
【コトハとの出会い】1をちら見せ
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コトハとの出会い
1
とある日のこと。
任務を終えて帰ろうとしたそのとき、不意に背後から低い声が飛んできた。
「――待て」
振り返ると、無骨な表情の上司が腕を組んで立っていた。
その眼差しは鋭く、冗談を差し挟む余地など一切ない。
俺の背筋は自然と伸び、靴底が硬い床を鳴らした。
「次の同行任務だ」
抑え込んだ声音。
その一言だけで、胸の奥に嫌な予感が広がる。
通常なら事前に連絡があるはずだ。だがわざわざ帰り際に呼び止めるなど、よほど特殊な事情に違いない。
上司はファイルを手にしたまま、口元をわずかに歪めた。
「あのシティーソルバーと……上手くやっているそうじゃないか」
その呼び名を耳にして、思わず息を呑む。
だが上司は構わず続けた。
「……あの時は命令違反でクビになるかと思っていたがな。
上の意向というのは、つくづくわからんものだ。
まあ、彼女が君を信頼しているのは事実らしい」
皮肉とも本音ともつかぬ声音。
胸の奥にざらついた感情が残る。
やがて上司は手にしていたファイルを突き出した。
「君に任せろ、と上からのオーダーだ」
受け取ったファイルは薄く、紅色の表紙は擦り切れていた。
まるで何度も扱われながら、結局は持て余された書類のようだ。
ページを開くと、中央に「被験体コトハ」の名が記されている。
年齢、身体能力の簡易データ、いくつかのテスト結果――。
しかしどれも目を引く特異性はなく、どこか空虚な印象ばかりが残る。
目を止めたのは、余白に赤く殴り書かれた文字だった。
――《扱い注意 サポート必須》
その文字は二重線で強調され、警告のように目に突き刺さる。
だが理由の欄は空白。
「……俺に、ですか?」
思わず問い返す。
上司は頷き、表情を崩さぬまま言った。
「上の考えていることはわからん。任務だ、しっかりこなせ」
それだけ。
核心には触れず、背を向ける。
背広の裾が翻り、重い足音が廊下に遠ざかっていった。
残されたのは薄いファイルと、胸に生まれた鈍い違和感だけ。
俺はしばし立ち尽くし、静まり返った廊下で息を吐いた。
任務の疲労よりもずっと重くのしかかるものを抱えながら。