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【連載第4回・約14,000字】Hカップ巨乳熟女が金髪超乳パリピギャルに改造される話

■  喉の渇きで目を醒ます。  裸の体にどうにか下着を着込み、眠気を引きずりながら、真央はおぼつかない足取りでキッチンに向かった。まだ昼だろうと思っていたが、壁にかけられた時計はすでに夕方を示している。彼女の体内時計はすでにそれだけ狂わされているのだ。  眠りについたのは朝。夢も見ずに眠ったはずだが、疲れは抜けていない。特に足腰に鈍い疲労がまだ色濃くわだかまっている。昨夜は、何時間も騎乗位で腰を振らされたのだ。悠々と仰向けになった裕貴は、ほんのわずかの動きで真央を翻弄した。体中の水分という水分を絞り尽くされ、気絶するように眠り込んだことだけは、かろうじて記憶にある。 (あの子、一体いつになったら……)  いつになったら飽きるのか、と思わずにいられない。あるいは、呆れているのかもしれない。十八歳差。裕貴にとっては母親のような年齢だろう。話をしても、まったく噛み合わない。共通点など、ひとつもないのではないか。だというのに、裕貴は懲りもせず、真央に様々な話題を振り、彼女の話を聞きたがる。  好きな食べ物はシーザーサラダ。好きな飲み物はカフェオレ。好きな季節は秋。趣味はドライフラワー作り。……憎むべき相手だというのに、気がつけばいつのまにか、自分について語ってしまう。語らされてしまう、と言ったほうがいいかもしれない。警戒はしているはずなのに、ふとした拍子に間合いに入り込まれ、気づけば自分についてあれこれと喋っている。聞き上手、とはそういう技術を持っている人間のことを指すのだろう。  体だけではなく、心までも弄ばれている。そう考えると、悔しくてならない。次こそは口をつぐんでいよう、と決めるのに、その次がやってくると、あっけなく、口から言葉を引き出されてしまう。  昨夜は、とうとう、初体験のことまで喋らされてしまった。大学時代。雅史の部屋。ふたりとも初めて同士で、ひどく緊張していた。部屋を暗くしすぎたせいで、雅史は何度も挿入に失敗し、そのたび「ごめんね」と謝った。ようやく挿入したはよかったものの、何度も動かないうちに発射してしまった――ということだけは、かろうじて口にしなかったが、本来ならば秘するべき夫婦の事柄を話してしまったという罪悪感は、真央の胸に重く沈んでいる。  そんなことをするのは、裕貴が真央の肉体だけではなく、真央という女それ自体に興味を持っているからなのだろう。金もあり、容姿にも恵まれた彼ならば、若い女には不自由しないだろう。それなのに、なぜ、自分に執着するのか。わからない。亡き母と自分を重ね、甘えているのだろうか。いや、面白い玩具を手に入れてはしゃいでいる、というのが正直なところの気がする。玩具扱いされる身からすれば、たまったものではない。 (早く飽きてくれるといいのに……)  そう思いながら、真央は冷蔵庫を開ける。以前は酒の缶ばかり並んでいたそこには、わずかばかりながら、酒のほか、ミネラルウォーターのペットボトルが冷蔵されている。真央が飲むためのものだ。蓋を開け、中身を煽る。渇いた体に冷たさが染み渡った。  ひと息に半分ほどを干して、真央はあたりを見渡す。いたるところゴミが散らかっていた部屋は、埃ひとつ落ちてはいない。眠っているあいだに、清掃業者がやってきて掃除をしていったのだろう。以前、散らかり具合に耐えかねた真央が掃除をしようと用具の有無を尋ねたところ、そんな貧乏くさいことはしなくてもいい、と笑われた。掃除することすら貧乏くさいと思うその感性は、一般人のそれとはかけ離れている。月々いくらもらっているのか、以前裕貴に尋ねたことがある。その数字の予想以上の大きさに、しばらく言葉を失ってしまった。  炊事。洗濯。掃除。専業主婦の仕事は、金銭あれば必要ない。そうだとしても、虚しさを覚えはしない。その先には家族の笑顔と平穏があるからだ。今、ここにこうしているのもそのため――と考えているからこそ、耐えられない状況にも耐えられている。家族愛が真央を支えている。 (雅史くん……孝太……)  家族の名前を呼び、溜息を吐くために開いた口から、 「きゃっ」  と驚きの声が跳ね出す。裏返った声は、童女のような可愛らしさを多分に孕んでいる、ということに真央本人は気がつかない。  誰かが真央を後ろから抱き締めた。それが誰かは言うまでもない。 「裕貴くん……起きたの……?」 