新卒社員が入社し、1週間の研修後本配属となって1か月が経った。
今年の新入社員はグループ会社合わせて約300人。
営業であるうちの部署に配属となったのは、女性だけの3人だった。
取り扱っている商品が女性向けのものが多い故に、どうしてもうちの営業には女性社員が集まりやすかったりする。
社会人が初めてで最初は緊張気味だった新卒達だが、部署に入って1か月経ったら周りに少し慣れ、最初よりは部屋に入ってくる姿から力が抜けているのが分かる。
俺は、そんな新卒達の部署内での教育担当だった。
毎年のことだが、教育担当は皆絶対にやりたがらない。
全体研修は受けているとは言え新社会人を教育するのは大変で、教えるだけでなく新卒のメンタルケアやミスのフォローなど、普段の仕事に追加で行わないといけないことが増えるのだ。
しかし皆がやりたがらない理由は別だった。
『新入社員1か月検査』
それは、入社して1か月後に行われる、新入社員の身体とメンタル部分に不調が無いかをチェックする検査だ。
アンケートや各担当との面談、簡易的な健康診断を行い、その結果によって新卒社員を辞めさせないようにするためのケアをするのが目的だった。
その1か月検査は、アンケートや面談は本社の担当が行うのだが、簡易的な健康診断の中の一部項目を、俺のような現場の教育担当が行う必要があった。
それは『足の匂いによる疲労とストレスのチェック』だ。
それは現場の仕事を1日終えた後の足の匂いをチェックし、疲労度とストレス度を測るチェックだった。
その項目はこの会社独自の指標であり医療施設では行われないため、現場の社員達が行う必要がある。
つまり、仕事終わりの新卒達の臭い足を、現場で教育担当に任命された者は嗅がなくてはいけないのだ。
嫌過ぎる…
うちの部署に配属になったのは全員が女。
普通なら女性社員の足を男が嗅ぐ訳にはいかないため、女性の社員が担当するのが筋だと思うが、女性社員達は皆絶対に拒否と凄い反発をし、この部署では立場の弱い男性社員がするのが通例となってしまったのだ。
なんで俺が足の匂いなんて嗅がなければならないのか…
他の男性社員も皆同じ考えのため教育担当にはなりたがらないし、敢えて出張を入れて逃げたりする。
そんな俺も絶対に嫌だと言ったのだが、候補者の中でのジャンケンに負けて俺が任命されてしまった。
そして今日が、その足の匂いをチェックする日だった。
足の匂いのチェックは、1日の仕事を終えた後に行う。
会議室に一人ずつ呼び、靴を脱いですぐの靴下やストッキングを履いた状態の足の匂いを嗅ぎ、臭さと匂いの種類をチェックリストに記入していくのだ。
しかもどのようにどのぐらい嗅ぐかまで細かく決まっていたりする。
鼻をしっかり足裏へと押し付け、3回深呼吸をするように嗅ぐ。
深呼吸の感覚はゆっくりとラジオ体操の時と同じように、そして押し付ける場所は足で一番強い匂いを発する、足指の付け根部分と決まっていた。
「はぁ…」
チェック項目を見ながら、嫌で自然とため息が出てしまう。
俺がチェックをしなくてはいけないのは3人だから他の部署と比べると多い訳ではないのだが、営業と言う仕事上他よりも歩くことが多いせいで足が臭くなりやすく、それを知っているからこそ嫌で仕方なかった。
しかしこれも仕事だし、教育担当に任命されるのは評価にも良い方向に響くため、やるしかないと心の中で気合を入れる。
「よし」
そう声に出すと、俺は最初の対象者の名前を呼んだ。
【久川亜美】
最初の対象者は久川だ。
学生の頃はバレーボールをやっていたらしく、黒髪ショートの活発そうな見た目に身長も高く、しかも美人なためモデルをやっていると言われてもおかしくない子だ。
女子ながら体育会系らしく先輩には従順だし、その辺にいる男性社員よりも運動部らしく声も大きくて度胸もある。
商品の詳細を覚えたり、メールのやり取りをするのは凄く苦手のようだが、元気でハキハキと話す姿は凄く営業向きで相手先からの受けも良い。
今日も一日先輩社員について回り、取引先へ挨拶回りに行っていたはず。
「取り敢えずイスに座ってくれるか」
