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幼なじみが俺で、俺が俺の妹で(10)

 もうじきゴールデンウイークという平日。  授業が終わって放課後になると、俺は清美ちゃんにバイバイしてから部活に出た。  部室である空き教室の隅には、最近段ボール箱が増えつつあった。旧部活の部費で買った本は部室だけでなく図書準備室の隅にも保管されているそうで、暇を見つけては瑠璃が箱を持ってくるみたいだ。  そして今、俺は初めて目にしたのだけれど、瑠璃が一箱抱えてやって来た。 「やっぱり本って重いね」 「俺も手伝おうか?」 「ありがと。でも大丈夫」  箱を床に置いて若干息を切らしている瑠璃に言うが、やんわり断られる。 「光莉ちゃんには重すぎるから。『わたし』でも無理だったと思う。みっくんの腕力だからできるんだよ」  小分けにすれば俺も手伝えるとは思うけど……どうも、瑠璃は男子の腕力を楽しんでいる節もある。そうなると、俺が無理に主張するのもおかしいかもしれない。 「時代を感じるね」 「時代っつーか、何が何やらさっぱりわからない」  箱には、どんな本が収められているかのリストも付いている。そのリストを見て瑠璃は感慨深げだけど、俺にとっては本のタイトルどころか作家の名前もろくに知らない。  読書家の瑠璃との差を感じるのはこんな時だ。 「生徒側だけで好き勝手買えるわけもないし、先生も介入して、リクエストの中から変でないもの・マシなものを選んで買ったはずなんだよね。それでも二十年も三十年も経つともう消え去っているような本がほとんど。それも、名作なのになぜか埋もれてしまったというよりは、流行っていたものが廃れたって印象だね」  わざわざ買おうとしたってことは、いい本だと思ったんだろう。後輩が読むのを期待したってこともあるだろう。……まあ、小遣いが足りないから部の金で買ってしまえという感覚もあったかもしれないが、その場合だって狙ってつまらないものを選んだはずはない。それなのに、今の俺たちにはピンとこない本が多くなるというのは不思議だしちょっと怖くもあった。 「妥協して間を取ったのがよくないってことか?」 「うーん……元のリクエストがどんなものかはわからないけど、それを素通ししてたらもっと悪い意味ですごいことになっていたかも。だからって、先生が選んだ後々まで残りそうな『いい本』ばかりを押しつけていても部員は素直に読む気になんてならなかっただろうし、難しいよね」  言いながらも、瑠璃は箱から一冊手に取った。 「まあ、どんな本も結局は読む当人の受け取り方一つだからね。気になったものは読んでみる。いいと思えたらラッキー。そんな感じでいいと思うよ」  言われて、俺もリストを見て気になったタイトルを箱から出してみる。女の子が描かれてはいるけれどあんまりエロい表紙ではないライトノベルで、男だった時の俺なら手に取らなかったかもしれない本。でも今は不思議と惹かれるものを感じた。  選んだ本は、意外とすらすら読めた。  部活を始めたばかりの頃は、すぐ読書に飽きていた。でもその時に瑠璃に読みやすい本を選んでもらったりしたことや、『光莉』が漫画を読み漁るオタクだったことが影響してか、次第に本を読むことに抵抗がなくなってきた。  読んでみると、表紙の女の子はヒロインじゃなくて主人公だった。特殊な立場にある彼女が、変わってしまった世界のあちこちを巡って様々な人たちに会う仕事を描いていく物語。ほのぼのした話が多いけど、時に悲しい話もあり、時に主人公がつらい決断を強いられる話もある。  夢中になって読んでいく。 「みっくん」  肩を叩かれて我に返る。 「時間だよ」  言われて外を見れば、もうかなり暗い。下校時刻が近づいていた。 「みっくんにとっての埋もれた名作、見つけられたみたいだね」  瑠璃の言葉に、素直に肯いた。 * 「みっくん、ちょっと元気ない?」  風呂に入って体を洗い合っていると、瑠璃に訊ねられた。 「わかっちゃうか」 「まあ、こうなってからずっと一緒にいるからね」  なぜか胸を張るように、瑠璃は言う。 「でも、どうしたの?」  問われて、俺は放課後の部活を終えた頃からぼんやり考えていたことを口にしてみた。 「俺、瑠璃にあれこれ教わってばかりだなあって。本も読んでないし、勉強も苦手だし、料理もやってこなかったし……」  今、俺は中一を繰り返しているけど、瑠璃は中二になっている。来年には俺も二年生だけど、瑠璃は先に三年生になっている。  勉強を教わる時は年下になったことをありがたく思ったけど、何て言うか、自分が瑠璃と対等でないことを最近は痛感させられてしまう。  それが今日、不意に大きく心の中で浮かび上がってしまったのだった。 「よく考えてみると、光莉の記憶にも教わってるんだよな。料理とか、勉強の習慣とかも……」  話していくうちに、自分が駄目な奴という気がしてくる。 「みっくんは周りの人を思いやれる素敵な男の子だよ。願いが叶うって時に、わたしや光莉ちゃんの願いを叶えてやってなんて言えないよ」 「ほんとだと思ってなかったからだし……今は、女の子だし」  瑠璃にすごく率直に褒められたのが照れくさくて、そんなことを口走る。 「うん。二年間女の子をがんばって、女の子の気持ちもしっかりわかるようになって、再来年にはもっと素敵な男の子になるの」 「できるかなあ?」 「大丈夫だよ」  不安になる俺を瑠璃は優しく抱き寄せて、そっと撫でてくれる。俺の強張った心を溶かしてくれるようだった。 「それにわたしだって、みっくんには色々教わってるもの。その、男の子としての過ごし方とか、体育の時の体の動かし方とか」 「あんなのは別に……『俺』の記憶を読めばいい話だし」 「そこで記憶があるからほっといていいや、ってならないのがみっくんの素敵なところなの」  こんな俺をそこまで褒めてくれる瑠璃こそ優しくて素敵だと思うけど、それをすんなり口に出せない自分が不甲斐ない。  ただ。 「それに、男の子として気持ちよくなるやり方とか……」  言いながら俺の手を取って自分のチンポに触らせる瑠璃は、ちょっと鼻の下が伸びたスケベな『俺』の顔になってしまっていて台無しだった。 「や、やるから、風呂出るぞ!」  向かい合ってやるのは、やっぱりいけない気がする。俺は水音を立ててそそくさと立ち上がった。  向かい合うのが嫌なのは、何より『俺』の絶頂顔なんて見たくないからだけど……もし万一、『俺』のそんな顔を見て、俺の気持ちが別に萎えなかったりしたら、それこそ大問題じゃないか。

Comments

コメントありがとうございます! 俗に「予定は未定で決定ではない」と言いますし、ね。 まあ、予定通りでなくても当人たちが幸せであればいいのではないかと考えます。

なんにもないフラットな自分に ちょっとずつ、ちょっとずつ女の子が上書きされていちゃっていますね。 そこに この発言 「うん。二年間女の子をがんばって、女の子の気持ちもしっかりわかるようになって、再来年にはもっと素敵な男の子になるの」 まともに男の子に戻れるのでしょうか? そんな彼らの思惑通りにいくのでしょうか? 二年間で女の子がしっかりわかった光莉と男の気持ちと快楽がしっかりわかった瑠璃。 本当に楽しみです。 今回は精神的な流れがわかった回でした。 素敵な作品 ありがとうございました。  

丸井主将


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