「真央が隣にいないから、寂しくて起きちゃったよ」  ふざけたことを言いながら、裕貴は真央を抱きしめる手に力をこめる。背中にぐりぐちと朝勃ちが押しつけられた。その硬さと熱が、数々の経験を呼び起こす。体の奥深くに灯った熱の忌まわしさに拳を握り込んだ。 「馬鹿なことを言ってないで、離しなさい」 「俺は本気だって」  へらへらと笑いながら、裕貴は真央の体をまさぐりはじめる。乳房から始めて、腹部、腰回り、尻房、太腿、そこからまた尻房を揉みしだく。慣れた道を歩くような手つきだった。その通り、彼の手は、真央の体を知り抜いている。どこに触れれば感じるのか。どこを攻めれば、いともたやすく絶頂してしまうのか。体についての知識は、夫をしのぎ、真央以上かもしれない。だからこそ、心までは彼に立ち入らせてはならない、と思う。 「やめて……離れなさい……怒るわよ……」 「それ、もう怒ってるひとが言う台詞だから。ていうかさ――真央、太ったよね」 「ふっ」  気にし始めていたことを指摘され、真央の顔は真っ赤に染まる。 「こんな生活をしていたら、当然でしょう」 「責めてるわけじゃないよ。むしろ褒めてる。抱き心地最高すぎ♡」  ぐにぐにと尻肉を揉みしだきながら、裕貴は嬉しげに呻いた。  完全に崩壊した生活リズム。栄養バランスなど欠片も考えていない食事。真央の体重は、測るまでもなく増加している。体に実った惰肉は、激しい性交渉によって絞られる。乳房はHカップからワンサイズ、尻肉はひと回り増量し、それぞれ下着を張り詰めさせている。それでいて、腹回りはほとんど変わらず、わずかばかりついた肉も、彼女の抱き心地の向上に寄与している。乱れた生活による研磨は、真央の肉体を驚くほど淫らな形に彫琢していた。真央本人がそれにほとんど無自覚――むしろ、だらしがないと嫌悪を感じているからこそ、その魅力は際立つ。  ねえ、真央、と裕貴は言う。 「今日、友達と飲むことになってんだけど、真央も来ない?」  彼の掌は、尻から乳房へと遡上する。 「みんな、また真央に会いたいってさ。どう?」 「行くわけがないでしょうっ」  即答どころか食い気味に、真央は答える。その口調は彼女らしからぬほどに激しい。無理やりナイトクラブで泥酔されたあの夜から半月――裕貴からはもう何度も飲み会に行かないか、一緒に騒がないか、と誘いを受けている。当然、真央の答えはひとつきりだ。  あの夜の自分は自分ではない。あれは何かの間違い――アルコールと裕貴の悪意によって無理矢理に作り上げられた虚像に過ぎない。忌まわしい記憶が蘇るたび、真央は自分にそう言い聞かせ続けている。裕貴は真央を「パリピ」にすると宣告した。ナイトクラブに連れて行ったのも、そのためなのだろう。だとしたら、その狙いは失敗以前に逆効果だ。今の真央にとって「パリピ」的なものは凄まじい嫌悪の対象でしかない。 「そんなことより、いつになったら帰してくれるの……」  揉みしだかれる乳房。熱い息が漏れるのをこらえながら、真央は尋ねる。 「しばらくしたら家に帰してくれる。そういう約束だったでしょう。ここに来て、もう一ヶ月も経つのよ」 「帰りたい? 悲しいな。俺はもっと真央と一緒にいたいのに」 「お願いよ。家族に会わせて。心配でたまらないの。一日でいいから、家に帰らせて」  それなら、と裕貴は言った。 「一週間、家に帰してあげるよ」 「それ――」  本当なのねっ、と喜びを弾けさせた真央のその先を制して、裕貴は「ただし」と言う。 「俺のお願いをひとつ、聞いてくれたらね」 「お願い……?」  真央の問いかけに、裕貴はすぐには答えない。彼の手は、いつの間にか乳房を離れ、彼女の黒髪を指先に弄んでいた。 ■  大したことではない。  そのはずなのに、どうしてここまで胸が騒ぐのか。髪の毛を染める。ただそれだけのことだ。ひと昔前ならばともかく、今では誰でも気軽に髪色を変えている。それが、いざ自分が染める段になると落ち着かない。逃げ出したい。それができないのは、家族のためだ。家族の元に戻りたければ、髪を染めてほしい。それも、金髪に。――それが、一昨日、裕貴が口にした条件だった。  悩まなかった、と言えば嘘になる。美しい黒髪は、ひそかに真央の自慢だった。その黒を美しく見せるため、わざわざ海外から洗髪剤を取り寄せていた。若い頃には雅史もよくその色艶を褒めてくれた。幼稚園の頃に孝太が描いた真央の絵でも、その髪はひときわ労力をかけて描かれている。  それを、染める。染めてしまう。  