宿を出れば、チュンチュンと鳥の鳴き声がやけに大きく響いて聞こえる。
本来ならば人々が起きて各々の生活の営みを行う時間帯にも関わらず、その街全体はまだ眠りについているかのように静まり返っていた。
市長の言っていた件の魔物のことがあるのだろう。それにしても、こんなに広い街で人一人の声も聞こえないというのはなかなか薄気味悪いものだっ...
2023-04-30 03:00:00 +0000 UTC
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それから、どれほど時間が経っただろうか。
多少気まずい場面はあったものの、やはり良平といるのは楽しいし気は休まる。
けれど、表面上をなぞるような会話ばかりでどことなく部屋の片隅には一抹の気まずさの残ったままだった。
そして俺も俺で、話しながらも先程ほんの一瞬だけ見せた良平の表情が気になって気になって仕方なかった。
さっきのあ...
2023-04-16 14:20:57 +0000 UTC
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やつのネクタイで遮られた視界の中、「これでいいのか」と頭の上から聞こえてくる五十嵐の声に俺は「ああ」とだけ返した。
場所は同じく校舎裏。視界を遮られているせいか、ただでさえ湿った空気がじっとりと全身制服の下にまで纏わりついてくるようだった。
「お前、やっぱり馬鹿だな」
「あ? なに……」
ふと、目の前にいるであろう五十嵐の言葉に...
2023-04-09 10:00:28 +0000 UTC
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――転生者であるアンリに成り代わる。
その結果、アンフェールとの関係は良好のままだった。
しかし、本来ならば虐める役目である俺がアンリの立場になるとなると、誰が俺の役目をできるのかという問題が自ずと出てくるわけで。
「リシェス君」
やはりここで打ち止めなのだろうか、と考えながら学舎の自室へと戻ろうとした矢先のことだった。
不意...
2023-04-02 13:53:28 +0000 UTC
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後輩が最近やたらめったら可愛くて仕方ない。
最初出会ったときからなんだか放っておけない、そりゃ俺の初めての可愛い可愛い後輩であることには間違いないのだけれども、今はその『可愛い』のベクトルがまるで違うのだ。
変に真面目なところや頑張り屋なところ。少し天然が入ってて時折抜けているところ。俺の方を見て笑うとき少し幼くなるところだっ...
2023-03-26 13:52:02 +0000 UTC
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友達が欲しい。普通の、しょーもないこととか喋ったりくだらない冗談とかを言い合っては笑い合えるようなそんな気楽な関係の友達が。
「はあ……」
「どうしたんだ、美甘。またお腹痛いのか?」
「別に大丈夫……って、ぉ、おい、触るなって……!」
学校から帰る途中、今日こそは一人で帰るつもりだったのに教室に出たところで何故か教室前で待機してい...
2023-03-19 13:01:06 +0000 UTC
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あいつのモノ好き・変態趣味については今に始まったことではない。
けれど、限度というものがなんにでもある。
――某日、昼下がりの自室にて。
「なあ、ハジメ」
「あ? どうした、改まって」
「お前が他のやつとセックスしてんの見たいんだけど」
「…………………………はい?」
何かの聞き間違えだろうか。いやそうに違いない。
「だーかーらー...
2023-03-05 08:00:00 +0000 UTC
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毎日同じことの繰り返し、このままずるずると成長して大人になっていくのだろう。
そんなことをぼんやりと考えながら俺は手にしていた参考書を閉じた。
「ゆうき君、まだ起きてたの?」
「あ……うん、そろそろ寝ようかと思って」
「そっか、じゃあ……おやすみなさい」
「うん、おやすみ」
ルームメイトの阿佐美はどこかへと出かけるようだ。俺はそれを...
2023-02-28 23:48:13 +0000 UTC
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「だーいーちっ! 起きてよほら! 大地ってば!」
女みてーなキンキン声に脳味噌ごと揺さぶられる。あーあーうるせえな俺は今いい夢見てんのに、と寝返りを打とうとした瞬間「えいっ」っとぺちんと頬を叩かれる。
「いッ……てえな……っ! なにすんだよ葵衣ちゃ……」
ちゃん、と言い掛けて起き上がったところまではいい。そのまま掴みかかろうとし...
2023-02-28 23:31:56 +0000 UTC
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ここ最近不思議なことがある。妙に阿賀松が優しいのだ。いや……優しいというか、何もないというか。
本来ならば当たり前なのだろうがあの男にとって何もないということ自体が異様にすら思えた。
とまあ、そんな感じで珍しく平和な日々が続いていた。
他に変わったことと言えば、相変わらず阿佐美は部屋を空けている。ちゃんと帰ってきているには違い...
