友達が欲しい。普通の、しょーもないこととか喋ったりくだらない冗談とかを言い合っては笑い合えるようなそんな気楽な関係の友達が。 「はあ……」 「どうしたんだ、美甘。またお腹痛いのか?」 「別に大丈夫……って、ぉ、おい、触るなって……!」 学校から帰る途中、今日こそは一人で帰るつもりだったのに教室に出たところで何故か教室前で待機していた燕斗に捕獲され、現在に至る。因みに宋都のやつは別の友達と帰るらしい。 燕斗も俺以外の友達がいないわけじゃないんだし、そっちと仲良くしてくれりゃあいいのに。 なんて思いながら、俺はお腹を撫でてくる燕斗の手を引き離した。 「あ」 「燕斗、お前……なんで俺と帰るんだ?」 「なんでって、今更すぎない?」 家が近いから、同じ方向だから、なんて理由で小学生の頃から登校から下校まで一緒だった。 けれど、中学生になった今にまでそれを続ける義務はないはずだ。 「……燕斗だって、たまには他のやつと帰りたいとかあるんじゃないのかよ」 「まあ、用事があるときはそうしてるし」 「用とかじゃなくて、別に、そういうのがなくなって……」 「じゃあない」 「え」 「俺は美甘と帰りたいから帰ってるんだけど。……それとも、美甘は嫌だったってこと?」 先程までにこにことしていた燕斗の横顔からすうっと笑みが消えていく瞬間を見てしまい、血の気が引いた。 一見すりゃその表情と口調からは燕斗の心は分かりにくいが、俺には分かる。この顔はわりと本気でイラッとしているときの燕斗だ。『なぜそんなことを聞くんだ』と思ってるんだろう。 やばい、単刀直入すぎたか。 「あ、いや、そうじゃなくて……ほら! 燕斗だってたまに一人になりたいときとか……あるだろ? 兄弟いるんだったら余計……」 なんとかこの流れを変えようと身振り手振りで話題修正を試みれば、幾分か燕斗の空気が和らいだのがわかった。 よし、なんとか被害は免れたようだ。 「一人か。……まあ、家とかはそうかな」 「だ、だろ? だから、たまには息抜きってことで――」 「でも、一人でいるよりも俺は美甘といる方が落ち着くかな」 「……………………そうか」 「そうだよ」 つい何も言えなくなってしまった。 落ち着くのはお前だけだろ、とか言ってやりたかったのにあまりにも燕斗が珍しく素直に物を言うからだ。 アホガキだった俺や宋都よりも、燕斗はずっと早く他人の顔色を伺うことを覚えた。小学生の頃には大人を困らせるような言動はやめたし、俺たちと同い年なのに何故かこの男が最年長みたいな扱いされてたし。 それでもまだ可愛げがあったが、中学に上がったら更にその気遣いの技術は磨きがかかり、おまけに愛想笑いや社交性を身に着けた燕斗は『他の馬鹿な男子共とは違う!』と女子からキャーキャーいわれてる。現在進行形だ。 言われてみれば、俺や宋都といるときは燕斗はその分厚い仮面を外しているような気はした。なんというか、昔からの燕斗のままというか。 「やっぱ、モテるのって大変なのか」 「はは、頭悪い質問だね」 「わ……悪かったな、頭悪そうな質問して」 「面倒臭いよ。傷つけないように断るのも、けど中途半端に優しくすると変な噂立てられて面倒だし」 「う……っわ」 「なに?」 「嫌味かよ」 「愚痴だよ。慰めてほしいっていう愚痴。……あ、待って。コンビニ寄りたい」 「俺外で待ってる」 「美甘も来るんだよ」 こっち、と燕斗に手を引かれてそのままコンビニに引っ張られる。 燕斗の欲しいものって何だと思ったら、新作のスイーツが食べたかったらしい。「美甘も食べる?」と聞かれて頷き返せば、ついでに同じの買ってもらった。 「やった、うまそう」 「言っとくけど、食べ歩きはするなよ」 「え、」 「うちまでついてきてくれたら、これあげる」 「お前……餌付けかよ」 「美甘、最近俺を避けようとするから」 「べ、別に避けてなんて……ただ、しょっちゅう通ったらおばさんも迷惑なんじゃないかって思って……」 「んなわけないじゃん。寧ろ、美甘が来ないとうちの母さん寂しがるから。