自分でもたまに自分がわからなくなる。 自分の行動が悪手だという自覚もあった。 それでも、あいつの顔が脳裏を過る度にどうにも落ち着かなかったのだ。 あの人が会議で席を外している隙きを狙って、あいつが閉じ込められているという部屋までやってくる。見張りのやつを追い次期払うのは簡単だ。『会長に言われて来た』と言えばすぐに通してくれる。結局のところ連中には判断材料がないのだ、あの人の名前を出し、顔を見せれば怪しまれない。 現に志摩亮太が何度も拒まれたこの扉をこうして簡単に開けることが出来るのだ。 その代わりに信頼を捨てることになるが、それももう次期意味を為さなくなる。……或いは、もうとっくに効力すら持たないだろう。 扉の向こうにはベッドが一つ、その上に横たわっていたその背中はびくりと跳ね、それから恐る恐るといったように起き上がる。 眠っていた、わけではないのだろう。こちらの姿を見るなり、やつの目がみるみると大きくなる。 「……っ、え、栫井……?」 「う、そ……なんで、ここに……」まるで人を幽霊かなにかのような反応だ。目を白黒させながらも、慌ててベッドから降りようとしてその腕とベッドの鉄柵に手錠が繋がっていることに気付いたらしい。ジャラ、と音を立てベッドから降りれないやつの代わりに歩み寄れば、「栫井」と確かめるように恐る恐る手を伸ばしてくるのだ。 ……余程人が恋しかったのか。こんな風に呼ばれるとは思ってなくて、つられてその手を取りそうになり、堪えた。――時間は有限だ。 「……お前が閉じ込められてるって聞いた。……今は、様子見に来ただけだ。……このあとすぐ会長が戻ってくる」 「っ、栫井……栫井は、大丈夫なの……?」 「お前に比べたらな」 少なくとも、俺は自由が利く。こうしてベッドに括り付けられることもない。 それでもなにか余計なことをまたグチャグチャ考えてるらしい。情けない顔をして見上げてくるあいつを見てると心臓の奥からじわりと熱が溢れる。……また、あの感覚だ。 「……もう少しの辛抱だ。待ってろ」 無意識にその頬を触れていた。 ……何をしてるのだ、俺は。自分で自分の行動を恥じた。こんな、慰めるような真似。 咄嗟に手を離す。あいつの反応を待つのが耐えられず、そのまま部屋から出ていこうとしたとき。 「栫井……待って……っ!」 伸びてきた手に裾を掴まれる。 ああ、こいつは、また。クソ、と思わず口の中で舌打ちが漏れる。 なんで一々情けない顔をするのか。 引き留めてくる手を掴み、そのまま身体を引っ張ればその目が見開かれる。鼻先数センチ。栫井、としつこいくらい名前を呼ぶその唇を塞いだ。 「……っ、ん、ぅ……」 なんで、抵抗しないのか。寧ろ安心したように目を細めるやつに指先にまで熱が広がるようだった。こんなこと、している場合ではない。それなのに、全部こいつのせいだ。全ての段取りもなにもかも狂わされそうになる。 「っ、ん……ふ……」 以前だったら嫌がるくせに、今では安心したように寧ろもっとと言わんばかりにぎこちなく口を開き舌を招き入れようとしてくるのだ。 こいつ……。脳裏に志摩亮太の顔が過る。あの野郎が色々吹き込んでることは知ってるが、これもその内かと思えば腸が煮え繰り返りそうだった。 擦り寄ってくるその体を掴み、引き離す。濡れた音を立て離れた舌先に透明の糸が引いた。それを手の甲で拭う。 「……っ、待ってろ、って言ってるだろ。……いいか、それまで大人しくしてろ。……会長に怪しまれないようにするんだ」 いいな、と念を押せば、まだどこか蕩けたような顔であいつはこくりと頷いた。……本当に分かってるのか?問い詰めたかったが、こいつと一緒にいるところをあの人に見られるわけにはいかない。 今度はもうあいつの顔を見なかった。見たらまた余計な感情が呼び起こされそうになるからだ。 扉を閉め、息を吐く。 ――そうだ、あと少しの辛抱だ。 自分に言い聞かせ、頭の中で繰り返した。 ◆ ◆ ◆ 芳川知憲は俺にとって絶対だった。 全てだった。罪悪だった。体の一部だった。掛け替えのないものだった。あの人の幸せが俺の幸せだったし、あの人のためならばなんでもできた。そうしなければならないからだ。それだけを考えて生きてきた。いつからだ、余計な雑念が混ざったのは。絶対だったあの人が、揺らいでしまったのは。 捨てられた、と。同じだと、齋藤に抱きしめられたとき。違う。もっと前、あいつが、俺と同じだったはずのあいつが俺をかばってあの人に逆らったあの瞬間、何もかもが色を変えた。 常識が覆ってしまったのだ。 ……全部あいつのせいだ。あの人を怒らせてただで済むわけではない、わかってる。けれどわかっててこうして俺はあの人の意志に背いてあいつを選んだ。あいつに全てを委ねた。あいつならばきっと、俺を――。 「平佑、お前――齋藤君に気があるのか?」 心臓が大きく跳ねた。 業務を終え、あの人と二人きりになる前に帰ろうとしていた矢先のことだった。 名前を呼ばれたことにもだが、それよりもあの人の口からあいつの名前が出たことに悪寒がした。 「っ、違います……」 「そうか。……そうだよな、あいつは俺の恋人だ」 ぱたんとノートパソコンを閉じたあの人はそう立ち上がる。蛇に睨まれたように足が動かない。目の前までやってきたあの人はただじっとレンズ越しにこちらを見下ろす。そして。 「――じゃあ、何故俺がいない間に齋藤君に会いに行った?」 どくん、と心臓が暴れる。やはり気付かれていたか。 伸びてきた手にネクタイを掴まれ、頭を無理矢理下げられた。緩まない手に器官は締め付けられ、呼吸を遮られるのだ。 「彼に何をした」 「……っ、もし、勝手に抜け出してたらと気になっただけです」 「嘘を吐け」 ぎり、と更に首を締められる。頭に回るはずの酸素は失われていき、掠れた声が漏れた。肺が苦しい。この人は加減をよく知っている、死なない程度最低限の呼吸できるように器官を確保してくれるのだ。いつでもお前なんて殺せる、そう言うかのように。 「あの場にいた見張りを追い払ったそうだな。……何を企んでいる?」 「……」 「ダンマリか。……お前の口は飾り物らしいな」 殴られるか、それとも蹴られるだろうか。受け身を取ろうとするが、想像していた痛みは来ない。それどころかネクタイから手を離したあの人は「来い」とだけ言って歩き出すのだ。リードなどなくとも俺が着いてくるとわかってるからだ。その通りだ。裏切っていても、身体が染み付いてる。逃げ出すこともできず、足元に付き纏う嫌な予感を振り払うこともできず俺はあの人の後に着いていく。 あの人が向かった先は見覚えのある扉の前だった。 あそこには、あいつが――齋藤がいるはずだ。 破裂しそうなほどの心臓の音。冷たい汗が滲む。指先から熱が抜け落ちていくようだった。何故、此処に自分が連れてこられているのか。その理由を知るのがただ恐ろしい。 扉に近付けば近付くほど、扉の奥からなにやら物音が聞こえてくる。違う、これは。 目の前であの人が扉の鍵を開いた。そして、そこに広がる光景に、響き渡る悲鳴に血の気が引いた。 「ッ、……!!」 「あ゛ぅ゛ッ!ひ、ぐぅ……ッ!!」 まず視界に入ったのは椅子に座るように縛り付けられたあいつだった。その顔には黒い布で目隠しをされている。そして下半身、何も身につけていない状態で椅子に座らされ、開脚させられたあいつの姿だった。 宙を向くように勃起した性器、その根本は玉ごとゴム製のコックリングで縛られ、射精を阻害されているようだ。痛ましいほどに鬱血したその性器は先走りで濡れ、腫れ上がった玉に見てるこっちが息が詰まりそうになった。それだけならまだしも、睾丸の奥、真っ赤に広がったその肛門には既にバイブが挿入されているようだ。