2023-02-28 23:09:04 +0000 UTC
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「大分南波も準一さんに馴れてきたようですね」
最初はそんな話がきっかけだった。
確かに言われてみればまだ目は逸らされるものの一緒の部屋にいても発狂したり逃げ出したり泣き喚かれることはなくなっていた。花鶏の言葉にぎくりと南波が震える。
「馴れたってか、……その、あいつらよりはましだってわかったっていうか……」
「今更すぎませんか? ...
2023-02-28 22:54:16 +0000 UTC
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幼い頃から眠っているとき、どんな少しの物音でも目を覚ましてしまいそうになっていた。
それは兄がいつ帰ってきてもすぐに出迎えることが出来るようにという習慣のようなものだった。――いつの日からか行方を眩ませた兄とまた会えるように、という。
けれど、地下にやってきてから日に日に眠りが深くなっているのが分かった。無論、連行されて最初の...
2023-02-26 23:24:47 +0000 UTC
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「ヴィランの人たちの間でもバレンタインってやるんですか?」
それは、細やかな疑問であった。
――社員寮・自室にて。
その日の仕事も終え、本日の見張り当番であるナハトと寝る時間までだらだらと過ごしていたとき。それとなく問いかければ、ソファーの上で寝転がっていたナハトはものすごく冷たい目をこちらへと向けてくる。
「あれ、え、俺なんか...
2023-02-13 10:54:42 +0000 UTC
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「栫井、どうしたの? 怪我したの?」
昼下がりの保健室。
湿布の替えを貰いに保健室によれば、そこには仁科と栫井がいた。仁科となにやら話していた栫井は保健室に入ってきた俺を見て舌打ちをした。
「別に、お前には関係ねえだろ」
「……おい、栫井。そんな言い方は……」
「これ、どうも……仁科先輩」
そう、なにやらがさごそと紙袋を手にした栫...
2023-02-05 03:00:00 +0000 UTC
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酷く久し振りに、ちゃんとあいつの声を聴いたような気がした。
「壱畝君、これ。……先生から」
そう目の前に差し出された数枚のプリントは、朝方担任の喜多山に「失くしたからコピーが欲しい」と頼んだものだった。
生白く細い指、うっ血したような跡が残った細い手首。抑揚のないぼそぼそとしたその声は、他のクラスメイト達の声に搔き消されそうにな...
2023-01-29 11:57:28 +0000 UTC
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――某日、ヘルヘイム寮のとある一室にて。
あまりにもやることがなく、「さてどうしようか」とテミッドと話し合った結果、テミッドとともに寮内を探検することになったのだが。
「ふおお……」
「ふかふか、です……伊波様」
「ああ、すごいなこれ……っ! ほら見てテミッド、俺の身体すごく跳ねる!」
「わ、あ……っ! すごい、伊波様……っ!」
...
2023-01-22 13:46:02 +0000 UTC
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うちの部署には一応休みという概念がある。望眼いわくそれを無視して休む人もいるらしいが一応週休二日、週末は二連休になっている。
そんな日でも今までと変わらない。監視役のモルグは今朝方ノクシャスと入れ替わりで俺の部屋に来てくれたらしいが、あまりにも疲れていたのか気付いたら俺のベッドで寝ていたので大層驚いた。
起こすのも悪いし、なる...
2023-01-18 02:32:42 +0000 UTC
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いつの間にかに気絶させられていた、なんて経験を生きていてこう何度も体験させられるハメになるなんて、俺自身思っていなかった。
目に見えるのは汚れ一つない白い壁、そして壁同様真っ白な天井と目に痛いくらいの照明。床に置かれているのはそれらに合わせたように白が基調となったベッド。
そして、そこに腰をかける同級生の男。その視線の先に見え...
2023-01-08 08:32:46 +0000 UTC
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前回『志摩とショタ化齋藤とアンチの話』
→ https://t589423.fanbox.cc/posts/426602
「……き君……」
遠くから声が聞こえてくる。
聞き覚えのある、おっとりとした柔らかい……けどなんだかいつもと違う、まだ幼さが残ったその声。
――詩織?……これも夢なのだろうか。
暖かな日差しが心地よい休日の朝、俺は微睡む意識の中再び眠りにつこうとした。そのとき...
2023-01-01 01:50:06 +0000 UTC
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自分でもたまに自分がわからなくなる。
自分の行動が悪手だという自覚もあった。
それでも、あいつの顔が脳裏を過る度にどうにも落ち着かなかったのだ。
あの人が会議で席を外している隙きを狙って、あいつが閉じ込められているという部屋までやってくる。見張りのやつを追い次期払うのは簡単だ。『会長に言われて来た』と言えばすぐに通してくれる。...