俺らが揃って家にいるときよりも元気だよ」 それはそれでどうなんだよ、というのはさておきだ。正直、今更というのも確かにそうなのだ。 生まれたときから今まで、物心ついたときからずっと一緒に育ってきたような燕斗と宋都だ。 宋都のやつは最近派手な不良グループとつるんでるお陰で顔を突き合わせる機会は大分減ったけれど、それでも燕斗はまた別だ。 クラスが違おうと、燕斗は毎回俺に会いに来た。朝も昼も休み時間も、時間さえあれば俺のクラスに来るものだから最初『あまりにも性格悪いのでクラスで嫌われてるのか?』と思ったがそういうわけでもなさそうだし。 ……本当、よく分からない。 「まあ、家に行くくらいならいいけど……へ、変なことは……しないからな」 「変なこと?」 「う、き、聞き返すなよ。分かるだろ!」 敢えて言葉を濁したというのに、燕斗には全く聞いていないらしい。余計なことまで思い出して顔が熱くなる俺に、燕斗は「美甘次第だな」と笑うのだ。 だから嫌なのだ、この双子と関わるのは。けれど、今回はまだ宋都がいない分まし――なのか? そう思ってしまう自分も、大概双子に毒されているようだ。 ◆ ◆ ◆ ――慈光家・燕斗の部屋。 そしてやつのベッドの上。まな板の上のマグロの如くぐったりとしていた俺の肩を掴み、「みーかーも」と仰向けにひっくり返してくる燕斗に俺は顔を反らした。 「美甘。……なに拗ねてるの?」 「変なこと……しないって言った……っ!」 「してないよ」 「し、した……っ! あそこばっか触るの嫌だって、何度も言ったのに……」 燕斗の嘘つき、とシーツを引っ張って頭まで被り燕斗をガードしようとしたが、燕斗はそんな俺のガードを呆気なく突破してくるのだ。 ぺろんとシーツを捲ったまま、「美甘」と燕斗までベッドの上に転がってくるので余計狭くなる。 「ゃ……もうあっち行けって……っ!」 「ふーん、そんなこと言っていいんだ? ……せっかくおやつあるのに?」 「……っ!」 「いらないなら俺が二つもらうけどいい?」 こいつは……やっぱりこいつは悪魔だ! 少ししおらしいところ見せてくるからうっかり騙されそうになったが、最初からそうやってデザートを人質にするつもりだったのだ。鬼だ。悪魔だ。 「う、ぅ……燕斗の馬鹿」 「ごめんね、美甘。泣かないで。冗談だから」 「それで泣いてるんじゃねーよ……っ!」 こいつ、俺のことをただの食いしん坊で餌でホイホイ釣られるやつと思ってるに違いない。 馬鹿燕斗、とどさくさに紛れて抱き締めてくる燕斗から離れようとするが、そのまま布団の中で足を絡め取られてしまえば身動きが取れなくなる。というかこいつの足は長すぎて邪魔なのだ。 「燕斗、離れろって……」 「小さい頃はよくこうやって寝てただろ? 今更恥ずかしがるんだ?」 「美甘は」とどさくさに紛れて手を重ね、そのまま指を恋人みたいに絡めてくる燕斗に胸の奥がむずむずしてきた。 確かに、そんなことはしてた。テレビで見た『大人の恋人ごっこ』遊びだ。けれど当時物の分別もつかなかった俺達と、自我が発達しきった今の俺達がするのとではまるで意味が変わってくる。 「してたけど、今はそういうんじゃ……っ、ん、ぅ」 言うや否や、人が喋るのを邪魔するみたいにちゅぷ、と軽くキスをしてきた燕斗は固まる俺を見て笑った。 「ゃ、燕斗……っ」 「恋人ごっこ、だったっけ? ……なあ美甘、また『アレ』やってみないか?」 「ゃ、やだ……やんね……」 「聞こえないな」 「ん、ぅ……っ!」 今度は噛み付くみたいに唇を重ねてきた燕斗に舌を口の中へとねじ込まれる。舌を入れるキスするときは拒否してはだめだ、と頭に叩き込まれてしまっていた俺はそれを拒むことはできなかった。ベッドの上、覆い被さってくる燕斗にたっぷりと唾液を含んだ舌を絡められる都度鼻から空気が抜けていく。 「ん、ぅ……ふ……っ!」 「……っ、美甘、……」 「ん、む、……っ、ふー……っ」 ギシ、とベッドが軋む。 