あいつの悲鳴に混ざって響くモーター音に連動するように痙攣するあいつの身体を抑え込んでいたのは見覚えのある顔だった。 「手間を掛けたな、灘」 「いえ、こちらは問題ありません。……首尾は上々です」 「これなら、会長も手間はかからないかと」そう、灘は齋藤の肛門に深く挿入されたアナルバイブを引き抜いた。瞬間、「ひぃッ」と齋藤の口から悲鳴が漏れ、大きく逸れた。逸そグロテスクなほどのイボがついたフォルムのそれを引き抜いた灘はそれの電源を切り、床に捨てるのだ。 一瞬、何を見せられているのかわからなかった。何故、灘がここにいるのか。そして理解した瞬間、ぶわりと汗腺が開くようだった。 あの人はあいつに近づき、そして開脚させられたまま固定されたあいつの下腹部に手を伸ばした。 先程まで異物を飲み込んでいた口は開いたまま、中の肉が見えるほど開いているそこに指を捩じ込むのだ。 「っあ゛ぐ」 「ああ、これなら余計な手間も省ける」 「ひ、ぃ……ッ!」 「……何を悦んでいる。自分の立場がまだ分かっていないのか?」 「ぁ゛っ!か、いちょ……ッ、ご、めんなさ……ぁ゛ッ、ひ、ッ?!」 二本、三本と容赦なく追加させられる指を難なく呑み込んでいくあいつの身体に顔色一つ変えず、会長は中を掻き回すのだ。その都度透明の液体が溢れ、椅子の上逃げようとする齋藤の身体が大きく仰け反った。 「う゛……ッ、ぐ、ひ……ッぃ、ぐ、ッ、う……ッ!」 食い縛った唇からは唾液が溢れ、それを拭うことすらできずされるがまま一方的な愛撫を受ける齋藤。その悲鳴に甘さが混ざっているのはすぐにわかった。 現に、あいつの性器は萎えることなく上を向いたまま半透明の液体を垂れ流し続けてる。それも間もなくして、痙攣の間隔は短くなっていき、やがてぎゅうと爪先を丸めたあいつは短い悲鳴を上げ、そしてがくんと大きく跳ね上がった。それを見て、会長は指を引き抜く。 「……早いな。もう達したのか」 そう言って、会長は開いたまま舌をしまうことすらできていない齋藤の口に指を捩じ込む。「お前のものだろう、綺麗にしろ」と低く命じれば、震えながらも齋藤はその指に小さな舌を這わせるのだ。 悪い夢を見ているようだった。壁際に立って傍観している灘。犬のようにあの人の指をしゃぶるあいつ。 そして――。 「何をしている、こっちに来い」 これは、悪夢なのか。それとも嘘を吐いた罰なのか。――恐らくその両方なのだろう。逆らうことなどできなかった。 一歩歩みを進める度に濃厚になる性の匂いに顔が引き釣る。 会長の言葉、そして俺の足音に気付いたのだろう。齋藤の身体がびくりと反応する。そして、不安げに会長、と声を漏らすのだ。会長は顔色一つ変えない。 「口を開け。……舌も出すんだ」 「……ッ、は……ひ……ッ、ら、ひまし……は……」 命じられるがまま、齋藤佑樹は小さく開けた口から舌を出す。赤く濡れた舌先から溜まっていた唾液が垂れる。舌を垂らして肩で呼吸をする姿は犬だ。 何を見せられているのだろうか、俺は。 状況を理解できずにただ見ていることしかできずにいると、会長に引っ張られる。掴まれた腕に痛みが走り、驚くよりも先に目の前に迫る齋藤に息が詰まりそうになった。咄嗟に椅子の背もたれ部分を掴み、バランスを整えたとき。 「それで、どうするんだ?」 目隠ししているはずの齋藤が顔を近付くてくる。気付かれてるのか、と思ったとき、躊躇なく人の股間に鼻先を埋めてくるやつに息を飲んだ。 頬を擦り寄せるように、突き出した舌だけ動かしてファスナーを探る。舌で起こした金具を唇で啄み、そのままゆっくりとたどたどしい動作でファスナーを下ろした。 「ッ……」 分かっててやってるのか、それとも会長だと思ってるのか。どちらにせよ何も言われずともたった一言の命令でここまでこいつができる理由を考えたくなかった。 ウエストを緩める。