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田原摩耶
田原摩耶

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【↑300】Bad looking people【騎士×村人(←魔導士)/4,000文字/ほのぼの/平和】

「スレイヴ殿、怪我をしたのかっ?」  簡易クエスト帰り、宿前で出迎えてくれたナイトは俺の姿を見るなり青褪める。 「ちょっと崖から足を滑らせて転んだだけだ。これくらい、傷薬で事足りる」 「薬はあるのか?」 「……丁度切らしてしまってただけだ」 「メイジ殿なら先程までロビーにいた。手当してもらおう」  これくらい平気だ、と言い終わる前にナイトはさっさとメイジを呼びに宿屋へと引っ込む。  心配し過ぎだ。これくらい。傷薬なら後からでも調達できるというのに。  なんて思ってると、すぐに宿屋の扉が開いてメイジが顔を出す。 「擦り傷で大騒ぎとは、随分と愛されているようだな。スレイヴちゃん」 「……別に俺は頼んでいない」 「が、俺は騎士サマに頼まれたからな。ほら、患部を見せてみろ」 「……」  相変わらずねちねちチクチクと嫌味ったらしい男だ。  嫌なら断ればいいだろ、とムカついたが、ナイトの手前渋々攻撃を喰らっていた腹部を晒す。メイジの手が腹部に触れる。手袋越し、打撲痕を撫でられ鈍い痛みが走った。 「わざわざ、触る必要はないだろ……っ」 「怪我人は大人しくしてろ」 「こ、の……」  どんな大怪我した他のやつにもわざわざ触れないくせに、と睨みつければ、メイジはただ薄く笑っていた。メイジの指先に熱が集まってくる感覚とともに内出血が癒えていくのが目に見えた。 「ん……」 「骨までは届いていないようだな」 「もう、いいだろ」 「そう意識をし過ぎるな。逆に誘われているのかと勘違いさせるぞ」  誰をだよと睨みつければ、メイジは鼻で笑う。 「お礼が聞こえないが?」 「……どうも」 「声が小さいが……まあ、今回は良しとしてやる」  いちいち一言多い男だ。  先程までの不調が嘘のように体が軽くなった。動く度にいちいち筋肉が軋むような痛みもない。  他の傷も治してくれたのか。普段ならば雑な治癒ばかりのくせに、今までできてた小さな傷も治ってることに気づいた。  その時にはメイジはさっさと宿へと引っ込んでおり、代わりにナイトが顔を出した。 「スレイヴ殿、すまない。少し宿屋のご婦人と話していて……メイジ殿とは会えたか?」 「ん、あぁ……」 「そうか。……良かった」 「……」  ほっとするナイト。ナイトがどんな風にメイジに頼んだのか知らないが、俺が頼むよりもしっかりと治癒しているあの男になんとなくモヤモヤとしたものが腹に溜まる。  そして体調が回復すると、今度は体は空腹を訴えかけてきた。情けない腹の音はナイトの耳にまで届いていたようだ。「食堂へと参るか」とナイトは笑った。  新体制のパーティーにも慣れ、俺も雑用としても慣れ始めていた頃のこと。  ナイトは見た目とは裏腹に誰とでも打ち解ける。あっという間にイロアスやシーフ、メイジとも仲良くなっていってるのを見て、俺はなんとなく今までの自分を重ねていた。  大人だから、とか言われたらそこまでだが、同い年であるイロアスもそうだ。話していて気持ちいいやつだからといえばそうなのだが。 「……」 「す、スレイヴ殿……? 自分の顔に何か付いているだろうか……?」 「目と鼻、それと口が」 「……ふ、そうか。ならいいが」  小さくナイトが笑う。ジョークのつもりではなかったが、ナイトのくしゃっとした笑顔を見てると『まあいいか』という気分になってきて、気恥ずかしさを紛らすように俺は目の前の串に刺さった焼き魚に手を伸ばした。 「ここは良いところだな、海が近く、皆穏やかだ」 「……そうだな。魚も多い」 「そうだな。スレイヴ殿は魚が好きだったか」 「俺に好き嫌いはない。……食えるものならなんでも食う」 「良いことだ。だからスレイヴ殿の体は丈夫なのだろうな」  そう、向かい側の椅子に座るナイトは何故だか誇らしげに腕を組んだまま頷いてる。その目が妙に生優しくて引っかかった。 「アンタ、まさか酔ってるのか?」 「酔ってはいない。酒は飲んでいない……はずだ」 「そうか。ならいいが。……アンタ、さっきからおっさん臭いぞ」 「おっ……」 「……近所に住んでいた親父を思い出した。事あるごとに『大きくなったな』って言ってくるやつ」 「そ、そういうつもりではなかったのだが……気を悪くさせたなら済まなかった」 「……」  しゅん、となるナイト。別に責めているつもりではなかったが、言葉の選択を誤ったのだと理解した。  言葉というのはどうしてこうも上手く伝わらないのか。 「嫌じゃない。別に、謝る必要もない。……ただ」 「ただ?」 「……アンタと話してると、懐かしくなる」  何が、とは言わなかった。わざわざ言う必要もないと思ったし、これは俺の問題だから。  けれど、ナイトには伝わったのかもしれない。その先の言葉も、俺の思考も。 「そうか」と呟いたナイトは少しだけ複雑そうな、けどやはりどこか申し訳なさそうな顔をしていた。  賑やかな食堂、俺たちの卓だけ何故だか妙な沈黙が流れていた。