たとえ染めたとしても、黒髪に戻すのはたやすい。けれど、一度でも染めてしまえば、決定的なものが失われてしまう。そんな気がした。それが何なのかは真央にも判然としない。わからなくても、真央に選択の余地はない。家族の元にたとえ一時的にしろ戻るためには、そうするしかない。 (大丈夫。平気よ……)  美容室の椅子に座り、鏡に映る自分を見つめながら、真央は自分を落ち着かせようとする。しかし、心臓の高鳴りは、いつまで経っても鎮まらない。それは、血液ではなく、別な液体を真央の体じゅうに送り込んでいるようだった。肌にじっとりと汗が滲む。頭では受け入れていることを、心は断固として拒絶しているのだ。  金髪になって帰宅する真央を見て、雅史と孝太はどう思うだろう。彼らは大いに戸惑うに違いない。しかし、たかが髪色が変わった程度で真央に嫌悪を抱くことはない。真央がどんな姿になろうと、ふたりは彼女を受け入れてくれる。だから、大丈夫だ。平気だ。真央はそう信じている。 (それにしても、どうしてこんなところで……)  真央は鏡越しに店内に視線をめぐらせる。派手ながら洒脱な内装。流れる軽快な音楽。置いている雑誌。どこをとっても若者向けの店だ。店員も客も、皆、若い。そもそも真央のような年齢の客がこの店に足を踏み入れたことが一度でもあるのだろうか。居心地の悪さは、否応なく、およそ半月前に連れて行かれたナイトクラブを連想させた。  この店の予約をしたのは裕貴だ。真央をここに連れてきた彼は、美容師と二言三言会話した後、「終わったら迎えに来るから」と言い置いてどこかへ言ってしまった。裕貴と離れ離れになるのは、記憶にある限りではこれが初めてだ。あってしかるべき解放感はない。不安が刻一刻と加速していく。  担当する男性美容師が、真央にカットクロスをかける。年齢は若いが、腕はいいことが、その手つきから察せられた。彼ならば、つつがなく、真央の髪を染めてくれるだろう。それだけが救いだった。  それにしても、と美容師がクロスを整えながら言った。 「久しぶりですね。元気でした?」 「久しぶり……」  その言葉に、真央は改めて美容師の顔を見る。つかの間凝視した後、彼女の喉が締まった。血肉が凍りつく。その顔をこの目で見た覚えはない。しかし、彼女はこの男を見知っている。それは裕貴に見せつけられた映像の中で見た顔――真央をトイレに連れ込んだふたりの男のうちのひとりだった。 「あなたは……っ」  顔面を蒼白にした真央の耳に、ほんのつかの間だけ男が唇を寄せ、ふたたび離す。囁かれた「気持ちよかったっすよ♡」の言葉は、真央の顔を瞬時に限界まで赤く染めた。羞恥と屈辱を色濃く混ぜ合わせた感情が燃え上がる。泥酔している女性相手に性交渉に及ぶ。そんなことをして平然としている男に、真央は髪を染められなければいけないのだ。裕貴の底意地の悪さに、真央の眼輪筋が痙攣する。 「今も裕貴さんのところで暮らしてるんですか? 羨ましいな。セレブの生活。今度遊びに行かせてもらってもいいですか?」  男は真央の髪を櫛で梳く。それだけで、髪の美麗ぶりが強調された。その美しさは、男が「本当に染めちゃうんですか?」と確認してしまうほどだ。闇を溶かしたようなその美しさを、真央はこれから失おうとしている。家族のためであれば、後悔はない――と思いながら、男の質問に深く頷きを返した。 「OK。わかりました。気合い入れて染めますね」  そう言った男は、ブラシを手に取った。それを使って、真央の髪に薬剤を塗っていく。染みてないですか? という問いかけに、真央は大丈夫と答えた。後ろ髪、側頭、前髪。塗り残しがないよう、丁寧に塗られる。神経など通っていない髪に感覚があるのは、染髪への恐れが生み出した錯覚なのだろう。手指に、ブラシに触れられるたび、ぞわりとした感覚が体表を襲う。「あっ」と熱い吐息が漏れるのを止めることができない。ブラジャーの内側では、乳首が硬くしこっていた。まるで愛撫を受けているようだ。  恥ずかしい、と思う気持ちが、吐息の温度をさらに上昇させる。  薬剤が黒髪のメラニン色素とキューティクルを破壊していく。見えるはずのないその様が見える気がした。しかし、それは実際に起きていることでもある。ブリーチ剤の白のあいまにのぞける真央の髪は、三十八年の人生のなかで初めて、その色を変えていた。黒色は徐々に抜け落ち、茶色に近い色合いへと変わっている。  ブリーチ剤を塗りこめた髪にラップが巻かれる。 「このまま、しばらく時間置きますね」  雑誌でも持ってきましょうか、と尋ねられたが、真央は首を振った。