▶ 飼い主不在シリーズ https://x.gd/l3IwC 笹山の声が好きだ。優しくて、柔らかくて、名前を呼ばれると心臓が勝手に反応してしまう。 甘ったるい蜜で脳味噌をじんわりと浸されてる、そんな心地よい酩酊状態が続いていた。 これは夢、なのだろうか。 モヤがかったような意識の中、俺は気付けば俺は見慣れない部屋の中にいた。 そして隣には笹山が座っていた。目の前には何本かのロング缶が並んでいて、それ手を伸ばそうとしてうっかり缶を倒してしまう。 その中に入ってた酒はテーブルを伝い、そのまま俺の腹を濡らした。 「ん、あ……」 「あーあ、溢しちゃって……濡れちゃいましたね、原田さん」 「冷たい……気持ち悪ぃ〜……笹山……」 「でしょうね。……ああ、ここまで濡れてしまったらいっそ着替えた方が早そうですね」 「着替え……」 「ひとりで脱ぎ脱ぎできますか? 原田さん」 まるで子供に言い聞かせるような優しい声。 立ち上がって、それから腕を動かして服を脱ぐ。まともに動かないこの頭では重労働以外のなんでもない。 「無理ぃ」と笹山の胸へと頭を寄せれば、俺の頭を撫でながら笹山はくすくすと笑う。 「……もしかしてそれ、俺に甘えてます?」 笹山の長い指に髪を梳かれ、くすぐったくて身を攀じる。けれど嫌な気はしない。笹山の触り方はいつだって優しくて、そんで。 「……両方」 ぽそりと漏らせば、笹山は微笑んだ。普段の優しい笑顔とは少し違う、熱を孕んだような目で見つめられ、胸の奥がぞわぞわと反応する。 「ふふ、仕方ない人ですね」 髪を梳かしていた手はそのままゆっくりと降りていく。首筋から肩のラインを撫で、そのまま胸へと伸びてくる笹山の手に俺は体を震わせた。 「さ、笹山……ん、そこ……」 「服を脱がせるだけですよ」 「ん、脱がして……早く、風呂入りたい……」 「そうですね。ベタベタするのは嫌ですもんね」 言いながらシャツの上から乳首を軽く撫でられ、腰が揺れる。掠れただけなのに、そのまま通り過ぎていく笹山の指がなんだか切なくて、俺は思わず背後の笹山を振り返った。 「さ、さ……やま……」 「脱がすだけ、と言ったのは原田さんですよ」 「ん、ぉ、おれ……なんも言ってない」 「なら、貴方の目ほど雄弁なものはありませんよ。……原田さん」 「ん、ぅ」 今度は片方の胸、つんと浮き出ていたそこをすり、と撫でられ、小さな声が喉の奥から溢れた。 そのままカリカリと片方の胸を刺激され続け、背中が大きく伸びる。 「は、ぁ……っ、ん、ふ、笹山……っ」 「お酒呑ませ過ぎちゃいましたね。……どこもかしこもふにゃふにゃなのに、乳首はしっかりと勃ってるの、可愛いですね」 「っ、……ぁ、う……っ」 力が抜け、そのまま前のめりに倒れそうになる俺を抱きかかえた笹山はそのまま俺を膝の上に座らせた。笹山の掌は両胸を包み込むように這い、そのまま両乳首を同時に弄られる。 「ぁ、う……っ、ん、……っ」 「服の上からカリカリされるの、好きですよね。原田さん」 「は、ぁ……っ、し、らね……」 背後から笹山の腕にすっぽりと抱きしめられ、耳朶に軽く唇を押し付けられる。そのまま耳元で「本当ですか?」と囁かれ、ぞわぞわと腰が揺れた。 けれど笹山は簡単に開放してくれなかった。 「さ、笹山……っ、ん、ぁ、……っ、う……」 「じゃあたくさん好きになってもらって、今度は胸だけでたくさんイケるようにならないとですね」 「ぁ、え、にゃに、なに、いっへ……」 「興味あったんですよ、スペンス乳腺」 「んえ……? なに、なんて……?」 