前開きから挿入される舌が下着の中のものに触れ、思わず息が漏れた。手を使うなと言われ、唇で挟んでそのまま咥えようとしてくる齋藤。 「ん……ぅ……っ」 舌で亀頭を探るように舌を這わせようとしたとき、なにかに気付いたらしい。一瞬動きが止まり、目隠し越しにこちらを見たような気配がした。 けど、それも一瞬のことだ。そのまま先端部分を咥えた齋藤は下着の中から引っ張り出すのだ。舌の表面が亀頭を撫で、そのまま裏筋まで這わされる。 「……っ、ん、ぅ……」 技巧とは無縁の舌の動きだが、それでも俺の知っているあいつとは違う。少なくともあいつは、自らこんなことをするようなやつではなかった。 犬のように舌を出し、誰かも分からない状態で野郎のものをぺろぺろと舐めるあいつ。不快感とは違う、征服欲とも違う。……悲しい、なんて感情感じたこともない。けれど、濡れた音を立て懸命に無様に奉仕しているこいつを見ていると感情が混線する。 溢れた唾液が舌を伝って性器を濡らす。いつの間にかに熱が下半身に回っていたようだ。硬くなった性器越しにこちらを伺いながらも恐る恐る亀頭を咥えた齋藤は、頬の肉に先端を押し付けるように包み込むのだ。 「は……ッ」 熱い。このままあいつの体温に呑まれてしまいそうだ。 咥内を締め付けられたまま、尿道口の窪みを舌先で穿られればそれだけで更に熱が増す。気持ちがいいとは言えないフェラだ、それでも興奮するには十分だった。 気付けば俺はあいつの後頭部を掴んでいた。あまりのもどかしさに耐えられず、俺はその奥へと腰を深く挿入される。硬い歯が掠め、痛みが走るがそれも一瞬。拒む暇もなかったようだ。あいつは無抵抗だった。 「っ、は、んぶ……ッ!ぅ、ん……ッ」 必死になって舌を絡みつけてくる。止めようとしているのか、終わらせようとしているのか。それでも喉の奥まで挿入すれば、収縮した器官がねっとりと絡み付いてきてそれだけで耐え難い快感を得ることができた。口の中で唾液と体液が混ざり合う。濡れた音が体内に響くようだった。 喉の奥、口蓋垂を亀頭が掠める都度構内全体が締め付けてくる。それが堪らなく気持ち良くて、腰を動かしては何度も奥を擦った。 「ッぉ゛、ぶ、ぐ……ッ、ん゛ぉ……ッ!」 「っ、く……ぅ……ッ、」 「ん゛ッ、ぅ゛う゛……ッ!!」 射精が近付くに連れ、次第にピストンの間隔が浅くなる。気付けばあいつの頬が涙と鼻水でドロドロになっていたがそれを気にしてる余裕はなかった。飲み込まれる。奥へ奥へと挿入する都度得られる快感が大きく膨らみ、俺は逃げようとする齋藤の後ろ髪に指を絡めた。 最早齋藤の声も聞こえなかった。天井を見る。会長が見ている前だと解ってても止まらない。俺は齋藤の喉奥に射精した。 また反応してしまう前に性器を引き抜こうとした瞬間、齋藤の口からどろりと白い液体が溢れそうになる。 犬のように呼吸を繰り返す齋藤。乱れた髪を直そうとしたときだ、やつの視界を奪っていた目隠しが外れた。そして、こちらを見上げていたあいつの目がみるみる内に見開かれていく。 「か、こい……っ」 心臓がドクン、と脈を打つ。やはり俺だと気付いていなかったのか。それでも、だとしても誰かも分からないままあんな真似をしたこいつはなんなのか。 「か、いちょう……ど、して……」 「理由は君がよく分かってるだろう。……今更恥じらうことでもあるまい」 そう、困惑する齋藤の前に立つ会長は剥き出しになっていたやつの下半身に手を伸ばす。会長の手があいつの腿を開かせ、その奥、口を開いたままになっていたアナルに触れるのだ。瞬間、怯えたように齋藤の身体が跳ね上がる。 「っ、待っ……か、いちょ……ッ、会長……ッ、まって、くださ……ッ!」 「捕まえていろ、栫井」 「か、こい……ッ」 ――この人は。 会長と齋藤の視線が突き刺さる。酷く喉が乾いた。何も考えられなかった。……考えたくなかった。 