだろうが、傭兵街から帰って来た今なら、何か一つくらいほしいものがあるんじゃないか?」


 と言われても何だ、おれの欲しいものって。

 傭兵街にいたころも娼館の売り上げがよかったおかげで、特に苦労もしなかったからなぁ。装飾品の類とかはあんまり興味がないから、お金を使うのってもっぱら生活かエロだったし……。

 そもそもここにいたころだって、異世界人ってことで優遇されてたし困ったことがない。そんなことジェルも知ってるだろうに。


 おれが何も言わずに考え込んだのを見て、ジェルは尻尾を下げる。待って落ち込まないで。


「お、おいしいもの!」ようやく絞り出した答えがこれ。「おいしいものが食べたいな! 首都だと絶対傭兵街よりおいしいものあるよね?!」

「わかった。最高峰のシェフを呼んでおこう」


 朗らかな笑顔を浮かべる狼におれの心が熱くなる。この世界に飛ばされてきたときからの支えだ。ジェルはいつだっておれに安心感を与えてくれる。


 狼が近づけばそよぐ毛皮から汗の香りが立ち上る。健康的な生活をしているジェルが醸す、雄の匂い。そんなものを吸えばどうしたって意識してしまう。

 硬直したおれに構うことなく距離を詰めていき、目の前がジェルのおっぱいで埋まる。谷間に顔をうずめたくなる衝動が暴れまわってしょうがない。主に股間で。


 だが、ここで手を出せば暴露したも同然。おれが自分の意志で言うまではばれたくない。


 そんな葛藤をしているおれにジェルは、そのたくましくて汗臭い谷間を押し付けた。


「――――?!?!?!?!?!」


 肉の密度と湿った毛皮から暴力的に押し寄せるジェルのフェロモンが脳みそを発情一色に染め上げて股間がやばいことになっているしなんだったら鼻血も出てるかもしれないけど今はそれどころではなくて唇からしみこむジェルの味がものすごくおいしいひょっとしておれがお願いしたおいしいものってこのことだったりいやそんなわけはないだろう馬鹿落ち着けおれ――


 とっさのことでジェルを抱きしめなかったのは我ながらえらい。触ってしまえば終わりなんだ、できるだけ手を離したところで硬直して肺一杯にジェルを堪能する。

 毛皮に隠れてるけどおっぱいすごいな。ヤードと同じタイプだ。筋肉だけで構成されてるでかさ。その分硬いけど雄の胸って感じがしてたまらない。


 抱擁はどのくらい続いたのか。体感無限だったのだけど、おれが意識を取り戻したのはジェルとの間に新鮮な空気が入り込んでからだった。


 狼は呆然としているおれから恥ずかしそうに眼をそらして、赤らんだ顔のままタオルをかぶってしまった。


「本来なら、私がこんなことをすべきではないのだろう」


 消えそうな声だ。おっとりしたジェルにしては珍しい。


「お前にとって私が好みではないのも知っている」


 待って。特大にでかい勘違いしてない?

 好みでないどころかど真ん中ですが?


「だが……もしお前が男性でその欲望を発散したいというのなら」


 この時になって初めて、おれはジェルの真意に気づいた。

 ジェルはいつだっておれのことを大事にしてくれて、愛してくれる。


 息子として、だ。


 狼は恥ずかしさを散らした顔をしたままだったが、ようやくおれと向かい合った。タオルからのぞく目でしっかり見据えて、これを言わねばならないと、覚悟を決めた父の顔で言う。


 やっぱりジェルにはおれのスキルについてばれていた。

 そして、これがジェルの出した結論なんだろう。


「これからは、私を使いなさい」


 ジェルはおれのためにその身を差し出したのだ。


****


「それはもう完全にばれてるな」


 王宮の一室で、フォグが結論付けた。

 いつも通りみんなの検査とセックスをしにやって来たついでに、相談したのだ。


 『華炎』の部隊を率いることになったフォグは再編成やら引継ぎやらで死ぬほど忙しそうだったけど、おれの顔色を見た瞬間に休憩をとって付き合ってくれた。こういうところ気が利く男だと思う。


