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田原摩耶
田原摩耶

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【↑100/総集編版】飼い主不在②【8,700文字/四川+笹山×原田/三角関係/修羅場ラブコメ】

▶ 飼い主不在シリーズ https://x.gd/l3IwC  腹が膨れるほど中に出され、犯され、掻き出されて、ついでに俺の部屋まで連行されて続けてベッドで犯される。  今まで優しかった分のツケが全部回ってきたんじゃないかと思うほどの四川のやりたい放題っぷりにケツは瀕死状態。俺も何度か気絶して、その度にチンポで叩き起こされ、トんで、の繰り返しの休日を迎える羽目になった。  そんで何時間か経過したあと、翔太が帰ってくる前に四川はさっさと帰ったのだ。気絶した俺をベッドに残してだ。  反省したのか詫びのつもりかは知らないが、気絶してる間に風呂に入れさせられた形跡があったがそれとこれとは別だ。許すまじ。  怒り心頭のまま俺は暫く枕を四川に見立ててぼこすか殴っていたが、最中、何度かせがんできたあいつの顔が浮かんでからは怒りは一気に波を引いていってしまった。 「…………なんなんだよ、あいつ」  甘えたいにしたって、もっと上手いやり方があっただろ。  笹山を引き合いに出しやがって。 「……」  ぽす、とそのまま枕に顔を埋めたまま俺はベッドに倒れ込む。  腹立ったが、あのときお前がいいと答えていたら四川はどうなったのだろうか、なんて考えが過っては仕方なかった。  ……今更考えたって仕方ないのだけど。もういいや、知らん。寝よ寝よ。  そうふて寝しようと布団をかぶる。今夜の出勤に備え、俺は二度寝をすることにした。  ◆ ◆ ◆  ――翌日。  どうせ数日経てば全部いつも通りのはずだ、なんて軽い気持ちで出勤し、更衣室の扉を開いた俺は早々に後悔していた。 「原田さん、おはようございます」 「……ん、ああ、おはよう」 「元気ないですね。どうかしましたか?」 「え、そ、そうか? ……二日酔いかな、なんて……はは」  心配そうな笹山に対し、なんも面白くねえのにヘラヘラ笑いながら誤魔化す。  そして笹山の奥のロッカー、仏頂面のまま荷物を雑に押し込む四川の姿が。  ――なんつータイミングだよ。  さっさと着替えて出て行こ、と思いながら俺は上着をハンガーに掛ける。  笹山はともかく、四川とは顔が合わせづらい。ってか、あいつもあいつだ。露骨にこっちを無視しやがって。 「二日酔いですか……薬は飲みましたか? ドリンク剤なら確か休憩室にフリーのが……」 「あ、ああ、大丈夫。ありがとな」 「いえ、原田さんが元気がないと俺も心配なので」  素直に笹山の優しさが染みるが、四川の反応が気になってなんだかふわふわしてしまう。  ありがとな、と笹山を躱し、そそくさとエプロンを手に取った俺は更衣室から飛び出した。 「……はあ」  なんで初っ端からこんな疲れねえといけないんだ。  冷や汗を拭いつつ、更衣室に四川と笹山を残してしまったことにハッとしたが……まあ、あいつらはなんだかんだ仲良さそうだし、大丈夫か。……大丈夫なのか?  自答しつつ、取り敢えず下手な修羅場から逃げるため俺は売り場へと向かった。  そして、その後俺はこのときの自分の選択を後悔することとなったのは言わずもがなだった。  バックヤードから品出ししたり棚を作り直したり、そんな感じでのんびりと働いていると。 「原田さん」  不意に背後から名前を呼ばれる。  バックヤードの奥。丁度積まれていた段ボール箱抱えようとした矢先のことだった。振り返ればそこには笹山が立っていた。 「おー、笹山。