2023-01-01 01:32:51 +0000 UTC
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10月31日。
今日は夜から毎年恒例の生徒会主催のハロウィンパーティーが行われる。
その日の俺はというと、前日から寝れずにいた。
理由はわかっている。
そのパーティーには仮装必須といういかにもハロウィンらしい独特なルールが設けられていたのだけれど、勿論そんな仮装について全然わからない俺はある人間を頼ることにしていたのだ。
――先週...
2023-01-01 01:19:18 +0000 UTC
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学習能力がないと言われても仕方ない。全部、全部あの人を信じてしまった俺が悪いのだ。
「齋藤君、これよかったら飲んでよ。俺もうお腹いっぱいでさ。大丈夫大丈夫、毒なんて入ってないから。なんなら口移ししようか?」なんて迫ってくる縁に押し負けて受け取ったジュースを飲んだのが昼間、そして夕方からずっと身体の調子がおかしい。早退して自室へと帰...
2023-01-01 01:10:08 +0000 UTC
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日が落ちてきた頃。
鍛冶屋へ行き、大分劣化していた武器の修繕を頼んだその帰り道だった。
このあとはなにも特に用事もない。少し寄り道がてら街の様子を見て宿屋に帰ろうとしていた矢先だ。
「おーいスレイヴ、丁度いいところに」
……会いたくないやつに会ってしまった。
珍しく酒の匂いはしないものの、相変わらず女物の香水をべっとりとさせ...
2023-01-01 00:58:32 +0000 UTC
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阿賀松伊織が怖い。
いやそれは元々だが、なんなら出会った頃からその印象は変わらないしむしろ悪化を辿る一方なのだけれど。
現在の阿賀松に対する恐怖心と以前のそれとは種類が違う。
「なあ、ユウキ君」
ただ、今日は早く帰ろうと思っただけなのに。なんでこんな日に限ってこの男がいるのだ。ということについてはもう考えるだけ無駄だと知ってる...
2023-01-01 00:51:49 +0000 UTC
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十二月二十五日。
とうとう今年もやってきてしまった、この日が。
――学園、講堂前。
『クリスマスパーティー会場』と書かれた看板が立たされたそこにはたくさんの着飾った生徒の姿があった。そして、それぞれその手には色とりどりの包装されたプレゼントを手にしている。
そして、それは俺も例外ではない――着飾れてはいないが、代わりにしっかりと...
2022-12-25 13:48:09 +0000 UTC
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とうとうやってきた、この時間が。
椅子に座る人間の数も減り、最初はあれほど多く感じていた椅子も座る者がいなくなった今は余計物寂しさを感じさせるばかりだった。
今夜の流れは予め阿佐美と打ち合わせしていた通りだ。
今回の会議では阿佐美に投票し、そして襲撃先は八木。……だから、今夜はそんなに気負う必要はない。
――そう思っていたのに...
2022-12-18 14:11:20 +0000 UTC
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「原田さん、今日うちに来ない?」
――更衣室にて。
そう、丁度上がろうとしていたところを同じく上がりのタイミングだった司に呼び止められる。
無論、俺にも学習能力云々はある。
司の家に行くなんて、ラブホに手ぶらで遊びに行くようなものだ。
「い、いやだ」
「なんで」
「逆になんで俺を誘うんだよ」
「原田さんに見せたいものがあって」
「…...
2022-12-04 14:00:56 +0000 UTC
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いつもご支援ありがとうございます。
今月二度目の全体公開記事を書かせていただいております。
前回、pixivさんの規約改定に伴い、一部投稿記事を今月いっぱいで非公開にするという旨のお知らせをさせていただきました。
つい先程更新されたpixiv公式さんから規約改定についての詳細を確認したところ、小説は一先ずは大丈夫そうだったので...
2022-11-30 10:06:44 +0000 UTC
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彼女がほしい。
なんてわがままは言わないから、せめて女友達――いや、この際男でもいい。俺も青春したいのだ。普通に友達つくったり、なんかこう……チャリで海に行って男女混合グループデートみたいなそんな青春を送りたい。
そう願うのは罪なのだろうか。
「有罪だろ、そりゃあ」
聞こえてきた声にぎょっとする。
――慈光家・宋都の部屋。
...
2022-11-27 14:23:27 +0000 UTC
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栫井と初めて出会ったとき、第一印象からして最悪だった。
こいつとだけは絶対に仲良くなれないと思っていたはずなのに、不思議なこともあるものだと改めて思う。
「……おい」
「……」
「おい」
「…………」
「おい、………………齋藤」
教室の中、うつらうつらしていた俺の耳元でいきなり名前を呼ばれ、ぎょっとした。顔を上げればそこには栫井がい...
2022-11-20 08:09:42 +0000 UTC
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