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田原摩耶
田原摩耶

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【↑100】中学時代の宰と木賀島と進藤が仲良くなるまでのお話【4,600文字/木賀島×宰/ほのぼの/平和】

 通っている学校が孤島に浮かぶ全寮制学校であることの利点はというと、親からの執拗な干渉がなくなるくらいだろう。  一応電波はしっかりと流れているが、遊ぶ場所なんか森か海しかない。中には校則破って無断外出・外泊するやつもいれば、好きなもの持ち込んでるやつもいる。  かくいいう俺もやろうと思えば不可能ではなかったが、しなかった。単純に面倒だったのと、そこまでして熱中したいと思えるものもなかったからだ。  三年、この中学を卒業さえできりゃどうだっていい。この辺鄙な学校を選んだのだって、とにかく煩わしい周りから距離を取りたかっただけだ。……今となればもっと他にも選択肢はあっただろうとは思ったが、当時の俺には他に思いつかなかった。 「宰様、宰様! どこにいらっしゃるのですか?!」  階段の踊り場にて。  下の階から聞こえてくる陽太の声から逃げるように俺はそのまま屋上に向かって階段を上がっていく。  寮にいると陽太のやつがべっとりでうぜえし、とにかく一人になりたいときはきまって屋上へ向かうことにしていた。あそこなら普段立ち入り禁止だから人は来ねえし、たまに俺と同じことを考えるようなやつがいることもあったが大抵そういうやつらは人の顔を見るなりそそくさと逃げだす。  ここにきて数か月、入学してすぐに俺が右代家の人間だということはすぐに知れ渡っていた。一回、人を見世物のように扱ってきた上級生の鼻っ面をぶん殴ったときから鬱陶しいほどの見物客は一気にいなっくなった。  娯楽のないこの学校は村社会の縮図のようだった。そういうところに反吐が出たし、反面、直接何も言ってこない分丁度よかった。  屋上へと続く扉を開いたとき、隙間から流れ込んでくる突風に交じってなにやら声がきこえてきた。  また先客がいたらしい。今日は天気もいい、ある程度は想像ついていたが……。 「は、ぁ、ああ……っ! ん……っ!」  なんの声だ?苦しんでいるようにも聞こえる。  体調不良者が授業抜け出してサボってるのか、なんて考えながらもそのまま進む。  そして屋上の奥、転落防止の鉄柵のところに人影を見つけた。――それも二人分。  抱かれている方は小柄な生徒で、それに背後から抱きしめ腰を振ってるのは派手な頭のひょろりとした生徒だ。因みにここは男子校である。 「ん、あ、な、那智君……ひ、人が……っ」 「気にしないでいいよ~~、ほら、ちゃんと俺だけを見て? ね?」 「あ、那智君……っ! って、う、右代様……?!」 「………………」  先客は先客でも、今回ばかりは本当に最悪のお客様のようだ。人に脇目も振らずこの白昼堂々盛る馬鹿を前に思わずフリーズしていると、小柄な方が俺に気づいたらしい。顔を青くしたその生徒は背後の男を引っぺがし、「お邪魔しました!」と悲鳴のような声をあげながらそのまま屋上から逃げ出す。乱れまくった制服を直しもせずに。……せめて制服はどうにかした方がいいのか。 「あーあ、イキそびれちゃったあ。最悪〜〜」  そして、どこからともなく聞こえてきたのは気が抜けるような間延びした声。  残された片割れの男はこちらを振り返った。 「へえ、宰って結構覗きとかするタイプなんだ?」  ベルトも締め直さず、乱れたシャツを隠す気すらも感じさせない。それでいて恥ずかしげもなく人の顔を覗き込んでくる男に俺は一瞬言葉を失った。  こいつ、なんで俺の名前……。 「てか、宰、案外ちっちゃくてかわい〜ねえ。……遠くから見たときは強がってんのに」 「……は?」 「俺、お前なら全然イケるかも」  そう、汚え手で人の顎に触れてくる男に考えるよりも先に手が動いていた。  晴天の下、乾いた音が響く。  