どうした?」 「重たいでしょう、俺持ちますよ」 「え、いやこれくらいなら……」 「持たせて下さい、原田さん」  な、なんだ、この圧は。  確かに軽々持てるほどの筋力はないかもしれないが、それでも苦戦するほどの大荷物というわけではない。  が、謎の笹山の圧に負けてしまい断ることはできなかった。 「そ、そんなにやりたいなら……お願いするけど……」 「はい」と嬉しそうに笑う笹山の頭にはないはずの犬の耳が見えた。それがぴこぴこと嬉しそうに揺れる。ついでにしっぽも。  そのまま俺の代わりに段ボールたちを運んでくれる笹山の背中を見送った。    それから品出しまで手伝ってくれた笹山のお陰で大分早く頼まれていた仕事が片付いた。  ふうと一息つき、今度は店内清掃でもするかと掃除用具を取りにきたときだ。 「おい」  誰もいないと思いきやいきなり声をかけられて驚いた。そして顔あげて再び驚く。 「なんだ、四川かよ……なんだよ」 「そのモップ貸せ」 「え? って、おい……っ! なに……」 「変わってやるって言ってんだよ、清掃」  相変わらずなんか不機嫌な顔のままぼそりと呟く四川。その言葉にますます俺は困惑した。  「は……? え、な、なんで……?」 「なんでって……気分だよ、気分」 「気分……? お前が……?」  優しい四川は調子狂うが素直に悪い気はしなかった。が、だ。この間のこともある。  まさかなにかを企んでいるわけではないだろうな。  じーっと四川の顔を見上げれば、あいつは苛ついたように舌打ちする。 「……っなんだよ、俺が手伝ったら悪いのかよ。あいつの手伝いはすんなり受け入れるくせに」  あいつ?と、そこまで考えて笹山の顔が浮かんだ。  もしかして、こいつ。 「お、お前もしかして……笹山と張り合ってんのか?! 俺を使って!」 「は?! ちげ……えし! つか、どんだけ自惚れてんだよテメェ!」 「な、自惚れてなんかねえよ! じゃねえとお前が手伝い申し出るなんて……っ!」  寧ろ率先して人に掃除当番押し付けるようなやつのくせに、と言いかけた矢先だった。  ガチャリと倉庫の扉が開く。 「原田さん、何か手伝えることは――」 「げ」 「笹山……っ!」 「……阿奈?」 「なんでお前がいるんだ」と一瞬にしてにこやかな笹山の笑顔はどっかへと消えてしまう。  やばい。別になにも都合悪いことはないのにまたなんか嫌な予感がする。  現れた笹山に四川は舌打ちをした。「ストーカー野郎が」という余計な一言付きで。 「原田さんと何話してたの?」 「うるせえ、テメェに言う必要はねえだろ」 「散々人に偉そうなこと言ってたくせに考えてること同じじゃん、お前」 「はあ?」  人を挟んでまた言い合いを始める二人。  なんだ、なんかさっきよりも更に空気が悪いっていうか……これ、修羅場ってやつか?! 「お、おいお前ら落ち着いて……」 「落ち着いてますよ、大丈夫です。安心して下さい、原田さん」 「そ、そうか……? じゃあ……」 「原田さん原田さんうるせえな、さっきから下心見えまくってんだよこのぶりっ子野郎!」  よかった、と胸を撫で下ろした矢先。  四川の一言にピシ、と笹山の周囲の空気が凍り付くのに気付いてしまった。  四川のやつ、またこいつは笹山を怒らせるようなことを言いやがって。 「お、おい、何を……」 「あのさ、それ言うならこっちの台詞だからな。いきなり態度変えるの、傍から見てて露骨すぎるからやめろよ」 「さ、笹山……?」 「ああ? 下心の塊が何いってんだテメェ。このアホとエロいことしてえってバレバレなんだよ、その猫撫で声やめろ」 「ああ?」 「なんだ? やんのか?」  矢先、掴み合いに発展する二人に「ひえっ」と声が出た。  まずい。これはまずい。俺にでも分かる。 