そんなものを読む気には到底なれなかった。呆然と、鏡に映る自分を見ながら一回目の脱色が済むのを待つ。  その時になってようやく、自分は本当に髪を染めているのだという実感が湧き上がってくる。髪を染めるなんて不良のすることだ、などと前時代的な価値観を持ち出すつもりはない。しかし、いけないことをしている、という感覚はどうしても拭い去れなかった。 (大丈夫。私は私……それに何も変わりはないわ……)  何も変わりはない。そのはずなのに、真央の手指はいつまでも落ち着かず、そわそわと開閉を繰り返していた。むろん、そのあいだも薬剤は効果を発揮し、真央の髪から黒色は抜け落ちていく。  ふたたびやってきた男がブリーチ剤を洗い流す。今度は何にも邪魔はされず、明瞭に見える自分の髪に、目を見張った。それは茶色というよりかは、赤みがかった金色に近い。一回の脱色でここまで色が落ちるとは思っていなかった。思わぬ進捗に動揺が隠せない。今までとまったく違う髪をした自分は、自分であるはずなのに、とても自分には思えなかった。  ドライヤーで乾かすと、髪色はさらに明るく輝いた。そこに二回目となるブリーチ剤が塗られ、ラップがかけられ、さらに色が抜けるのを待たされる。洗髪とドライヤーの後にあらわになった髪色は、赤みが完全に抜け、金色へと変わっていた。今度の鏡に映る自分への違和感は、先程の比ではない。とても見ていられず、真央はすぐさま視線をそらした。 「綺麗に色抜けましたね。次はヘアカラーしていきます」  そして、脱色を終えた髪にヘアカラーが塗られていく。これが最後の工程。これが終わったら自分は本当の意味で金髪になるのだ。そう考えると、ますます鏡には視線を向けられない。カットクロスの下、真央の体は震えた。髪を染めることに同意などするのではなかった。そんな気持ちが膨れ上がっていく。恐怖が髪に感じる幻の感覚を増幅し、真央の「んっ♡ はあっ♡」と悶えさせた。  色が染み渡るのを待つ。髪が洗い流され、乾かされる。できましたよ、と促されても、真央は鏡を見られなかった。自分のような年齢の女が金髪にして、似合っているわけがない。どうせ滑稽な姿になっているに決まっている。裕貴はそれを見て笑いものにするつもりなのだ。 「心配してるんですか? 大丈夫ですよ。めっちゃ綺麗に仕上がったんで♡」  絶対嘘。絶対絶対に嘘。そう思いながら、真央はおそるおそる視線をあげる。途端、喉に息が詰まった。明るく輝く髪をした、見知らぬ女がそこにいた。これが本当に自分なのか。そう思わずにいられない。ただ髪の色を変えただけで、ここまで雰囲気が違ってしまうものなのか。 (やっぱり――)  全然似合っていないではないか。耐えきれず、真央は視線をそらす。それでも、変わり果てた自分の姿は、視覚に刻まれてしまっている。似合ってますよ、可愛いですよ、という男の褒め言葉は、真央には業務上の世辞以外には聞こえない。いずれまた黒髪に戻ることができる、というのが救いだった。こうなって初めて、もしかして金髪が似合うのではないか、という期待をわずかなりとも抱いていた自分に気がつき、真央は恥じ入る。そんなわけがないではないか。真央という人間は黒髪で生きてきた。髪が黒いということは、つまり、真央という人間の一部なのだ。それを変えて、似合うわけがない。  過酷な努力を伴いながら、真央は、どうにかまた鏡に視線を向ける。金色の髪は、それだけを取り上げれば確かに綺麗なのだろうが、顔立ちにも服装にも調和していない、と感じられる。  しかし、とにかく、これで家に帰ることができる。雅史と孝太は、滑稽な真央の姿を見て、どんな反応をするのか。今から胸が締めつけられる。雅史には正直に話せばいいだろうが、孝太にはどう言い訳をするのか。待ち時間のあいだにあれこれと考えはしたが、正解は見つからない。正しく生きよと導いてきた息子を欺かなければいけない。それを考えると、暗澹が真央の胸に広がった。  これでおわりです、お疲れ様でした、とクロスを剥がされる。 「まじで真剣に連絡待ってます。エッチしてから言うのもアレですけど、俺、真央さんのこと超好きになっちゃって。恋人が嫌ならセフレでも――」  愚にもつかない言葉を囁いてくる男を無視して椅子から立ち上がる。これからどうすればいいのか。店内を見渡すと、待合用のソファーに座ってこちらを見ている裕貴と目があった。いつの間にか、店に戻ってきていたらしい。 「超似合ってる♡ 予想以上なんだけど♡」  歓声とともに掲げられた携帯端末が撮影音を発する。 