XaiJu
眼鏡2号
眼鏡2号

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MOTD 10話

「ブラッド様がね、私達を解放してくれるの。そう約束したの。だから脱出出来たんだよ」

「ブラッド様は凄いんだ! 私達の救世主、いつか楽園に行ってお会いしたいなぁ。ね、ミケちゃん!」

「うん! 楽園はすごく遠くて、行くまでにはラークが底を付いちゃうような遥か北にあるらしいんだけどさ!」


 彼女達の言っている言葉の意味が理解出来なかった。

 そんなに楽しそうに話をしているから、てっきりオンラインゲームか何かだと考えたが、楽園と言うところに向かうには大量のラークが必要だと言うこと。そして遠い昔に崩壊した最初のシェルター「第0シェルター」に彼女達の楽園があると言うこと。これらを考えるとゲームではなく現実の話しをしているのだと分かる。

 妙な胸騒ぎがした。嵐の前の静けさのような、理由の無い不安感だ。


「ねぇ、ミケちゃんとアマイちゃんはどこの病院から来たの?」


 感じた違和感を言語化するならば、彼女達の見た目からして私やアンコと同い年だと思うのだが、どうも子供を相手にするようなそんなやり取りしかしていない、いや、出来ないんだ。無知の無防備、外の世界に初めて出たような高揚感を感じているのか、さっきからずっとソワソワしている。


「んーっと、名前は分からないの。とにかくブラッド様からの指令で色々あーやってこーやって出てきたって感じかな」

「うん! 他に二人いたんだけど捕まっちゃってさ……。大丈夫かなあの二人」

「あれ? 管理者はいないの? 家族は?」


 普通なら市民病院のような所で過ごすはずだ。でも脱出したと言うことは勝手が違う。


「管理者? ううん、よく分かんない。分かんないけど、もしかしてミカお姉ちゃんのことかな? 私達のお世話をしてくれる人」

「そうそう! お姉さんがいるなら黙って出てきちゃったの? そのブラッド様かなんだかよく分からないけどさ、きっと心配していると思うんだ。もし病院の名前が分かれば案内出来るかもだけど……」


 瞬間、二人の顔から笑顔が消え、怯え引き攣った子犬のように目元をヒクヒクと痙攣させ始めた。


「でももう帰れないよ。だってミカお姉ちゃん沢山のゾンビに食べられてたし、病院内もきっと沢山のゾンビが居て、私達を食べまわってるはずだもの」

「えっと、私ブラッド様から教えて貰ったの。あの動きが遅いのってスローター? って言うんでしょ? 一度捕まったら死ぬまでおっぱいをちゅーちゅー吸われて、体内のエネルギーを根こそぎ吸われて死んじゃうんだ。そんな所戻りたくないよ」


 何? 今なんて言った?

 ゾンビ? スローター? 私達を食べまわってるって?


「も、もう! 二人してそんな冗談笑えないよ! 折角お水買ってあげたのにお姉ちゃんにそんな意地悪言うの? 本当の事言わないとダメなんだぞ!」

「違うもん! 本当だもん! だから第三シェルターがゾンビ達で埋まってしまう前になんとかここを脱出しないといけないんだけど……ぅぅ、ブラッド様と連絡が取れなくなっちゃって」

「アマイちゃん、その前にどこかで腹ごしらえしなきゃだよ。もうお腹ペコペコだよ……。走らないとゾンビ達から逃げられないし大変だよ」

「ミケちゃん! そうだったね……。あぅぅ、お腹と背中がくっつきそうだよ」


 むむむ。

 言ってる事は突飛な事なのに、まるで緊張感が無い。


「ねぇ二人共、そのゾンビ達はもうすぐそこまで来ているの? それとももっと時間があったりするの?」

「ぇえ? うーん……わかんないなぁ。ミケちゃん分かる?」

「えっと、確か私達が通ったゲートはすんごく強固に出来ていて、いくらファスター達が暴れ回った所ですぐには突破されないってお世話係の人が言ってたね。だからその間に準備とか色々しないといけなかったんだけど……」


