フットカフェ3
Added 2026-01-31 14:56:07 +0000 UTCこんにちは。 今回はフットカフェの続きになります。 体調崩してしまって、少し短めです。申し訳ありません。。 次回で完結予定になります。 よろしくお願いします。 ーーーーーーーーーーーーーーー あれから数日が経ち。 3回目のバイトの日がやってきた。 春樹は起床後も天井を見上げたまま、茶色の天井の木目の模様を、ぼんやりと見つめる。 今日で、三回目。 (……これで、終わるんだよな……) 心の中で何度も何度も繰り返す。 あれから、改めて契約書の写しも確認した。 ———三回の勤務を完了した以降は、契約を解除することが可能 (法的なことはあまり詳しくないが、これで、終わりのはずだ......) 巨大な足になすすべもなく、従わされる。 あの踏みつけられたときの、何も出来ずに、ただ足裏の空気を吸うだけの存在にさせられる状況が、またやってくるのだ。 (…………あと一度耐えれば……) 意を決して身体を起こし、重い足取りで洗面台へ向かった。 鏡の中の自分と目が合う。 思わず息を飲んだ。 (……これ、俺の顔か……) 目の下の隈が、以前よりも濃い。 頬もこけている気がする。 (終わったら、全部忘れよう) ⸻ バイトの時間になり、カフェのドアを開けた瞬間、消毒液の香りが鼻をくすぐる。 清潔な香りのはずなのに、何故か、視界に巨大な足が見えた気がした。 (……落ち着け。大丈夫。もうすぐ終わる。今日で終わるんだ) 胸に手を当てて深呼吸し、足を進める。 カウンターの奥に立っていたのは、いつもの白衣の女性だった。 「こんにちは、春樹さん」 「……こんにちは」 「本日も、凛様の予約となっております」 (……また、あいつか) 血の気が引いていく。 あの少女の顔と声、白ソックスの裏側が、思わず脳裏に浮かんだ。 「……あの....今日で……最後、ですよね?」 「はい、本日の業務が終われば、後はバイトの参加は任意になります」 「……分かりました……」 「では、こちらをどうぞ」 いつもの錠剤が差し出された。 (……これを飲んだら、またあの何もかもが巨大な世界が......) 喉がごくりと鳴り、指先に、冷たい汗が滲む。 (…………飲むしかない) 一瞬だけ目を閉じて、呼吸を整える。 そして、一緒に差し出された水と共に、春樹は錠剤をごくり、と、喉の奥へ流し込んだ。 その瞬間、全身が熱を持ち始め、視界が歪む。 三度目の、地獄の始まりだった。 ⸻ 縮小の感覚には、もう驚きはなかった。 身体の芯が熱を帯び、骨が軋むような感覚とともに視界がゆがんでいく。 世界が引き延ばされ、自分だけがどんどん小さくなっていく。 そして、意識がはっきりしてくる頃には、春樹はすでに冷たい床の上に横たわっていた。 辺りを見渡すと、見慣れた巨大な家具たち。 天井は遥か頭上に、まるで空のように遠い。 すると目の前に、塔のようにそびえ立つ2つの黒いブーツが現れ、春樹は思わず腰が抜けて、尻餅をついた。 「……うわぁっ!!」 ゆっくりと顔を上げると、巨大な彼女の顔が、こちらを見下ろしていた。 「……あ、やっと起きた?遅いぞー?……蹴ろうかと思った。」 茶化すような声で、しかしその言葉にほんの少しの本気を感じて、春樹は反射的に身をすくめる。 凛はそんな様子を見て、にやりと口元を歪める。 「久しぶり〜。私の足に会えなくて、寂しかったでしょ? ふふっ」 からかい混じりの問いかけと同時に、右のブーツがゆっくりと持ち上がる。 「……ひっ!!」 頭上いっぱいに広がる、ブーツの靴底。 底面を見上げると、そこには、外を歩いたであろう痕跡、黒ずんだガムの欠片、土埃、砂利や糸屑などがこびりついていた。 