【先読み】ぺんぎんさんは檻の中
Added 2025-03-18 13:09:34 +0000 UTC私はこれまで、とにかくへたれだった。マニアックな拘束SM系のジャンルにはずいぶん昔から興味があったのに、18を過ぎてもその界隈に手を出さないどころか、調べすらしない。漠然とそういうのが好きだと自覚して、妄想はして慰めているのに。 妙な後ろめたさを踏み越えることも満足にできなくて、ろくに知りもしないまま無為に時を過ごした。見る専用のアカウントをSNSに作るどころか、他に誰が見るわけでもないスマホの検索履歴に残ることすら躊躇っていた。 そんなありさまのまま四年経って、社会人になってもまだそんな自分でも恥ずかしいほどのピュアは変わらなくて。さらに二年経って、職場には後輩も入ってきた。……転機はそんな秋口の昼休みだった。 「そういえば、前言ってたヒューマンファーム行ってきたんだけど」 「お! どうだったの?」 「めちゃくちゃよかった。私みたいなのにとっては、ちょっと遠くても通う価値あるとこだったよ」 「へー、やっぱそのへんはミスト・スランバーってことなのかな」 給湯室に食後のお茶のためのお湯を取りに来たところで、今年入ってきたばかりの新人の子たちの話し声が聞こえたのだ。反射的に入口の手前で止まって様子を窺ったけど、正解だった。すぐに私でも名前くらいは知っているアダルトグッズメーカーの名前が聞こえてきて、あまり表立ってする話ではないとわかったから。 となると、その前の「ヒューマンファーム」というのはそれに関係する単語だろう。人間牧場、と聞いても、漠然と興味があるだけで何も知らない私にはよくわからない。 「馬とか牛とか見てきたの?」 「そっちもひととおり見てきたんだけどね、最近併設されたヒトペット広場が凄くて」 「あ、なんか聞いた。ペットプレイ専用のマッチング施設だっけ」 「うん。しかもそれだけじゃなくてね、オープンな遊び場も兼ねてるの。人前でも遊べるし、フリーの子は普通に出歩いてるし、それどころか展示まであってね」 「へえ……そりゃ確かに、他のところじゃ絶対できないね」 「私はマッチングなしで見て回っただけだったんだけどね、それでもとんでもなかった。次は予約入れてこっかな」 ……正直、言っていることの大半はわからなかった。だけど、いかがわしいことの話をしているのだとは察しがついたし、それも一般的な行為とは程遠いことだとくらいはわかった。馬とか牛とか、人前とか展示とか、そういう場面でふつう聞くはずのない言葉がいくつもあったから。 この時点ではそれが私の興味に含まれるものなのかすらわからなかったけど、妙に気になって仕方ない。それに……後輩の可愛らしい年下の子が、こうして人目につかない場所とはいえ平気でそんな話をしていることに、触発されてしまったのだ。それに引き換え私は、このまま何も知りすらしないままでいいのか、と。 「……あ、雪下さん。お疲れ様です!」 「お疲れ様。ちょっとこれ借りるね」 「はい、どうぞ」 私は足音を消して無人の廊下を少し戻ってから、話の切れ目を見計らって給湯室に入った。私より少し背の低い二人の後輩たちの邪魔をしたことを少し後ろめたく思いながら、お湯だけ取って踵を返す。 後ろから「……雪下さんって、ああいうの興味あるかな」「ないと思うよ。私たちと違って、清楚そのものだし」という声が聞こえる中……それを聞き流しつつ、手元のスマホで「ペットプレイ」と検索をかけた。 そこには当然とばかりに、私が漠然と求めていたものが並んでいた。 「ヒトペット広場へようこそ。飼い主プランとペットプランがございますが、どちらのプランをご希望ですか?」 「ペットプランで、お願いします」 「かしこまりました。