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田原摩耶
田原摩耶

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【↑500】阿賀松伊織がいないということ 二日目午後【4,700文字/齋藤総受け/生徒会+齋藤/微モブ×齋藤】

 ▶ シリーズ  https://x.gd/ZKmDM  十勝も灘もいる。そもそもたまたま運が悪かったとは言えど、あんなに露骨な真似をしてくる人が他にいるとは思わない。  そう思っていた。  なるべく人の多そうなところは避けつつ、だからとは言え無人も危ないと言うことで疎な通路を通って教室から移動する最中、通りすがり様に下腹部に違和感を覚える。ぶつかったくらいかと思ってそのまま気にせず歩いて行った矢先、背後から悲鳴が聞こえた。何事かと振り返れば灘が先程通り過ぎた生徒を締め上げていたのだ、真顔で。  そんなことが何度かあり、俺はもう人と一定の距離空けて歩くことしかできなかった。  そして放課後。  二年の教室前廊下で十勝と合流する。 「やーーっと終わった、一日長すぎだろ!」 「と、十勝君……色々ごめんね」 「お前は悪くねえよ、佑樹。てかどんだけ溜まってんのよって話。普通に動画で我慢しろっての」 「と、十勝君……声おっきいよ」 「……あ、悪い。佑樹シモ系無理だっけ?」 「無理とかじゃないけど……」 「デリカシー、の問題ではないでしょうか。十勝君」 「灘君」  自然な流れで会話に混ざってくる灘。いつの間に俺たちの間に立っていた灘に心臓が止まりかけたが、それよりも灘の口からデリカシーという言葉が出てきた方に驚いた。 「和真にそれ言われちゃ終わりだけど……確かにそうだったわ。悪いな、佑樹」 「い、いや……俺のことは気にしないで。それよりもこっちこそ、変なとこ見せてごめん……」 「変なとこって、別に佑樹のせいじゃないじゃん。おかしいのはお前にちょっかいかけるやつらの頭」 「と、十勝君……」 「……寧ろ、こんなことに巻き込んで悪いな」  まだ十勝は気にしてくれているらしい。申し訳なさそうな十勝に俺は必死に首を横に振る。灘はともかく、十勝だって痴漢される男見たくないだろう。今になって恥ずかしくなってきた。 「……そ、そういえば……二人とも食事は?」 「ん? 俺はまだだけど」 「自分もまだです」 「よかったら……一緒にどうかな」  十勝が意外そうな顔をするのを見て、余計なことを言ってしまっただろうかと内心冷や汗が滲む。けどそれも一瞬、「いいじゃん、それ」と十勝は花が咲いたように笑う。その笑顔にただ安堵した。 「会長からはそこまでは言われてねーし、問題ないだろ」 「そうですね。……では早めに移動しますか。この後は混雑が予測されます」 「んじゃ行こうぜ!」 「う、うん……っ!」  言ってみるものだ。二人を労るような立場ではないが、少しくらい息抜きしてほしいという気持ちは無論あった。  何故か途中から走り出す十勝により誰が一番最初に食堂に着くかの競走が始まり当然の如く二人に負けてしまったが、なんとか食堂が混み合う前に辿り着くことができた。息抜きするための食事前になんで疲れ果ててるのかは謎だが、十勝が楽しそうなのでよしとしておこう。  ◆ ◆ ◆  久しぶりになんだか賑やかな食事を終え、二人に自室まで送ってもらうことになった。 「佑樹、まじで俺の部屋来なくていいの?」 「うん。ありがとう、気遣ってくれて」 「気ぃ遣うとかそんなんじゃなくてさ〜……ま、いーや。佑樹がいいんならそれで」  なんだか妙に十勝の歯切れが悪い。  何かまた余計なことを言ってしまったのだろうかと内心焦っていると、「十勝君は寂しいようですね」と隣にいた灘がさらりと暴露する。 「あ、おい和真……っ!」 「ですがまた明日も朝一で迎えに来る手立てとなってます。朝までの辛抱です」 「なんで俺が励まされてるみたいになってんだ……?!」  仲がいいというか、なんというか。二人のやり取りを見ていたら自然と笑いが漏れていた。 「……齋藤君」 「ご、ごめん、笑っちゃって。