「はい!」
俺の指示通りヒールを履いたら俺より大きい身長の身体を動かして、俺の前に用意された椅子へと座ると背筋を伸ばして俺の方を見てくる。
「今日やることは分かってるよな?」
「説明は受けてます!先輩に私の足を嗅がせるなんてちょっと申し訳ないですけど…私凄く足臭いんで…」
少し俯きながら申し訳なさそうにする久川。
内心『まじかよ』と引きながらも、新卒に気を遣わせるのは検診として良くないから、決してそれを表に出すことはしない。
「大丈夫だよ。これも仕事だし、久川は気にしないで足を出してくれれば良いからさ」
そう言って俺は、椅子に座った久川の方へと移動して足元にしゃがんだ。
久川の身長同様大きな足は、まだ新しいが手入れをしていないからか既に皺が沢山ある黒の革のパンプスが履かれており、そこから黒のストッキングに包まれた足が伸びていた。
今日一日社内にいなかった久川の足は、ずっと歩いていたせいできっとこのパンプスの中で蒸れているだろう。
それを今から嗅ぐと考えただけで気分が悪くなりそうだった。
「じゃあ脱がせるから足を上げてくれ」
「分かりました!」
上げられた足の踵を左手で支えると、そのまま脱がせるために右手でパンプスを掴んで引っ張った。
カポっと言うパンプスから空気が抜ける音と共に、そこから生暖かい湿り気のある空気が俺の顔の方へと広がっていく。
めちゃくちゃ蒸れてる…
嗅ぐ前からそれが臭いであろうことが分かり、思わず顔が歪みそうになるのを必死に抑える。
足裏はパンプスの中で擦れて足型にテカっており、足汗の染みで漆黒になった箇所とのコントラストでその大きな足が浮き上がっていた。
「じゃあチェックするから、久川はリラックスしてて良いぞ」
「はい!」
久川のその返事を聞くと、俺はその黒のストッキングに包まれた久川の足裏へと鼻を押し付けた。
鼻を付けた久川の足指の根元部分。
見た目通りぐっしょりと足汗で蒸れたそこは温かく湿っており、嗅ぐ前から臭いのが分かってしまう。
しかしいつまでもここに鼻を付けておくのも不快だし、さっさと終わらせるために俺はそこの匂いを嗅ぐため、鼻で深呼吸をして一気にその匂いを吸い込んだ。
すぉぉぉおおおおおっっっ
生温かい空気と共に一気に鼻へと流れ込む、久川の濃く臭い足の悪臭。
「うぐぉおっっっっっっっっっ!!!!」
くせぇえええええっっっ!!!
ネットリとした納豆のような足独特の匂いに、パンプスの革の重々しい匂いが混ざる、会社員の足でしか出ない女の足の臭さ。
そのあまりの臭さに俺は反射的に足から身体を遠ざけ、嗚咽が出そうになりながら地面へと顔を向ける。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
「だ、大丈夫ですか!?すみません…私の足、臭いですよね…」
臭さのあまり地面に伏した俺へ、心配するように声をかけてくる久川。
新卒を傷つけたり気を遣わせるのは良くないと思うものの、鼻に残る臭い足の匂いのせいで、少しの間それに答えることはできなかった。
「はぁっ、はぁっ、だ、大丈夫だ。仕事、頑張ってるんだな」
なんとか自分を落ち着かせた俺は、必死に笑顔を向けながら久川を傷つけないように言葉を紡ぐ。
「そうですね!今日も一日先輩について回ったんで勉強になりました!」
「そ、そうか…」
そりゃこんだけ足が臭くもなるわな!!ふざけんな!!
内心ではそう叫びながら、俺はこれ以上待たせる訳にもいかず、俺は再びその黒いストッキングの足裏へと顔を近づけていく。
一度嗅いでその臭さを知っているため拒否感から身体が震えそうになるが、先輩として情けない姿は晒せないと自分を鼓舞した。
そして再びそのストッキングに包まれた足指の根元へと鼻を押し付ける。
あと2回…あと2回だけだ…
そう自分へ言い聞かせながら、俺は再びその足の匂いを吸い込んだ。
すぉぉぉおおおおおっっっ
「ふぐぉっっっっっっっっ!!」
先ほどと変わらない濃さの、臭くて堪らない足の匂い再び鼻腔の奥へと流れ込んでくる。
あ"ぁっっっ!!くっせぇえええっっっ!!!!
