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けもケット13 サンプル③

こんにちは〜〜ぱぱを🐼🐾です。早いもので新刊の告知も三作目となりました。今回もちょっとばかしお楽しみいただければなと思います。



……と、その前に!


印刷所のデザイナーさんに頼んでいた新刊の表紙デザインが送り付けられてきたので、これで本の紹介ができそうです。というわけで――。











新刊「春来たる」が5月6日のけもケット13にて初お披露目となります!


本のタイトルめっちゃ悩んでこれにしちゃったんですが、とってもいい感じに春を表現してくださってありがたい限り……。毎回印刷所のデザイナーさんには頭が上がりません。前回の新刊は装丁もめちゃくちゃ凝っていたので、今回はどんな装丁で会場に搬入されてくるのか今から楽しみです。自宅へ先に送りつけるとかそういうのはしてないので、毎回会場の自分のスペースで段ボールを開けるまでどう仕上がっているのかわからんのです。いや〜〜これがイベントの醍醐味ですなぁ!


ちなみに熊おっさんの地下足袋に顔面突っ込ませるみたいなドギツイマニアックなヤツは入れてないので、物足りないと思ったらごめんなさい。でも雄臭要素はいつも通りたくさん入ってます。ふふん。これがないと私、小説書けないので。獣人おっさんは雄臭くてなんぼ。結果的に甘くて、しょっぱくて、不思議な味の本になりそうですねこれ。


お値段などはちょっと今頭の中で絶賛会議中ですので、お品書きはもうしばらくお待ちいただけますと幸いです!他にも準備している頒布物もあります故……。




さて、話を戻します!今回は温泉旅行へ行く人間くんのお話です。仕事で体がボロボロの彼がこの旅行で少しでも癒されると良いのですが……さてはて。何やら黒毛の獣人が出てくるようですよ。


ではでは、また次のサンプルでお会いしましょう!残すところ、あと2作品です🐼



※以下、サンプル本編。

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温泉旅館 -碧-(へき)

****



 世間は冷たい。何をどうしたらこんなに若者の給料が低くなるのか。僕、別に悪いことなんて何もしてないですよ。一生懸命勉強して、いい大人になって、いい会社へ就職して……。それが何たる仕打ち。社会に出てから毎日の仕事に追われている僕に幸せなんてものはなかった。繁忙期には休日出勤命令も出て、僕の怒りは火山の大爆発より大きなものへと昇華していく。


 ……旅行に行きてぇ。それも夕朝食付き温泉付き、他にもオプションを付けられるだけ付けた超豪華プランの旅行に。できればあまり人のいない山上の秘境だと尚ありがたい。知らない地を観光するよりかは、ずっと宿に篭りながら非日常的な生活を送りたい。考えれば考えるほど僕の欲望は止まらなくなる。


 上司に繁忙期分の代休を取りたいと言ったら何故? と不思議がられてしまったが、彼らは頭がおかしいのだろうか。休日に出勤したらその分の賃金が貰えるから休みはいらぬと、本気でそう思っているのだろうか。わからない。二十も三十も歳の離れた人達の気持ちなんざ一生わからないと思う。


 というわけでイヤそうな空気を出されながらも何とか貰い受けた三日間の貴重なお休み。僕は今、会社で引き受けていた仕事をやっている……フリをして旅行の宿を探していた。在宅期間中だから、社用のパソコンの横でタブレット端末を動かしながら適度にサボっている。繁忙期には全日出社したのだからいいだろうと押しに押しまくって手に入れた在宅勤務は、僕にとってこの上ない天国のような環境だ。自分の担当業務は既に終えているけれど、まだ完了報告を上げる予定はない。早く終わりすぎると別の業務を振られてしまうからな。さて、この辺りから電車、ないしは新幹線で行ける距離で……と。それから先ほど挙げた条件を元に検索して――。


「たっ……か。高すぎる‼︎」


 平日で探しているというのに、どこもかしこも法外な値段で売り出されている旅行先の宿たち。おかしい、やはりこの国は娯楽に癒されたい若者を潰そうという考えなのだろうか。これでは薄給の若者が旅行なんて夢のまた夢。しかもお二人様プランが多いの何のって。旅行は複数人で行けたらより楽しいかもしれないが、一人旅行だってそれはそれで楽しいんだぞ。ぼっちを舐めるなよ。色々文句を言ってみるが、画面に映り込むサイトへとやかく言ったところで宿泊費は下がらない。さて、どうしたものか。