 外の世界の事をよく考えていなかったらしい。

 理由と境遇は分からないが、後先考えずに出てきたのだろう。そのブラッド様というのがどんな指示を出したのかは知らないが、無鉄砲すぎる。


「パイちゃんお待たせーーって、誰? その二人」


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 むしゃむしゃと初めて食べるなにこれ感動すると口から声を発しながら口元をケチャップいっぱいまみれにする二人の施設の子。それを見て苦笑するアンコと、呆然と見つめてティッシュで口元を拭いてあげる私。傍から見れば子を授かった管理者に見えるのだろう。その割に子は大きすぎる。


「これが……ハンバーガー!! 美味しい美味しいなんて美味しいのっ!! 施設ではこんなの食べさせてもらえなかったよ!!」

「ずるいずるい! 私やミケちゃんや他の皆なんて変なよく分からないモチモチとしたのばっかりだったのに! やっぱり外の世界の人達は贅沢だよっ!」


 私とアンコが顔を合わせる。

 考えている事はどうやら同じのようだ。


「パイナ……変なの拾ったね」

「仕方ないでしょ。あのまま放っておくことも出来なかったしさ」

「そりゃあそうだけど……。で、どうするの? 病院出身の身元不明人なんてさ。下手したら私達捕まっちゃうよ?」

「そんなの知らないよ。このシェルターの管理会社が悪いんだよ!」

「そうだね。そう考えると……インフラン社が何か悪い事考えてるとかかな。ゲームみたいにさ、人体実験? そしてこの二人は被験者だったり?」


 想像が膨らむ。


「ねぇミケちゃん。もしさ、少しだけ時間があるのなら、このお姉ちゃん達にこの世界の事を教えて貰わない?」

「へぇ、それは名案だね! 私達がこのシェルターの外に出ようにも、まずどの方角に行けばいいか分からないし、何よりこのハンバーガーをもっと頬張りたい……」


 子犬が主人におねだりするような上目遣い。

 だめだ、私はこの目にとても弱い。


「パイちゃん、私またレジに並んでくるね。なんかずっと食べてるしさ、よっぽどお腹が空いていたんだろうし」


 アンコはそそくさと財布を持って席を立つと、鼻歌交じりにレジへと向かった。彼女も基本的には人に優しい。加護対象を愛でるという特性があり、基本的には年下っぽい子には極上のフレンドリーさを見せる。気に入らなければすぐ殴るけど。


「ねぇねぇ、私達がめざしている第0シェルターって具体的にどこにあるの? 遥か北にあるってのは管理者のお姉さんから聞いたんだけどさ」

「うーん、第0シェルターは遥か北っていうのは正解。具体的には私達が今住んでいる土地は開発された土地でね。その中での北ってだけで、星からみればちょっとずれている程度なんだ」


 うーん? と言う反応だ。当然か。

 コホンっとわざとらしく咳払い。


「えっと、まぁ私も本の中でしか見たことはないんだけどね。この世界は300年程前に大災害に見舞われたの。その影響で人類は住むところを追われてしまってね。色々試したんだけど、広大な海の上に人工土地を生成することで一旦は生き永らえる事が出来た」

「じゃあ、世界はここだけなの?」

「ううん、一旦安全圏が出来た事で人類は急速に科学技術が発展してね。それから色々な所にシェルターを生成していったの。今まで住む所が出来なかった土地とか色んな場所にシェルターを建設してね。沢山の事をしている内に、沢山のシェルターが出来た。この第3シェルターはその内の一つ。第1から第10ーーまぁそれなりに沢山あるの」


 ぽかんと口を開けて聞く姿勢を見ると、本当に生まれたばかりの子供のようだ。


「人類は、この世界を克服したの。それが私達が住む場所。でも、全部は上手くいかなかった。その代表があなた達が目指している場所、ゼロシェルター」



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