椅子の背後に回り、齋藤の膝裏を掴んだ。そのままアナルを晒した状態で拘束すれば、青褪めた齋藤が「栫井」と俺を呼ぶ。 「……そのままだ、しっかりと掴んでおけよ」 一つ言葉を投げかけられる度に、心臓に重厚な鎖が絡み付いてくるようだった。齋藤の声に乱されそうになった心を律せられ、俺はやつの腿を更に開かせた。見て分かるほどひくひくと開くその肛門は赤く腫れ上がっている。長時間挿入されていたのだろうか。それだけではないのだろう。俺が知らない間、こいつはずっと――。 「か、いちょう……待って、くださ、ぁ……ッ!」 ベルト緩める会長に腕の中の齋藤が暴れるが力が出ないようだ。到底抵抗と呼べるようなものではなかった。会長は何も言わずに性器を取り出し、興奮の色もない目でただ齋藤を見下ろしていた。それでも本人の態度とは裏腹にその性器は硬く勃起していた。 ――あの会長が興奮している。 「っ、ひ、ぐ……ッ!」 開閉していたそこへと亀頭が押し当てられ、齋藤の手足に力が籠もった。それでも足を閉じないように抱えていると、更にその激しさを増す。会長は躊躇なく腰を押し進めていくのだ。 「ぁ、ゔ……ぐ、ひ……ッ!」 嗚咽混じりの呻き声が響く。それでも会長が腰を動かしていけば、その都度漏れる声に甘いものが混ざっていくのだ。濡れた音を立て、痙攣するように震える齋藤の焦点がぶれる。それを見た会長の口元には加虐的な笑みが浮かぶのだ。 「っ……相変わらずだな……」 「か、いちょッ、ぉ……ッ!……ひッ、ん、ぅ……ッ!あ゛ッ、ひ……ッ!」 「は……こいつに見られるのが余程嫌なのか?……いつもみたいに声を出しても構わんぞ」 「ッあ゛ぐッ!」 深く、根本まで一気に奥を突かれた齋藤の身体が大きく仰け反るのだ。そのまま齋藤の腰を掴んだ会長は更にピストンを早めた。 「ふッ、ゔッ、や……み、ない……で……ぇ……ッ、かこ、い゛ッ、ぎ……ッ!ひぐ……ッ!」 縋るように名前を呼ばれ、息をすることもできなかった。目の前で何が起きてるのかも飲み込めない。 辺りに響く濡れた音と肌がぶつかるような音に自分の心臓の音が混ざった。 「ぁ゛ッ、や゛ッ、ごめ、んなさッ!ぁ、か、いちょ……ッ!ひ、ぃ゛……ッ!」 開いた齋藤の口から漏れる声は最早断末魔に等しい。拘束された腕は堪らず自分の掌を握りしめ、傷付けていた。掴んだ腿からも齋藤の痙攣が伝わる。 宙を向いた性器からはどろりと白濁混じりの液体が溢れ、そして萎えることなくピストンに合わせて揺れるのだ。 「……っ、それは、何に対する謝罪か?まさか……俺に隠し事をしていたことに対する謝罪とは言わんだろうな。……だとすれば、まるで誠意の欠片も感じんな」 「ご、めんなさ……ぁ゛あッ!」 がくんとやつの薄い胸が仰け反る。はち切れんばかりに赤く勃起した胸が目についた。無意識だった、生白く平らな胸の中では異様に浮いた赤くぽってりとしたその突起を片手で摘んだ瞬間、「ひい」と齋藤が鳴いたのだ。 「っ、や、め……っ!ひ、ぃ……ッ!」 「……ッ、は、そいつにでも助けを乞いてみるか?裏切り者同士手を貸してくれるかもしれんぞ」 「は、ぁ、ッ、あ、ぅ゛う……ッ!」 最早齋藤の言語野が正常に機能しているようには見えない。だらしなく開いた口から溢れるのは唾液と悲鳴だ。 裏切り者と言われても返す言葉もなかった。間違いではない。俺は一度でも会長に逆らおうとしたのだ。 だからこれは、俺への罰だ。 「か、こい……ッ」 焦点がぶれたその目で見上げられる。その濡れ、充血した目に、その掠れた声に、酷く高揚する自分がいた。指の中、主張する乳首を大きく抓れば肩が大きく震えた。そして。 「ひ、ぐ……ッ!」 「……っ、残念だったな、齋藤君。そいつにはそこまでの根性もないらしい。自分の性欲を満たすことで精一杯だと。……所詮、そんなもんだな」 「あ゛ッ、ぉ゛……ッ、おごぉ……ッ!」 