 ネットの海を彷徨い始めて早一時間。僕はここで気になるサイトに出会った。すごく昔に作られたようなホームページ、というか。味気ない素材を組み合わせて作られたそのサイトには、安っぽいフォントでおひとりさま大歓迎というメッセージがデカデカと表示されていたのだ。しかもどのプランもまぁ他のサイトに比べたらかなりお安いこと何のって。宿の外観や内装も落ち着くような造りになっているし、これなら少しオプションを付けて贅沢をしても予算内で支払える上にお釣りが来るだろう。僕はホームページを隅々までチェックしながらこの宿でいいのかを何度も考える。新手の詐欺とか、そういうのじゃなかろうなと。他のサイトに記載された宿のレビューを眺めたり、ホテルの料理の写真をチェックしたり、とにかく自分で出来ることは何でもやった。そこでも詐欺まがいの画像は見つからず、ネット上で話題の信憑性が高い旅館ブラックリストにも載っておらず、どうやら本当にこの宿は穴場というヤツらしい。予約も全部、キレイに空いてるし。逆に儲かっていないのかと心配になってしまうレベルだった。


「なに? 訳ありプラン……?」


 その中で特に目を惹いたコースが一つ。それが訳ありプランという名前のものだった。何が訳ありなのかはよくわからないが、とにかくサービスがすごい。二泊三日で朝夜付き、大浴場温泉、それから部屋のベランダにも小さいが温泉付きとのこと。ルームサービス充実、詳しくは当日までのお楽しみ、絶対に後悔はさせませんなんていう怪しい文言まで。お値段通常プランの約半額……モノは試し、というヤツを決行する時だろうか。


「…………決まりっ‼︎」


 頭がバカになっていた僕は、安くて上質なプランというコスパのいいモノを求めていたから。気がつけば宿泊予定日とクレジットカード情報を入力し、決済までものの数分で済ませてしまった。勢いというものは大事だ、この勢いは若者にしか出せない特権。気分が乗ったら即行動、僕は二週間後にねじ混んだこの二泊三日の旅行を心待ちにしながら仕事に励むことにした。まぁ今日はもう仕事する気が起きないから、すでに終えているタスクをあたかも一生懸命やっているように見せかけてサボり通すつもりだが。


 後悔はさせないと謳っているのだから、僕を楽しませてくれよ?



 都内から約一時間ほど新幹線で、それから駅に送迎バスが来てくれているから乗って三十分。頭をぐわんぐわん揺らすほどの激しいグネグネの山道、そして急な坂。とにかく歩きでは絶対にたどり着けないような場所に、僕が今日泊まる宿がある。


「うえぇ……吐きそ……」


 あまりに左右へ振り回されるものだから、酔い止めでも持ってくれば良かった。バスの担当運転手である獅子獣人さんは全然へっちゃらなようで、むしろ昔流行った歌を一人で気持ちよさそうに口ずさみながらハンドルを握っている。確かこの宿は従業員が全員とも獣人なんだよな。人間と獣人の間には埋めきれない溝みたいなものがあるから、直接関わるのは少しドキドキだけども。種族が違うからと差別したりする人も中にはいるからなぁ。ちなみにウチの会社には獣人が所属していない。でも僕はちょっと……そんな彼ら獣人に興味をもっていた。獣人ってどんな感じなのかなって。人間と違って体毛が凄くて、きっとフワフワなのだろう。一度ぐらい触ってみたいなとは思っていたものの、今のところ満員電車で体をおしこまれる時にしか毛皮を触ったことがない。


 それに僕は獣人のオンナじゃなくて、男の方が好きだ。誰にも言っていないヒミツ、なのだけど。だから今運転してくれている獅子獣人のおっちゃんも、めっちゃタイプ。しかも大きな体つきをしているのに、顔はすんごく優しめで僕好み。ああ……見ているだけで癒される。ちょっとだけタテガミを触らせてはくれないだろうか、なんて。セクハラで訴えられては旅行どころではないので、ここは我慢だ。運転に支障が出て、山道を転落……なんて事故があったら僕は何のために旅行へ来たのかわからなくなる。