「ふ、二人とも落ち着……」 「露骨に避けられてんの分かってんのにしつこく迫るのストーカーかテメェは! 脈ねえんだからさっさと諦めろ、こいつが好きなのはどう考えたって俺だろうが!」 「え、俺?!」  慌てて二人の仲裁に入ろうとした矢先、いきなり四川に指を突き付けられる。  俺、四川のこと好きだったのか……?!そうだったのか?! 「はあ? 一回も告白されてないくせに勘違いして彼氏面してんのはお前の方だろ、阿奈。俺は言われたから、ちゃんと。原田さんに」  狼狽えてるところに畳み掛けてくる笹山。  言われたって……何が?俺が?笹山のこと好きだって……?! 「どうせ酒がぶ飲みさせてセックス雪崩れ込んだくせに何偉そうなこと言ってんだ」 「それ、そっくりそのまま返すからな」  図星ぶっ刺してくる四川はさておき、一触即発な二人に俺はいつの日か見たドラマのことを思い出す。  ああそうだ。これってあれだ……。よく見るあの図。ならばここは、と俺は慌てて二人の間に割り込んだ。そして。 「俺のために喧嘩すんなーーっ!」 「「……っ?!」」  何事かとこっちを見下ろしてくる二人。どうやら俺の一声により少しは冷静を取り戻してくれたようだ。 「は、原田さん……」 「いやお前のために喧嘩してねえけど」 「……え?! いや、でもだって……」  ち、違ったのか……?  いやでも俺が好きだとか云々言っていたじゃないか……?! 「阿奈、お前はまた……原田さんに恥をかかせるつもりか?」 「本当のことだろうが」 「え、じゃ、じゃあ……俺のこと……好きじゃないのか……?」  口に出した途端余計恥ずかしくなってきた。 「あ?!」と何故かキレてくる四川だったが、その先に飛び出してくるであろうと予想していた罵詈雑言はなかった。  その代わり、何故かバツが悪そうに四川は口をもごつかせる。 「……っ! な、いや、別に……痛ぇ! おい、笹山テメェ……っ!」 「原田さん……俺は原田さんのこと、好きですよ」  四川をやんわりと押し退けながら俺の前までやってきた笹山。そのままそっと俺の手を握り、笹山は「だから、そんな顔をしないで下さい」と微笑む。  ああ、こういうときは余計笹山の優しさが全身に染み渡るようだ。 「……っておいコラドサクサに紛れてんじゃねえ!!」 「笹山……」 「お前も簡単に絆されてんじゃねえ!! お前が好きなのは……っ、……」  そう、笹山の手を強引に引き剥がしてくる四川。そのまま握り締められる手、重なったそこから流れ込んでくる四川の体温の高さに驚いて顔を上げる。  瞬間、ばちんと視線がぶつかり合った。なにかを堪えるような顔をしたやつと真っ直ぐに。 「お前が好きなのは――俺だろ」  その言葉が四川の口から出てきた瞬間、考えていたこととかなんか色々なものが吹き飛んだ。  ――お前が好きなのは俺だろ。  そう言い放った四川。その言葉を頭の中で反芻する。それは笹山も同じようだ、ピタリと辺りの空気が止まる。 「…………」 「…………」 「…………?」 「阿奈……」 「……おい、やめろ。ふざけんじゃねえ、可哀想なものを見る目やめろ。『?』って顔もやめろ、ふざけんなこっちを見んじゃねえ……!」  自分で言っておきながらなんなんだこいつは。  というか、俺は四川が好きだったのか?  やつとの記憶を思い返してみるが、ろくな思い出が出てこない。  そんな俺と四川の間に割り入ってきた笹山はそのままぽむ、と四川の肩に手を置く。 「……いい加減認めろ。お前だって原田さんのことが好きなんだろ」 「え」 「な」  さらりと出てきた言葉に今度は俺と四川が固まる番だった。 「そ、そうだったのか?!」 「はあ?! ち、げえし、ちげえから馬鹿!」 