(12)
武田はイノシシみてえに俺の体めがけて突進してきた。
屹立した股間の竿は腹とぶつかって窮屈そうだ。極度の集中状態に入った俺には、鈴口からあふれた先走りがキラキラと光るのがスローモーションで見えた。
武田の気迫には鬼気迫るものがあった。飢えた獣が獲物に向かっていくような、剥き出しの気迫。
油断してたら、そのまま押し倒されて犯されちまう…。
俺の心は、一瞬、そんな思いにひるんだ。
ちょっと前に読んだ漫画で、試合に負けたプロレスラーが、衆目の前でそのまま犯されちまうというのがあった(薄い本でもエロ漫画でもない、ホラー漫画の大御所が描いたSF漫画だったが、たまたまそういう描写があったのだ)。その生々しいシーンが脳裏をよぎった。
ヤるか、ヤられるか―。
勝負ってのは、つきつめれば、そこに集約される。勝った方は、負けた方の絶対的優位に立つ。負けたら犯されたって文句は言えないほど、勝負は厳粛なものだ(と俺は思う。ま、あくまで仮定の話で、実際に犯されたら大問題だが)。
だが、そんな極限状態に置かれることで、自分でも思ってもみなかった力が引き出せることがある。
俺は、全身にいっそうの力をみなぎらせた。武田の巨大はすぐそこに迫り、ついに俺の体に衝突した。
ドスン………。
俺の体に、強い衝撃が走る。こいつ、なんて力だ! 骨が砕けちまそうだ。だが、俺は歯を食いしばって、一歩も動かず持ちこたえた。
武田は俺の胸に顔をあずけ、ぐいぐいとものすごい力で押してくる。
ちょっと伸びた武田のイガグリ頭がチクチクする。まるで針金のような硬さだ。俺は武田の巨体に押され、じりじりと土俵際に後退していく。
(このままだと押し出されちまう・・・!)
いつもならここで廻しを掴んで反撃に出るところだが、今回はその手は使えない。どうする…?
俺は戦況を分析した。そして、あることに気がついた。
ヒントは、いつもの練習との違和感にあった。
本来、武田の得意技は寄り切りだ。相手の腰をがっつり掴み、体を密着させて土俵際に追いやる。寄り切りでは、武田の巨体と体重が、大きな武器となる。
だが、今回、こいつは頭を胸にぶつける押し出しで乗り切ろうとしている。これはこれで強力だが、寄り切りほどの力は出せない。
(得意技を使ってこない理由は、おそらく…)
逆転の方策をつかんだ俺は、後ろに倒れ込むように体の力を抜いた。
武田はふいをつかれ、体のバランスを崩す。
この時、武田が俺の体に覆いかぶさってくれば、このまま俺の体は土俵について俺が負けになっていたはずだ。
だが、武田は逆に体をのけぞって後退した。
(やっぱり、思った通りだ…!)
俺はニヤリと不敵な笑みを浮かべ、武田をにらみつけた。
(続く)