▶ 飼い主不在シリーズ https://x.gd/l3IwC やってしまった。 ベッドの上、まだ痙攣と余韻が残った体を放り出したままぼんやりとしていると、隣にいた笹山にそっと抱き寄せられる。 「さ、笹山……」 「原田さん、延長……」 「ダメだ、ダメだからな、笹山。時間は過ぎてるし延長もダメだ。そもそもこれはお前が言い出したんだぞ……っ!」 強請るように見つめてくる笹山から必死に顔を逸らせば、「そうですよね」と笹山は案外あっさり諦めてくれた。助かった。これ以上甘えられると少し揺らいでいたかもしれない。 「でも、せめて今夜はゆっくり休んで行ってください。恋人体験期間は終わりましたが、これから先はいつもと変わらず接するので」 「ダメですか?」と優しく肩を撫でられ、耳に押し当てられる唇に思わず変な声が出た。恋人体験期間は終わったと言うが、まだ声が甘いっていうか……あれか。俺の気にし過ぎか。 なんだか絆されてる気がするが、散々抱かれた後。この体では帰ることもできないだろう。俺は素直に笹山の好意を受け取ることにした。 「……でも、本当に何もしないからな」 「手を繋ぐのもダメですか?」 「だ、だめ……ん、……おい、笹山……」 「原田さん……」 「分かった、分かったから! ……手、触るだけだからな」 はい、と体を抱き締められる。なんだか大型犬にでも戯れ付かれているような気分になりながらも、俺はそのまま指先に絡みついてくる笹山の指に手をにぎにぎされることになった。 そんなことされてぐっすり眠れるわけない、と思ったが、部屋の居心地の良さと心地の良い疲労感のお陰で結局昼までどっぷりと眠りに耽ることとなる。 そして翌朝。 笹山の部屋に泊まったついでにそのまま昼飯を頂戴し、丁度出勤予定だったので笹山と一緒に店まできた。 今日は一応四川と付き合っている、という体にはなっているのだが……四川が恋人?改めて想像できねえ。 どんな顔をして過ごせばいいんだ。 そんなことを考え唸ってる内にやってきた休憩室にて。 「おいテメェコラなんで一緒にくっついて来てんだよ笹山」 「別にただの成り行きだけど?」 「あぁ?」 同じく出勤したらしい四川と笹山が鉢合わせになる事態が発生してしまった。 「お、おい! 喧嘩すんなって……」 「お前もお前だ! 俺のメッセージ無視しやがって……っ!」 「無視じゃねえよ、後からちゃんと返信しただろ!」 「サムズアップしてんじゃねえよ! 煽ってんのか!」 「休憩室で喧嘩をするな! 準備が終わったんならさっさと出勤しろ!!」 そして普通に店長に怒られた。 「お前のせいだからな」 「チッ……クソ……」 なんだよ、お前恋人じゃなかったのか? いや別に四川に優しくされてーわけじゃねーけどさ、怒んなくてもいいじゃねえか。 俺を送り届けに来ただけの笹山はさっさと帰り、俺と四川はそのままタイムカードを切る。んでそれぞれの持ち場へと帰ることになった。 なんか、今更あいつ本当に俺の事好きなのかよって思えて来た。もしかして笹山に張り合って売り言葉に買い言葉で乗ってきたんじゃねえのか。 「……あり得る」 でも、確かに最近ちょっと優しくはあったけど。けどもだ。分かんねえよ、俺にはあいつの言葉。 などとウンウン唸りながら棚の整理をしていたところ。 「うお、すっげー骨董品……うおおっ!!」 思わず棚の奥に隠されていた年季入ったオナホに気を取られていたところ、ついうっかり脚立から落ち落ちそうになる。 死、まで頭に浮かんだところ、伸びてきた手にそのまま腕を掴まれ支えられた。 「……っ……!」 「……っとに、何してんだテメェは……」 力強い手。そして、不機嫌な声。 聞き間違えようがなかった。バクバクと破裂寸前の心臓を押さえながら視線を落とせば、そこには見慣れた茶髪の頭が見えた。 「し、せん……助かった……」 「遠くから見ててもお前の動きは危なっかすぎるんだよ。チョロチョロしやがって」 ……って、見てたのかよ。 なんかそれ、すげー普通に恥ずかしくなってきた。 四川に支えられたままさっさと棚上の掃除済ませ、俺はそのままそろりと脚立を降りる。俺が地上に戻るのを確認し、そのまま戻ろうとする四川をつい呼び止めた。 「……なあ、まだ怒ってんの?」 「は?」 「笹山と朝帰りしたの……」 「やっぱ朝帰りじゃねえかよ!」 あ、やべ。 「はー……クソ、どうせあいつのことだ。ギリギリまで引き留めて誤魔化すくらいはするだろうとは思ったけどな」 「う……」 「その分、俺も多めにオーバーしてもいいってことだよな。それ」 悪い顔して笑う四川についドキ、としてしまう。 いや、まじでなんのドキだよ。つか、それってどういう意味だよ。どう答えたってこいつの思う壺になりそうで悔しくなってきた。 「……い、言っとくけど! こ、恋人……なんだよな? 俺たち」 「いちいち確認すんな。それ以外ねえだろ」 「嘘、だって四川いつもと変わんねえじゃん。……この前のがまだ優しかったし……」 「あ? 優しくしろってか?」 少しだけ、その声が柔らかくなった気がした。 こうなったら仕方ねえ、恥を偲んで頷けば、今度は四川の方が固まった。俺を見つめたまま。 「…………」 「な、なんでそこで黙り込むんだよ!」 「つか……場所、考えろよ。俺はそういうの、人前でベタベタやんねえ質なんだよ」 「あ、や、別に皆の前でしてほしいってわけじゃねーし?!」 このままだと俺がただ甘やかしてもらいたいだけみたいじゃねーか。 顔が熱い。くそ、なんか口開く度に墓穴掘ってる気がしてならねえ。 慌てて首を横に振ろうとしたとき、ぐ、とそのまま頭を掴まれる。 なに、と顔を上げればすぐ目の前には四川の顔。額と額がこつんとぶつかり、真っ直ぐに覗き込まれる目に時間が止まった。気がした。 「……それはちゃんとお前が俺を選んでくれたときな」 え、と聞き返そうとした矢先、ちゅ、と唇に小さな音を立ててキスをされる。 そしてすぐ顔を離される。ついでに掴まれた拍子にぐちゃった後ろ髪も撫でつけられて。 「……今はこれで我慢しろ」 なんなんだ。この男は。 なんなんだ。こいつは。 なんなんだ、どこでそんなことを覚えてきたんだ。 我慢ってなんだよ、俺は子供か?と突っ込むこともできたが、いや、嘘だ。無理。つか、やばい。ズルすぎだろ。 「……………………」 「おい、原田……?」 「……っ、は、ぁ、俺……俺……し、仕事戻る……っ!」 「あ、おい……っ」 脱兎の如く逃げ出し、俺は便所へと逃げ込んだ。 くそ、優しくしてほしいのベクトルが斜め上すぎるんだよ。そんなの、普段はぜってーーしねえくせに。 お前、まじで俺の事好きなの? 本当にそんな錯覚に陥ってしまいそうになる。いや、だからこんなのことになってんのか?揶揄われてんのか? もう、わかんねえ。誰か助けてほしい。 【続く】 next→ https://t589423.fanbox.cc/posts/8346269