「つきましたよ〜。ようこそ! 旅館”碧”へ!」


 もう旅館の名前なんて頭の中から抜け落ちていたのだが、漢字一文字でカッコいい。そう思うのはこの国の住民だからだろうか。外国の人が見たらどう感じるだろう。僕は獅子獣人運転手の案内を受け、二泊分の荷物が入ったスーツケースを転がしながら旅館の入り口へと足を踏み入れた。


「いらっしゃいませ。ようこそおいでくださいました」


 礼儀正しく土下座スタイルでお出迎えしてくれる、和を感じさせるような雄の犬獣人たち。身長も僕とそんなに大差ない。それにしてもここは男性の従業員が多いな。こういう旅館は女将さんが出迎えておもてなししてくれるイメージが強かったら、少し驚いてしまった。僕は靴を脱ぎながら受付で宿泊のチェックインを済ませる。いつも親と旅行に行っていたので、今日が社会人になってから初めての一人旅行。手続きが滞りなく済むか心配だったが、そこまで難しいことは求められなかったので助かった。予約した氏名と住所を確認し、署名をすればあっという間にチェックイン手続きは完了する。場所によっては全て手書きで書かされることもあるけれど、ここはタブレット端末で画面をタッチしながら進められる設備が整っているらしい。こんなに山奥だというのに、なかなか珍しい宿だな。ということは内部の施設もそこそこ整っているのではなかろうか。


「では明後日の朝までとなりますが、専用の召使いを一人お付け致します」


「……へ?」


「お客様のお選びになった訳ありプランに付属しているサービスですので、どうぞご自由にお使いください。また、何かありました際には基本的に彼を頼っていただければと思います」


 和服の焦茶色の柴犬種スタッフが一言僕へそう伝えると、奥から何か黒い塊がノソノソ歩いてきた。なんだ……あれ、いぬ……かな? にしてもデカいな。今さっき僕をもてなしてくれたのが小型犬とすると、この人は……間違いなく大型犬に分類されるだろう。


「……うす」


「コラ。ちゃんとマニュアル通りに挨拶なさい」


「…………ちっ」


 あれ? 聞き間違いじゃなければ今ちょっと舌打ちしませんでしたか? 山に住む小鳥の鳴き声かなとか、それとなく別の理由を考えてみたけれども絶対違うだろうし。それに何だこの見て呉れは。これまた和装の、今度は黒い毛の犬が近づいて来たかと思えば、右目は黒い眼帯で覆われている上に左耳が半分ぐらい千切れている。おまけに体の至る所にどうやってつけたのかわからないナイフで切られたような跡が残っていて、そこの部分だけ体毛が生えずに素肌を晒していた。腰に刀を携えていても何ら違和感のなさそうな、本当に恐ろしい犬が出迎えてくれたものだ。この犬が、何だって? 召使い?


「…………きょ、今日から、三日間、お客様の世話を担当する黒乃介だ……です。ではこれから部屋に連れ……ご案内し、しますんで、来……こちらへど、どうぞ」


 敬語を使い慣れていないのか、何度もつっかえながら挨拶をしてくれる黒犬――黒乃介さん。今日を含めて約三日間もこの大型犬と一緒に過ごさねばならないのだろうか。いや、確かに獣人は好きだって言ったよ。しかも男だし、申し分ない。だけど強面はちょっと、その、専門外です。怖い、無理、ちょっと帰りたくなった。どうしよう。


「ちなみに本日は訳ありプランですので、担当の変更は致しかねます。ご了承ください。……黒乃介、お客様に粗相のないようにな」


「……ふんっ」


 もしかして訳ありプランの一番の要因って、この……黒犬のせい? 今もムスッとした愛想が一切ない彼の顔を見ると、全身から鳥肌が立ちそうになった。睨みつけられたら指でも切り落とされそうなぐらい怖いし、どうしよう。でも見た目だけで色々決めつけるのはよくないよな、そうだよな。


「……おい、どこへ行く。こっちだ」


「ひゃっ、ひゃいっ‼︎」


 ボーッと後を付いていったらまぁ道を間違えましたよね。すぐに道を矯正され、僕は黒乃介さんを見失わないよう急ぎ足でついて行く。といいますか彼、大変歩く速度が速すぎてかなりしんどい。僕を振り払おうとしていますか? もうちょっと人間の歩幅に合わせていただきたいのですが……。