では詳細をお伺いしますので、四番の控え室にどうぞ」 ずっと調べすらせずにいたのは、実家がとても厳しくてほんの少しでも性を想起させるものに家を出るまで触れられず、そのせいで奥手に振る舞ってしまうのが染み付いていたからというのが半分。一人暮らしを始めてそれから解放されてから、そういうものに触れてしまったら止まらなくなると自分で確信していたのが半分だった。 ただ、もう我慢がきかない。どうせ誰も迷惑しないのだから、触発されてしまえばもう流されるままだった。いろいろ調べて、ヒューマンファームが相当ニッチな立ち位置だと知って、それでもそのまま惹かれてしまったから来ることにした。ペットプランにしたのは、自分はそちら側だと漠然と感じたからだ。 「でははじめに、お客様をペットとしてお呼びする際のお名前などがありましたら、ぜひお教えください」 「えっと……じゃあ、ユキ、と」 「ユキ様ですね。ではさっそくですが、コースにご希望はごさいますか?」 「その……実は、決まってないんですけど……動物園がいいな、とは」 「なるほど、かしこまりました。でしたら、一度このままご覧になりに行かれますか?」 「よければ、はい」 そして今回、私はやりたいことが漠然とだけあった。それが、特定の飼い主プランの人やスタッフさんと遊ぶのではなく、「動物園」と呼ばれるエリアでただ見られてみたい、というものだった。 本当に初めてで、一対一は不安なのもあるけれど……私は学生時代からずっと、高嶺の花扱いで遠巻きに見られることが多かった。友人は人並みにいて一人ではなかったものの、知らない人や近しくない人の視線は距離を置いて浴びることに慣れていたのだ。だから、それと似たもののほうが、私はむしろ慣れやすいのではと考えた。 調べた限りでは、ヒトペット広場の動物園はそれこそ本物を模したものらしい。似たような雰囲気の区域で檻を隔てて、動物風の拘束を施された子が入り檻の外から見られる。基本はそれだけだ。 一部の種類の場合、他にもできることが多少あるようだけど、主題は「見てもらうこと」。それも、恥ずかしい姿を、動物……それどころか、展示物として。 「……すごい。こんな、夢の中みたいな」 ここに来た以上、いいと思ったらどこまででものめり込んでしまいたいと思っている。施設に求めているのは、私の場合は無知をカバーしてくれる対応や雰囲気だ。 その点、一度見る側として入場しておいたのは正解だった。なにしろ、ここでは当たり前として扱われていることはどれも私にとっては好奇心を触発してくるものだったから。 道中で四つん這いになり、ペアになっている人間にリードを引かれている子も。カートに載せられて少し目立ちながら移動している、どの動物なのかぱっとわかる姿の子も。動物園エリアに到着する前の道中ですら、それだけで私の人生をいくらか変えてしまうようなものばかりだった。 動物園に入ればそれはもっと顕著だ。蹄のようになったブーツを履かされて、腕にも同じ形になった細長いパーツをつけられて脚を伸ばした不安定な四足歩行をさせられている“しかさん”も。腕の入った翼の先端を定期的にワイヤーで巻き上げられて、動けない裸体を晒される“みみずくさん”も。 それ以外にも、発想力に満ちたものからどこか無理があるものまで、さまざまな動物がいた。それら全てが共通していたのは、対象に性的で強烈な羞恥、または尊厳の破壊を与えるものであることだった。 「……っ、ふ、ぅ……」 「…………かわいい」 そんな中で、見つけた。不思議と私が「なりたい」と心から思ったのは、“ぺんぎんさん”と看板を置かれた展示だった。 たぶん、骨格を参考にしたのだろう。踵とお尻がくっつくほどぴったりと畳まれた脚を胴体ごと固定されて、しかしそのまま足の裏で立っている。歩幅はこれでもかと小さく、頑張って歩いているのに足の裏ふたつぶんあるかどうかの一歩はあんな姿なのに微笑ましくさえある。 