その強烈に臭い足の匂いを含んだじっとりと湿った空気は、鼻の至るところに張り付きながら、身体を犯すように体内へと染みていった。
臭くて臭くてすぐにでも顔を反らしそうになるが、これ以上久川に気を使わせないために必死に鼻を足裏に押し付けたまま耐える。
その鼻を覆う温かく濡れたストッキングの感触と、まだ身体に残るネトつく足の匂いに吐き気がするが、俺は久川の足を掴んだままなんとか顔を離さず嗅ぐことができた。
「ほ、ほんと大丈夫ですか?なんかすごく汗かいてますけど」
臭さで気分が悪くなり、冷や汗が出ているのに気付いた久川が声をかけてくるが、俺は声を出すのもしんどくて、足裏に鼻を押し付けたまま頷くことしかできない。
嫌だっっ、もう嫌だっっっ!!
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」
あと一度で終わると言うのに、またその臭い足の匂いを鼻で吸い込むのが嫌で、口でばかり息をしてしまう。
それでもこれが仕事であり、引き受けてしまった以上逃げ出す訳にはいかない。
臭さのあまり目が潤む中、俺は必至に歯を食いしばりながら、最後の気力を振り絞って鼻から息を吸い込んだ。
すぅぅぅううううううっっっ
「あ"ぁ"っっっっっっっっっっ!!」
ぶわっと湿って温かい空気が再び鼻いっぱいに広がり、久川の強烈な臭い足の匂いで肺が満たされてしまう。
くせぇえっ、くせぇえええっ、くせぇええええっっっ!!!
何度嗅いでもその足の匂いは弱まらず、それどころか今回が一番濃くすら感じてしまう程に、久川の足の匂いは成熟した臭さだった。
感じたくもない雌を嫌でも感じる、ベタつく足の臭い臭い匂い。
ツンとする革の匂いが先行し、あとから強烈な納豆のような足汗の発酵臭が追いかけてくる。
足から顔を離した俺は、そのまま地面に突っ伏しながら、その鼻から入ってきた久川の足の激臭が体内を巡っていくのを、必死に耐えるしかなかった。
「ありがとうございました!!」
久川は元気にそう言って頭を下げると、パンプスを履きなおして部屋を出ていく。
やっと一人目が終わったのだ。
後二人いることに絶望しながら、俺は必至に鼻をウェットシートで擦った。
『久川』
足の臭さ:★★★★☆
匂いの質:酸味よりもネットリとした納豆臭が強め
所感:ストレスよりも足への疲労を感じる匂い。足が大きいため、自分の足にもう少し合ったパンプスを履けば、少しは疲労を軽減できるかもしれない。
【滝本玲】
必死に部屋の換気とウェットシートで鼻を拭き、用意されたコーヒー豆の匂いを嗅いで鼻をリフレッシュさせた俺は、なんとかして次の対象者を呼んだ。
次の対象者は滝本だ。
学生の頃はバスケサークルに入っていたようで、久川と同じ運動系だと言うのにタイプは全く違っていた。
茶色のロングの髪型に可愛らしい顔立ち、スタイルの良い身体でスーツもおしゃれに着こなす姿は、アナウンサーのような華やかさがある。
久川とは違って商品説明や取引先とのやり取りをそつなくこなし、既にルックスのせいで男子社員からの人気もあり部内でも期待の新人だった。
今日は確か、先輩と共に既に顔つなぎが終わってる会社を回って、導入されている商品の確認を行っていたはず。
「そこに座ってくれ」
「分かりました」
歩く姿も椅子に座る動作すらもスマートで、学生の頃に趣味で茶道も少しやっていたと言っていたが、それも頷けるような所作だった。
「今からやることの説明は受けてるよな?」
「勿論です。足を嗅がせるなんて初めてなので、少し恥ずかしいですけど…」
ちょっと苦笑いをしながら照れたように言う滝本に、内心少しホッとしていた。
