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ルフAA
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おみくじの結果を現実にする巨大巫女の話

 新しい年。日もすっかり明け、人の往来で賑わう大都会の街に、眩いばかりの光が襲う。街が本来の冬空の晴天を取り戻すと、そこには巫女装束を身に纏う巨大な少女がビルを遥かにしのぐ巨体を晒していた。 「神様と一緒に新たな年の始めを過ごせるだなんて、夢のようです♪」  白い紙で束ねた碧に輝く髪を靡かせながら、着物の交差点に出来た、大地のような膨らみに優しい微笑みを向ける巨大な巫女。そこには、黒い粒のような人型の存在が純白の大地で仁王立ちしていた。 「詣でついでに挨拶しようと思っただけだったんだが……まぁ、嬉しそうだからいいか。それでミコト、今日のために考えた遊びって何だ?」  彼女からすれば付着したゴミほどの小ささでありながら、着物と真逆の色というだけでは説明がつかない存在感を纏う、ローブ風のマントに学生帽のようなものに身を包む存在。少年らしい初々しさの残る中性的な顔と鋭い眼差しを、その巨大な顔に向けていた。 「先ほど渡したおみくじを引いて、神様は紙に書かれてある内容を読み上げて下さい♪ 後はそこから見て楽しんで頂ければ大丈夫です♪」  あれか、と言わんばかりに巨大な眼に十分伝わる頷きを見せた神と呼ばれる少年は、体を弄る様にマントを膨らませる。次に両手が出てきた時、少年が握っていたのは、両手サイズのカサカサという軽い音の鳴る木筒であった。 「これは、ミコトが作ったのか? とりあえず、一つ引いてみるか。運試しっと」  少年は軽い気持ちで箱を揺さぶると、軽い音を奏でる中身が一枚地面へと吸い込まれていった。 「はい! 神様が夜な夜な画面に向かって呟いている独り言を書いて入れてあります♪」  拾い上げた紙を開くと同時に視覚と聴覚両方にて、今更ではあるものの気恥ずかしい内容が少年を襲った。 「ささ、書かれている内容を読み上げてくださいな! 神に選ばれし使いである私、ミコトが僭越ながら神様の願いを叶えさせて頂きます♪」 「……ごほん。破壊、灰色の塔が神の天罰を受ける……カッコで”神の使い足裏でペチャンコの下敷きに♪”って……」  両手で持つ小さな紙を震わせながら、少年は伏せていた鋭い眼光を持ち上げると、吹っ切れたように叫んだ。 「最高だぞ! 流石はミコトだ!」 「光栄です神様♪ それに、神様も良い内容のくじを引いてくださいました♪ ちょうどこのビル邪魔だと思ってたんですよ……」  柔らかい言葉と、優しい笑みを残しながら上品に着物で隠し、笑う巨大巫女。視線が街へと向くと、足の動きに合わせて口元の覆いがはがれていく。自重で抉った地面を巻き上げながら、純白だった足袋が太陽を覆い隠すと、悪意に満ちた狂気的な笑みが姿を現した。 「……ね!」 ズドォォォン!! グシャァ!!  都市部の駅に聳え立ち、突出した高さを持っていた為に狙われてしまった高層駅ビル。天地がひっくり返ったと思うほどの轟音と地揺れが駅全体を襲う中、標的にされた高層ビルは、駅全体を潰してしまえるほどに巨大な純白の足裏によって、瓦礫すら残らない粉へと変えられていたのであった。  そんなたった一歩が起こした、地上での天変地異の如き惨状をよそに、遥か上空の柔らかい大地の優しい揺れに反応したのは少年であった。 「ん? もしかして、もう踏みつぶしたのか? う~ん、百倍だと倍率高すぎみたいだな。ここからじゃ、何も見えない」 「私も、胸であまり確認できてはいませんが、間違いなくビルは踏みつぶしましたよ♪ たぶん粉々です♪ あ、でも足袋だと潰した時の感触がほとんどないのが難点ですね」  目を合わせ、互いに悩む様子を見せたのも束の間、鬱憤を晴らすように筒を振ると、勢いそのままに出てきた紙を読み上げた。 