「まーそうだよな。お前のスキルは異端すぎるっていうのもあるけど、『竜の爪』を完全篭絡して、今回の戦いでも大活躍だったもんな。隠す方が無理だ」

「だよねぇ……」


 メイドが持ってきてくれたアイスティーを飲みながら、熊は口元をナフキンで丁寧に拭く。

 グリッジの暴走によってしっちゃかめっちゃかになっている家のこともあるのに、この熊は変わりない。本当に強くなった。


「それでジェル様が責任を感じて、その欲望を一身に受けようとしたのかもな」

「うううぅぅ、いい人すぎる……好き……」

「おれも好き……」


 ジェル大好き組が集まると大体こんな感じだ。平和を実感する。


「でも、ジェルっておれのこと息子としか思ってないんだよなぁ」

「思うんだが、お前が息子、おれが妻になればすべて丸く収まるのでは?」

「ぶっ飛ばすぞっ?!?!」


 ジェルはおれがめとるって決めてるんだが?


「じゃあお前の妻、おれの夫ということで」

「それならまあ……」

「いいんだ」


 つい口をはさんだのは同じく休憩中のランド。フォグが移籍するように、ランドも『茜差す栄光』のところの副官に昇進するらしい。しゃべったことあるけどものすごく人が良さそうで、ランドもいればほんわかした部隊になるだろうな。

 本人曰く、リブラの魔の手から守るためらしいけど。おれの知らないところで『騎士道走行』と手を組んでいるみたい。リブラってどこでも敵を作りすぎじゃない?


「ばれてるのは確実だと思うよー」丸々としたお腹をさすりながら虎は言う。「実はこの前ジェル様との面談があって、いろいろ聞かれたからね」

「え、待って、怖いんだけど。フォグも?」

「おれはまだだ。忙しいことは知ってるからな」

「まあ目的は他にあったんだけど、別にそれはいいんだ。話した感じだと、やっぱりジェル様なら自分の身を差し出すよねぇ。面談中も『私がしっかりしなければ……』とか言ってたし」

「うぐぐぅ……」


 やばい、完全にイメージダウンしてる気がする。手のかかる子だと思われてそう。


「ど、どうすればいいと思う?」

「禁欲じゃない?」

「おれもそれしかないと思うぞ」

「無理だ!!」


 こちとらスケベスキルのオンパレードに、最近はエロが仕事みたいなところがあるんだぞ。もとはといえばおれのスキルのせいだけど、それでも途中で投げていいものではない。


「まあそうだよね」へらへら虎が笑ってる畜生。「だからおとなしく諦めて、ごめんなさいしたほうがいいかも」

「おれらをど淫乱の雌マンコにしたこととか」

「傭兵街で雄を食い散らかして、さらにはコハク王子も手にかけたこととか」

「ウィザロン様とかお前に対しての求愛行動があからさまだからな」


 これらを全部謝罪するとなると、いくらジェルでも許してくれなさそう……。

 最悪勘当とか……?


『それはない』


 否定の声は二人同時だった。


「あのジェル様に限って、絶対にない!」熊の鼻息は荒い。

「ジェル様にそんなことさせたかったら、世紀の悪人にでもならない限り無理だよねぇ」虎は何度も首を横に振る。


 よかった。そう言ってもらえるとちょっとは気が楽になる。


 思えばジェルは最初に会ったときからやさしかった。

 おれが異世界に飛ばされたとき、最初は本当に怖くておどおどしていた。獣頭とか創作でしか見たことないし、なんか国のために働くことの素晴らしさとか説かれるのも怖かった。


 最近知ったのだけど、本当ならおれはグリッジに引き取られるところだったらしい。

 ただ、震えているおれを見かねたジェルが、自分のところで引き取ると王様に掛け合ったそうだ。

 あの頃はなんでジェルのところだったのか全く分からなかったけど、もしグリッジのところにいたらこんな日々は絶対来なかっただろうな。最悪ぶち切れて国ごとつぶしてた可能性がある。