と言うのもさっきの久川と違って、滝本の見た目からはそこまで足が臭そうに見えなかったからだ。
「まぁみんなされることだからさ。滝本はリラックスしててくれれば良いよ」
そう言って俺は先ほどと同じように、椅子に座った滝本の方へと移動して足元にしゃがんだ。
滝本の長い脚の先に履かれた淡いピンクのパンプスは、その滑らかさで上質な革を使っているのが分かる。
パンプスを履いた状態だと素足しか見えないから分からないが、恐らくパンプスの中に隠れるようにカバーソックスを履いているのだろう。
久川同様外を回っていた滝本の足もきっとこのパンプスの中で蒸れているのだろうが、先程よりはましだろうと自分に言い聞かせた。
「じゃあ足を上げてくれるか?」
「はい」
そう言って上げられた滝本の足の踵を支えながら、そのままパンプスを掴んで足から脱がせていく。
スポッとパンプスが足から抜ける音と共に現れたのは、想像通りネイビーのカバソを履いた滝本の足。
見た目的には久川よりはましそうだが…
カバソは普通の靴下よりも薄いせいで、足の形にぴったりと張り付き足指の凹凸がくっきりと分かった。
全体的に濃いネイビーだが、特に足汗が染み込んでいる様子は見て取れない。
「じゃあ嗅ぐな。力抜いてて良いぞ」
「承知しました」
俺は滝本のその返事と共に、その濃いネイビーのカバソに包まれた滝本の足裏へと鼻を押し付けた。
グチョリ
「んっ!?」
鼻を足指の根元部分へと押し付け、そこで違和感に気付く。
見た時は足汗がしみ込んでいるように見えなかったのに、鼻についた足は明らかに濡れていたのだ。
そこで俺は改めて滝本のカバソ足に目を向ける。
そしてその答えに辿りついた。
滝本のカバソ足は足指部分に汗が染みていないのではなく、薄手のカバソだからパンプスの中で死ぬほど蒸れ、カバソ全部に足汗がしっかりと染みこんで全部が濃く変色していたせいで、パッと見では蒸れてないように見えただけだったのだ。
それに鼻を付けてから気付いても遅い。
どちらにしてもこの足の匂いを俺は嗅ぐしかないのだから。
俺はどっちにしても久川よりはましだろうと必死に自分に言い聞かせ、滝本の足指の根元の匂いをカバソ越しに吸い込んだ。
すぉぉぉぉぉおおおおっっっ
「お"ぉぉ"っっっっっっっっっっ!!」
温かく湿った空気と共に、鋭く刺すような滝本の酸っぱい足の匂いが勢い良く鼻奥へと突き刺さった。
くっさぁあああああっっっっ!!!
明らかに久川とは種類の違う足の匂いに面食らう中、ツンと酸っぱいながらもそれが確実に足の匂いだと分かる強烈な匂いに、鼻と目が染みて勝手に涙が出てくる。
なんとか足裏から顔を離さないで耐えたものの、今すぐこの臭い足を除けたくて身体が勝手に引きそうになった。
それ程までに滝本の足汗を存分に感じる酸味の強い足の匂いと、パンプスの重々しい匂いの混ざった臭さは強烈だった。
「ど、どうですかね?臭くないですか?」
死ぬほど臭ぇよバカが!!!
「っっっっ、だ、大丈夫だ」
自分の足の臭さを理解していないような滝本の言葉にキレそうになりながらも、そんなことを言うわけにはいかない俺は、自分を宥めて必死に返事をする。
「あ、なら良かったです。結構靴の中が蒸れてる感じがしたんで、臭いだろうなって思ってたんですけど」
安心したように言う滝本に苛々は募るが、先輩としてそれを絶対に表に出してはいけない。
目に涙を浮かべているのを気付かれないように足に顔を付けて隠したまま、俺は覚悟を決めて再度鼻から息を吸い込む。
すぅぅぅぅううううううっっっ
「んぎっっっっっっっっっ!!」
勢いよく鼻へと流れ込む、ツンと酸っぱい匂いに僅かにネットリとした足の匂いを含む、滝本の足の激臭。
あぁぁああっっ!!くっせぇええええっっっ!!