「よし、次! ”崩壊、五本の使いが街を襲う”、だ!」 「ちゃんと、カッコ書きの部分も呼んで下さいな♪ ”自慢の長い指と大きな手で潰しちゃいます♪” って♪」  訂正しながらゆっくりと、胸の水平を保つように腰を落とすミコト。膝とつま先で体を支える体勢でしゃがむその姿は、巫女装束の和装と相まって、殿の傍に強かに控える従者のようであった。余りにも巨大でなければ誰もが惚れ惚れする、美しき大和撫子は胸の上に存在する主人に不快な揺れが起きないように、手を地面に近づけていった。 「先ほどの反省を踏まえまして、こういうのはどうでしょうか?」  目星を付けていた場所に向かって、スラリと伸びた腕を伸ばす。手を皿のようにして、地面に指先を当てると、柔らかい砂場のように容易く地面に沈み込んでいった。  巨大な指先が、ワームの如く地面に消えた場所から、三軒程となりにあった雑居ビルが突如崩れ始める。崩壊した瓦礫をかき分けて現れた、蛇を彷彿とさせる色白の巨大生物を前に、周辺の人々は圧倒的な恐怖に怯え腰を抜かしていた。だが、それは自らの終わりではなく、絶望の始まりであると理解したものは誰一人として存在していなかった。  突如現れ鎮座する、蛇型の巨大生物が見下ろす街の一部を、立っていられないような地揺れが大地を襲う。それが、大地から空へと持ち上がることによる揺れであることなど、誰も予想できるはずがなかった。  崩壊しないように慎重に持ち上がっていく、コンビニや雑居ビルを始めとした多くの住民が集う街の一部。上昇が止まったのは、雲にしてはハッキリとしすぎる白を映し出す空に浮かぶ大地であった。 「海の中から街を見てるみたいな気分だ。うむ。映像で見てる時も思うが、遠近感とサイズ感のせいで本当に玩具にしか見えないな」 「何を仰ってるんですか、”玩具みたい”、じゃなくて”玩具”です♪ 神様♪」  街の対岸に位置する点というべき小さな存在。そんな彼の気分や一声によって、美しき巫女装束の女神が、その場に住む数万の命を消し飛ばす準備が整えられていた。 「さ、神様♪ ”コレ”いかがなさいますか? 握り潰しますか♪ それとも、挟み潰しますか♪」  遥か彼方にも、目と鼻の先にも見える街の一部を、少年は見定めるように鋭い眼光で見つめる。最終的に彼ら数万の運命を決めたのは、神と呼ばれるモノの気まぐれであった。 「この距離で見れる貴重なシチュ。悩むが……そうだな……。せっかくだし、それもこのおみくじを使うとするか。振って落ちてきた紙が、表か裏で決めるとしよう」 「はい、次の内容も確認できて一石二鳥ですね♪ では、表が出たら握り潰す事にしましょう♪」  街はもちろん、その場に存在する人間の命の重みを、ゴミほども感じていない二人は、楽し気な様子で、未だ揺れから立ち直ることすら出来ていない天空都市に囚われた人々の運命を決めていた。  少年が慣れたといわんばかりの手つきで、筒から雑に振り落とすように紙を一枚取り出すと、それは巨大巫女の着物と同化しそうなほどに一面の白であった。 「何も書かれていないってことは、裏ですね♪」  変わらぬ猫撫で声のような甘い口調と満面の笑みを、自らの豊満な胸へと向けたミコトは、揺れを最小限に抑えるために添えていた、もう一つの手を大気をかき分けながら動かし始めた。  天に最も近い浮遊都市となった、数万人が囚われる切り取られた街。明るさだけが最後の希望となっていた絶望のその地に、潰されそうな程に分厚い暗雲が濃い影を落とす。住人達はそれが、街を支える大地と同じ存在であることを、認識すら出来ていなかった。 「それでは、私の手より小さな街が磨り潰されるところ♪ じっくりと堪能下さいませ♪」  巨大巫女による、声色に反した冷ややかな視線が街に注がれる。