XaiJu
mitsumichi
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愛されヘア / 短編

 見知らぬやつが、先ほどからしきりにおれの名前を呼ぶ。  一度振り返って確認したが、あんな髪の毛がもさっとしたやつは友人でない。不審者かと思い無視していたら、腕を掴まれた。こういうときの対処法は知らないが、反撃せねばやられると一発頬を殴り飛ばしてから、 「おれだよ!」  気づいた。 「わるい、髪型変わってたからわからなかった」 「お前、おれのこと髪型だけで認識してんのか」 「つうか何その髪、パーマ? にあわねー」  一体どこの美容院いったらそうなるんだよと問うと、む、と唇が尖がった。 「サークルのやつらには好評だった」 「ええ、だっせえよ。一昔前のアイドルみたい」 「ワイルドの間違いじゃなくて」 「そうだね、ワイルド狙ってがんばったけど外しちゃったセットのようにも見える寝癖だわ」 「なんだよ、それ」  朝のセットに一時間かけたと訴えるものの、その効果は現れていなかった。 「どきどきしながら見せたんだぞ、少しは褒めろよ」 「なんでそんなバカなことしたの」 「全否定かよ」  どうして、ともう一度尋ねると、彼は困ったように視線を反らし、 「切るほどの髪の毛が、なかったから」 「はあ?」  くるくると髪の毛をいじりだした。ちょっときもちわるい。 「坊主はいやだし」 「イメチェンしたかったのかよ」 「ちげえよ、前の髪型気に入ってた」 「は、あれで?」 「お前一言多い」  不可思議なパーマにした理由でなく、髪型を変えた理由を知りたかった。「だから、なんでだよ」ともう一度問い詰めると、すこし渋ったものの小さな声で答えた。 「……ふられた」  失恋で、髪を切る。 「女々しい」 「んだよ! おまえだって女々しいじゃねえか、いつもいつもアカリ先輩に声かけらんねーとか、かわいすぎて心臓もたねーだとか言ってただろ!」 「ちょ、その名前出すなよ」  慌てるおれに、彼はなぜだか自信ありげに鼻を鳴らした。 「なに恥ずかしがってんだよ。もう付き合ってるんだから、過去は引き合いにだすなってか?」 「はあ?」 「おれの予想じゃ一ヶ月もたねえけどな」 「……からかってんの?」  つきあってねえよと呟くと、 「ふられたっつの、わたしマコトくん一筋だから、って」  つい先日のことがまざまざと思い出され、悔しさがこみ上げる。 「マコトってだれだよ、同じ大学っつってたけど、わかんね。おまえ知ってる? おれよりいい男?」  口をあんぐり開けたままの彼をおおいと呼ぶと、ガシリと痛いほどに肩を掴まれた。 「この髪の責任とれ!」  なんのことやら。


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