久川のとは違う、染みるような酸味のある滝本の足の匂いが、一気に脳天まで駆け巡っていく。
足の臭さで手足が震えそうになるのを必死に堪える中、酸っぱい足の匂いと鼻を覆う蒸れたカバソの感触から嗚咽がこみ上げてくる。
こんな役割絶対に嫌だと拒絶すれば良かった。
今更そんなことを思うが、もう今更遅い。
「男性に足を嗅がれるのって、やっぱり恥ずかしいですね」
臭さに耐える俺に照れたように言う滝本。
悪気はないのかもしれないが、お前よりも何倍も俺の方が嫌な思いをしているのによくもそんなことが言えるなと、思わず説教しそうになってしまう。
「すまん…な…」
けど先輩として新卒を責める訳にもいかず、むしろフォローしなくてはいけないと必死に言葉を考えるが、その一言しか言えなかった。
もうさっさと終わらせよう。
長くなれば、苛立ちも足の臭さに対する恐怖も増してしまう。
そう思った俺は、歯を食いしばりながら再び鼻で深呼吸をした。
すぉぉぉぉぉぉおおおおおおっっっ
「んがぁっっっっっっっっっっ!!」
酸っぱく臭い女の足の匂いが、一気に体内を駆け巡る。
くっせぇぇええええええっっっ!!!
3回目だと言うのに鼻はその臭さに慣れず、それどころか足の臭さをより繊細に感じるようになっていた。
滝本の足独特の足汗の酸っぱさ、そしてパンプスの中で蒸された粘り気、そして革のツンと重い匂い。
その全部が合わさった強烈な匂いが、俺の身体をこれでもかと蝕んでいく。
臭さが染みて目からは涙が頬を伝い、嗚咽と共に全身からは汗が噴き出していた。
そんな滝本の臭い足の匂いに苦しむ姿を俺は本人に見せる訳にはいかず、嗅ぎ終わったと言うのに暫くは顔を伏せ、その悪臭が身体からなくなるまで耐えるしかなかった。
『滝本』
足の臭さ:★★★★☆
匂いの質:酸味が強く、目や鼻に染みる匂い
所感:身体の疲労も感じるが、それよりも緊張による精神的な疲れを多く負っている様子。定期的に面談を行った方が良い。
【石神あかり】
二人で心が折れそうになりながらも、なんとかウェットシートとコーヒー豆で強制的にリフレッシュした俺は、これで最後だとなんとか自分で気合を入れて、次の対象者を呼びこんだ。
最後の対象者は石神だ。
学生の頃はテニスに打ち込んでいたと聞いたが、確かに肌は健康的に焼けていて運動部感がある。
二人と違って明るめの髪色で、ふわっとクセッ毛気味で長さもあるせいか見た目は軽く見えるが。
と言うか、実際見た目通り石神は話し好きだし、誰彼構わず臆することなく接する軽さがあった。
よく同期の男の子達と楽しそうに話したり、飲みに行こうと誘っていたりするので、下手したら既に何人かとそういう関係があるのかもしれない。
そんな石神は営業向きで、商品の概要を覚えたりするのは久川同様苦手のようだが、そのキャラクターと喋りでそれを補うことができていた。
今日は二人同様外回りの予定だったはずだが、こいつの場合色んな先輩が連れ回すから正確な情報は分からない。
「じゃあそこに座ってくれ」
「了解でーす」
二人と違って軽い返事をして適当にイスに座る石神には、ちゃんとしろと言いたくもなるが、なんとなく石神はそのままの方が良いかもしれないとも思ってしまう。
「今日やることは聞いてるか?」
「あ、知ってます知ってます!私の足を嗅ぐんですよね?いや今日私ずっと外出てたんで、ほんと臭いんですけど大丈夫ですか?っていうか前の二人の足って臭かったですか!?」
食い気味にそう言う石神の姿に圧倒されながら、俺はその言葉を適当に流す。
なんと言うか、こいつには普通に臭かったら臭いって言っても傷つかなそうだな。
むしろ言っても笑っていそうだ。
「臭いのは仕事をしている証拠だからな。悪いことじゃない」
「あ、じゃあ私の足めっちゃ臭いんで、すっごい仕事したって証拠ですね!」