「……ッ、君は頼る相手を間違えたな」 エビ反りになった齋藤の身体を抑え込み、会長は腰のペースを早めた。その目には最早齋藤以外は映っていない。激しさを増す抽挿に耐えられなかったのだろう、首を横に振り、やめてくれと懇願していたがそれも間もなく止む。そして。 「ん゛ぉ、ゔ、ぐ……ひ、ゔぅッ!」 大きくエビ反りになった齋藤の薄い腹部がガクガクと震えた。深く挿入したまま動きを止めていた会長だったが、やがて深く息を吐き、自らの性器を引き抜いた。 瞬間、先程以上に広がった肛門からどろりと白い精液が溢れ、齋藤の腿から椅子へと落ちていく。 そして、灘が持ってきたティッシュで自身にまとわりつく精液を拭った会長はそのままこちらを見据えるのだ。 「……栫井、綺麗にしてやれ」 そう、一言。あまりにも唐突な言葉に思わず耳を疑った。 「聞こえなかったか?犬らしく舐めて綺麗にしてやれ、と言ったんだ」 椅子の上、足を閉じることもできないまま痙攣しっ放しの齋藤が嫌だと首を横に振る。ただでさえ日に焼けていない肌には赤い手形が目立っていた。そして、出されたばかりの精液に汚れたその下腹部を見て思わず固唾を飲む。 自分がどんな感情なのか、自分でも理解ができない。けれど、俺には拒む理由がなかった。 「っふ、ぅ゛……ッ!」 やめろと身動ぐ齋藤だが、その力すらろくに入っていないのが見てわかった。 やつの座る椅子の前に跪き、閉じようとするその足を掴んで大きく開かせる。瞬間、広がった穴から更に白濁が溢れるのだ。 「っ、……」 会長の視線を感じる度に見えない縄で首を締め上げられていくようだった。 先程まで会長が挿入していたのだと考えるだけで目の奥が熱くなり、心臓の音が煩くなる。 指で更に穴を左右に広げ、腰を持ち上げさる。指先からあいつの震えが伝わってきた。 乾いた舌を唾液で濡らし、そのまま下腹部に顔を寄せてやつの肛門に舌を這わせる。 「ん゛ッ、う゛……ッ!!」 びくりと跳ね上がる齋藤の下半身。必死に腰を引こうとするが逃れるはずもない。 腫れ上がった肛門は既に柔らかくなっている。舌先に絡む精液をなるべく意識しないようにしようとするが、無理だ。頭が、脳が熱い。 濡れた音が響き、それを無視して中に残った精液を舌で、唇で吸い出し、絡め取り、穿り出す。吐き出せという指示はなかった。考える頭もない。会長に言われた通り、綺麗にすることだけを考えた。 「は、ぁ……ッ」 「……ッ、ふ、ぅ゛……ッ」 柔らかくなった内壁はまだ熱を持っている。奥へと舌を挿入さるほど熱い肉襞が絡み付いてきて、進行を拒もうとするのだ。その壁にも残った精液を舐め取り、自分の咥内へと吸い出せば齋藤が声を漏らし、首を横に振る。それを無視して更に唾液で濡らして滑りをよくしながら纏めて隈なく中を飲み干すのだ。 「っ、う……っ、ん、うぅ……ッ!」 口の中に独特の味と匂いで充満し、脳髄が、舌が熱く痺れるのだ。 精液を美味だと思ったことは一度もない。それでも、会長に命じられれば一滴も残すことはできなかった。 中が過敏になってるのだろう、舌で内壁を摩擦するだけでも齋藤の腹が小刻みに痙攣しっぱなしだった。短時間、それでも酷くその間の時間は長く感じた。 椅子に腰を掛け、芳川会長はそんな俺の醜態をただ見ていたのだ。 そして命じられた通りに肛門の中を吸い出し、綺麗にしたあと。肛門から垂れた分の太腿から腰までを持ち上げ、舌で舐め取る。 齋藤はもう声すら上げない。鼻を啜るような音が響く中齋藤は終始震えたまま、こちらを見ようともしなかった。 胸が痛いとは思わない。それ以上に。 「……醜いな」 会長が立ち上がる。近付く足音に全身が凍り付いた。顔を見上げることもできず、会長の言葉を待ったとき。膝を着いていたその太腿を思いっきり靴底で踏みつけられる。 「ぐ……ッ!」 