「じゃあ俺と原田さんの邪魔するのはやめろよ」 「邪魔してねえよ! ただこの童貞恋愛ド素人がヤリ捨てされんの可哀想だと思って……」 「してんのはお前だろ、阿奈」 「ぅぐ……っ! クソが……ッ!」  そして笹山に言い負かされる四川。まさかとは思ったが、みるみる内にその耳まで赤くなっていくのを見てハッとする。  こいつ、言われてみれば最近の妙な優しさとか……そういうことだったのか?! 「……さ、笹山……俺……もしかして今モテてるのか……?」 「ええ、その通りですよ。……俺もこいつも、貴方のことになるとどうしてもウマが合わなくてですね、この始末なんです」 「分かってくださいますか?」と近付いてくる笹山。さらっということを口にできるのが四川と違うところだよな、と関心しそうになっていたが……待て。これって所謂あれじゃないか、三角関係ってやつなのか。 「原田さんは俺とこいつ、どっちが好きですか?」 「えっ? い、今?!」 「ええ。……迷惑だと思うのならいっそフって下さい。そうすればきっと、諦めもつくと思いますので」  しゅん、と笹山の頭に生えた見えない犬耳が垂れる。いやいやいや、待て。そりゃ俺は笹山の事好きだし飯もうめーし、つか優しいし。けどだからって付き合うとかって言われても……。 「急にそんなこと言われても――」 「ざけんじゃねえ! お前一人で諦めてろ! 俺はこいつのことを手放すつもりはねえからな」  と、言った矢先、今度は四川に腕を引っ張られる。「うおっ」とバランス崩しかけたところ、そのまま顔が近付いてきた。  ちょっとでも背中を押されればキスできそうなほどの至近距離だ。 「お、お前……っん、ぅ……っ!」  嫌な予感がして押し退けようとした矢先、噛み付くようにキスをされる。  そんな気はしていたが、と、強引に唇に這わされる舌先に驚いて思わずその胸を叩いた。 「ん、ちょ……っ、ふ、っ……」 「ちょっと、阿奈?」 「……っは、お前が振ろうが知らねえよ。……勝手にしろ、俺も勝手にするから」  ちゅぷ、と音を立てて唇を離した四川はそのまま笹山を睨みつける。 「ぉ、おい、四川いい加減に……」 「お前さあ……本当に……それはずるくない?」  笹山、助けてくれ。  そう懇願の眼差しを笹山に向けたとき、今度は笹山に顎を掴まれる。そして軽く持ち上げられる顔、目の前にはにこりと微笑む笹山。 「原田さん、俺のこと嫌いですか?」 「っ、さ、笹山……っ待て、落ち着け、冷静になって……」 「……嫌いですか?」  頼むからそんな目で俺を見ないでくれ。  チクチクと罪悪感を刺激してくる笹山に耐えきれず、「そんなわけないだろ」と声をあげる。 「嬉しいです。……原田さん」 「だ、だから、一旦離れ……んんっ!」  両頬を挟まれ、そのまま視界が陰る。そんな気はしていた。だから、つい目をぎゅっと瞑ってしまった。そんで唇にはふに、と柔らかいものが触れる。 「……っ、ん、ふ……ぁ、……っ、ささや……っ、ま……っん、……っ」  啄まれ、薄皮越しに体温を確かめるように何度も軽くキスをされる。  ……ちょっと待て、な、長い……! 「ん、も、……っ、ぉ、んん……っ」 「って、待て! 長えんだよテメェ遠慮しろ!」 「……なんでお前に遠慮しないといけないんだよ、阿奈」 「……っな、んでって……」 「まさか、『そいつが好きなのは俺だろ!』とか言い出すわけじゃないよね」 「……っ!」  おい負けるな四川。そこで止まるな。せめて他に反論のネタは持っててくれ。俺でも勝てるぞ。  流石の笹山もやれやれという顔をしている。それから、「原田さん」とそのままするりと頬から首筋へと指を滑らせた。 「っ、さ、笹山……」 「……ああ、そんなに震えないでください。すみません、こいつが勝手な真似ばかりして」 「今のどこがだよ、つか怯えてんのはお前にだろうがこの……ッ! もご!」  