「さらっと言うなよ……でもまあ、お前ならできるだろうな」

「そしたらおれらは君の敵になってー……あー、勝てなさそー、強化とか絶対されてないだろうしね。……でさ」


 虎の視線がこっちを向いた。


「君はこれからどうするわけ?」

「おれ?」

「そう、もう騒動も終わったし、これからまたジェル様の教育が始まるわけでしょ。一応今はエロスキルの後始末をしてるけど、それだってあと少しで終わる」


 おれがジェルに引き取られたのは国のために尽くすよう教育するという名目だった。つまり、最終的にはこの国の要職につくってことだ。

 ランドはその時のおれの希望を聞いたんだろう。どの部隊に入りたいか、どんなことがしたいのか。


 でも、改めて言われると、確かに困るな。異世界に来たのも急だし、国のためとか言われても……って感じだったから。

 今はコハクやジェルの役に立ちたいって気持ちはあるけど、じゃあ、何がしたいんだって言われると困る。


「それもおいおいでいいだろ。こいつは脳みそに精液しか入ってねえんだから、そんな真面目なこと考えられるわけがねえ」

「フォグが辛辣すぎる……」


 それでこそフォグって気はするけどさ。

 だけど、口は辛いがかなり仲はいいんだ。もちろんとげのある言葉だけで終わらない。


「部隊の編成が終わってから見学に来るといい。お前ならいつでも歓迎する」

「もちろんおれもねー。ファンダルも君のこと心配してたから、顔みせてあげてよ」

「ありがとう、楽しみにしとく」

「でも……なんだ、おれらは家が家だから当然のように軍に入ったが、お前はそうじゃないんだ。ジェル様なら要望を聞いてくれるだろうし、コハク王子もお前には甘い方だ。要望があるなら言ってみてもいいと思うぞ」

「おおー、フォグも丸くなったねぇ。傭兵街に行く前はもっとつんつんしてたのに」

「そうか? ……まあ、いろいろあったからな」

「いいなぁ、リブラもほんのちょっとおとなしくなったし、おれも今度は特別任務に行きたいなー」


 ランドがニヤニヤしながらお菓子を頬張って、楽しそうに尻尾が揺れる。軍に入らなくてもいいというフォグを咎める気などないようだ。


「ん、おれも大体同意見だしね。家がそうだからって絶対跡を継がなくちゃいけないわけじゃない。特に君はアーミライト家の血筋ってわけじゃないしー」

「お前の父親が聞いたらぶちきれそうだな」

「あははー、真面目な息子だったらこんな腹になってないんだよねー」


 膨れた腹を撫でながら朗らかに言うが、ランドが訓練をさぼってるとかではない。ただ単純に食べる量が多いだけだ。

 ……いや、不摂生って意味では真面目ではないのかもしれない。


 とにかく改めて考えると、おれはこれから何をしたいんだろうなぁ。

 おれはもともと現代社会から来てるので、後を継ぐとかそういう考えが絶対とは思ってない。だけど、じゃあ何をしたいのかって聞かれると困る。


 うんうんうなっていると、机に置かれたアイスティーから氷がカランと音を立てる。やってることは完全に友達とお茶だ。こうやってみんなと話せることが嬉しく思う。

 それもこれも、ジェルがおれを引き取ってくれたおかげだ。


 でも、なんでジェルはおれを引き取ってくれたんだろう。グリッジから強引に奪ったおかげで、かなり圧をかけられたみたいなのに。


「放っておけなかったんだろ。ジェル様は優しいから」

「それはわかる。感謝もしてるけど、あの頃のジェルは今よりずっと余裕がなかったのになあって」

「まあ、ジェル様のところはご両親が早死にしてるから、仕事が多いのは昔からだ」

「住んでるからそれは知ってる。あの家にはジェルしか家族がいないからね。でも、そんなに昔のことだったの?」


 ジェルについて聞きたいことがたくさんあったのに、傭兵街に行ってたおかげであまり聞けてないんだ。くそ、グリッジめ。おれとジェルの間を引き裂きやがって……。


「ジェル様がまだ成人する前だな。おれも話にしか知らないが、かなりごたついていたようだ。親父が分家であるという立場を活かしてあの手この手で攻め込んだみたいで、かなりやばかったらしい。陛下がいさめてくれなかったら、アーミライト家は本当に終わってたかもな」