「……おい、なんだこれは」 踏み付けられた太腿、その付け根の奥。勃起していたそこを靴先で潰されそうになり全身の毛穴からぶわりと汗が溢れた。 脳に直接響くような低く冷たい声に全身の熱が引いていく。 「誰が興奮しろと言った?」 「ご、めんなさい……っ」 あの人に、見られている。浅ましく汚らわしい部分を見られている。その事実が酷く恥ずかしくて消え失せたと思っていた熱が顔面に集中した。 「救いようがない変態だな。……付ける薬もない」 「……ッ」 「せっかく自分で綺麗にしたんだ。齋藤君に頼んで挿れさせてもらえばいい。 ――そいつは男好きだからな」 会長の言葉に、声に、齋藤の身体がびくりと震えた。視線がこちらを向く。 やめろ、と言わんばかりに首を横に振る齋藤。ああ、と喉が鳴る。会長から許可を貰った。殴られなかった。 それだけでも俺にとっては十分だった。 「っ、齋藤……」 「ん゛ッ、ぅ゛……ッ!!」 「……っ、お前に挿れたい……挿れさせてくれ」 唾液を吸い込んだネクタイを引き抜けば、はあっと口を開いた齋藤は必死に酸素を取り込もうとする。 「か、こい……ッだ、めだ、こんな……ッん、ぅ……ッ!」 黙らせるように口を塞ぐ。開いたままの口に侵入することは容易い。無防備な舌を絡み取り、乾いた咥内を舐め回せば口の中に唾液が滲むのだ。 「んっ、ぅ……ふ……ッ!」 必死に付き返そうと尖る舌の先端部を引き摺り出し、唇と歯で甘く刺激すればあっと言う間に齋藤の抵抗は弱くなる。足から力が抜けたのを確認し、ベルトを緩めた。 そして、ずり下ろした下着から取り出した性器の先端をまだ柔らかいそこに押し当てる。少しでも腰を動かせば容易に挿入できるほどだ。 「っ、ん゛……ぅ……ッ!!」 「……っ、じっとしろ」 「ふ、ぅ……ッ!ん、ぅう……ッ!」 嫌々と頭を振る齋藤を押さえつけ、唾液でたっぷり濡れたそこに腰を埋める。溶かすほどの熱に包まれ、堪らず息が漏れた。 さっきまで会長のを飲み込んでいたのに、締付けは変らない。それどころかいつもより緊張してるのか、余程拒みたいのか全体を絡んでくる濡れた肉襞が気持ちいい。 「は、ぁ……ッ」 「ん゛ぅッ、ひ、ぅ……ッ!」 外れた唇。その口からはいつもよりも高い声が漏れ、ゆっくりと腰を沈めるに連れその声が震えていくのだ。 動いたらすぐにイッてしまいそうだった。こんなこと、普段ならないのに。 変態だな、と会長の言葉が頭に響く。 「はっ、ぁ、かこ、ぃ……っ、あ゛ぅ、ぐ、……ぅ……ッ!っ、ひぅ……ッ!」 「……ッ、……は……」 何も考えられなかった。腕の中逃げようとするやつの細い腰を掴み、更に奥へと突き進めばその先は記憶はない。気持ちいい。熱い、食いちぎられそうになるほど締め付けられ、腰が止まらない。腰を打つ度ナカが痙攣がして堪らない。 何故こんなことしているのか、会長がいるのに、こんな。 「滑稽だな」 その声は遠く聞こえた。 「かこっ、ぃ、だめ、こんな……っ、ぁ、あ……いやだ、こんな……ッ!」 「……ッ齋藤……」 「ひ、ぃ……ッ!」 性器全体に吸い付いてくる肉の感触を味わいたくて奥の奥まで犯す。気付けば会長と灘の姿もなかった。それでも、この熱は収まらない。 何度射精したのかも覚えていない。ぼんやりとした記憶と意識の中、真っ赤になった齋藤の肌すらも酷く熱を持っていたことを覚えている。 「あ゛ッ、ひ、ぃ゛ッ、ぎ……ふ、ぐ……ッ!」 食いしばるあまり白くなった唇は溢れた唾液で濡れていた。それを舐め、そのまま唇を重ねる。キスをすると中が大きく締め付けてくるのだ。一瞬だけ齋藤の目が揺らぐがそれも束の間のことだ、すぐにその焦点はぶれ、俺ではないどこかを見ていた。 最奥に射精する。勃起は収まらない。 けれど、齋藤は。 「……………………齋藤」 「…………」 反応がない。目を薄く開いたまま意識を飛ばしてしまったらしい。