「原田さんは気にしなくていいですよ」 「そ、そんなこと……ぉ゛……っ、ん、ぅ……っ」 耳元、ぴちゃりと這わされる舌に溝の凹凸を舐められながら、そのまま柔らかく乳首を穿られる。服が擦れる感触が余計もどかしいのに、絶妙な力加減で乳首を重点的に責められながらひたすら笹山に胸を揉まれる。 溢れた酒を拭くのも忘れ、そのまま執拗に追いかけてくる笹山の指に乳首を穿られ、芯を持ち出したそこを今度は再びカリカリ、すりすりと乳首と乳輪の周辺を交互に弄られる。 「ん、ぅ、ち、乳首、もぉいい……っ、も、いいから……っ」 「そうですか? 酔っ払いの『もういい』は宛になりませんからね」 「お、お前も、酔ってる……」 「多少は、まあ。ですが問題はありませんよ」 そう笹山の上から退こうとしたとき、腕を引っ張られて再び笹山の膝の上に倒れ込む。そのまま俺を抱きとめた笹山、同時に尻の下にものすごい違和感を覚えた。硬くなったそこを押し付けるように腰を動かされ、「笹山」と声が震える。 「さ、笹山……お前ぇえ……」 「どうかしましたか? 原田さん」 「あ、あたって、……っ、ん、ぁ……ゆ、揺するな……っ、だめ、ん、ぉ、おい……っ! ぁ……っ!」 ぴっとりとくっつくように肩口に顎を乗せてくる笹山。そのまま項にキスをされ、息を飲む。 そういえば笹山にしてはあんま呑んでない気がしたが、最初からこういうつもりだったのか。 酔いやらなんやらで熱くなってきた頭の中、俺は笹山の腕から逃げられるわけでもなく、するりと伸びてきた手にそのままシャツの裾を捲くり上げられる。 「そういえば、脱ぎ脱ぎ……しないとでしたね」 「っ、ぁ、み、みるな、笹山……」 「見てませんよ。……目に入ってくるだけです。原田さんの可愛い乳首が」 「っ、な、なに、言って……ぁ、う……」 慌てて背中を丸めようとしたところを笹山の腕に制される。そのまま大きく体を逸らされた瞬間、哀れなまでに勃起した乳首が視界に入り込んだ。 「っ、は、ずかしい……笹山……っ」 「脱がしてほしいって言ったのは貴方ですよ、原田さん。それに、恥ずかしがることなんてありません。貴方の体に恥ずべきところなどないんですから」 「っ、ぅ……っ、な、なんか、やだ……」 「……酔いが足らないみたいですね」 「……え?」 そう、笹山が溢れて減っていたその缶を手に取る。そしてそのまま自分の口に含めたと思いきや、笹山は俺に口移しをしてきた。 炭酸が抜け、ぬるくなったレモハイが喉を流れていく。さっぱりとした後味とは裏腹に頭の中にかかっていたモヤは更に濃くなる。 「ん、ぅ……ふ……っ」 「は……っ、ん、笹山……」 気付けば空になっていた腔内、舌同士が触れ合っていた。 駄目だ。駄目なのに……何が、駄目なんだっけ。 ぼんやりと再び朦朧としていく意識の中、俺は笹山の体温だけを感じていた。 ◆ ◆ ◆ 「……」 夢、を見ていた気がする。それも、大分生々しい夢を。 飛び起きれば見覚えのないベッドの上。こざっぱりと片付いており、モノトーンのインテリアで揃えられた寝室にいた。 ……ホテル?では、ないはずだけど。 つかそうだ。昨日は俺、笹山と一緒に帰ってて、その流れで笹山のオススメの店に寄ったんだっけ……? 思い出そうとしたとき、先程見た夢が頭を過る。 いや、まさかな。と冷や汗を滲ませたとき。 「酔いは醒めましたか? 原田さん」 寝室の扉が開き、現れたのはよく見知った男だった。