XaiJu
田原摩耶
田原摩耶

fanbox


【↑500】阿賀松伊織がいないということ 二日目正午【3,500文字/生徒会+齋藤/齋藤総受け】

 ▶ シリーズ  https://x.gd/ZKmDM  酷い目に遭った。  なんとか逃げ切った先、人気のない踊り場で灘は俺から手を離した。 「な、灘君……ありがとう、助かったよ」 「礼には及びません。……それに、無事というわけにはいきませんでしたので」  そう続ける灘は表情こそは変わらないが気にしてるらしい。  正直なところ、これくらいのことならばまだマシだ。なんて思ってしまう俺も大概なのだろう。  ごめんね、と項垂れれば「貴方は悪くありません」と即座に灘はフォローを入れる。そして、 「しかし、ここまで顕著とは」 「え……?」 「阿賀松伊織がいないことがここまで影響出るとは。会長が案じていた通りでした」 「単独行動時は怪しい人影がないか特に気をつけろ、とのことでした。その通りでしたね」油断も隙もない、とネクタイを正す灘。  流石会長、というべきか。元々過保護なところはあったが、それが今回は功を成したのかもしれない。  ありがたい反面、申し訳なさが勝ってくる。  何も言えなくなってたときだった。足音がこちらへと近づいてくる。そして、 「クソ、あの変態ストーカー野郎! 開き直りやがって、ムカつく……!」 「と、十勝君……大丈夫……?!」 「ああ、佑樹。……大丈夫はこっちのセリフだっての。気持ち悪かったろ? 大丈夫か? 吐き気止めとか……」 「今その確認をしていたところです。齋藤君は大丈夫とのことです」 「そっか、ならよかった」と十勝は笑う。  あの男と二人きりに残して大丈夫かと思ったが、見たところ十勝はピンピンしている。一先ずそこに安堵した後、俺は辺りを見渡した。周りには十勝以外の人気はない。 「あの、十勝君……さっきの人は?」 「ああ、風紀に突き出した。『八木さんか会長かどっちが良い?』って聞いたら『風紀委員長』なんて言ったからさ。うちの会長が佑樹の彼氏って知ってるに決まってるくせになあ?」 「それで風紀に?」 「ああ、『会長のところまで連れて行ってやってくれ』ってな」 「そういうことでしたか」 「と、十勝君……」  なんというか、十勝も十勝で良い性格をしてる。この学園の生徒会となると、やはりここまで胆力が要されるのかもしれない。  なんて思っていたら、うりゅ、と目の前の十勝君の目が潤んだ。 「佑樹ーーっ! もう今日は俺がいるから! 一緒に! 佑樹が嫌だっつっても離れねえからな!」 「お、大袈裟だよ、十勝君」 「大袈裟じゃねえって! ……会長に報告したときも電話越しだけどすんげーキレてるの分かったし……一旦ストーカーの処理……いや、処遇を決めるために指導室行ってから佑樹に会うって言ってたぞ」  ……会長が?  十勝の泣き真似からの変わり身の速さに今更驚きはしないが、会長からの申し出は少しぎくりとした。  この流れは正直、予想していた。怖くないと言えば嘘になるが。……怒られるかな。無防備すぎだ、と刺されるかもしれない。 「俺のせいでごめんね、結局生徒会の皆巻き込んでしまったし……」 「いいっていいって。つうか、俺らの仕事みたいなもんだし、なあ和真」 「同意です」 「……ありがとう」  優しいな、二人とも。  こんなことにはなってしまったものの、助けに来てくれたのが二人でよかった。  そんな風に思ってしまうのは不謹慎なのだろうか。  それから二人と一緒に適当な空き部屋で待機してること数分。灘の携帯に電話がかかってくる。  離れたところで短い通話を終え、灘は戻ってきた。 「和真、今会長から? なんて?」 「齋藤君を生徒会室へと連れていくように、とのことです。会長が君に話があるとのこと」 「端的に伝えるのであれば、君のこれからについてです。……齋藤君」俺の方をしっかりと見た灘に俺は内心冷や汗を流した。 「あ、俺なんか想像ついたかも」と呟く十勝に苦笑いしか浮かべることはできない。  会長が忙しい時期というのは予め知っていたし、数日の辛抱だと思っていたのに初日からこのザマである。  何を言われるのか、想像しては胃が痛くなってきた。  それから俺は十勝と灘に連れられ、生徒会室までやってきた。  生徒会室の奥、会長席には作業中らしい会長が書類と睨み合いをしていた。そして入ってくる俺たちに目を向け、手にしていた書類をテーブルに置く。 「会長、お連れしました」 「ご苦労。……お前たちにも世話をかけたな」 「いえ」と灘と十勝の声が揃う。二人に向けられていた会長の視線がゆっくりこちらへと向く。 