「や、やめて! 勝手に撮らないで!」  無駄だと知りつつも、言わずにはいられない。阻むためにあげた掌の向こう側に、撮影音は連続した。店内の視線が真央に集まる。 「恥ずかしがらなくてもいいじゃん。本当に似合ってるよ。綺麗すぎ。ていうか、どっちかっていうと、可愛いって印象かな。こんだけ可愛くなって帰ってきたら旦那さんもきっと大喜びだね」  裕貴の褒め言葉が、今の真央には皮肉な嘲笑に聞こえる。従業員や他の客たちにも笑われている気がして、真央は俯き、己の体を抱き締めた。恥ずかしい。恥ずかしすぎる。そんな真央の顔を脇からのぞきこんで、「だから恥ずかしがらなくてもいいって」と裕貴が言う。その言葉に、真央の体はますます小さく体を縮こまらせた。体をこわばらせると、それだけ、羞恥が濃縮されていくようだ。 「ほら。髪を染めたわ。もういいでしょう。私を家に帰らせてちょうだいっ」  腹奥から絞り出すように真央は訴える。金色の前髪の奥、その目は今にも涙を溢れさせそうになっている。美熟女の哀願は、若い牡の嗜虐を煽ること以外の何の役にも立ちはしない。 「わかってるよ。しばらくひとりで寝なきゃいけないと思うと寂しくて眠れなくなりそうだけど、約束したもんね。でも、その前に、もうひとつ、お願いを聞いてもらってもいいかな?」 「またなの……。どうせ、ろくでもない頼みなんでしょう」  ひどいなあ、と裕貴は苦笑する。 「お別れする前に、金髪になりたての真央とデートしたいなあ、って♡」 ■  視線が肌に刺さる。刺さっている――気がした。  とても顔を前に向けていられず、真央は俯きがちに歩いている。白昼の繁華街。降り注ぐ陽光が、染めたての金髪をさらに明るく輝かせている。それが自覚できるからこそ、周囲の視線を気にして、真央の背中は丸まってしまう。恥ずかしいどころではない。恥ずかしすぎる。金髪なんて、似合うわけがないのだ。今の自分はひどくみっともない姿を晒している。そうに決まっていた。 「恥ずかしがらなくてもいいのに。似合ってるって、その髪」  裕貴はそう言うが、信じられはしない。繁華街の場所は、家から遠く離れている。知り合いに出くわす心配はない――とは言い切れない。そうなったら、どう言い訳をすればいいのか。それ以前に、どんなふうに思われ、どんな目で見られてしまうのか。膨らむ想像は、真央の体をこわばらせ、視線をさらに下に向ける。華奢な肩には負の感情がぐるぐると渦を巻いていた。しかし、今更もうどうしようもない。それに、こうしなければ、家族に会わせてもらえないのだ。  恥ずかしさの度合いは、ナイトクラブで裸よりも破廉恥な服を着せられた時をはるかに上回っている。比喩ではなく、顔が火を吹きそうだ。服はあくまでも服であって、自分ではない。しかし、髪は紛れもなく自分の一部だからなのだろう。  髪を金色に染めただけ。だというのに、世界がまったく違って感じられる。そこに存在する何もかもが、薄膜を剥がれ、生々しく迫ってくるようだった。様々なものの細部が異様に明瞭に感じられる。興奮して、神経が鋭敏になっているのだ。肌をすべる空気の流れまでもがわかった。それだけではない。歩を進めるたび、さらさらと揺れる髪の毛――いや、今や金髪と呼ぶべき頭髪の感覚まである。そこを気にしすぎているがゆえの錯覚なのだろう。意識をそらそうとすればするほどに、錯覚は現実感を増して、真央を責め苛んだ。  髪の色を変えるということは、単にお洒落に留まらず、元々の髪が生み出していた精神性をも変えてしまうこと、というのは、難しく考え過ぎなのだろうか。うかがう周囲――行き交う誰もが自分に視線を向けている、というのも過剰になった自意識が見せている幻に違いない。  それでも、そのうちの何人かは、確かに真央を見ている。彼らは、ほとんど全員が男だ。似合いもしない金髪をした熟女に嘲りの目を向けている――べきなのに。それなのに、どうしてだろう。彼らの目にあるのは欲情であるように、真央には感じられてならない。そして、数少ない女たちが視線に宿しているのは嫉妬、なのだろうか。だとするならば、そんなわけがないのに、あるいは、もしかすると、金髪は――  (もしかして……本当に、似合っているの……?)  心に浮かんだ馬鹿げた考えを、真央はすぐさま打ち消す。そんなわけがない。ナイトクラブで着せられた服と同様に、金色の髪にも自分に似合いはしない。似合うわけがない。あるいは、そうでなければいけない、と思い込もうとしているのか。