その一方で、とても卑猥だった。そもそもが性的な、SMプレイの延長線上にあるのは確かなのだろう。ちらちらと見えてしまう股は隠す手段がなく、お尻の辺りからは尾羽を模したような飾りが伸びている。口についている嘴がどう作用するのか、そもそも喋れるのか自体わからないものの、漏れる吐息に意味にある響きはない。 可愛らしくて、恥ずかしくて、目を惹く。あれで見られて、遠巻きに見て楽しまれるなら……比較的、これまでにも私が受けてきた扱いに近そうだ。個人差はあると思うけど、そういう扱いなら私はあまり苦ではなかったから。 「……あの。私、これを受け取っている者なんですけど……」 一応もう少し考えたけれど、やっぱり他にないと思った。私は近くにいる“飼育員さん”に声をかけて、動物園希望のペットプランであることを示す印を見せた。 同じようなことをする人は少なくないようで、戸惑われることもなくバックヤードへ案内されることになった。準備は全てそこでしてくれるらしい。 動物園は主に中上級者に人気で、また受け入れられる数の多いやりやすい遊び方だった。現にただでさえ安いペットプランの中でも、特に料金が割安になっているらしい。充実しているほど飼い主プラン向けのサービスが増すから、それも頷ける。 ここでしかできないことだからリピーターも多い、らしい。そんな、他のところの職員さんよりもややフレンドリーな職員……飼育員さんたちの話を聞きながら、荷物を預け細部を詰めていく。“ぺんぎんさん”ひとつとっても、好みで選べる部分はなかなか多かった。 「じゃあ、さっそく始めていくからね」 「はい、お願いします」 直前まで丁寧語だったスタッフさんが、砕けた言葉遣いに変わった。それはお客様から飼育物に対する扱いに変わったのだとすぐにわかって、少しぞくぞくする。 手の空いている飼育員が二、三人ほど詰めている控え室の、動物がいられるように整えられたスペースで、まずは裸になった。個室で“変身”することもできるとのことだけど、私はとことん雰囲気を味わいたくなっていた。これも経験不足だからこその怖いもの知らずなのだろう。 「まずはこれ。ポーズは取れる?」 「見てきたので……これで?」 「もう少し脚を開いて。でないと歩けないから」 「は、はい……うぅ、恥ずかしい」 「それが欲しくて来たんでしょ?」 その通りだから何も言えない。きっと慣らしてくれているのだろう、言い逃れは許されないようだ。 最初に指定されたのは、ぺんぎんさん特有のポーズを取ることだった。しゃがんだ姿勢から膝を上に向けて、しっかり畳んでふくらはぎと太ももの裏、太ももの裏とお腹をくっつける。 この時点でなかなか恥ずかしい姿勢なのだけど、自然にまっすぐにしていたよりも少し足を開かされた。よりはっきり股間が見えてしまうけれど、足どうしを離さないと歩きづらいらしい。 この状態を固定するために拘束具をつける。ベルトというよりはカバーのような幅広の、薄く丈夫な革の素材だ。これは少々無理のある姿勢での拘束を、少しでも負担少なくするためのものらしい。 腰の後ろまで覆われて、本当に全く脚を伸ばせなくなった。もちろん膝を胸の下から離すこともできず、まだ腕は自由とはいえ無力な姿勢から動けない。 「次はこれ。しばらく身を委ねていてね」 「わかりました……」 もっとも、実のところぺんぎんさんの必須パーツはこれだけだ。あとは何らかの形で手は使えないようにされるだけ。だからこの専用拘束具を晒すパターンもあるところだけど、私はそうしなかった。 複数人がかりで持ち上げられて、コンパクトになった全身をラバーに包まれていく。ぺんぎんさんスーツとでも言うべき専用のラバースーツは、この姿勢のまま上から全てを包み込んでしまう特殊な形状だった。 