「ここがアンタ……いや、お客様の部屋だ、です」


「あの……こんなこと言っちゃアレなんですけど、敬語じゃなくてもいいですよ」


「……なんだと、本当か⁉︎」


「うわっちょっと、あの、距離近いんですけどっ‼︎」


 さっきまで曇りまくってイラついているように見えた黒犬の顔が、陽の光が差し込んだかのように光り輝いている。まぁ廊下の突き当たりにある窓からちょうど日差しが入ってきたからなのだが。偶然ではあるものの、グッドタイミング。明るいところで彼の顔を見ると、ほんの少しだけ怖さが和らぐような気がした。


「……すまない、オレ、まだ新人だから。悪いな」


「新人さん、なんですか」


「おう。つい最近、署から出所したばかりでな」


 ……えっと、署って言いましたか今。署、署ってどこのことでしたっけ。……え?


「ちょっとバカやって、バイクのスピード違反で捕まっちまったんだがな」


 速度超過って罰金払えば済むぐらいの罪だった気がするけど、何故また逮捕されてしまったのか。罰金を支払わずに放置してたとか、常習的にスピード違反を繰り返していたとか、警察に追い回されても尚バイクを停めなかったからとか、僕の頭にはあらゆる可能性が浮かんでくる。そして毛皮に散見される刃物で切られたような跡はどのようにしてつけたのでしょうか。次から次へと湧き上がる疑問を前に、僕は慌てふためくことしかできないでいた。


「まぁそんな事はどうでもいいだろ。早く中に入れよ」


「あっ、はいっ!」


 随分とまぁフランクに接してくれるようになったものだ。敬語、本当に苦手だったんだな。そう思うと少しだけ可愛く思えてくる。……顔は般若の面を想像させるほど怖いのだけど。夜、トイレに行くときに子供が見たら絶対に泣かれるだろうなっていうほどの迫力がある。


 僕が寝泊まりする部屋の中は畳で統一された和を感じさせる部屋となっており、二人分の椅子、それからベッド、更にはバスタオルなんかも用意されていた。二人分、か。僕、一人なんだけども。事前の予約画面で間違って人数を二と記入した覚えはない。きっと片付けるのが面倒だったんだな? うん、きっとそうだ。


「あの、黒乃介さんってどこまでついてくるんですか?」


「どこ? どこってなんだよ、おかしなことを言う坊主だな。ずっとだよずっと」


「ずっとって……その……いつまで……」


「お前がここを出るまで、だな」


 んん……ダメだ、ちょっと頭の回転が追いつかない。訳ありプラン、ここまで訳ありだったとは聞いてない。一人で伸び伸び過ごす予定が、まさか余計な人物が僕の邪魔をすることになろうとは……。あの出迎えてくれたちょっとお偉い感じの柴犬獣人さんと交代してくれないだろうか、うぬぬ……。彼と過ごすのならまだ楽しい旅行の時間となりそうなのに、この黒犬と一緒に過ごしていると息が詰まりそうだ。いつ鋭い爪を喉元に押し当てられるか、立派な牙で噛み付かれるか、ビクビクしながら過ごす旅行って一体……。


「そういうサービスだって、サイトに書いてたろ?」


「ええっちゃんと読んだけど、そんなの見てないんですけど‼︎」


「ま、オレはパソコンみたいな機械類は苦手だからどんなページが知らねぇけどよ」


 ズイッと上半身を乗り出し、彼は僕を斜め上から見下ろしてくる。こっわ、怖すぎ。今にもお前を食ってやると言わんばかりの牙の見せ方、そして眼帯を見るたびこの黒犬は何をやらかして右目の視力を失ってしまったのか、気になる。気になりすぎる。


「オレと一緒に過ごすのに不満があるなら聞くぞ。お? 言ってみろ。安心しろ、殴ったりはしねぇからよ。一応あのウルセェ上司の犬コロに言われてっからな。お客様は大事に、大事に扱えよって」


「ひっ、ひいいいっ‼︎」



 こうして僕の、静かに過ごして仕事のことなんかキレイさっぱり忘れて癒される旅行計画が崩れ去ったのである。



〜つづく〜

けもケット13 サンプル③ けもケット13 サンプル③

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