そして笹山は四川を口を手で塞いで黙らせていた。力技である。  いつもの優しい笹山は……とさながら迷子のチワワのように……いや、ちょっとかわいすぎるな。迷子のひよこのように震えていた俺に、笹山は「じゃあ、こうしませんか?」と提案する。 「一日お試しで俺達と付き合ってみませんか?」 「お、お試し……?」 「もご?!」 「ええ。……例えば明日は俺、それから明後日は阿奈と――それだったら公平でしょう。お試しで付き合って、それで合わないなと思ったら振ってもらっても構いませんので」  一瞬なるほどそれなら……と納得しかけてしまうが、待て。本当にそれでいいのか、俺。 「もごご!!」となにか四川がめちゃくちゃ反論しようとしてるが、それに動じず笹山は「原田さん」と俺に顔を寄せる。 「さ、笹山……」 「駄目、ですか?」 「だ、…………駄目、じゃない」  ……い、言ってしまった。  つい笹山の笑顔に負けてしまった。そもそも勝てる道が見えなかったのだ。 「ありがとうございます、原田さん」と微笑む笹山の笑顔に心臓がきゅっと締まる。 「あと、こいつには俺から言い聞かせておきますから安心して下さい」  こいつ、と呼ばれた四川が額に青筋浮かべて暴れているが、ここの説得は笹山に任せておいた方がよさそうだ。 「あ、ああ」と頷きながら俺はそのまま二人と分かれた。  そして一人になって、ようやく肩の力が抜けた。  ……なんだか大変なことになってしまった気がするが、ここ最近悶々とした時間を考えるとここらではっきりした方がいいのかもしれないという気持ちになる。……いや、待て待て待て。そもそも一日限定恋人ってなんだ?  ……まあ、笹山のことだから悪いことにはならないだろうが。  取り敢えずいつも通り過ごして、三日後、このままでいたいと伝えて二人が満足するならそれでいいか。  正直に言おう。そのときの俺は特に深く考えてなかった。そのときの俺にビンタしてやりたいくらいだ、振るならその場で振れと。  けれど、後悔先に立たずというやつだ。  その日はいつも通り仕事し、深夜シフトのやつと入れ替わるようにシフトを終える。  連休前の華金ということもあって今日はやけにカップル客が多かったな。なんて思いながら更衣室で着替えていたとき。 「原田さん、今お帰りですか」 「笹山。……お前、先上がったんじゃなかったか?」 「ええ。原田さんのこと待ってました。一緒に帰ろうと思って」 「え……」 「もしかして……お試しの話、忘れてましたか?」  それって明日からじゃ……と思いながら壁にかかっていた時計を確認し、はっとした。  すでに時計の針は日を跨いでいる。つまり、それは。 「……そういうわけで、一緒に帰りませんか?」 「ぬ、抜かりねえな……」 「一分一秒が勿体ないので。……原田さんのことも知りたいし、俺のことも知ってもらいたくて」 「う……」  見つめられてそんなことを言ってみろ。俺の心の奥の乙女が3ミリくらい顔を出してるじゃないか。  恋人という設定だからなのか知らないが、よくも恥ずかしげもなくそんな甘ったるい言葉が出てくるものだと戦慄せずにはいられない。  が、笹山の言葉にノッたのは俺だ。 「お、俺も……笹山のこと、知りたい」  かも、と小さく付け足せば、笹山が笑顔のまま僅かに静止する。それも束の間。 「……いいですよ、原田さんがお望みならなんでも答えます」  や、やべえ〜〜なんだこいつ。なんだこの空気。  すり、と頬を撫でられればもう笹山の顔を直視できない。自分で言っておきながら動けなくなる俺の腰をそっと抱いた笹山は「それじゃ、直ぐ準備しますので待っててくださなね」と軽く頬にキスをしてくる。  待て、なんだそのキス。なんのキスだ?!  