「……少し、楽になった気がします」 「ある程度、姿勢補助機能があるからね。その代わり、余計に人間っぽくない格好に馴染んじゃうけれど」 「それは、はい……それに、食い込んで恥ずかしい……」 胸からお腹、股下にかけて楕円形に白くなっていて、背中側は黒の模様。それに、畳まれた脚はまるでないものかのようにスーツの内側に飲み込まれていて、外からは凹凸だけしかわからない。ゆったりしたセーターの内側に体育座りをした脚を入れたときの見た目に近い。 それ以外でどうしても気になってしまうのは、そこだけ薄くなっているようで股の間に食い込んで縦に筋を作っているところ。これでも穴あきで丸出しの選択肢は選ばなかったのだけど、それでも強調されてしまっている。ペンギンは卵生でおっぱいがないからか、胸はそうならずに膨らみが見えているだけなのに。 「腕……羽のほうは大丈夫?」 「はい。動かないです」 そして腕。板のようなものを仕込んで曲がらなくするだけで羽としては普通に動く形もあるそうだけど、私はより拘束されたくなった。まっすぐ下ろすよりやや後ろ手の位置に伸ばしたまま、胴体にくっつけたまま固定されている。手首から先は指を伸ばした形のミトンになって外側へ向いていて、床につけて歩くことができる。 足もペンギンっぽい形にはなっていたけれど、こちらは動きやすさは変わらなかった。これ以上不便にしたら、もう動けなくなりやすいのだとか。 「あとは……失礼」 「んっ……ぅ、はぅ」 要望したのはあと二つあって、ひとつがこれ。尾羽つきのアナルプラグだ。ペットプレイをあれこれ調べたとき、尻尾プラグには少し憧れを持ってしまった。ぺんぎんさんを選んだときには一度諦めかけたものの、同じようなものがあって安心したくらいだ。 事前に少しだけ開発してきたそこを、軽く解してもらって挿入される。ぞくぞくする異物感をきゅっと締めつけると、尾羽が床に寝かされて触れる感覚ははっきり伝わってきた。 「最後にこれね。準備はいい?」 「お願いします……ぁ、ぐ」 「はい。それじゃ、時間になるか、異状を感知するか、檻の中の中止ボタンが押されたら迎えに行くからね」 そして最後に、嘴。頭は特に多くのオプションがあって、中には全頭マスクどころかペンギン風のスウツマスクまであったけれど、私は頭はそのまま出すことにした。その一方で、顔の下半分は隠す嘴マスクはつけることにしている。 上顎と下顎にそれぞれマウスピースのように固定する形式なんだけど、舌は固定されているし嘴どうしが当たって完全には口が閉じないようになっている。猿轡というほどではないものの、ふんわりと言葉が不明瞭になる程度のものだ。普通には喋れない要素くらいは、ペットになった実感として欲しかったのだ。 ひとまずこれで完成ということで、そのまま抱え上げられて輸送カートに載せられた。運んでもらって、ぺんぎんさんの檻に入れられるのだ。 なすがままの無力感、高揚と緊張、それに尾羽の重量がお尻にかかる刺激も。いろいろなものが混ざり合って、私はこれまでの人生で間違いなく一番どきどきしていた。 ……外に出てきた。見知らぬ人の前で裸になり、恥ずかしい格好で自由を失った時点で手遅れではあるけれど、いざ屋外に出てくるとまた違う感覚が襲う。ここはヒューマンファームのドーム施設の中とはいえ陽光は差しているし、時折弱い風も吹くようになっているからそれがラバースーツ越しに当たる。 しかも、人目がこちらに向いてくる。まだ檻に入ってもいないものの、通っているのは動物園の通路だから当然だった。 「新しい子ですか?」 「はい。ぜひ見てあげてください」 中には声をかけてくる人もいた。その度にじっくり見られて、私のことを飼育員さんが応対する。狭いカートの中では立っていることしかできない私にとって、近距離から遠慮なく届く視線は屈辱に満ちたもの。 