「フォールディングか多機能のツール系か……うーん悩むなぁ。アウトドアでかっこよく活躍するにはどっちも持っといた方がいいけどスマートじゃないしな」
ぶつぶつ小言を言って吟味しているアンちゃんを尻目に、私は一旦服飾の方へと視線を移す。ナイフとか興味が無いわけではないんだけど、それよりもテントとかランタンとか、虫刺されしにくい動きやすい可愛い服とかの方が優先されるのだ。
「ふーん、この迷彩柄のパンツ可愛いな。タンクトップと合わせてワイルドな感じで着こなすのもあり……」
ここ最近はアウトドアな趣味に走っていたからか、こういったアクティブな装飾も視野に入るようになった。アンコと二人で野山を駆け回り、川で釣りやキャンプをするたびにその開放的な魅力に魅了されてる感じがする。欲しい物リストがここ数か月でガラリと変わってしまったのだ。
「あーんこのランタン可愛い! 買っちゃおうかなどうしようかなー。でも今は無駄遣いは控えなきゃな……うぅ」
だめ、今はお姉ちゃん達のお祝い事が最優先。
欲になびかれる尻尾を尻の奥へと引っ込め、機械的に足を回転させ回れ右。意識的に行うことで誘惑の線を引きちぎるのである。
ガシャン
ふと、ランタンの方角から扉に何かがぶつかった音が聞こえた。
振り返るが、当然そこには何もいない。あるのは非常用と赤い文字で書かれた鉄の扉のみである。しかもこの非常口はショッピングモール施設のではなく、第三シェルターとしての非常口だ。
だからか、自分の中で周りの喧騒が掻き消える程、その音に興味を持ってしまった。何故かは分からないけど、何か誰かを呼んでいる気がしたからだ。
開けて欲しい? 助けて? そんな印象だ。
「誰かいるの?」
幸い周りには誰もいないから、扉に向かって声を出して呼んでみる。が、当然聞こえる筈はないのだ。ショッピングモールの中というのは周りの話し声や店内BGMだけで相当な音量だし、低音を鳴らさない限りは全て途中でかき消されてしまう。
だから、もっと近づいてこちらから扉を叩いてみることにした。
コンコンと鈍い反響音をひっそりと鳴らしてみたら、なんだか弱弱しい反復音が返ってくる。
もう一度扉を叩くと、今度はもっと弱々しい音が帰って来た。そして、扉の向こうで何かが倒れる音がした。
目を見開き、一度辺りを見回す。店員はアンコに集中している。ここからは視界が死角になっていて、この扉を開けても決して見つからないだろう。けど、そんな事をしてもいいのかな。もしかして裏で働いている人が揶揄っているだけかもしれない。小心な不安が心を過る。
「少しだけ、少しだけ開ければいいよね」
ドアノブに手を掛け、右に45度回す。
ほんの少しの好奇心なのだ。そこで何が行われているか。
「そっとーー……だ、だれ?」
扉を開けた先には、見慣れない二人の少女がいた。
息は苦しそうで、目元は虚ろ。生気のない人間を見るのが初めてだからだろうか、自分でも思った以上に動揺している。
「と、とにかく大変だ! 誰か人を呼ばないと……!」
そう喋る私を静止するように、奥側にいる茶髪の女の子が片手を上げて私に待つようにジェスチャーする。
「ま……て。人はーー呼ばない…で」
一瞬言葉を振り払おうか迷ったが、こんな所で倒れているという事は何か特殊な事情があるということだ。どの施設でもそうだが、私達が住む世界のシェルターというものは、対ゾンビ様に何重にも壁を張り巡らせている。だからいくら施設の管理者といっても無暗に立ち入る事は無いし、そもそも施設の裏口とこのシェルターの非常口は管轄が別物。特殊に考えると第三シェルターでの問題が目の前で起こっているということだ。
俄然、興味が湧くし、それ以前に苦しんでいる人が目の前にいるという事実が心を占める。
「み……水」
すぐ隣にキャンプグッズで休憩するコーナーがあり、そこに自販機があったので数本購入し、非常口の中に入って彼女らに水を飲ませた。倒れていた子もなんとか頭を持って水を口に近づけると、次第に両手でボトルを掴み、一気に喉に流し込む。
「い、生き返った……うぅ、もっとない?」
「じゃあさ、こっちに座ろうよ。歩ける?」
非常口を出て静かにドアを閉め、隣の休憩コーナーに二人を座らせ、また数本の水を買い与えた。信じられない速度で消費するのを見るに、とんでもない過酷な状況に居たのだろうと推察する。
「ねぇねぇ、二人はどうしてあそこにいたの? お名前は?」
二人は顔を見合わせ、一瞬だけ気まずそうにしたが、となりの茶髪の子が小声で「この人ならいじめないよ」と言い、黒髪の方を促した。
いじめないよ……か。
「えっと、私達はとある所から逃げ出してきて、今は追われてて……その」
黒髪の方は「あまい」。茶髪の方は「ミケ」という名前だそうだ。
具体的な話は聞けなかったが、二人はとある病院から命からがら抜け出してきたそうだ。もうその時点で怪しさぷんぷんなのだが、現状を考えると否定しようがない。
「どうしてその病院を抜け出したの? いじめられたから?」
「うん、それもあるけど……ブラッド様からね、始めようって連絡が来たの!」