……つい」 「いや……お前が笑ってくれたんだったらいいよ、和真の問題発言も許す!」 「なんのことか自分はよく分かりませんが、許していただきありがとうございます」 「お、お前……」 「……、ふふ」  ここ数日は散々な目に遭ったが、今ばかりは俺の側にいてくれたのがこの二人でよかった。――そう心から思うことができた。 「じゃあ、二人とも送ってくれてありがとう。……おやすみ」 「ああ、佑樹も早く休めよ!」 「では自分はこれで失礼します」 「俺はお前がちゃんと扉の鍵を閉めるまで確認するからな!」 「そ、そこまで……?」 「そこまでだぞ、佑樹。何かあってからじゃ遅いからな」  案外こう言うところは十勝君、きっちりしてるんだよな。いい加減風に見えて。  思いながら俺は十勝に促されるがまま自室の扉を開こうとドアノブに触れた。瞬間、ぬとりとしたものが指に触れる。まだほんのりと暖かさが残ったそれにぎょっと手を離したとき、指とドアノブに太い糸が伸びるのを二人は見過ごさなかった。 「……っ、ぁ……」 「……和真」 「付近の確認、それからカメラチェックしてきます」 「頼んだ」  そのまま俺が口を挟むよりも先にその場を離れる灘。ハンカチを取り出した十勝は俺の手に握らせる。 「と、十勝君……」 「やっぱ今夜は俺の部屋な」 「ご、め」 「謝んなって。お前何も悪くねーから」 「寧ろこの学園にどうしようもねえやつがまだわんさか居るってことにショック受けてる、俺」冗談めいた口調で続ける十勝だが、雰囲気から明らかに怒ってるのがわかった。  それからは記憶があまりない。十勝の部屋に連れて行かれた後、そのまま手を洗う流れで風呂にも入れさせられた。  風呂から上がった頃には灘がいつの間にかに部屋にいた。それから、 「ねえ、なんで齋藤がここにいるわけ?」 「うるせえ、色々あんだよ。お前は気にせずさっさと寝ろ」 「は? お前が寝ろよ。……齋藤、俺のベッド使っていいからね」 「あ、ありがとう志摩……」  十勝と同室なんだから志摩がいてもおかしくないのだが、志摩の顔をまともに直視できなかった。なんというか、どんな反応すればいいのかわからない。まだ胸の奥がざわついたままだったから。 「それで和真、部屋は?」 「部屋の中には阿佐美詩織がいたので念のため清掃の許可と事情の説明はしてきました。一晩齋藤君を預かると言うことも」 「は? なんで齋藤が預かられてんの?」 「あーもう、亮太お前が入ってくんな! ややこしくなるから!」 「こっちだって寝たいのに声がうるさくて勝手に耳に入ってくるんだよ。……で、何があったの? 齋藤」  何故か十勝、灘、志摩の三人に取り囲まれるような形になってしまい、俺はなんだかもう早速帰りたくなってきたが、あの部屋に戻るのも勇気が必要だった。  詩織も驚いただろうな。あんな……。  しっかりと目視したわけではない、指についたものもすぐに洗ったのでそれがなんなのかちゃんと確かめたわけではないが、間違いなくあれは。 「齋藤君の部屋のドアノブに悪戯されていたようです。恐らく精液で間違いないかと」 「――っ……」 「は? なに? 精液……って、何それ」 「だーかーらー、お前は入ってこなくていいっての。……はあ、そんなことだろうと思ったけどさ。和真、カメラは?」 「確認済みです。ですが、背格好は確認できましたがフードを被っていて顔までは確認できませんでした」 「亮太、まさかお前じゃないだろうな」 「は? 何、今俺喧嘩売られた?」  三人の声が頭に入ってこない。  ショックというよりも、どういう意図か理解できないのだ。ルームメイトである阿佐美もいた部屋に精液をぶっかけてどうなる?嫌がらせだとしても、リスクが大きい。 「佑樹、大丈夫か? あんま気にすんなよ――ってのは無理あるかもだけど」 「うん……俺は大丈夫なんだけど、……その、目的が分からなくて……」 「目的、ね」 「亮太、余計なこと言うなよ。佑樹は今日参ってんだからな」 「余計なことはないでしょ。変態の思考回路はある程度理解していた方が対策も練られる、違わないでしょ?」 「……お前がいうと妙に説得力あってやなんだよ」 「喧嘩売ってるんなら買うけど?」 