ただ、それがとても甘美なことにも早々に気付いてしまって、やっぱり私のようなのはここに来て正解なのだと実感する。なかなか視線を上げて目を合わせたりはできないけれど。 「はい、ここ。自分で入れる?」 「ぅ……」 すぐにぺんぎんさんの区画に到着したけれど、その頃には檻の前に人集りができていた。なんでも新しい動物が入るときには告知があるそうで、それを知ったお客さんが集まったらしい。 私は結局ある程度調べてわかったことしか知らないまま来ているけど、常連は違うのだろう。気軽に来ては見るだけ見て帰る人も少なくないそうだし。とにかく今大事なのは、私の惨めなところを見るために十数人は集まって、客同士で話に花を咲かせながら今か今かと待っていたこと。その集まりがさらに人を呼んで、私たちが到着したときには軽い歓声すら上がった。なんだか本当に動物園みたいだ。 檻の入口を開けられて、そのすぐ手前に下ろされる。抱えたまま入れることもできるだろうけど、そこに自ら入ること自体が見世物になるのだとすぐにわかる。同時に、こうなることを強く望んだマゾであることの喧伝にも。 どういうわけか尾羽は緩く持たれたまま、言われた通りに歩みを進める。体ごと左側を前に出して、足の裏で踏み出す。窮屈な姿勢で不安定になるのを、お尻の後ろにちょこんとついた手……羽で支えたまま。 一歩歩くだけで、背後から歓声が聞こえる。スーツの中でがちがちに縛られて、その一歩は50センチもないのに。 「ふっ……ふっ……」 「がんばれー!」 「もう少し!」 ゆっくり、ゆっくり前に進んで、それを大勢で見守る。励ますような声まで出るさまは、まるで生まれたばかりの動物の赤ちゃんが初めて立ったり歩くのを見守るような。 それが自分に、仮にも成人した人間に向けられているのは、なんと惨めなことか。だけど、それに相応しいようなありさまなのも確かだった。進んでいるのがどうにかわかる程度の、当然のように本物のペンギンよりも遅い歩みだ。コツがわかってきて、しっかり掌に体重を乗せてもそのくらい遅い。 そんなところを、後ろ姿をじっくり眺められて応援されている。スーツの内側にまとめられて動かない腕も、つるりとしたラバースーツに包まれて形をさらけ出したお尻も、そこから生えて構造が丸わかりの尾羽も。 前を見れば、二羽いる他のぺんぎんさんもこちらに注目していた。片や嬉しそうな、片や熱を帯びた視線の二羽は、果たしてそれがつい数十分前に熱視線を浴びせて目を合わせた女だと気付いているだろうか。仲良くはしてくれそうだけど……同類とはいえ、恥ずかしくて仕方ない。今は後ろからたくさん見られているけれど、卑猥なのは前のほうなのだ。 やがて……完全に檻の中に入って、飼育員さんが尾羽を離し床に置いたところでより大きな歓声が沸いた。それまでにもどんどん増えていたらしい観衆が、それでさらに増えていく。こんな一大イベントが、この動物園では毎日何度も起こるらしい。 見世物になっている、という実感が強まっていく。私の普段とは似ても似つかない姿が、良識ある観客たちによって人間ではないものとして、娯楽として消費されている。恥ずかしくて……ぞくぞくする。 「っ……! ぁ、っ」 「じゃあ、メタちゃん、あとはよろしく。レイアちゃんも、ユキちゃんと仲良くしてあげてね」 がしゃん、という、軽くも何が起こったかわかりやすい音が響いた。振り返るとやはり、今しがた入ってきた檻の扉が閉められている。そのまま南京錠と、さらに鎖によってしっかり施錠されていく。 閉じ込められてしまったのだ。こんな、身を隠す場所なんてほとんどない、たくさんのお客さんが通りかかる檻の中に。私は今から、ただ恥を晒し鑑賞されるための存在なのだ。 …………それを自覚した瞬間、触れられてもいない股の奥がひどく熱くなって。