俺と木賀島那智との出会いはそんなものだったと思う。  せっかくの俺だけのお気に入りの場所をあいつは躊躇なく汚すどころか、人のパーソナルスペースにまでガンガン土足で上がり込んできたのだ。  その後俺は木賀島のことを知った。  授業にまともに出ず、いっつも遊び回ってる男だと。そして、やつには男も女も関係ないということも。  噂ではふわっと聞いていたが、顔までは知らなかった。そしてすぐに納得した。  普通だったらこそこそ隠れて悪さをするような小心者ばかりが集うこの学校で、堂々と髪を染めてあの素行。おまけに本人は悪びれた様子は一切ないと来た。  なんなんだ、あいつは。  数日、ショッキングな光景が夢に出たがそれもようやく収まった頃――俺は再び屋上へと向かおうとしていた。  そして、屋上の扉の前。それに凭れ掛かるよう座り込んでいたのはあの派手な髪の男だった。  垂れ目がちなその目をにこっと細め、男――木賀島は立ち上がる。 「やほ、宰」 「……」 「うわ、無視〜? ひどいなあ。俺、宰のせいでセフレ一人喪っちゃったのに〜〜」 「……呼び捨てすんな」 「呼び捨てそんなやだった? じゃあ宰も俺のこと那智って呼んでいいよ」  いいながら馴れ馴れしく近付いてくる木賀島を避け、そのまま屋上へと向かおうとすれば後ろから木賀島が着いてきた。 「消えろ、着いてくんな」 「カリカリしてるねえ、お菓子食べる?」 「いらねえ」 「じゃあ抜いてあげようか、短気は欲求不満の証拠だって言うじゃん?」 「………………」  どこを行っても何度振り払って押し退けようとするが、先に回り込まれる。なんなんだこいつは、本当に。 「ねえねえ宰〜」 「……」 「宰ってばー」 「……っ、テメェ、しつけえんだよ! さっさと消えろ!」  大抵のやつなら俺と揉め事を起こしたくなくて逆らわないのに、この男はというと本当に頭のネジが緩んでるらしい。何故怒ってるのか分からないといった様子で小首を傾げる木賀島。 「え〜〜? なんでえ?」 「なんでだと……?」 「俺、宰に興味あったんだよねえ。だから、こうやって一緒になれんの嬉しいのに」  もしかして俺もあの男のように抱くつもりなのかとゾッとしたが、不思議と木賀島の言葉には下心のようなものはなかった。  それに、木賀島が口説くようなタイプはかなり分かりやすい。女と見紛うような小柄な男だ。こいつは無類の女好きの延長線で男に手を出してる。  そんな木賀島の好みと対極にいることは違いない、はずだ。だから尚更困惑した。  俺に媚びを売るようなやつもいるが、それにしてももっとあるだろう。まるで昔からの友人のような馴れ馴れしさに毒気抜けそうになる。 「……お前、もしかして馬鹿なのか?」 「あはっ、なに? もしかして俺のこと天才だと思っててくれたの? うれし〜」 「……そういう意味じゃねえよ、馬鹿」 「ふふ、宰って口悪。そんなんだから皆から怖がられるんじゃない〜?」  この男、喧嘩売ってるのか。  つい拳を握り締めるが、木賀島は何処吹く風で「あ、あの雲まんまるだ〜」と空を見てる。  なんなんだ、本当に。  呆れ果てたが、突っ込む気力もなかった。「よかったな」と吐き捨てれば、木賀島はへらりと笑った。  それから、よくわからないまま木賀島に懐かれてしまう。  校内でも擦れ違う度にその木賀島は「宰あ〜」とこちらに手を振ってくる。それを無視すれば、屋上で木賀島はなにもなかったようにまた話しかけてくるのだ。よくわかんねえ中身もない話を。 「右代、最近木賀島と仲よくね? なんか意外だわ」 「別に、仲良くねえよ。……付き纏われてるだけだ」 「んなこと言って、木賀島のやつ言ってたぞ。『宰、二人きりのときすげー優しい』とか『ハムスターみたい』とか」 「……ッ」  あの野郎、と手にしていたパック牛乳を握り潰す。中を飲み干したあとでよかった。  クラスメイトの進藤はこの学校でも数少ない普通に話せるやつだった。  こいつがさっぱりした性格で、家柄とかそういうこと一々気にしねえやつだから友達多いということも知ってたが、こいつ、まさか木賀島とも仲良いのか。 