「し、志摩……っ、十勝君も落ち着いて……」  今にも取っ組み合いでもしそうな二人を止める。近くにいたら多分拳が出そうなので離れた場所に座ってもらうことにした。 「理由、とのことですが、この手の愉快犯はやられた側の反応を楽しむのが目的かと思われます」 「……反応?」 「敢えてあの部屋を狙ったのか、それとも無差別だったのか。はたまた貴方と阿佐美詩織のどちらを狙ったのかは定かではないですが、考えられる可能性としてはそれくらいでしょう」 「へえ、灘君って変態の気持ちが分かるんだ。ちょっと意外だね」 「志摩亮太、貴方の日頃の言動と同じです。当たり屋のような真似をして相手の反応を見る。それと今回の愉快犯は類似してる」 「は? 喧嘩売った?」 「他にも類似の事象が起きてないか調べる必要はあるかもしれません。もしない場合は――齋藤君、貴方にはもう少し身辺を監視させていただくことになるかもきれたせんが」 「う、うん……それは、助かるよ」  大袈裟だな、と思っていたのに、今となっては二人がいてくれてよかったと思う。  そうか、俺がたまたま被害に遭っただけの可能性もある。そして二次被害を防ぐために力を貸す、と考えればまだ気は軽い。 「ま、少なくとも阿佐美狙いはないでしょ。最初から齋藤狙い撃ちだったと思うよ」  一息つき、なんだかどっと疲れがきた矢先。更にぶっ込んでくる志摩に再び部屋の中の空気がピリつき始める。  灘の鋭い視線が志摩へと向いた。 「その理由は?」 「俺ならそうする」 「……」 「か、和真! 待った待った待て待て!」  制服から手錠を取り出し、問答無用で志摩を捕縛しようとする灘を慌てて羽交締めにする十勝は「気持ちは分かるけど!」と声を荒げる。分かるのか。というかなんだその手錠は。 「ちょっと生徒会のやつらってどいつもこいつも短気しかいないの? ジョークの一つや二つも分かんないわけ?」 「この手の冗談を軽はずみで口にする人間は遅かれ早かれいつしか一線を超えます。それを予め防ごうとしただけです」 「し、志摩……あんまり灘君を刺激しないでよ」 「齋藤までそいつの肩持つんだ。あーあ、なんかがっかりしちゃった。せっかく俺も齋藤のこと助けようと思ったのにさ」 「……」  すっかり臍を曲げたらしい。臍を曲げたいのはこちらの方だが、ここは拗ねてもらった方がいい。そう判断した俺はすごすごとカーテンに仕切られた向こう、自分のスペースへと帰る志摩を無言で見送った。ちら、とこちらを振り返って引き留めてほしそうにしていたが俺は見なかったフリをした。今のは志摩が悪いんだからな、という念を込めて。 「ま、せいぜい役立たずの犬二匹と頑張りなよ。あとから俺に泣きつくことになんないようにね」 「おやすみ、志摩」 「…………齋藤の馬鹿」  シャッ!と締め切られるカーテン。そしてそのまま志摩は消えた。 「なんだったんだ、あいつは」  志摩なりに心配してくれてはいる……のか?それすら怪しいが、まあこのままそっとしておこう。  そう俺たちは明日の段取りを簡単に決め、眠ることになった。因みに灘は他のカメラを確認して犯人の特定進めると言い残し部屋を出た。 「灘君っていつ眠るんだろ……」 「それは俺も謎。あんま寝なくても平気っつってたけど、まあ、あいつも無茶はしねえだろ。ほら、佑樹もさっさと寝ろ寝ろ! 今夜は特別に俺のお気に入りの抱き枕貸してやるよ」 「え、い、いいよ。気持ちだけもらっておくね」 「えー、ふかふかでよく寝れるのにな」  何故か不服そうだが、そんなことしてみたら十勝の彼女たちに刺されてしまいそうで怖かったので丁重にお断りすることにした。  眠りに落ちるギリギリまでカーテンの向こうからぶつくさ志摩が何か言ってるのが聞こえたが、それが丁度いい子守唄代わりになってくれたようだ。十勝のイビキで寝れなくなるよりも先に眠りにつくことができた。 【続く】

【↑500】阿賀松伊織がいないということ 二日目午後【4,700文字/齋藤総受け/生徒会+齋藤/微モブ×齋藤】

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