実感だけでイってしまったのだと、遅れて気がついた。つい昨日まで一人遊びしかしたことがなかったのに。 さすがにそれだけで背後からさらなる反応はなかった。単に震えただけで大きな声は出していないから、気付かれずに済んだようだけど……それはあくまで背後の話だ。 前方にいる二羽のぺんぎんさんは、どうやら気付いてしまったようだった。片方は微笑ましげに、もう片方は恥ずかしそうにこっちを見てきている。 どう接すればいいのかもわからなければ、どうなら交流しようがあるかもわかったものではないのだけど、まずは近付かなければ仕方ない。 どうせ動けないこともあってか奥行きはさほどないけれど、見物客の数を取れるようにか横にはやや長い。まずはそちらへ、恥ずかしいのは承知で近寄ろうとしたのだけど……。 「ひぅっ!?」 「あー……」 「ん……」 実はここまで、飼育員さんが特に気をつけてくれていたことがあった。……尾羽だ。つけるときもわざわざ優しく置かれていたし、たった今檻の中まで歩いたときにはわざわざ持たれていた。それがどうしてなのか、考えが回っていなかったのだ。 長い尾羽はアナルプラグに直に繋がっていて、ぺんぎんさんのお尻がとても低い姿勢ではそれが床についている。そのまま歩いたりすると、つまり引きずることになるわけで……その感触は、深々と咥えている肛門に直に伝わってきた。 「んっ……ぁ、ぅ……」 刺激はとても大きなものというわけではないけれど、ただでさえ不慣れな異物感がひたすら強調されるし、軽めとはいえこれだけの人目の中で快楽を与えられるのは相応に恥ずかしい。それに私は今、観客に背を向けているわけで……たぶん、全部これでもかと見えているのだろう。 様子を理解してか他の二羽は、苦笑気味に気遣ったり自分のそれに意識が向いていたり。とはいえ、結局このまま歩かないと何も変わらなくて。恥を晒し我慢しながらなんとか二羽のすぐ近くまで辿り着いた。 「よおひく、おえあいひあふ……」 「あぅ、んぁぐ。んっ」 「ん、んっ……」 二羽のうちレイアと呼ばれていた、どちらかというと余裕のない反応をしているほうは、どうやら私と同じペットプランの子だった。とはいえある程度慣れているようで、スーツは着ずにあの拘束具だけで裸は丸出しだ。見せつけるようになっている大切なところは、これも慣れなのか綺麗に剃られている。 腕も私と同じような形で拘束されて、手首から先はペンギンの羽らしい形のミトンに包まれている。嘴はなく、代わりにハーネス付きのボールギャグを嵌めていた。 もう一羽、メタさんは私と近いスーツを着ているものの……股間のあたりだけ開いていて丸出しだった。その上で比較的落ち着いているのだからよほど慣れているのだろうけど、とはいえ興奮は強めているようだからやはり同類だ。 ただ何より目を引くのは、鎖骨の下あたりについている印字だった。横書きで遠目にもわかる程度の大きさで、「飼育物」と書いてあるのだ。つまり彼女はたぶん、私たちのような客ではない。どちらかというと牧場エリアの家畜たちに近い、この施設で生活しているモノなのだろう。……屈辱的であろうその印は、少し羨ましくもある。 後から知ったところによると、見本役と希望者がいないときの最低限の見世物を兼ねているらしい。日替わりでいろいろな動物を巡っているから、それもまた常連の楽しみなのだとか。 「っ!?」 「んふ。……ん、っ」 「ぅ……?」 レイアちゃんは私より少し上手に歩いて寄ってきて、私と頬を合わせて擦り寄せてくる。その仕草は動物っぽくて可愛いものだったけど、それでまた自分も同じだと気付かされるよう。だけど、この頃にはもう私も動物扱いを楽しめるようになってきていた。 情けない見た目の交流でお互いの姿に興奮していると……ぱしゃり、と檻の外からアナログ質なシャッター音が響く。