自己像の更新を、心が拒んでいる。無理もないだろう。三十八年間、連綿と紡いできたものを新しくするのが怖くないわけがない。  何事も挑戦だよ。ナイトクラブで裕貴が口にした台詞が浮かぶ。その響きは、完全な泥酔の中にあり、記憶にはないはずの昂りを甦らせかけた。挑戦なんてしたくはない。自分は妻であり母――変わる必要はどこにもなく、また変わってはいけない。変わってしまえば、一体誰が家族を守り育てていくというのか。  コーヒーショップで休憩してから、適当に店を冷やかしていく。何軒か回り、通りを歩いていたところで、裕貴が「ごめんトイレ」と断って、近くにあったコンビニに入っていってしまった。物を買いもしないのに店内に入るのも憚られ、仕方なく、店先で待つことにする。 (似合っているなんて……そんなこと……)  あるわけがない、と思いながら、真央は爆発物に触れるように髪を触る。キューティクルを破壊されたそれは、それまでとは手触りがまったく違う。視覚だけではなく触覚でも自分の変化を思い知る。  そんな真央に「ねえ」と声がかかった。  裕貴ではない。派手なスーツを着た二十代後半の男が笑みを浮かべて目の前に立っていた。やけに白い歯はホワイトニングのたまものなのだろう。頭髪から靴に至るまで清潔ではあるが、到底まともな職業に就いているようには見えない。 「ひとりですか? よかったら、お茶しません? いいお店知ってるんです」  真央が半歩後ずさると、男は一歩距離を詰めてくる。これは、いわゆるナンパというものなのだろうか。生まれて初めての経験だった。これまでは、見知らぬ人間に好色な視線を向けられることはあっても、声までかけられることはなかった。男の行動は、今の真央の印象がどのようなものかを示している。つまり、今の彼女は声をかければついてくる可能性があるほど軽薄に見えている、ということだ。軽薄。それは、真央の抱く真央のイメージからはもっとも縁遠い単語だった。  そして、男の行動が示す真央の姿はそれだけではない。そもそも、声をかけたのは何故か。それは、声をかける価値がある、と判断したからだろう。それは、一旦は退けた考え――今の自分は滑稽ではなく、それなりに魅力的なのではないかという考えを、ふたたび、真央の意識に招き入れた。  どきどき、と胸が高鳴る。 「いきなり話しかけて、驚かせちゃいました? 普段はこういうことしないんですけど、お姉さんがあんまり美人だから、声かけないと後悔すると思ったんです。――それで、どうですか?」 「ええと……あの……私……」 「あれ、もしかして、今、誰か待ってたりします? ならID交換だけでも。嫌なら返信しなくていいし。早く済ませちゃいましょう」  普段は女に声をかけない。それを裏切る慣れた口調で距離を詰められ、真央はまともな返答もできず、縮こまるしかない。そんな真央を見て、押せば押し切れる、と思ったのか、「いいじゃないですか」「ほらほら」と詰め寄る男――それを止めてくれたのは「すいませーん」という裕貴の声だった。  店を出てきた裕貴は、真央の肩を強引に抱いた。 「このひと、俺の女なんで、そういうのは諦めてください」  朗らかに言われて、男は苦笑いを引きずりながら、真央たちに背を向けた。ほっと安堵の息を吐く。しかし、真央の心臓の高鳴りはなかなかおさまってはくれない。ナンパ。染髪に続く生まれて初めての経験は、あってはならない考えを鼓動とともに真央の内側に膨らませていく。 「真央もこれで信じたんじゃない?」 「信じたって、何を……」 「金髪が似合ってる、ってこと。でなきゃ、ナンパなんてされないって。男が見とれてるのにも、気づいてるよね? 美人はどんな髪してても美人なんだよ。真央はもっと自信を持っていいと思うな」 「馬鹿を言わないで。こんな髪、似合っているわけがないでしょう。金髪なんて、みっともないだけよ……」  語勢強く反論したはずなのに、実際の発声はひどく弱々しい。その理由から意識をそらすため、真央は裕貴に尋ねる。 「出てくるのが遅かったわね。トイレに行っただけじゃなかったの……」  裕貴は悪びれもせず、ごめんごめんと謝罪した。そうしながら、ビニール袋を真央に手渡す。入れられていたのは、裕貴のお気に入りの銘柄の煙草の他、極薄を謳う避妊具が三箱――それは、同時に、このデートの終着点を指し示してもいる。意外ではない。やはりそうなるのか、と思った。 「明日からしばらくお別れなんだから、今日はたっぷりヤリ貯めしておかないとね♡」  ホテル街へと歩き始める裕貴。