もうやりたくねえって思うのに、ねちねちと舌先で口の中をかき回され、喉奥まで舌を咥えさせられると段々頭に血が昇っていって何も考えられなくなる。 唇の端から溜まった唾液が溢れ、燕斗はそれを舐めとった。そして、どさくさに胸に伸びた燕斗の手に制服の上から乳首を捏ねられ、「んぅ」と上半身が大きく震える。 「……っ、ふ、ぅ」 「美甘、お前は俺を拒むなよ」 「っ、ゃ、燕斗、こんなこと……っ」 「拒まないで、美甘」 まるで一種の呪詛のように燕斗の言葉は頭の上から落ちてくる。 一瞬で硬く凝るそれを押し潰され、そのままカリカリと突起を引っ掻かれれば頭の奥でピリピリと痺れが走った。呼吸が浅くなり、漏れる吐息ごと燕斗に貪られるのだ。 「は、ぁ……んん……っ!」 下腹部に押し付けられる燕斗の股間の硬さと熱を感じながら、俺は堪らずベッドの上逃げ出そうとするが敵わなかった。引きずり戻され、そのまま下着ごとぺろんと剥かれる下半身。シーツの中でもぞもぞと動く燕斗の手に肛門を撫でられてしまえば、俺は抵抗することはできなかった。 「ゃ、え、燕斗……っ」 「美甘だって気持ちいいの、好きだろ?」 「んぅ……っ!」 つぷ、と日々二人に弄られ過ぎてすっかり柔らかくなった肛門へと埋め込まれる燕斗の指に声を漏らすこともできなかった。そのまま腰を掴まれたまま、更に追加される指に中を優しく撫でるように刺激され、眼球の裏が熱くなる。 声が漏れそうになり、咄嗟に自分で口を塞いだ。 「ん、ぅ……っ! ぅ、ふ、……っ!」 「美甘、こっち向いて。……声、聞かせて」 「っ、ぁ、や、だ、め……っ! ん、ぁ……っ!」 手首を取られ、そのまま前立腺を内側から圧迫されるだけで頭の中で熱が広がり、喉奥からは出したくもない声が漏れてしまう。 痙攣し始める体を抱きしめたまま、俺の顔をじっと見つめる燕斗の顔はどことなく満たされているようにも見えた。 学校では見せたことのない笑みを浮かべ、燕斗は「美甘」と何度も俺を呼びながら俺をいとも簡単にイかせるのだ。 お前、誰でもいいからさっさと適当な彼女を作った方がいいぞ。 そんなことを思いながら、俺はただ目の前の燕斗にしがみつき、体を震わせた。 ――きっと、最早手遅れなのだろうが。 そんなことを思いながら俺は肩口に顔を埋めてくる燕斗をぼんやりと見下ろしていた。 ◆ ◆ ◆ ――慈光家、リビング。 「美甘、美味しい?」 「……ん」 「そ。俺のも食べていいから」 「な、なんでだよ。お前だってこれ好きなんだろ」 そのためにわざわざコンビニ寄ったんだろ、と思わず突っ込まずにはいられなかった。 ようやく解放されたときには既に日は暮れていた。家に帰る前に冷蔵庫で冷やしていたいちごタルトを燕斗とともに突いていたのだが、燕斗はというとさっきからこんな感じだった。 「まあそうだけど、やっぱり美甘ってほら、美味しそうに食べるから餌付けしたくなるんだよね」 こいつ、はっきり餌付けって言いやがった……。 さっきからにこにこ見守って一口も進んでいない燕斗の様子からしておかしいとは思っていたが、本当に俺を餌付けするつもりだったのか。 許しがたいし、こいつから奢られてしまうのは得策ではないと分かっていても美味すぎてフォークを握った手を止められない。誰か助けてくれ。 「ああ、ほら、ゆっくり食べないと……」 「んぐ、げほっ! ごほ! ぇ゛、えんと、水……」 「ほら、美甘」 「ん、んぐぐ」 すぐに水の入ったグラスを用意してくれた燕斗はそのまま俺の口に宛行う。流し込まれる冷水のお陰で、なんとか変な器官に入ったタルトの欠片は胃の方まで流れていったようだ。万事休すというやつだ。 「やっぱり、美甘には俺がいないと駄目だな」 そして、取り出したハンカチで濡れた口元を拭ってくる燕斗。その言葉に対して俺はなにも言い返す言葉が見つからず、燕斗のされるがままになっていた。 けど、俺がいないと駄目なのはお前も一緒じゃないのか。――そんな喉元まで出かかった言葉は、残ったタルトと一緒に胃の中へと落とし込む。 そんな気付き、俺達には必要ない。 おしまい