そう恥ずかし気もなく言う石神にうんざりしながら、椅子に座った石神の方へと移動して足元にしゃがむ。
スポーツをやっていたと言うだけあり、ストッキング越しでも脹脛が締まっているのが分かった。
就活の時からずっと同じのを履いていたのかと思う程に、履いている白のパンプスは足にしっかりと馴染んでいて既に年期すら感じる。
そこからのベージュのストッキングに包まれた足が伸び、その美しい脚線美がスカートの奥まで続いていた。
既に二人の臭い足を嗅いだ後だと言うのに、やはりこのパンプスの中で蒸れてそうな足を見ると気が滅入る。
「取り敢えず靴脱がせるから足を上げてくれ」
「りょーかいです!」
ノリ良く足を俺の方へと突き出すように上げられ、俺はその足を掴んでパンプスを引き抜いていく。
そして現れた足を見て思わず顔が引きつってしまった。
なんだよこれ…
それは足汗がストッキングの足裏部分全部に染み込み、ベージュで足汗は目立たないはずなのにそれがハッキリと分かる臭そうな足だったのだ。
正直蒸れ具合だけで言ったら、三人の中で一番足汗が染み込んでいる。
「私足癖が悪いって言うか、すっごい足指動かしちゃんですよねぇ。そのせいでめっちゃ足汗かくんで臭いですよー」
そう言いながら笑って足指をグニグニ動かす石神に、俺の顔は更に歪んだ。
『臭いと思う』ではなく、『臭い』と言い切る石神にゾッとする。
しかし石神のだけを嗅がない訳にはいかず、俺はなんとか顔を取り繕って言う。
「じゃあ嗅ぐから、石神はなるべく足動かすなよ」
「頑張ってみます!」
そして石神のその返事を聞くと、俺はそのグショグショに濡れたベージュのストッキングに包まれた石神の足裏へと鼻を押し付けた。
グチョッ
足汗をふんだんに含んだストッキングの嫌な音が響き、鼻がその蒸れてグショグショの足に包まれる。
思わず嫌悪で顔が引きつってしまうが、さっさと済ませようと嗅ごうと息を吸い込もうとした瞬間。
「あ、先輩達からこうしろって言われたんで、ちょっと失礼しますね」
「んっ!?」
鼻を押し付けている方とは逆の足を俺の頭へと回し、脹脛と太ももで頭を抱え込んで、俺の顔を足裏に無理やり押し付けるようにしたのだ。
突然のことに驚きながらも、吸い込む寸前だったため止めることもできず、そのまま思い切り鼻で石神の足の匂いを吸い込んでしまった。
すぉぉぉぉおおおおおおおっっっ
「んがぁぁあっっっっっっっっっっっっ!!!!」
ドカンと砲撃を受けたかのような衝撃と共に、大量の湿気の籠る温かい空気と足の激臭が鼻へと流れ込む。
くっっっっっさぁあぁあああああっっっっ!!!
久川に感じた納豆臭、滝本に感じた酸っぱさ、その両方を同時に強烈に感じる石神の足の激臭に、身体が拒絶して足から逃げようとしてしまう。
しかししっかりと石神に足で固定されているせいで、身体を引くことも顔を足から離すこともできない。
「あぁぁああっっ!!くせぇええっっ!!!」
決して二人には言わなかった言葉を、思わず声に出してしまう程に石神の足の匂いは格段に臭かった。
「あははっ、臭いのは知ってますって。先輩達にもめっちゃ言われましたしねぇ。だから匂いチェックされる時、絶対逃げられるからこうやって足で押さえて嗅がせろって言われたんですよね。文句なら他の先輩に言ってくださいね!!」
必死にその足から逃げようと頭を捩るが、しっかりと足でホールドされているため顔を足裏から離すことができない。
「ちょっと、暴れないでくださいよ!!先輩これも仕事ですよ!!さっさと嗅いじゃってください!!」
暴れれば暴れる程顔が石神の足裏に擦れ、顔にその臭い足汗がこびりついていく。
もうこんな激臭嗅ぎたくないし、すぐにでも逃げ出したいが、石神の『仕事』と言う言葉でハッとした。
あぁぁああっっ!!くそがっっっ!!!