「齋藤君」 「か、会長……あの、すみません。お忙しいところ……」 「そんなことを言ってる場合ではないだろう。……怪我はなかったか?」 「は、はい……すみません」 「……概 話は当の本人からも聞いた。が、しかし、……君が魅力的すぎるのも些か問題だな」  席を立ち、こちらまで歩いてくる会長。そして目の前で立ち止まった会長にじっと見つめられ、耐えきれずに俺は思わず俯いてしまった。 「ぁ……あの……」 「君が俺の恋人だともっと言いふらして回るべきか? あのような輩に付け入れられる隙を与えるのは不快だな」 「そ、それは……その……っ」 「……可能性の話だ。阿賀松伊織が不在かつ俺が君を放置してるとでも思わせた、それが今回の原因だからな」  実際問題会長は多忙だったのだから仕方ない。けれど会長はそのことが気に入らなかったらしい。 「二十四時間俺の側にいるか? あまり構ってられないが、それでも一人にするよりかはマシか」 「え」 「会長、それじゃ三日目には会長も佑樹もぶっ倒れるでしょ。それなら俺が佑樹見張っときますんで」 「悪くないが……十勝、お前は他所の女から連絡あったらすっぽかすかもしれんからな。一番効率がいいのはこれを期に君に害なすものを一網打尽にするという手だが」 「え、あ、あの」 「……例えばの話だ。しかし、今回の件に関しては俺も氷山の一角だと思っている。……気持ちは分からないでもない。先刻も告げた通り、この学園は男子校で己の欲求を自ら処理することもままならないという猿もいることも事実だ」  さ、猿……。  十勝が耐えきれず笑っていたが、俺には冗談には聞こえなかった。まじで思っている顔だったからだ。 「つまり、齋藤君を敢えて泳がしてそこで問題の生徒たちを片っ端から指導すると」 「早い話、そういうことだな。無論、齋藤君には手出しはさせるな」 「え、あ、あの……それって、つまり……」 「齋藤君」 「は、はい……!」 「話は聞いていたか? 今後灘と十勝を君に付ける。それから、この件に関しては風紀にも協力をさせておこう。……数日の間だ。頼めるか?」  ぼんやりとしていた間に話はとんとん拍子で進んでいたらしい。会長に覗き込まれ、ハッとした。  なんだか知らぬ間に色々すごいことになってる気がしないでもないが……。 「すみません、ありがとうございます……」 「礼を言うにはまだ早いぞ。君もくれぐれ不審な影を見つけたら即刻こいつらに伝えろ。手段は問わない」  会長から妙な圧を感じ、もうなにも言い返せる空気ではなかった。なんだか俺も生徒会の一員になった気分のまま、「はい」と声をあげるのが精一杯だった。  ……なんか、会長ピリピリしてるな。そりゃそうだ、ただでさえ忙しいところに余計問題を持ってきたんだから。  十勝の方から憐れむような視線を感じつつ、俺は最後までピンと背を伸ばしたまま動けなかった。 「なあ、佑樹。嫌なことは嫌って言った方がいいぞ」  灘と十勝に連れられるように生徒会室を出た後のこと。十勝は俺の肩を掴み、声を顰める。 「え? あ、ああ……会長の提案のこと?」 「そーそー。俺もつい確かにって思ったけどさ、要するに撒き餌ってことだよな」 「しかし、俺たちが未然に防げば良い話では」 「和真~~、ま、和真は会長寄りだもんな、考え方。確かに効率と今後のことを考えるならそれは最もだけど、それって佑樹が一番辛えじゃん」 「と、十勝君……ありがとう。けど、俺のことなら大丈夫だよ」  心配してくれてありがとう、と笑いかければ、少しだけ唇を尖らせたまま十勝は「そうかあ?」と首を捻る。まだどこか不満げだ。  確かに撒き餌は言い得て妙だと思う。けど、ただ守られてばかりでいるよりは少しは生徒会の――学園の平和に貢献できると考えれば悪いことではない気がするのだ。  これが十勝の言う会長寄りの考え方、ということなのだろうか。 「ま、佑樹がそう言うんなら良いけどさ。辛くなったら全然言えよ。俺、全然隣に行くから」 「励ましてくれるの?」 「おー! なんなら膝枕と子守唄付きで!」 「……それはそれで気になるかな」 「おう、任せとけよ」 「自分も合いの手くらいなら」  何故か謎のところで張り合ってくる灘。子守唄の合いの手がなんなのか気になったが……とにかく、十勝たちがいてくれて良かった。  今後数日のことを考えたら気が滅入っていたが、これも学園に貢献してると思えばまだ気分がよく……なってるのか?俺にはもう分からないが、どう言う形にしろ二人が側にいてくれるのならそれだけで安心した。

【↑500】阿賀松伊織がいないということ 二日目正午【3,500文字/生徒会+齋藤/齋藤総受け】

More Creators