この調子で二十四時間俺は持つのか?とか。四川は大丈夫なのか?とか。色々心配は絶えなかったが、流石に店を出る時は普段通りの笹山にほっとした。  よかった、もしかしたらお姫様抱っこのまま連れ帰られてしまうかもしれないなんて心が乙女に傾きかけていたが、流石笹山だ。モラルがしっかりとしてる。  ……モラルってなんだ?  それから店を出たあと。  すっかり賑わう飲み屋街を笹山と歩く。 『帰る前に軽く一杯どうですか? 俺、原田さんと行きたいところあるんです。勿論、俺が奢りますよ』なんて言われまんまと釣られたわけだ。  年下に奢らせるなんてと一度は断ったが、「日頃のお礼もしたいので」と念押しされた。それならまあ、とつい流されてついていくことにした。  笹山が連れて行ってくれたのはバーだった。  限界まで落とされた照明、そんで当たり前のようにカップルシートでいちゃついてるカップル。  普段安上がりな飲み放題の居酒屋しか行かない俺からしてみれば、あまりにも慣れてる笹山にお前この店に何人女連れてきたんだと疑いの眼差しを向けてしまったが、そんな気分もカクテル一杯飲めばどっか行った。  恋人だとかなんだとか気にしていたが、笹山も人前では変わらないしカクテルは旨い。 「笹山、お前全然飲んでないな」 「そうですね。美味しそうに飲んでる原田さんを見てるとそれだけで満足しちゃって」 「お前が好きなのビールとかだもんな、……もしかして気使わせたか?」 「いえ、俺も好きですよ。カクテル。ただ……飲みやすい分調整が難しいというのがあって」 「ああ? 調整なんてしなくていいっての、ほら、お前も飲めよ。これ、旨いから」 「原田さん、俺以外にそれやるとアルハラになりますよ。……でも、そうですね。この調子ならもう少しでしょうから」 「……んえ?」  ぼそりと笹山が何かを呟いた気がするが、上手く聞こえなかった。甘ったるいジュースみたいなカクテルを胃の中でちゃんぽんしまくって、脳味噌までひたひたになるみたいに気分がいい。  最初は店ん中暗すぎんだろと思っていたが、今となってはそれも良い感じである。ついでに仕事帰りというのもあって睡魔もやってきた。 「お腹が膨れたら今度は眠くなるんですね。……原田さんって本当可愛いですね」 「か、可愛いとか……お前、普通にそういうの言うよな……」 「嫌でしたか?」 「嬉しくねえけど……笹山に褒められんのは、好き……」 「……それは良かったです」  視界がぶれてきて、最早笹山がどんな顔してるのかわからなくなってきた。カウンターテーブルの下、膝に何かが触れる。笹山の手だ。 「そろそろ限界みたいですね、原田さんも」 「んやまだ、まだ大丈夫。いける」 「これ以上は危険ですから。……店を出ましょうか」 「やだ、まだ飲む。……帰りたくねえ〜」 「帰りたくないんですか?」  うん、と返事する代わりに頷く。その頭の縦振りでやや危なかったが、笹山は小さく笑った。 「分かりました。……もう少しゆっくりしましょうか」  笹山の声って落ち着くんだよな。誰かさんみたいにデケェ声出さねえし、優しいし、聞いてて心地良いってか眠くなる。  うん、と頷こうとして今度は限界が来た。そのままテーブルに突っ伏す俺の頭を撫でる手。こんな触れ方、店ではしないくせに……やってんな、こいつ。  そんなことを思いながらも俺は心地よさのあまりあっさりと意識を手放したのである。 【続く】 next→ https://t589423.fanbox.cc/posts/7945866

【↑100/総集編版】飼い主不在②【8,700文字/四川+笹山×原田/三角関係/修羅場ラブコメ】

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