すると、その瞬間から重厚な門が閉まるようなゆっくりとした動きで、空が降り始めたのであった。  手のひらサイズの街で最も高かったが故に最初の犠牲者となったのは、持ち上げられた際に出入口を封鎖された、客を多く取り込んだままの複合施設であった。  惑星にも匹敵する質量を持つ、巫女の色白肌の手によって、人間が行う解体作業が児戯としか思えない圧倒的な強さを見せつけるミコト。触れた瞬間から、瓦礫と呼ぶのもおこがましい粒へと高層の建物を蹂躙していく中で、人の存在が彼女のモチ柔で分厚い皮膚の奥にある神経を刺激することはなかった。 「す、凄い迫力だな……! まさに神の、人知を遥かに超えた女神の裁き、って感じでいいぞ!」  その場に居れば、巨大巫女に認知されることすら叶わぬ、点以下の大きさの少年。そんな彼が興奮しながら視線を注ぐ先では、次々と人類の英知の結晶である鋼鉄の建築物が、砂で立てられた遊びであったかの如く潰されていた。やっとの思いで、動けるようになった群衆も右往左往という動きだけで、街の阿鼻叫喚さを示す以外に何の意味も抵抗も存在しなかった。 「ふん♪ せっかくたくさん建物がある部分にしたのに、立派なのは見た目だけ。結局はちょっとザラザラしているだけで、潰し甲斐が無いわね。まぁ、神様は喜んでいただけたようですし♪ 良かったです♪」  少年の目線の先。地平線に広がっていた街は、気が付けば二つの巨大な手の形をした大地が重なる場所へと変わってしまっていた。  街とも呼べなくなった粒に追い打ちをかけるように、完全に重なり合った手のひらを左右に動かすミコト。手から何も落ちなくなるまで続けられたその動きが終わると、泥だらけの手を見せる無邪気な子供のように、上胸の存在に見せつけたのだった。 「ほらほら♪ 見てください神様♪ 跡形もなく磨り潰しちゃいました♪」  手のひらに存在する皺に飲み込まれた黒い粒だけを残す汚れが、手の上に存在した数万の命と建築物の慣れの果てだという実感を持たないまま、曖昧な圧倒感にだけ酔う二人の、人知を超えた主従。 「でも余り楽しめなかったので、今度は高層ビルがいっぱい建ってる場所でやってみたいです♪」  言葉を発することの出来ない興奮に目だけを輝かせる少年の意思を汲み取ったのか、趣旨を忘れた巨大巫女は次の提案と同時に実行に移そうとしていた。  長らく無理な体勢でしゃがんでいたミコトが、移動のために立ち上がろうとした、その時であった。 「あっちのほうにいい場所があったので、次は指一本ずつで楽し……んあっ!♡」  ブゴォォォォフゥゥゥ!!!!  魅惑的で、一般的に見ても少し大き目なサイズである彼女の尻。その奥で溜められたガスが、天地を揺るがす轟音と、核爆発にも匹敵する爆風を伴って、億単位の人間が平和に暮らす街を襲った。それは真っ赤に輝く、分厚い生地で作られた袴に包まれてなお形の美しさを保つモノを、体勢を変える都合上、大きく突き出した結果であった。 (うわ〜うっかりとはいえ、中々エグイオナラ出ちゃったな~ ……じゃなくて! や、やばいって! 自分で言うのもアレだけどっ! 昨日食べた物からして、凄い臭くて濃いはずだよ! うぅ、小さな神様が嗅いだら大変なことになっちゃうよぉ!)  未だ肛門に心地よい風を感じている程の刹那の時間。ミコトはパニックな感情と冷静さを一瞬にして脳内に作り上げる。彼女の思考が導き出した最優先事項を達成するために選んだ選択は、ガスの届かない高さへ少年を持ち上げると同時に、今の出来事の存在自体を無にすることであった。 「今何か凄い音……」  純粋に少年の命令であればミコトは、彼の目の前で放屁はもちろん排泄であっても、極小サイズとは言え、何億という人間に見られていても喜んで行っていただろう。