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満腹食堂(無料公開分)

私は八神詩織。現在大学4年生の冬休みを迎えている。 適当に地方の不動産業界に就職を決め、人生最後の夏休みをどう彩ろうかと必死に頭を抱えていたのであった。 私は4年間、まあそれなりに適当な学生生活を送ってきた自負がある。田舎から上京し一人暮らしをし、特段バイトを頑張るというわけでもなく、授業も就職も適当だ。就活期の多大なる自己分析の末、私八神は適当な人間なんだという結論に至ったのである。 お金が貰えないなら働きたくもないし、かといって別に特段上昇志向があるわけでもない…仮に働けずに暮らせるのであれば、私はそれで良いやと堕落の日々を平気で過ごしてしまうような人間なのだろう。 家のソファーでなにか面白そうな事がないかとネットサーフィンに明け暮れていたところ、都心から片道2時間半程、所謂温泉街に目を引く旅館があった。満腹旅館という旅館だ。 私八神の他の人と違う特技、それは大食いである。恥ずかしいし、ヤバいので、周りの人間には隠して生きているのだが、食べるのが大好きで、バイト代は月に一度のご褒美として大食いに殆ど全部使ってしまうくらいなのだ。 数あるメガ盛りラーメン店や、学生応援のメガ盛り点等、恥ずかしながら、4年間でそういった類の店は殆ど行き尽くしてしまったところであった。普段はバイトだの学校だの、色んなことを考えて多少大食いをセーブしていた節がある。 というのも、大食い後の油でギトギトになった口臭は常軌を逸しており、ちょっと眠くなる講義であくびなんてしてしまったら、周囲の学生が鼻を摘んでしまうし、食べた後のお腹は妊婦並みで済めば良い方のため、夏場の薄着の時なんてお腹を隠せずにとても恥ずかしい思いをした。それ以来夏場では家で食べることにしようと決意したという苦い思い出がある。 といった事情?もあり、これまで量自体はセーブせざるを得ない状況が続き、メガ盛りメニューの食事を楽しむ、という側面の方が強かった大食いであったが、今は春休みという事もあり、先月から量をセーブせずに限界への挑戦を行っていたのであった。私の都内のメガ盛り点をまとめた挑戦ノートのうち、試しに1日に3件一緒にいって見た事があった。私自体は久しぶりの膨張感で幸せだった。 のだが、私が本気を出した常軌を逸した食事は多分に周りの目線を集めてしまう。歌舞伎の見栄のように。私は役者でもなんでもなく、人から見られたりするのは苦手な方だ。そのため、どこか完全に人から見られない場所で大食いでもできないかと思っていたところなのであった。 「へー。良いじゃんここ」 温泉付きの一泊2食だそうだ。 1食2キロから!お客様の希望に合わせて増加可能!ご利用料金は要相談となります。 なんと魅力的なキャッチフレーズなのだろうか。私は食べ終わったポテチの袋をゴミ箱に投げ捨てて、旅館に電話をかけた。 「もしもし?ホームページ見て泊まりたいなって思って電話しております」 「ご利用ですね?お名前お伺いしても?」 「八神詩織です。」 「はい。ありがとうございます。通常の宿泊でしょうか?……ホームページ見られたということは、大食いの方でしょうか?」 「あ、えっと…はい!そうです。大食いです!」 「分かりました。ご宿泊はいつ頃を検討されていますか?」 二週間後の2月の下旬を予約した。この期間であれば卒業式にも影響がない。この旅館では通常の宿泊も受け付けているが、大食いでのご利用の場合、部屋も風呂も分けられるとのことで、大変ありがたい仕様になっている。 「お食事の量に関してですが…メールでのやり取りを行なっております。ホームページにあるURLからよろしくお願いします。」 「はあい。楽しみにしてます」 電話は終了。久しぶりの手応えににやけが止まらなかった。 「やば。なんか楽しみになってきたな…お腹空いてきちゃった。」 「……けど!我慢!!」 私は我慢のためにマンションを出て最寄りの公園へ向かった。暖房代の節約のため、家でもコートを羽織っているから、公園まで衝動のままに直行できるスタイルを取っている。 鳴るお腹をなんとか抑えようと水をガブ飲みする。ちょっとしか出ない水にイライラして水圧を上げては、口の中で逆噴射してしまった。 「ゲホッゲホッ……」 「ねえお母さん?あれなに?」 「み、見ちゃダメよ…」 通りすがりのお母様にヤバい奴扱いされ、冬の寒さが身体に染みてきてしまった。この戦法もそろそろ限界が近い。 「寒っ……お腹タポタポする…」 腹の虫が鳴り止むまでに凄まじい量の水を飲んだ自覚がある。歩くだけで胃の中の水が音を立てて身体と共に振動してしまう。 まあ良いや…お腹はなんとかなったし… 部屋に戻り、電話で言っていたURLをクリックした。 ※本旅館では食事をお残しになられた場合量に応じた迷惑料を頂きます。そのため、特段人よりも大食いだという自覚のない方はご利用は2キロをお勧めします。残された場合、その日のうちに食べ切っていただければ大丈夫ですが、日を跨いでも食事が残されていた場合、迷惑料をいただきます。 利用 個人 団体 ※個人でのご利用の場合、希望される量によっては事前確認を頂く場合がございます。 んー、個人っと。 お食事を希望される時間とお食事量 ※昼、夜と二つセッティングいただけます。片方のみの希望も可能です。 昼  〇〇キロ 夜  〇〇キロ うーん…悩ましいな…何キロにしよう… 宿泊当日。満腹旅館の前にスーツケースを持って私は来ていた。中には着替えと、バスタオルと洗顔用具、胃薬とスマホの充電器とメイク用品と… まずは昼食が待っている。部屋に入り荷物を広げて浴衣に着替えて食堂へ向かった。 「お待たせ致しました。ごゆっくりどうぞ。」   目の前に置かれたのは、私の肩幅と同じくらいもあって胸元まで盛られている山盛りの炒飯である。その脇には手のひらで掴めないくらいの豚カツと唐揚げが並んでいた。私は浴衣の帯を予め緩めておいて、いただきますの挨拶を済ませて、食事に向かっていくのであった。 「うへえ…こんな注文どんな化け物が来るかと思ったら…中々な別嬪さんじゃないすか…本当に食えるんですかね?」 「黙ってアフターの奴作っとけ?俺には分かるぞ。あの子はガチもんだよ」 「ガチもん?この前のYouTube?だったかのために撮影してた人もめっちゃ食ってましたけど、その人達はガチもんじゃないんすか?」 「まあ見てなって。」 口いっぱいを広げても入りきらないような大きさのスプーンを使って、揚げ物をおかずに炒飯をかきこんでいった。 美味!!すごい美味しい!! カツも唐揚げも炒飯と同じ容量で減っていく。机から胸元まであったはずの炒飯はみるみるうちに口に入っていった。 「ええ!?マジすか?もうすぐアフターでるじゃん!ちょっと待ってくださいよ!まだ1時間くらいしか経ってないですよ?」 厨房の人達が私の食事を実況していた。 「だから作っとけって言ったろ?」 大皿を手に持って残りの炒飯をかき込み、空皿を机の上に置くのに時間は大してかからなかった。 「ゲフゥ…すいません!アフターお願いしゲエエエップ!!!」 「はい!かしこまりました!」 「ふう…美味しかった…」 お腹周りが苦しかったので、浴衣の帯をさらに緩めた。結構お腹が前に出てきているので、着付けが合わずに脚が露出してしまう。 炒飯は全部で8キロで、おかずのカツと唐揚げは合わせて4キロくらいだろうか。アフターが来るまでにお腹をさすり、呼吸を整えるために水を飲んだ。椅子を引いて立ち上がって、5センチほどのジャンプを数回した。 「お待たせしました。アフターのラーメンになります」 髪を結び直してアフターのラーメンに向かうのであった。 「ズズズズズズズズズズズズズズズズズズ!!!!!!!!!!」 麺を啜る音に応じてお腹もミシミシと音を立てて大きく膨らんでいく。頬張りながら着付けの帯を外し、羽織りのような形になっていた。膨らむお腹に対して帯が邪魔すぎるため、いつかはこうなるとは思っていた。 「グビ!グビ!グビ!グビ!グビ!」 ラーメンのスープも飲み干し、5キロもあるはずのラーメンはあっという間に空の器になっていた。 「ごちそうさまでしたあ!!」 ぱちぱちぱちとスタッフから拍手が鳴り響き、口元をタオルで拭きながら、自分のお腹を軽く撫で回しながら呼吸を整えていた。 「ふう…食べたあ…久しぶりだよこのお腹の感じ…」 パンパンお腹を叩くと帰ってくるのは重量感と張りのある振動であった。 昼食だけで18キロを平らげた。スタッフが心配して駆け寄るので、私は大丈夫だと言わんばかりにお腹を抱えて立ち上がってみせた。着付けとかもうへったくれもなく、下の下着とかも丸見えだったが、それよりも前に膨張した胃袋によって、下着は辛うじて腰に掴まっているような状態であった。私の胸と同じくらいまで突き出たお腹は、大食いチャレンジで大食いタレントがサービスで見せるようなものとは比較にならず、スイカ一つを丸々飲み込んだのかと言わんばかりの大きさであった。 スタッフにも和かにお腹をパンパンと叩いてみせ、 「……失礼しました。お風呂の方いつでも沸いておられます。晩御飯になりましたらお声掛け致しますので、ごゆっくりどうぞ…」 ズシン!ズシンとこれまで食べてきたものの重みを感じる怪獣のような足運びで食堂を後にした。 シチュエーション等気に入りましたら、ご支援いただけると全文をお読みいただけます。


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