今のところ客による撮影は禁止のはずだったけど……メタさんに促されて振り返ってわかった。 飼育員さんがインスタントカメラを向けてきている。それで私を撮って、出てきた写真を何かに貼り付けていた。 それから、それ……薄いプラカードらしきものを一度こちらに見せてくれる。それを見てみると。 「っ!?」 ぞく、と。これに反応してしまうのは、この辱めを自ら望むマゾとして仕方ないことだったと思う。だって、それは私をどうしようもなく人間から遠ざけて辱めるものだったから。 動物園にはよくある、その動物の説明をする看板だ。中でもそれは、パンダやイルカのような個体ごとのキャラクターを売るタイプの動物で行われる手法。ぺんぎんさんとしての私について、個別で紹介するものだった。 私は一度目に入った時点でそのまま目を奪われていたから、すっかり見落としていたのだ。二羽の紹介は檻の端にあったのに、気付かないままここに入った。そして自分もそうして晒されることを、ここまできてようやく知った。 言うまでもないけれど、見落とした私のミスだ。それに、「何らかの形で園内に向けて、プラン内で登録した情報が公開されることがあります」とは規約にあった。それは期待すらしたのだ。ただ、心の準備ができていなかっただけで。 「あっ……」 それがよくなかった。動揺の結果として、手が滑ったのだ。拘束姿勢の中で楽をしようと、二羽もしていた後傾気味の姿勢をしていたところからそうなったら、どうなるか。 私はそのまま仰向けに転んでしまって、股間とお尻を檻のほうへ向けることになってしまった。 「っ……~~~っ!?」 とんでもなく、恥ずかしい格好だ。ただでさえ格好や扱いは恥辱的なもので、今はまだ見届けに集まった人たちが散っていないのに。人間としてのえっちなところを突き出すような姿勢で転がってしまって、他の二羽と違ってラバー越しとはいえ食い込んでいるそこを見せつける状態になっている。 しかも、尾羽はお尻の下敷きになりながら引っかかってしまっている。そのせいでアナルプラグが途中まで見えて、ちょっと気持ちいい上に孔が拡がっているところまで丸見えなのだ。当然、観客の目はこれでもかとそこに向いている……はず。私にはそれを見ることすらできず、視界には天井と二匹の顔しか映っていない。 すぐに立ち上がろうとはしているけれど、それも上手くいかない。うまくいかない。畳まれた足は床まで届くわけがないし、腕は背中にくっつけて固定された上で下敷きになっている。どれだけ頑張っても体を少し揺らすくらいにしかならないし、腕がストッパーになって横に転がることすらできない。 みっともない、無様な状態だ。それを、たくさん見られている。楽しんでもらえている。覗き込む二羽もまた、面白がって助けてくれない。……それがどれだけ私の欲を満たしてくれているか、きっと二羽には筒抜けだろう。隠すこともできなくなった興奮の吐息も、真っ赤になって涙目な顔も、全部見られているのだから。 私だって、もっと惨めになりたくて無駄な足掻きを続けているのだ。どうにもならないことなんてわかっているのに、情けないところをもっと見られたくて。 ぺんぎんさんが単に不自由で愛らしい歩き方しかできないだけでなく、いかに無様で見る者を楽しませるモノであるか。私はさっそくとことん味わって、元々尖っていた性嗜好をこれでもかと歪めることとなった。 ……ずっとそのままとはいかないこともあって、私が疲れてじたばたをやめると二羽は助け起こしてくれた。とはいえみんな拘束状態だから、背中に体を滑り込ませたり滑らないよう足……ではなく悪意に満ちたレイアちゃんによって股を押さえつけられたりの四苦八苦をこれまた見世物にしながら。 ……癖になりそうだ。夜までか翌日までかはまだ決めていないんだけど、どうしよう。