「相変わらずフォグの父親ってえげつないよね……」

「申し訳ねえ……。おかげでアーミライト家はがたがたになっちまって、没落は時間の問題だとすら言われていた」

「まージェル様はそのころから神童と言われていたから、おれはあんまり気にしなかったけどねー」


 おれが引き取られたときも、使用人なんてほぼいなくてさみしい空気が漂っていたことを覚えている。だからこそ、ジェルは『竜の爪』からおれの世話をしてくれる人を見繕う必要があったんだ。グリッジによる間者がはびこっているのは本人もわかっていたから。

 だって最悪暗殺されてたかもしれない……今更ながら、昔のおれって相当危ない立場だったんだな……。


 それでもジェルは家に帰るといつもおれのところに来てくれて、いろんな話をしてくれた。世界のこととか、スキルのこととか。おびえているおれを心配して、王宮での授業を先延ばしにしてくれたりもしてくれて、ジェルはいつだっておれを助けてくれた。

 自分の方が絶対大変だったくせに。あの頃は何もわからなかったけど、今思い返すとジェルは本当に苦労していたと思う。


「だから、恩返しするのはおれの方なんだ……」

 

 今は謹慎で引きこもっている狼を思い浮かべると、胸がポカポカする。

 続いてさっき押し付けられた汗ばんだ胸も一緒に。

 んんんんんんっ、エッチ!!


「とまあそれは置いといて」

「どれをだよ」

「こっちの話。ジェルに恩返ししたいんだけど、何をしたらいいと思う?」

「怒られる前にやるとは、お前もなかなか人が悪いな」

「違くて! ただ、落ち着いてきたしちょうどいい機会だからってことでさ!」

「ははっ、わかってるよ。おれも移籍する前にお世話になったお礼をしようと思ってたんだ。祝賀会もかねてやるか」

「おれもおれもー。おれがファンダルのところに行きたいって相談したらいろいろ便宜を図ってくれたし、お礼はしとかないとね」


 さすがはジェル。人徳の塊だ。

 提案すれば二人とも当然のようにのってきてくれた。


「じゃあやるならジェル様の家で、サプライズパーティだな。さすがに謹慎中にパーティに参加するといい顔をされないが、自宅で、それもおれらだけの小規模ならいいだろ」

「それ賛成ー。でもジェル様は謹慎してるから、仕込むの難しくない? どうする?」

「あ、それならおれがジェルの気を引いておくよ」

「頼んだ。おれは『竜の爪』の面々を誘って、費用などをまとめておく」

「じゃあファンダルにも声かけてみようかな。あいつ、ジェル様のところをグリッジによって無理矢理移籍させられたから、かなり気にしてるんだよー。この機会に和解させたいんだ」

「重ね重ねうちの親父がご迷惑を……」

「あはは、なんでフォグが謝るの。ファンダルもフォグが悪いとは絶対思ってないから心配しないで」

「さすが王国の良心……」


 お茶菓子を食べながら、三人でどんなパーティがいいかと話し合う。文化祭を思い出すなぁ。こういうのが楽しいのは異世界でも変わらない。

 でも二人はいろいろ忙しい身なのに、準備とか大丈夫なのだろうか。

 

「別にこのくらいなんでもねえよ」

「そうそう。それに、頼んだらみんな手伝ってくれるだろうしねー」

「もちろん私もな!」


 ばーんと登場したのは黄金の龍コハクだ。慌てて立ち上がろうとする二人を制して、空いている席に座る。控えていたメイドがそそくさとお茶を用意している間に、にっこりと笑ってこう言った。