長い髪をお団子にして結んだ笹山は、ベッドの上でアホみたいな顔をしていた俺を見つけるとにこりと微笑む。 「さ、笹山……ここ……」 「俺の部屋です。……散らかっててすみません、片付ける暇がなくて」 「いやいやいやいや! 俺ん部屋より全然綺麗だぞ!」 「ありがとうございます。……原田さんに褒めてもらえると嬉しいですね」 「お、おう……」 少しだけ頬を赤くする笹山につられて俺まで照れてくる。 ……じゃなかった。どうして俺は笹山の部屋にいるんだ。今までの己を省みると大体想像つくが。 と、頭を抱えたところで俺は自分が着ていた服が見覚えのないものになってることに気付いた。 流れからして笹山の服だろう。なんかいい匂いするし。てか、なんで着替えさせられてるのか。 「な、なあ笹山。……俺、もしかしてまたなんかしたか?」 恐る恐る笹山に尋ねれば、「覚えてないんですか?」と笹山は目を丸くする。 「お、覚えてねえ……かも」 「まあ、そうですね。昨夜は気持ちよさそうに酔ってましたもんね。原田さん。……あの後、原田さんお酒溢しちゃって……勝手ですが着替えさせていただきました。俺の服で申し訳ないんですけど」 『原田さん、一人で脱ぎ脱ぎもできないんですか?』 不意に、笹山の言葉が夢の中の笹山と重なった。抱き締められ、耳元でねっとりと囁かれるあの存在しないはずの記憶と。 ……なんだ、今の。 「どうしましたか? 原田さん」 「い、いや、なんでもねえ! ……あの、着替えありがとな」 「構いませんよ。……それより、今日はもう遅いのでこのまま泊まっていったらどうですか?」 言われてスマホを探そうとすれば、代わりに笹山は自分のスマホを取り出した。 「終電はとっくになくなって、始発待ちにはちょっと早すぎるくらいですね」 「俺なら別に歩いてでも……」 帰れるけどな、と言いかけたところで、笹山の視線に気付いた。そうだ、忘れていた。今日は笹山の恋人なんだった、俺。 「で、でも、笹山の寝る場所無くなるんじゃないか?」 「俺はどこでも寝れますので」 「いや、流石に悪いって。それなら俺だって公園のベンチでも寝れるからな!」 「……原田さん、今度からそれ絶対やめて下さいね」 笹山の顔が怖い。俺は無言で頷きまくる。 暫く見つめ合ったあと、俺は自分に残されていた選択肢が一つしかないことに気づく。 普通だったら躊躇するような選択肢だが、多分笹山もこれを望んでいる……のだろうか。分からない。自惚れだったらクソ恥ずかしい。けど、これしか思いつかねえし。 「……じゃあさ、一緒に寝るか?」 顔が、主に目の下辺りがじんわりと熱くなっていく。そのままシーツを捲れば、笹山は小さく息を飲む。 「いいんですか?」 「いいも何も、お前の部屋だしな」 「はは、それもそうですね。……それじゃ、失礼します」 「お、おう……」 失礼してるのは俺だけどな。なんて思いながら俺は横にずれ、笹山が寝れそうなスペースを空ける。髪を解いた笹山は布の擦れる音、スプリングが軋む音。シーツの下で少し体がぶつかっただけでも意識してしまいそうになる。 それから笹山は部屋の灯り、そしてサイドボードのライトを消す。真っ暗になった寝室に、俺の心音と呼吸が響いてる気がしてならなかった。 俺は笹山に背中を向けたまま目を瞑る。眠る努力をしようとするが、普通に考えて寝れるわけねえだろ。笹山が毎晩使ってるベッドなんだから当たり前だけどすげえいい匂いするし、つか、ちっか。こんなに近いのか、ベッドで添い寝って。 