「あいつが適当言ってるだけだ。……次妙なこと言ったら殺すって言っとけ」 「おいおい、直接言えよそういうのは」 「あいつ、話通じねえんだよ。何言ってもへらへらしてるし、意味わかんねえし……」 「木賀島は不思議ちゃんだよなあ。見てて飽きねえんだよな」 「お前だけだ、それは」 「はは、嫌ってんなあ」  不思議というより、意味不明だしな。と思いながら俺は昼食代わりのパンを頬張った。  進藤はそのときはそれ以上木賀島の話をしなかったが、その後もちょくちょく木賀島の話をすることが増えた。  そんで、 「篤紀〜、それ取ってえ」 「木賀島、シロップかけ過ぎだろ。それもうシロップを飲むみてえなもんじゃん」 「………………」 「あれ、宰全然食ってなくね? そんなんじゃ大きくなれねえよ、ほら、俺の牛乳あげる〜」 「……いらねえ」 「あ、じゃあ俺もらっちゃお」 「やだよ、篤紀がそれ以上育っても意味ないじゃん」 「それはお前もだろ」  二年に上がったときにはこうして三人面合わせて食堂で飯食うことも多くなった。  相変わらずこの二人はうるせえが、なにより気に入らないのはこの時間が嫌いではないと思ってしまった自分だ。  相変わらず周りからは距離は置かれてるし、それを望んでるのも変わりない。その反面、こいつらの賑やかな空気にも慣れ、絆されてしまっていたのかもしれない。 「宰あ?」 「……なんもねえよ」  あと、勝手に人のトレーに牛乳パックをお供えしていくな。  木賀島に突き返していると、食堂の入口の方から「宰様!」とあいつの声が聞こえてきた。 「げ、わんちゃん来ちゃった。最悪〜〜」 「本当木賀島、旭と仲良くしろよな」 「やだよ。俺と宰がイチャイチャしてんの邪魔してくるし」 「してねえよ。……ごちそう様。お先」 「おー、またな右代」 「じゃね〜」  二人と別れ、席を立つ。置いてきた陽太の元へと戻れば、また日常が戻ってくるのだ。  気付けば、お気に入りだった屋上へと行くことは減っていた。  木賀島のやつに汚されたのもあったが、元はと言えば一人の時間を過ごすための場所だった。  そのことに気付いた瞬間、自嘲が漏れる。こんな形で自覚などしたくなかったが、屋上へと行かずとも気を紛らわせている自分がいることも確かだ。 「あ、つ、宰様! もしかしてもうお先にお食事を取られてたのですか?」 「……ああ」 「そんな、一緒に食べたかったのに……」 「お前がまだなら食えばいいだろ。……喉乾いたから付き合ってやるよ」 「宰様っ」と目を輝かせる陽太。俺は陽太の顔を直視することはできなかった。  鬱陶しいくらいの喜びっぷり、本当にこいつは毎日楽しそうだなと思いながら、俺は木賀島たちとガチ合わないよう今度はテラス席へと移動した。  暖かな日差しの下、潮が混ざった風が頬を撫でていく。さっさと卒業を待つだけの三年間にほんの少し楽しみを覚えてしまった。それが俺にとっていいことなのか悪いことなのかは分からないが、俺にとっての屋上みたいな場所が他にも出来たという事実は素直に認めることにしておく。  ……今のところは、だが。 「宰様、コーヒー飲めるなんてすごいです! 流石です、僕もまだシュガーを入れないと無理だと言うのに……! 宰様、かっこいい……!」 「………………」  前言撤回。  屋上の代替品と呼ぶには鬱陶しさが勝っている。喋りすぎて全然箸が進んでない陽太を小突きつつ俺は深く溜息を吐いた。  ……まあ、このくらいでいい。表面だけ上手く繕われた上っ面の完璧よりも、これくらい歪で不安定で暑苦しいくらいで……いや、やっぱり嫌だ。  思いながら俺はカップに残っていたコーヒーを一気に喉の奥へと流し込んだ。……苦い。  おしまい

【↑100】中学時代の宰と木賀島と進藤が仲良くなるまでのお話【4,600文字/木賀島×宰/ほのぼの/平和】

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