「もう、仕事、やだ」

「あ、この人心が折れかけてる」

「折れるに決まっとろうが! なんだこのふがいない体たらくは! 私がいない間にグリッジが好き放題した結果、元老院は機能しとらんは父上は再起不能だわ役人の汚染は深刻だわで! やることが、あまりにも多すぎるんだが!」

「重ね重ね……重ね重ねうちのくそ親父がご迷惑を……」


 この国を掌握するためにグリッジがだいぶやらかしてきたんだろうなぁ。

 おかげで今フォグが蒼白になってる。

 

「よい、お前のせいではない。だから私もジェルのサプライズパーティに参加! したい! 仕事やだ!」

「仕事したくなさ過ぎて幼児退行してる……」

「うちの親父の件もそうだが、コハク王子は最近ストレスがたまりすぎてるからな……」

「エッチなお兄さんとしての名声が高まった結果、みんな私とのワンチャン狙ってるんだぞ?! 毎晩ウィザロンに護衛してもらえないと、部屋にも帰れないんだぞ?!」

「あまりに自業自得過ぎない?」

「ガニスなど隙あらば私の腋に顔を突っ込もうとするし……」

「それについては本当にごめんなさい!」

「なあ君、君よ。今晩は泊っていかんか? フォグとランドも同伴してよいぞ。四人でパジャマパーティしながら日頃溜まったうっ憤をセックスで発散せんか? 複数人でまわされるという体験がしたいのだがどうだろう?」


 どうだろうじゃねえよこの淫乱王子。そういうことばかり言うから誤解されるのでは……。

 でも隠し村で大事に育てられてきたコハクは同世代の友人というものがいない。こうして公式な立場を手に入れたことで、やっと普通のものを手に入れられるようになったのだろう。

 王子だからもとが普通とは程遠いけど。


「面白そうな話だけど、実は今日ジェルがすごいシェフを呼んでくれたから、一緒にご飯を食べる予定なんだ」


 おいしいものが欲しいと言ったから、ジェルが招いてくれたんだ。さすがに欠席するわけにはいかない。


「そうか。せっかくの親子水入らずだ。楽しんでくるといい」

「しょぼくれた顔しながら言わないでよ」

「なに、最近君が構ってくれなくてさみしいだけだ。気にするな」

「わかったって、今度泊まりに行くから。それで許して」

「よし、言質は取ったからな。それで、ジェルのパーティはどういうものにするつもりだ? 良ければ王宮の方から人手を派遣したいが……謹慎を言い渡した手前それは難しいか」


 いくらサプライズとはいえ、それでは謹慎の意味がなくなってしまう。


「王子の手を煩わせることなんてありませんよ」フォグがきっぱりと断りを入れる。「これはお世話になった我らの仕事なので、王子は日々の業務を忘れて楽しんでくだされば結構です」


 まあフォグの立場ならそう言うだろう。特にこの熊は真面目だから。

 そもそもコハクがこっそりここに来るなんてできるの?


「あー……」虎が言いよどむ。「ウィザロン様さえ説得できればなんとか。今ごたごたしてるから、暗殺の危険がないとは言い切れないんだよねぇ。まだタニザ様に王位を継承させれば何とかなると思ってる愚か者がいるから」

「うわ、まだ大変なんだね」

「だから戻ってきたくなかったのにー!」


 とかなんとか言ってテーブルに突っ伏するコハクだけど、全部覚悟の上で戻ってきたことをおれは知っている。だから、応援すると決めているんだ。

 っていうか、コハク自身がかなりの強さを誇ってるから、そこら辺の刺客とか返り討ちにできるでしょ。


「できるが、やはりいつも狙われているというのはメンタルによくない」

「それもそうだねぇ」

「その点、君らのところは安全だ。あの騒動でグリッジ派のやつらは大体除籍されてるからな」

「そういえばそうだったね。あ、そういえば、ヤードが二つ名もらえそうなんだって?」

「うむ。先の戦いでかなりの武勲をたてたからな。妥当だろうとも」

「でもそれってフォグとかコハクも同じじゃない?」

「私は別に武勲など必要ない立場だからいらん! これ以上有名になどなりたくない! フォグはグリッジの件があり、名声を与えることに消極的な動きがある。父に反旗を翻した武人という功績があれど、恩情を乞うた時点で難しい」