「……」 「……原田さん」 「な、なんだ……?!」 「いえ、先程からもぞもぞしてるので寝れないのかなって思って」 「う……なんか、頭醒めてきたっぽい」 なるべく邪魔にならないように最小の動きに留めていたのだが、笹山にはバレてしまっていたようだ。 サイドボードのライトを点け、体を起こした笹山は覗き込んでくる。柔らかい灯りに照らされたその表情は優しかった。 「もしかして緊張してますか?」 「……わ、笑うなよ。……そーだよ、緊張しないやつのがいないだろ……」 「どうして?」 「だ、だって……お前が……」 「はい」 「……、……」 そうだ、元はと言えばここまで笹山を意識する羽目になったのは笹山が俺のこと好きとか言い出すからだ。 ……なら、俺のこと好きだって言ってたのになんでこいつは平然としてるんだよ。 「原田さん?」 「お前は……緊張してねえの?」 俺ばかりが緊張してるみたいでなんとなく不服になってきた。そんな俺に、笹山がくすりと笑う。そして、 「……もちろん、してますよ」 そう、笹山の手が伸びてくる。何かと思いきや、そのままベッドの中、体を抱き寄せられてしまったのだ。 「さ、ささ、さささやま」 「一個多いです、原田さん」 「さ、笹山……っ、ち、近い……っ!」 「そりゃあ、一つのベッドですから」 「う、……わ……っ」 吐息が近え。つか、熱い。いや俺の体が熱いのか。 背後から包み込むような体勢に耐え切れず、抜け出そうとするが、足まで絡め取られてしまうとそれは困難だった。 腰に回された手を掴めば、そのまま掌を重ねるように指を絡め取られる。 「聞こえますか? 俺の心臓の音」 「っ、わ、わかんね……」 「本当に? ……ドクンドクンって言ってるんですよ。……ほら、原田さんと同じように」 俺の手ごと、俺の胸に触れる笹山に固まった。掌に鼓動が直に触れる。それから、馬鹿みてえに意識したせいで固くなった乳首。……おい、勃起してんじゃねえ。素直か俺は。 「……っ、さ、笹山……」 「原田さんもドキドキしてますね、……良かったです。俺のこと、意識してくれて」 「ま、まって、笹山……っ、俺はそういうつもりで誘ったわけじゃ……!」 「原田さん」と、指の谷間を撫でられる。笹山の声はまるで触れた箇所から直接流れ込んでくるみたいで、心臓が停まりそうになった。 「……自分のこと好きと言ってる男を同じベッドに寝ることを許すのは『そういうつもり』でしかないですよ」 「ぁ、う……だ、だって……笹山を床で寝させるのは……っ」 「そういう隙は見せちゃ駄目ですよ、俺以外の男に」 「さ、笹山……っ、ん、ぅ……っ」 それ以上は言葉にならなかった。抱き寄せられ、そのまま押し倒してくる笹山に唇を塞がれたのである。 夢の中、重ねられた唇の感触が蘇る。柔らかく、何度も感触を確かめるように薄皮を甘く吸われる。響くリップ音が余計恥ずかしくて、けれど俺は笹山から逃れることもできなかった。 「……真っ赤ですね、原田さん」 「さ、笹山の……せいだろ」 「ありがとうございます」 なんのありがとうだよ、と突っ込むよりも先に、再び重ねられる唇。長い髪がカーテンみたいだ、なんて思いながら、俺は笹山から逃れることもできないままそれを受け入れた。 恋人って、こんなにハードルが高いのか。 壊れそうなくらい激しく脈打つ心音を自制することなんてできなかった。多分、寿命も大分縮んでる。 【続く】 next→ https://t589423.fanbox.cc/posts/8168499