その後をついて歩きながら、真央は、必死に心中に芽生えた疑惑を押し殺していた。その背中で身動きにあわせて美しく揺れる金の髪――そこに注ぐ陽光は陰りを帯び始め、夜の到来を予告している。 ■ 「はっ♡ あっ♡ んっ♡」  熟れに熟れた尻肉にぶつかる男の荒腰。突き込みにあわせて、桃色の声が跳ね出る。抑えようとしても抑えられはしない。  目そらしちゃだめだって、と顎を掴まれ、俯けていた顔を上向きにさせられる。見たくないものに強引に直面させられ、真央の声が絞られる。しかし、それも一瞬、さらに糖度を増した声が溢れ出してくる。ままならぬ自分の体への苛立ちが、その甘さをさらに複雑に深めた。  ラブホテルを利用するのは初めてではない。子供ができてから、数度、夫と愛し合うのに利用したことがある。その時は、何の変哲もない、ごく普通の部屋を使ったはずだ。しかし、今いる部屋は、壁の一面が鏡張りにされていた。真央はその鏡に両手をつく形で後ろから裕貴に貫かれている。  快美に蕩けた表情。揺れる乳房。しかし、それよりも、金髪になった自分の姿が真央の心に食い込む。年齢にふさわしい意匠の服を脱いだことで、金色の髪はさらに存在感を増している。明るい印象になった、といえるのかもしれないが、軽薄になったと感じてしまう。 「んんっ♡ あんっ♡ あ、あ、あっ♡」  せり出した雁首が掻き出した愛液が腿を伝い落ちる。膝が無様に震えていた。全身の毛穴からふつふつと湧いた汗が体を濡らし、適度に絞られた照明の光を艶めかしく帯びていた。床には、すでに使用済みのコンドームが三つ、口を縛られて捨てられている。真央が絶頂した回数は、すでに三度ではきかない。  似合いもしない髪色にされた。その上、街中を連れ回され、恥を晒された。ならば、体は嫌悪で満ちていなければならない。それが、どうして興奮に燃えているのか。おかしい。説明がつかない。説明をつけるためには――と、そこから先の思考を無理矢理にねじ切る。違う。そんなわけがない。そんなこと、あってはならない。  引き結ぼうとした唇は、たちまち、溢れる甘い声にこじあけられてしまう。 「真央、めっちゃ興奮してんじゃん」  真央の尻に腰を打ちつけながら、裕貴が言う。リズム。力強さ。角度。深さ。どれをとっても、真央に最適化されている。彼女の腟内は、完全に掌握されている。そんな彼が嘲るということは、真央の反応が彼の意図を超えている、ということだ。 「興奮なんて、してな……ああっ♡ んんんっ♡」 「そんな声出しながら否定しても説得力ゼロ。金髪にして、じろじろ見られて、ナンパまでされて、そんなに嬉しかったんだ?」 「それは……」  男たちから向けられた視線。かけられた声。甦ったものが真央の胸を騒がせ、体温を上昇させる。これは嬉しさなのか。妻でも母でもなく、女として見られて、嬉しい、と思ってしまったのか。違う。違っていなければいけない。不特定多数の男たちに性的好意を向けられて喜ぶのでは、妻としても母としても失格だ。 「う、嬉しくなんか、ないわ。気持ち悪かっただけよ……」 「少しも嬉しくなかったの?」 「当たり前でしょう。私は、そんな女じゃないわ」 「ナイトクラブの時は男に囲まれてデレデレしてたのに」 「だ、だから……あの時は酔わされたからであって……あんなもの、本当の私じゃないわ。勘違いしないでっ」  思い出したくもない醜態を蒸し返され、真央は眉をたてる。しかし、そんな怒りも、すぐさま喘ぎに塗り潰されてしまう。叩きつけられる裕貴の腰。しかし、肉棒は絶妙に真央の急所を外している。一度だけならば偶然の過誤かもしれないが、継続的に繰り返されるのは、それが裕貴の狙いなのだろう。 「はぁ♡ んっ……あぁん♡ っ♡ あぁん……ど、どうしてっ……」  真央という器に注がれ続ける快感。それは、どれほど経っても溢れ出さない。あとほんの数ミリ、角度にして数度、的確に急所を貫いてくれれば、絶頂できるはずなのに、それができない。そのもどかしさに、真央は歯軋りをして悶え苦しむ。上気した肌に汗を糊にして金髪がへばりつき、凄絶な図柄を描き出した。鏡に押しつけられた掌に力がこめられ、関節が白む。膝の震えはもはや滑稽なほどだ。 「はぁ……っ♡ んぁ……っ……やっ♡ んっ……んっ……んっ……はあっ♡ んぁ♡ あぁん……んっ……あんっ……あんっ♡ やっ♡ なんで……こんな……っ」 「なんでこんなことするのかって? そりゃ、真央が正直になれるようにに決まってるじゃん。ほら、言っちゃえって。