そう。ここで逃げたところでこれは仕事。
今は逃げれたとしても結局は役割を果たさなくてはいけないのだ。
臭さで冷静じゃないながらにそう理解した俺は、さっさとこれを終わらせることだけを考え、暴れるのを止めてズレた鼻を石神の足指の根元へと張り付ける。
そして再び鼻で深呼吸をした。
すぅぅぅぅぅぅうううううううっっ
「あ"ぁあ"あっっ!!くっせぇぇええええええええっっっ!!」
再び鼻へと流れ込む足の激臭。
勢いよく酸っぱい足の匂いが駆け抜け、その後をゆっくりと粘り気のある匂いが追いかけてくる。
その臭くて堪らない足の匂いは肺どころか頭の中まで充満し、臭さのあまり頭がクラクラしてきた。
覚悟していたとは言え、あまりの臭さに顔中から色々な液体が勝手に流れ出し、何度も嗚咽がこみ上げてくる。
嫌だ!!!こんなくっせぇのもう嫌だ!!
足でホールドされてるせいで未だにべったりと顔に張り付く、蒸れて湿った石神のストッキングの足裏。
それだけで我慢出来ないほどに身体が震えた。
「よくこんなくっさいの嗅げますよねぇ。自分の足でも臭くてキツいのに、人の臭い足とか私絶対無理ですよ。あははっ!」
足裏で悶絶する俺を見て軽くそう言って笑う石神。
俺だってこんなの嫌に決まっているし、石神の臭い足のせいで俺がこんなにも苦しんでいるのに、死ぬほど他人事として言う石神はある意味大物なのかもしれない。
「ほら、あと一回ですよね?これも仕事仕事。逃げちゃダメですよー」
そう言って、むしろ嗅がせることを楽しんでいるような石神は、俺が絶対に逃げられないように、足のホールドを更にキツくした。
どんなに嫌でも逃げられないと察した俺は、涙をダラダラと零しながら嗚咽を耐え、最後の一回を嗅ぐために鼻から息を吐きだした。
そしてこれで最後だと鼻から息を吸おうとした瞬間。
「これも先輩からの指示なんで、悪く思わないでください!!」
そんな石神の声が聞こえると同時に、顔に押し付けられた石神の足のストッキングが破れたのだ。
そして素足となった石神は、その足指の股を大きく広げると、俺の鼻を挟むようにして股部分で鼻の穴を塞ぐように覆った。
!?!?!?!?!?!?
ダメだと思ってももう遅い。
勢い付いていた俺は、そのまま石神の素足の足指の股の匂いを、思い切り鼻で吸い込んでしまった。
すぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおっっっっ
「お"ぉぉ"ぉおお"おお"おお"おおっっっっっっっっ!!!!!!」
鼻に勢いよく流れ込んでくる、今まで嗅いだ中で一番の足の激臭。
それは鼻腔で爆弾のように爆発し、一気に頭から足の先までを足の匂いで覆い尽くす。
久川の足の納豆臭を何倍にも濃くした粘り気のある匂い。
滝本の酸味のある匂いを何倍にも刺激を強くした刺す匂い。
そして履きこまれたパンプスによる、濃厚で重々しい蒸れた革の匂い。
それが全て混ざった、石神の素足の指の股の激臭は、臭さのあまり一瞬頭が真っ白になる程だった。
「くっせぇえええええっっ!!」
吸い終わった俺は石神の足から解放されるが、そのまま床に倒れ込んで臭さに悶絶して暴れ回る。
「あぁぁああっ!!くせぇえええっ!!くっせぇえええっ!!」
鼻を腕で必死に擦るが、息をする度に顔にこびりついた石神の足の匂いが、何度も何度も鼻へと流れ込んできて俺を苦しめた。
「あははっ!流石に大げさ過ぎですよ~」
そう言って石神は笑うが、そんな石神に反応できない程に石神の足の激臭は身体に残り、トラウマになる程に俺を悶えさせた。
その後石神が部屋を出て行った後、何度もウェットティッシュで鼻を拭いたが、それでも鼻の奥に石神の足の匂いが残り、暫くの間その臭さから立ち直ることはできなかった。
こうして俺へと酷いトラウマを残しながら、『新入社員1か月検査』は終わったのだ。
『石神』
足の臭さ:★★★★★
匂いの質:納豆臭、酸っぱさが混ざる激臭
所感:ストレスや疲労と言うより、本人の性質上元々足が臭いため判断できず。会社に早くも馴染んでいるため、現状問題はなし。それよりも足の消臭スプレーを渡してやるべき。
END