誤魔化すようにジョッキに入った水を流し込むナイト。 「きっと、その親父さんも自分と同じ気持ちだったのかもしれないな。……貴殿の頑張っている姿を見てると、自分も気持ちが明るくなると言うか……」 「ナイト、やっぱりそのジョッキに入ってるの実は酒じゃないか」 「ち、違うぞ。スレイヴ殿。……飲んでみるか? ただの水だ」 「……ん」  そのままジョッキを受け取る。大柄な客向けのグラスなのだろうが、大き過ぎる。ここまで重けりゃ武器にもなりそうだ。思いながら数量、グラスの淵に唇を寄せて流し込んだ。  ……確かに、見た目は水、のようだけど。ほんのりと果実風味のジュースな気もするが、アルコールは入ってなさそうだ。 「ん、うまいな……これ」 「スレイヴ殿も頼むか?」 「いや、今ので充分だ。……それにしても」 「む?」 「アンタは随分と場酔いしやすいらしい」 「は、はは……貴殿に気付かれるとはな。なるべく調子に乗らないようには気をつけているが、どうも、こういった楽しげな場所だと引っ張られてしまうようだ」 「それで失敗したのか?」 「き、聞かないでくれ……スレイヴ殿。自分はスレイヴ殿の前ではあまり、こういう話は避けたいと思ってる」  そう顔を掌で覆うナイト。その指の隙間から覗いた頬が赤くなってるのを見て、少し不思議に思った。  照れている、というか、当時の状況を思い返してるのだろう。ナイトにも思い出したくない記憶があるのだと思うと新鮮で、寧ろそんなナイトの失敗談にも興味はあった。 「俺には話したくないのか?」 「そりゃあ……そうだ。当然のことだ」 「なんでだ」 「な……ぜ、とは」 「……俺は、アンタの格好悪い話も聞きたいと思ってる。……別に、今更アンタのことを嫌いにはならない」 「………………」  ジョッキを掴んだままのナイトの手にそっと触れる。グラスの中の氷も溶けてしまうのではないかと思えるほどの熱が指伝えに流れ込んできた。  じ、とナイトの目がこちらを向く。それから、ナイトはテーブルに突っ伏した。 「……スレイヴ殿の頼みでも、それだけは……勘弁していただきたい」 「そんなに酷かったのか?」 「……内容というよりもだな、……これは男の性というか……矜持というか」 「俺も男だ。気持ちはわかるぞ」  その上でダメか?と尋ねれば、ナイトは「諦めてくれ」と言葉を絞り出した。  しつこく聞き出すのも可哀想になったので、身を引いた俺は椅子に座り直す。 「貴殿も分かるだろう。格好つけたい相手がいるとき」 「それが俺ってことなのか?」 「い、言わないでくれ……ああもう、すまない。今までの話は全て聞かなかったことに……」 「しない。……そうか、それは悪いことをしたな」 「……スレイヴ殿」 「でも、俺はアンタがどんな情けない失敗してても嫌いにはならない。……うちのパーティーにはシラフでも酷いやつがいるからな」  ナイトを慰めるつもりのジョークだったが、なんだか愚痴っぽくなった。ナイトは「敢えて触れないでおこうか」と笑い、それから再び食事に戻る。  そうか、ナイトは俺に格好つけたいのか。  充分俺の中では格好いいぞ、と言ってやろうかとも思ったけど、なんだか気恥ずかしくなってきてやめた。  俺も場酔いしてきたのかもしれない。後から頬が、首の上辺りにじんわりと熱が集まってきた。 「……っおい、酒は酒は飲んでなかっただろ……!」  閉店間際、突然眠りこけるナイトを背負ってなんとか押しつぶされそうになりながらも店を出た時。行き交う人々に混じって目の前にぼんやりと現れる影に顔をあげる。飲み屋街では目立つ、白のローブ。 「大変そうだな、スレイヴちゃん」 「め、いじ」 「その荷物、宿へと運ぶのを手伝ってやろうか」 「仲間を荷物呼びする男に任せられるか」  こんなところでこいつと顔を合わせることになるとは。  最悪だ。  そのまま無視して横を通り抜けようとしたとき、そのまま強引に腕を掴まれる。 「あっ、ぶな……」 「なに、好きな子の前で格好つけたいというのは俺も同じだ」 「……はぁ? …………」 「帰るぞ、スレイヴちゃん」  人からナイトを取り上げたメイジはそのまま呼び寄せた魔獣にナイトを運ばせる。見事な手際の良さ、ではない。なんでお前がその話の内容を知ってるのだ。  まさか、とメイジを睨めば、こちらを横目で見つめたままメイジはただ微笑んだ。  お前――ナイトに妙な魔法かけただろ。  喉元まで出かかったが、証拠もない。ただの言いがかりに近い。けど、確信めいたものはあった。  性悪で捻くれたこの男のことだ、ナイトを酔い潰して情けない真似をさせるつもりだったのだろうが、見誤ったな。 「言っておくが、お前のやってることはダサいからな」 「あのままナイトの下敷きになったまま朝を迎えたいというのなら結構。返してやる」 「……っ、だから人を荷物のように扱うな……っ!」 「そりゃ失礼」  なんだか水を差されたような、案外子供のような真似をしてくるこの男を前にしてると怒りも萎れていく。  今度ナイトと出かける時は周りに気をつけなければならないな。そんなことを考えながら、俺は夜の帰路についた。  おしまい

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