視姦されて、ナンパされて、超嬉しかったの♡ 金髪にしてよかった♡ 裕貴くんありがとう♡ って」 「そ、そんなこと……思ってな……い、言えない……っ」 「なら、ずっとこのままだね」  そんな。真央は絶句する。このままの状態に留め置かれたら、狂う。狂ってしまう。見つめる己の記憶。果たして感じていたのは嫌悪だけだったのか。裕貴の言う通りに少しは喜びがあったのではないか。ぎり、と音がする。知らず、歯を噛み締めていた。葛藤がそうさせたのだ。こめかみに浮いた汗が、頬を滑り、顎から床へとしたたり落ちる。  その状態で五分、とうとう真央の口が開く。限界を迎えたのか。それとも、十分に耐えたと自分に言い訳をする用意ができたのか。判然としない。絶頂への欲求が体の内側に膨れ上がり、彼女の喉を締めつけていた。 「み、認めるわ。認めればいいんでしょう」 「認めるって何を?」  それは、と真央は言う。言葉を口にしているのではなく、棘を吐いているような苦痛が喉にあった。屈辱に涙が滲む。 「男の人たちに見られて……声をかけられて……少しだけ……ほんの少しだけ、嬉しかった、と言っているの。その時だけは、髪を染めてよかったと思わなくもなかったわ。――こ、これでいいでしょうっ」  口にした言葉が、真央の心にある禁忌の喜びに形を与える。存在するべきではないそれは、名指しを受けて、心臓の鼓動にあわせて蠢動する。それが生み出す切なさが、真央の喉から熱く焦げた息を絞り出した。 「仕方ない。裕貴くんありがとう、の部分はおまけしておくか。――真央が喜んでくれて、俺も嬉しいよ。これからどんどん可愛くしてやるから期待してろよ。すぐに、見られたり、声かけられたりするくらいじゃ済まないようになるから。レイプされるのが当たり前になっちゃうかもね♡」 「そ、そんなふうになんて、絶対になったりしないわっ」 「何勘違いしてんの。なるかならないかは俺が決めるんだよ。とりあえず、次は服かな。ダサい旦那としょぼいガキんところから戻ってきたら、そのド金髪に合う服、買いに行こっか。あと靴とアクセサリーも欲しいなー。化粧は俺じゃわかんないから、女友達に聞かないと」  わくわくしてきた、と裕貴は笑う。あらためて、自分は彼の玩具なのだ、と思い知らされた。何をしても意味はない。それでも抗う意思を失ってはいけない。それは、家族への、そして自分自身への裏切りに他ならない。 「そうそう。これ、言えたご褒美ね♡ よくできました♡ 花丸♡」  裕貴の腰が、今度こそ、真央の弱点を直撃する。求めに求めていたものをふいに与えられ、真央の眼球が裏返り、「ほお゛っ」と無様に濁った声が跳ね出る。抗う意思などというものは、それだけで完膚なきまでに破砕されてしまった。 「ほお゛っ♡ おおおっ♡ おおんっ♡ ん、おおおっ♡」  すげえ声、という嘲笑も彼女の耳には聞こえていない。  すぐ眼前、鏡に映る女の顔――金髪に華々しく飾られたそれは、淫らに蕩け落ちている。目を背けたいはずなのに、視線を奪われてしまう。これか。これが、今の自分なのか。その姿は、凄まじく下品でありながら、それ以上に生き生きと輝いて見える。自分がこんなふうに見えるなんて知らなかった。知らなくて当然だ。これは裕貴によって作り出された新しい自分なのだ。髪の毛を染めただけでここまでの変革がある。ならば、それ以上に変わったらどうなるのか。自分は自分でいられるのか。 「お、おおお゛〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♡」  その答えから必死に目をそむけて、真央はようやく絶頂に達する。激しい痙攣。それが過ぎ去ると、真央はうつ伏せに床に崩れた。どれだけ酸素を喘いでも息苦しさは消えない。濡れた体に、さらに汗が吹き出した。目は見開かれているが、焦点は何にも結ばれてはいない。 「へばってる暇ないよ。言っただろ、今夜はヤリ貯めする、って」  そう言って真央の体に覆いかぶさってくる裕貴――溶けた裸身を抱え上げた彼が口吻を与えたのは、唇ではない。今や、その隙間にたっぷりとかぐわしい匂いを孕んだ金色の頭髪だった。 (続)

【連載第4回・約14,000字】Hカップ巨乳熟女が金髪超乳パリピギャルに改造される話

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ますます面白くなります!

Aoi


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