その圧倒的な存在感と汚れに、春樹は思わず一歩、後ずさる。 「……ん? なーに、その顔」 凛の目が細められる。 口元には意地の悪い笑みが浮かんでいる。 「この前、あれだけ遊んだじゃん♪今さら怖いとかないでしょ?」 右足のブーツの踵が床にトン、と下ろされ、つま先が左右に軽やかに揺れる。 ぶんぶんと、まるで巨大なペットが尻尾を振っているかのようだった。 「ほら、久しぶり〜って言ってるよ♪」 嬉しそうに、楽しげに話す。 「………….」 「……挨拶。返さないの?」 なんの反応もしない春樹に、凛の瞳が細くなる。 春樹はじっと見つめるその目に、背筋が凍るような圧を感じた。 「……っ、ひ……」 声が、喉の奥で詰まる。 喋ろうとしても、震えるばかりで音にならない。 その様子に、凛は肩をすくめ、くすりと笑う。 「ま、いいや」 靴底が床を叩く音とともに、動きが止まった。 「今日はね、今後のためにいくつかテストするから」 「……テスト……?」 春樹の胸がざわつく。目の前の少女の言葉が、しっかり理解できない。 「……きょ、今日で、終わりじゃないのか?」 震える声で尋ねると、凛はわざとらしく首を傾けた。 「んー?それは、今日のテスト次第、かな?」 悪びれもせず、にやにやと笑う。 「……なんだよ、それ……」 「じゃあ早速、まずは、食事のテストだよ」 (食事の、テスト?) 意図が理解できない。 「……この……大きさで、何かを食べるってことか……?」 春樹はよくわからず、聞き返す。 しかし凛は、迷うことなくコクリと頷いた。 「うん、そう。ちなみに……」 一拍置いて、にっこり笑う。 「もう料理はできてるから♪」 春樹の中で、いやな予感が急速に膨らむ。 「……え?どこに……?」 問い終えるより先に、凛はゆっくりと片足を持ち上げた。 ブーツに覆われた足。そのブーツを—— ——ゴトっ 何のためらいもなく、床に脱ぎ捨てた。 凛の裸足が顕になる。 もわぁ…… 「……っ!」 空気が、変わった。 生ぬるくて湿った、鼻の奥を刺激する酸っぱい臭い。 さっきまで密閉されていたブーツの中から、蒸れと共に解き放たれた悪臭が、辺りを一気に包んだ。 (……こいつ……裸足で、ずっとブーツ履いてたのか……?くっっっさ……) 春樹は本能的に鼻をつまみたくなったが、それすら躊躇って、代わりに浅く呼吸を止めた。 そして、その凛の左足が、ゆっくりとこちらへ向けられる。 むき出しの、湿気を帯びた素足が、まるで何かを見せつけるように高く持ち上げられ、春樹の真上へと差し出された。 「え……?」 春樹は思わず、じっと見上げた。 足裏には……点々と、黒ずんだ塊。 土踏まず、指の付け根、踵の側面に、潰れた小さな粒が、いくつもこびりついている。 ところどころ潰れて広がって、皮膚にしっかりと貼りついていた。 (……あれ……なんだ……?垢……?) 見た瞬間、思考が固まった。 言葉が、脳から逃げていく。 凛は、春樹の顔を覗き込むようにして、くすっと笑った。 「……分かんない?」 そして、まるで秘密を打ち明けるかのような声で、楽しげに続ける。 「今日の朝ね。何粒か、ブーツの中に米粒入れておいたの」 「…………は?」 「ほら♪」 凛はさらに足を近づける。 黒く変色した粒が、すぐ目の前に現れた。 「汗も染みて、中敷と潰れて、皮脂と混ざって……いい感じに、味ついてると思うよ?」 春樹は、思わず信じられないものを見るように、凛の顔を見た。 彼女は無邪気に微笑んでいた。 (……こいつ……正気か……?) 「さ、召し上がれ♪」 春樹は、じっと遥か頭上の凛を睨みつける。 まさか、こんなことをさせられるとは、春樹も想像していなかったのだ。 「……なに、その顔」 凛は、春樹の反抗的な態度に、若干不機嫌そうに声を荒げる。 