 それをフォグは当然という顔で聞いている。


「まあ王を手にかけるなんてお家取り壊しにされてもおかしくないところを、コハク王子が助けてくれたんだ。それ以上は望まねえよ。それに、おれはまだまだ弱いからな」

「はぁー」お茶菓子を頬張りながら虎が器用にため息をつく。「真面目だよねぇ。おれらの中でも強い方なのにさ。目標がジェル様だからって、自分に厳しすぎるよ」


 それはごもっともだと思う。ジェルに勝てる存在をおれは知らない。

 おれがスキルで強化した面々でさえ、まだ勝てないのだ。異世界チートが通じないんだけど、どうなってるんだと驚きを隠せない。


「まあ、あれは強くならねばならなかっただけだからな」


 龍がお茶を飲みほして、氷が涼しい音をたてた。

 そういえば、コハクは昔からジェルのことを知っていたんだった。だから、この中では一番ジェルについて詳しいはずだ。


 だけど、おれが何かを聞こうとするより前に、黄金の龍が立ち上がる。


「やりたくないが、そろそろ戻らねば。君、絶対に泊まりに来てくれよ。でないと泣くぞ。大の大人が大泣きしながら駄々をこねるから、楽しみにするがいい」

「国に戻っても相変わらずだなこいつ……」

「当然。私は変わらず私。エッチなお兄さんのコハクだ」

「それで部屋にも帰れなくなってるくせに……」

「んふふ、それももうすぐ終わるだろうがね。なあ君、君よ。楽しみにしているがいいさ」


 なにやら意味深なことを言って残して、コハクは去っていく。

 おれらは首をかしげながらも、サプライズパーティの相談に花を咲かせるのだった。

 

****


 やると決まれば行動は早かった。そもそもが貴族子弟の多い『竜の爪』の面々だ。金と地位に任せた準備はあっという間に終わり、いよいよ今晩決行というところまでやってきた。


 アーミライト家の執事に話はつけてある。おれの役割は、ジェルにばれないように隔離すること。

 だからこうしていつも通り、暖炉の部屋で狼の硬くなった肩に頭を乗せながらまどろんだ時間を過ごしている。


「今日も王宮に行ってきたのだったな。彼らの様子はどうだった?」

「あーまあ、ちょっとはよくなってるよ。でも、後遺症はでるだろうけど」

「そうか。フォグたちくらいになれば仕事に支障は出ないだろうが、そこまで回復するのは大変そうだ」

「……完全にばれてそうだけど、その、やっぱりジェルはおれのスキルについて……もうわかってるよね」

「わかっているつもりだ」


 おれが異世界に飛ばされてからずっと続いていた暖かい時間。

 ここで話す言葉はその内容にかかわらずいつだって柔らかい。


「お前のスキルは性欲を支配するものだ。それは人の三大欲求であり、あらがうことは難しい。そして、性欲を向上することで、身体能力や特異なスキルを開花させることができる」


 正解。今までの行動からばれてることが確実だったので、特段驚きはしない。

 おれは肩の顔をうずめ、小さくうなずくだけにとどめておく。今はジェルの顔を見れなかった。


「スキルのオンオフはできるのか?」

「出来ないのもある……触っただけで気持ちよくなるスキルとか」

「だからお前は私に触らなかったのか」

「うん……」


 こわばっていた肩が下るのがわかった。ずり落ちそうになって慌てたが、すぐさま大きな手がおれを支えてくれる。太くたくましい腕がおれを抱きしめ、柔らかい毛皮の中に埋まった。