死体のように動かなくなる齋藤に息を吐く。 そして、再び腿を掴んで腰を動かした。意識のないはずなのに前立腺を亀頭で擦れば身体は反応する。ぴんと勃起したやつの性器を握り、再びゆるくピストンを繰り返せばあっと言う間に熱が蘇るのだ。 守りたいだとか、大切にしたいだとか虫がいい。 なんて最初から俺には無理だっただけだ。わかっていた、やり直せるわけがない。 「……っ、は、齋藤……」 気絶したまま薄く呼吸を繰り返す唇に唇を寄せる。生暖かい吐息に胸が安らぐ。舌を出し、唇の隙間から舌を挿入して歯列をなぞる。薄く開いた口の奥、漏れる呼吸は確かに浅くなる。くちゅくちゅと濡れた音を立て、動かない舌を絡め取るのだ。安心する。満たされる。俺には無理なのだ、やはり。お前みたいにはなれない。 「……齋藤」 少しでもアンタとならまともな人間になれるのかもしれない。そんな風に少しでも考えていた自分にただ嫌悪した。 END 【おまけ:齋藤視点】 芳川会長と表向き付き合うようになってどれほど経ったのだろうか。 会長と俺の仲を妬む人間はいるものの、最早疑う人間はいなくなっていた。 「今日も仲良しっすねお二人とも、一緒に帰るんです?俺も帰りたいな〜」 「貴様はまだ自分の仕事も終わってないだろう」 十勝の言葉に内心ぎくりとする。会長の鋭い指摘に十勝も返す言葉がないらしい、デスクに突っ伏して「う〜」と項垂れている。 そんな十勝を無視し、席を立った芳川会長は客用テーブルで待っていた俺の元へとやってきた。 「……齋藤君、待たせたな」 帰るぞ、と肩を掴まれれば全身がぞくりと震えた。心臓を鷲掴みにされたような感覚に、全身の体温が上昇した、そんな気すらした。 俺は小さく頷き返し、他の役員たちに挨拶して会長とともに生徒会室を後にした。 歩いている間、ずっと見えない鎖で縛り付けられているような感覚だった。 俺たちの関係は恋人なんて甘ったるいものではない。 何も言わずとも通されたのは四階にある会長の部屋だ。開かれる扉に、「入れ」と促され俺は恐る恐る踏み入れる。そして続いて入ってくる芳川会長が扉を閉めるのだ。 それは俺たちの間の合図だ。扉を塞ぐように背にしたまま動かない会長。その突き刺さる視線を感じながら、俺は制服のネクタイを外す。そして、教えられたようにブレザーを脱いで、シャツを脱ぐ。邪魔になるスラックスと下着も一緒に脱げば、とうとう文字通り無防備状態だ。――あるものを除いて、だ。 性器を手で隠すことすら会長は許さない。必死に胸の前で腕を掴み、羞恥に堪えた。 「お、ねがい……します」 ハーネス型の下着は俺の性器と肛門、両方を締め付け、拘束していた。鍵が掛かったその貞操帯は会長の鍵がなければ外すことができない。 朝起きて放課後、こうして会長の部屋で『お願い』をしなければ許可が降りないのだ。そして、そのまま会長に抱かれ、行為が終わればまた貞操帯を嵌められる。 ……それの繰り返しだ。 それでも身体は順応していくのだ。鍵を手にした会長が近付いてくるだけで貞操帯の中で性器が締め付けられるのを感じ、息苦しさに喘いだ。冷めた目に、冷たい手に何もかも管理されていくのだ。 ――栫井とは、あれから会っていない。 気付けば部屋の中には俺だけしかいない。生徒会の活動もサボっているらしく十勝も会ってないという。 それでも、確かに栫井の話は聞くからただ単に栫井が俺のことを避けてるのだとわかった。 ……俺自身も、栫井に会うことは阻まれた。それに、会長がそれを許さないと分かったからだ。 また栫井にあんな真似をさせることになるくらいなら、会長を怒らせないようにした方がましだ。 ……逃げたいなんて気持ちも全部見ないふりをして会長の犬に成り下がる。 これでいいのだ、そう何度も言い聞かせながらも俺は栫井のことを考えないようにただ与えられる自由と快感だけを享受するのだ。 おしまい