「……こ、これを……食えって……?」 春樹の声が震える。 怒りと屈辱と、そしてわずかな恐怖が混じっていた。 「そう。別に、今さらでしょ?前に足指にキスしてたじゃん?」 凛はわざとらしく首を傾げ、つま先を軽く揺らした。 「ほら、契約なんだからさ、ちゃんと従わなきゃ。ね?」 その瞬間、足がぐっと前へと差し出される。 むわぁぁぁぁ…… 鼻の奥を突く、強烈な酸味と汗の混じった臭い。 黒ずんだ塊が、春樹の目の前、ほんの数センチの距離に迫る。 「……うっ……おえっ……!」 胃の奥が跳ねる。 思わず吐き気を催し、春樹はその場にしゃがみ込んだ。 しかし——頭上を覆う足は、動かない。 逃げ場は、ない。 「ほら。食べなさい♪」 朗らかなその一言に、春樹の全身がピクリと震える。 「……無理、だ……」 声は、かすれた。 いや、否定するのがやっとだった。 (何が……食事だよ……こんなもん、食べ物じゃねぇ……) 喉の奥がヒクつき、体が拒絶する。 ——その瞬間。 空気が、変わった。 部屋の温度がすっと下がったような、そんな錯覚。 「……はぁ〜」 凛は、わざとらしく大きなため息をついた。 「……もう、いい加減にしなさい」 ズッ…… 足裏が、春樹を包むように、覆い被さっていく。 そして、床に押し付けるように圧が加わった。 「ぐっ……!?」 一気に息が詰まり、体が押し潰される。 肺が押しつぶされ、ろくに息も吸えなくなる。 「おら、食えよ」 低い声の、短い命令。 ズ……ズズ……と、足裏が、さらに押し込まれる。 床と凛の足裏、その間に挟まれた春樹の身体は、紙のように潰されていく。 「……っ、つ、潰れる……し、死ぬ……!!」 「ほらほら〜……潰れるのが先か、食べるのが先か。ま、私はどっちでもいいけど?」 凛の声は、まるで本当にどうでもいいことのように淡々としていた。 (殺す気か……こいつ……) 春樹は、震えながら、なんとか顔を動かし、足裏にこびりついた黒い塊に、視線を向ける。 (こんなもん……食えるかよ……) けれど、選択肢はない。 潰れるか、食べるか。 春樹は、恐怖と苦しさの中で、震える唇を黒い塊に近づける。 そして、意を決して—— ——そっと、唇でそれを剥がし取り、口の中へと運んだ。 (……!!???) 瞬間、腐った酸味と、汗の塩気が混じったような、舌を突き刺す味が、舌に広がった。 遅れて、強烈な苦味が押し寄せる。 (……おえっ……!!!) 全身が痙攣するように跳ねる。 「……っ、う……!」 胃が暴れ出す。喉が逆流しそうになる。 だが—— 「吐くな」 凛の声が、静かに頭上から降ってきた。 「ちゃんと飲み込みなさい。見てるから」 なんとか顔をあげ見上げると、足は横にずれ、凛が春樹の顔をまっすぐに見つめていた。 逃げられない。見られている。 (……やめろ……見んな……) 春樹は震えながら、吐き出したい気持ちを必死に抑え、口の中の異物を、どうにか飲み込もうとする。 ——ゴクリ。 喉がひくつく。 数度えずきながらも、ようやく塊が胃へと落ちていった。 「……っ、はぁ……はぁ」 膝から崩れ落ち、肩で息をする。 冷や汗が背中を伝い、全身が震えて止まらない。 凛はそんな春樹の様子をじっと見つめていた。 しばらくして、満足そうに、軽く頷く。 「うん。まぁ……慣れればいけそうね」 「……は……?」 (慣れる……? あんなもんに……?) 春樹の中にあった理性が、崩れていく。 「じゃ、次のテストしよっか♪」 そう言って、凛は立ち上がる。 春樹の頭の中が、ぐらりと揺れる。 (……まだあるのか……? こんなのがテスト? ……これはいったい……何なんだよ……) そう思いながらも、春樹は逃げることもできず、 ただ黙って、凛の課す次のテストを受けるのだった。