しかし予期せぬ、かつ神とまで慕う主人が自らが作りだした激臭に包まれることの嫌悪感が、彼女の冷静さを奪っていた。 「あ! ほ、ほら神様! やっぱ手だけじゃなくて、色々楽しみたいですよね! 先ほど引かれたおみくじ! それか、もうおみくじも無視して暴れちゃおうかな~なんて! ね!?」  巨大巫女である自らが放った特大放屁の威力を十分に理解しているミコトはすぐさま、次の動きに出る。その一撃をもろに受けた街や人々のことなど、一ミリも脳に入っていなかった。  犠牲になったのは、彼女たちが玩具にしていた街の隣であり、巨大巫女の背中によって常夜となっていた都心部であった。陰になることで、揺れの我慢で命の安寧を享受出来ると喜び落ち着きを取り戻していた時に、その悲劇が襲った。  彼ら人類が到底築き上げることの出来ない、ビルをも砕き、どんなシェルターよりも分厚く頑丈な素材で作られた紅に輝く防壁をいとも容易く突破し、大暴風が街を一瞬にして消滅させたのである。  頑強な高層建築物をもみ潰し、何百万という命を破片すら残さず消滅させていく。そこに残った、毒ガス兵器が香水にすら思えるような濃厚な激臭が、爆風の被害を受けなかった場所へじわじわと浸食し、残りの命を刈り取っていくのであった。  それが一人の巫女装束を着た少女のうっかり出てしまったオナラが生み出した惨状であった。  そんな凄惨な状況が直ぐ近くにあっても、ミコトは数億の命より、目の前の一人を助けるべく、慌てた口調と巨大すぎる顔で少年に圧をかけると同時に、高速で立ち上がる。  彼女の足の直ぐ後ろにある、消すことの出来ない巨大なクレーターと、猛毒ガスが作り上げた霧で形作られた世紀末世界。そこに、追い打ちをかけるように、落ち着きのない足で踏み鳴らしながら、ミコトは残った集中力を胸元へと向けた。 「あわわ! と、とりあえずこれは、私が読み上げますね~!」  少年を子虫の如く容易く叩き潰せてしまえる巨大な指先が、彼の目と鼻の先に降る。サイズ差を考えても、木端微塵に消えたか指紋に飲み込まれているはずの紙を、指先を見つめながら、書かれている内容らしき言葉を並べた。 「え~っと! もっと大きくなって大陸ごと潰してやる! って、て書いてますね! よぉし巨大化しますよ!」  本音のような力強さと気持ちのこもった言葉を飛ばすと同時に、胸元に乗っていた黒い点が、繊維に埋まる垢汚れ程度の大きさに変わっていく。それほどの大きさとなった彼女の姿は、地面からは幻覚以外にあり得ない途方もない紅の壁となって君臨していた。  大気を変えながら持ち上げられた足が地面へと叩き付けられる。その瞬間から人類の滅亡が決定したのであった。 「えいっ! えいっ! 臭いガスと一緒に埋まってろ! 一生出てくんなよ!」  ズゴォォォォン!! ドゴォォォォン!! ズゴォォォォン!!  テラサイズの超巨大巫女の執拗なまでの踏みつけは、水溜まり程度の深さしかない海に大陸を沈め、マントルが噴き出してきた。 「ふぅ〜あ、あちゃ〜やりすぎちゃったかな? え、何ですか神様? ちっさくなりすぎて、分からないですね。とりあえず帰りましょっか。リセットして、次の機会にゆっくり遊びましょ♪ 神様♪」  衛星写真で見てもギリギリ分からない程の、足袋を象った島を複数作り上げた超巨大巫女。新年早々人類を滅亡させたにも関わらず、次の”遊び”を想像しながら帰路につくミコトは、何事ともなかったかのように少年との会話を始めていた。  そんな途方もないサイズ差でありながら、絶対的な関係を持つ男女が去っていく、背後に一枚。選別ともいうべき紙がひらりと天地創造後の惨状となった世界に落ちた。よく見ると、破れているその紙には大きく”大凶”の文字が書かれていたのであった。


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