「よかった。私のことを嫌っていたわけではないのだな」

「紛らわしい態度とってごめん。でも、ジェルのことを嫌うわけないじゃん。おれのことを引き取って助けてくれたのにさ」

「それがお前にとっていいことかがわからなかった。グリッジに引き取られることより、私が引き取ったほうがましだと思った。だが、それが……お前の気に障ったのではないかと」

「そんなわけないよ!」

「または、私のことが好みではないのかと……あとこんなお父さん嫌だと反抗期が来たのではないかと気が気ではなかった……」

「反抗期ってほど子どもじゃないんだけどなぁ!! あとジェルのことは好みです本当に!!」

 

 手を出されなかったから自分は好みではないと思ってるのか。

 いや冷静に考えてお父さんになりたいジェル相手に好みですは、なかなか駄目な言葉なのではないだろうか。本心だけど!


 とか気をもんだのだけど、ジェルはただ胸をなでおろすだけ。そよぐ毛皮から清潔感のあるやさしい匂いがするんだけど……まさか本当に反抗期を心配して体臭を気にしている……?


「こんな香水つけてなかったよね?」

「この前商人が来た時に買ったんだ。これからお前と肌を合わせるのだから、これくらいは気を使わねばと思って」

「……本気なんだ」

「もちろん。私以外にお前のすべてを受け入れることができる人はいないだろう」

「なんでジェルがそこまでするの?」


 気になっていたことを聞いてみる。ジェルが体を差し出す必要なんてないのに。


 狼の体におれはすっぽりと隠れてしまう。でかくて頼りがいのある肉体はいつだっておれを守ってくれる。


「『華炎』『影に満ちた鏡』『土神』、その他名のある武人がお前に傾倒するようになった。今はまだいいだろう。お前は彼らより強く、手綱を握れている。――――今は」

 

 急にジェルの声が硬くなった。


「だが、お前は人をレベルアップさせる。この前ヤードと肩を並べて戦って、フォグやコハク王子のスキルを見て分かった。お前はいつか彼らに抜かされるだろう」


 ジェルの言うことは正しい。現におれはこの前ヤードのローション相手に情けない真似をしたから。そして、スキル自体を無効化するスペシャリストであるコハクには、多分もう勝てないと思う。あと、そもそもウィザロンには最初から勝てない。


「もしそうなったら、彼らが欲望のままお前を求めた時に、止めるのは困難になる。ヤードたちは普段こそ良い奴らだが、お前のスキルは彼らの欲を刺激して理性をそぎ落とす。獣のようになってしまえば、言葉など通じないだろうな」


 ……ぐうの音も出ない。ヤードとやったときからなんとなく思ってはいたけど、こうして直接分析されると先行きの不穏さを痛感する。

 しかも、ノインの『卵生』で隠れて王宮に行き来していたコハクや、『模倣』で自身のレベルアップもしていたグリッジ、といった現地民はおれよりもスキルの使い方がうまい。おれはエッチなことをするためだけにしか使っていないので……。

 って考えると、その未来はあんまり遠くない気がする。


 ジェルはそうならないためにもおれの欲望を受け止めるって言ってたんだ……。


「私はお前を守りたい。レベルアップできるのなら、その恩恵も欲しいと思っている」


 ただでさえ最強のジェルがこれ以上強くなったらバランスおかしくなりそう。

 いや、もうウィザロンがいたわ。おれって異世界チートポジのはずなのに、強さの順列あんまり高くなくない?


「だから」狼の体がこわばった。「私を抱いてくれないか?」


 ジェルの大きな手がぎこちないしぐさでおれの肌を這う。雰囲気づくりをしようとしているのはわかるけれど、逆にほほえましい手つきだった。

 

 炎のはぜる暖炉の音は暖かくて、ジェルの腕の中にいると暑いくらい。それでも離れたいなんて思わない。ジェルが大好きだから。


 今かな。

 何となくだけど、そう思った。

 このままジェルに告白することもなく抱ける気がしなかった。絶対に口を滑らせる。

 こんなにもおれのことを大事に思ってくれているその胸の内をひけらかしてくれたのだから、おれも応えるべきだと思ってしまった。


 今まで嗅いだことのない香水の匂いが、ジェルが雄なんだと思い出させてくれる。父性豊かな人だけど、立ち上る色香がおれを惑わせた。


「ジェル」

「どうしたんだ?」

「寝室行かない?」

「…………そうだな、そうさせてもらおう」


 ここは使用人が聞いてるかもしれないし、できれば二人っきりがいい。

 そう考えてのことだったけど、不純な動機がないとも言い切れない。ジェルなんかはあからさまに目が泳いでいる。


 寝室まで来たジェルは、とても動揺していた。いや、本人は隠しているつもりなのだろうけど、尻尾の落ち着きがないからばればれだった。

 

 いつの間にか着替えており、脱ぎやすいようにとバスローブ姿でベッドに座る狼は硬く、床とおれとの間で視線を何度もさまよわせている。神速をこんなところで使うなと普段のおれならつっこむのだろうが、かわいらしいと思ってしまうのだから重症だ。恋はまじで盲目。

 未経験だから何をしていいのかわからないのだろう。それでも父親としての威厳か、意を決してシーツに横たわると両手を広げておれを呼んでくれた。


「おいで」

「うん、ありがとう」


 返事だけして、おれはそばに腰かける。触ってしまうと『愛撫』で雰囲気が崩れるから、拳をぎゅっと握っておく。


「あのさ、言いたいことがあるんだ」


 心臓がバクバクとやかましい。頭の中では駄目だった場合のことばかり考えてしまう。父になりたいと思っているジェルに告白するなんて、いい息子とは到底言えない。失望されてしまったらどうしようと、めぐるのは最悪の想像ばかり。


 おれの真剣な雰囲気を察して、ジェルが上体を起こして隣に座ってくれる。分厚く硬い肩が触れるくらい近づけば、ジェルの匂いがおれを安心させた。


「どうした? やはり、私では立たんか? 父になりたいと言っていた私では確かに罪悪感もあるかもしれないが、気にしなくていい。私はお前の力になりたいんだ」

「その言葉はすごく嬉しいよ。でも、あの……ジェル」


 言葉を喉から絞り出すためにさらに掌を握り締める。爪の食い込む痛さが、熱に浮かされかけた頭を少しだけ冷やしてくれた。

 乾かした狼の体はとても暖かくて、このままの関係性を維持したいと思う自分もいる。今のままでも、ジェルは抱かせてくれるし、愛してくれる。何が不満だというのか。


 でも言うと決めた。今だと分かっている。

 深呼吸をして、やさしく微笑む狼の顔を見て。

 おれは吐き出した。


「好きです。おれもジェルと家族になりたい。だけど、息子になりたいわけじゃない。おれはジェルの夫になりたい!」


 見開かれた狼の目が動揺に震え、口から言葉は出てこないようだ。

 想定外の告白だったはずだ。ジェルはおれのことを息子としてしか見ていないのだから。


「最初、この世界に飛ばされてから、ずっとジェルはおれにやさしかった。変な奴を押し付けられたのに、いつも気を使ってくれた」


 おれがこの家に来た時、ジェルは家族だと言ってくれた。それが本当に嬉しかった。

 心細かったおれをジェルはいつだって温かく迎えてくれた。


 そんなの、好きにならないわけがないじゃん。


「おれがジェルの息子になっても、アーミライト家は継げないし、できる気もしない。だからってわけじゃないけど……」


 ジェルが無言だから、だんだんと言い訳がましくなってしまう。こんなはずじゃなかったのに。

 でも、息子じゃなくて夫になりたいって言ったから、さすがのジェルも気づいてくれるはずだ。おれとジェルが持つ愛は違うんだって。


 だんだんとしりすぼみになっていくおれの言葉は、狼の抱擁によって遮断される。

 ふわふわの毛皮に埋もれて、おれはとっさに抱き返す。これが返事だと思ったから。


 でも、ジェルの第一声はおれの想像とはまるで違った。


【続きは来月の支援者限定公開となります】


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